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大陸英雄戦記  作者: 悪一
波乱の世紀
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握手

 いやまったく凄いタイミングの叛乱である。

 いいタイミングである。敵ながらあっぱれと言っても良い。


 大公としては、中枢メンバーがクラクフから離れたタイミングを選んだのだろうけれど、いやはや凄い。オストマルクが戦争中で手が出しにくくて、クラクフにマヤさんしかいなくてクラクフスキ公爵家が裏切った。

 これ以上のタイミングはなかっただろう。


 だからねマヤさん。その俺の右手を握り潰すかのような握手はやめてほしいんですよ。


 別に俺悪くないじゃないですか。叛乱を起こしたのは大公と、言いにくいですがマヤさんのお父様でしょ?

 俺は悪くねぇ、カロル大公ってやつが悪いんだ。信じてくれ、俺は無実だ。


 クラクフにいなかったもんだから対応が遅れたって大公がそれ狙ってたんですから、ある意味こうなるのは当然なんですって。それでもマヤさんは最善を尽くしましたって。


 俺たちに危急の報せを出したのに届かない、誰かの妨害がある。

 それがわかったら素早く伝達手段を変える。伝書鳩、軍馬、民間馬車、果てには徒歩。裏切っていたのがオストマルク情報省なもんで、そりゃあ妨害されまくりでしたけれども、それでも届いたじゃないですか。このユリアからの手紙。


 マヤさん凄いです。だから手を放して痛い痛い痛い、より強く握らないで!? ナンデ!? 握力ナンデ!?


 ……え? 問題は俺自身の行動だって? いや俺はフィーネさん作成の戦闘詳報を見ての通り結構武勲立てましたよ? そりゃ、大事な時期にシレジアを離れたことは大変申し訳ないですし、情報網駆使しても大公の叛乱を事前に察知できなかったのは私の不徳の致すところでもありますが……えっ、そこじゃないの?


 ……なに? サラが喋った? 何を?


 …………。


 いや違うんです。ていうかなんで喋ったのサラ。いくらなんでもそこまで報告する必要ないよね? 羞恥心とかないの? え? 自慢げだった? あまりにも嬉しくて空気読めなかったの?

 なにせ7年経ってようやく思いが伝わったから?


 え? サラってそんなに片思い状態だったnあ待って待って痛い痛い痛いごめんなさいごめんなさい生まれてきてごめんなさいこればかりは私が完全に悪かったですごめんなさい折れる指が折れる! 助けて衛生兵!

 ていうかそこにいるのって医務科のイアダさんだよね!? なんで微妙な顔してるのさ、目の前でけが人が出てるのだから助けて!? 



 いやまぁ、うん、まぁ。サラが自慢げに話していたと言うのならだいたいその通りだと思います。俺から説明必要? 恥ずか死いことこの上ないじゃないか。


 オーケー、マヤさん落ち着こう。確かに知らなかったとは言えこんな事態で呑気なことやってたというのは罪悪感あるよ。でもなんだかんだ言ってみんな無事じゃないか。エミリア殿下は元気ないけどそれは私のせいじゃない。

 心情的には腹立つだろうし逆の立場だったら確かに俺も怒るけどさ、でも俺の指を犠牲にしないで? ちょっとは労わってほしいんだ。これでも手紙来てから色々な手続き無視して即帰還したんだよ。


 ……いやちょっと楽しい旅行だと思っていたのは事実だけどさ。


 あ、ごめん今の無し。

 謝るから。

 なんでもするから。

 だから手を離して。

 お願い。

 手がミシミシ言ってるから。

 いやホントにこれ以上は洒落になってないって。

 やめ、ヤメロォー!


「おかえり、ユゼフくんッ!」


 ピシッ。


「イイッタイ、手ガァァァァァァ!!!!」




---




「サラが折角前に進んだと思ったら二股修羅場でしかも同時に相手なんて、私だったら殺してたなー。なんでサラってユゼフくん好きになったんだろうね?」


 俺とマヤさんの涙溢れる感動の再会を傍目から眺めていた軍医のイアダさんの治療を受けつつ、俺は反省モードで正座。なんだろう、どことなく既視感が……。


 イアダさんはサラと同郷で士官学校の先輩後輩で友人関係。現在は軍医大尉として、ローゼンシュトック公爵領内の駐屯地に勤務していたそう。

 そしてサラがエミリア殿下の友人と知ると、すぐにイアダさんは殿下に忠誠を誓い、そして俺らと再会、今に至る。


「はい。治療完了です少佐殿。骨折程度なら治癒魔術ですぐ完治できますけど、それでも疲れるんですから無駄に怪我をされては困りますよ」

「肝に銘じておきます……」

「ん。では私は職務に戻るついでにマリノフスカ少佐殿と会うので、失礼致します」


 一応階級が俺の方が上なので、軍務中の発言は敬語。でも私語は普通に面倒見のいいお姉さんである。きっとサラの世話して身につけたスキルに違いない。


「まぁ、皆無事で何よりだよ。その右手の痛みは、嫉妬だと思ってくれ」

「痛いほど身に染みました」


 ていうか身に染みるほど痛い。骨折が治っても痛みは暫く消えないのは、たぶんイアダさんがそういう治療したからだろう。サラの代わりに罰を与えたということか。


「過ぎたことはさておきこれからのことですよね、マヤさん」

「……まぁ、そうだな」


 よし、緊急事態なのは怪我の功名。深く追及されずに済みそうだ。さっそく第七次戦争の報告と、マヤさんから事の次第を聞いて――


「あぁ、そうだ。その前に言っておくべきことがある」

「な、なんでしょう」


 殺されるのかもしかして。

 と、戦々恐々としていたがそうではなかった。嫌味も怒気も殺気ない、こう言っては失礼だがマヤさんにしては珍しい純粋な笑みを浮かべていた。


「おかえり、ユゼフくん。君の帰りを待っていたよ」

「……ただいま戻りました、マヤさん。遅くなって、すみません」


 過ぎたことは一旦忘れる。

 反撃の時間(ペイバックタイム)だ。

長く不在だったせいでユゼフくんのキャラを忘れかけていますがたぶんこんな感じだったと思います(

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