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大陸英雄戦記  作者: 悪一
偶然の世紀
394/496

王都の戦い ‐心‐

 予期せぬ場所、予期せぬ時期の奇襲というものは、成功すれば効果が高い。


「煙草」の密売に使われた下水道は、平時においても国家警務局等の治安当局の監視を掻い潜っていた場所である。そしてそれが王都で叛乱が起き、半数とは言わないまでも多くの局員が拘束された中で、そのような場所を効果的に監視できるはずもない。


 さらに国家警務局内の大公派に裏切り者が出たとあっては、大公派に防ぐ手段はなかった。


「奴らどこから来たんだ!? まさか部隊に紛れ込んで――」

「そんなことはどうでもいい、はやく防備を固めるんだ! 殿下の御身を守れ!」


 そしてその事態に至った時、誰もが大公の身を守ることを専念するのは当たり前である。しかも奇襲部隊の戦力は不明で、ただそこに敵が居ると言う情報がわかっているだけなのだから余計に、である。


「殿下、ここは危険です! 早く離れてください!」

「いや、このままでいい。早く賊を片付けろ!」


 ウィロボルスキ元帥以下、仮設司令部の面々が大公の身を案じる。大公自身はその場から離れようとしなかったが、そう頑固な態度を見せられては困るのは元帥以下の大公派軍人である。

 ここは一時の無礼があっても、無理矢理でもここから連れ出すのが軍人の使命である。彼らには、カロル大公という人間が必要なのだから。


「ご無礼を!」


 職業軍人数名がカロル大公を担ぎ上げる。それに抵抗できる程カロル大公は強者でもない。


 宰相府に敵襲。その報を受けてから僅か数分で、大公派軍人数名はカロル大公の身を守ることに成功した。その一方、カロル大公の身を守るに専念したばかりに、敵に時間を与えてしまったことも否めない。この混乱状態の中で、それだけでも成したことは大したものだが――それが、多くの者の運命を変えた。


「賊だ! 司令部に賊がッ――」


 大公が宰相府を離れる直前、司令部要員の誰かが叫ぶ声が彼の耳に届く。


「人数は少ないぞ、やっちま――」


 直後、宰相府の一画が爆発した。


 魔術研究局イリア・ランドフスカ魔研大尉が開発した新型近距離戦用上級魔術「火焔散弾キャニスター」の初陣は、同じシレジア王国軍に対して向けられたものだった。




---




 王都市街各所で立ち込める煙を見て、宰相府にいるもう1人の王族、エミリア・シレジアはどう思ったのかと言えば、


「――――ッ」


 なにも言葉を発さず、とうに枯れたと思っていた涙を流した。

 自分に何をすることもできないという無力感と、このような事態を引き起こしてしまったことに対する罪悪感が、絶望になって彼女に襲い掛かり、最早彼女に悲しみ以外の感情を残さなかった。


 ――この時までは。


「――おい、貴様は何者だ!?」

「止まれ、止まらんと――」


 エミリアが監禁されている部屋の外で、数日聞いていなかった衛兵の声が聞こえ――そして断末魔と共に、その声は途絶えた。


 扉が開かれ、エミリアは身構える。


 そしてそこから現れたのは、


「――エミリア殿下、遅れました。申し訳ありません」


 貴族の子女らしく、深々と頭を下げるマヤの姿だった。


「マヤ……どうして……?」


 エミリアは疑問に思う。

 クラクフスキ公爵家は大公派に寝返った。であれば、マヤも大公派に与するべきである。戦いの趨勢を見ても、それが一番理に適っているはずだと、エミリアは考えた。

 故に絶望の底にいたわけだが、マヤから帰ってきた言葉はなんとも単純なものだった。


「仰る意味が分かりません」

「……は?」


 マヤは、涙を浮かべながら頭上に疑問符を浮かばせるエミリアに近づき、ハッキリと答えた。


「私が仕えるのはこの世にただ1人。エミリア殿下だけです」

「し、しかしマヤ。既に戦いは叔父様に……」

「そんなこと、知ったことではありません!」


 ハッキリと、主君に唾をかける勢いでマヤは叫んだ。いや、正確に言えば「誓った」であろうか。

 彼女の、主君に対する忠誠の程を誓った。


「私はあなたに仕えたい。その感情のみで、私は動いています。それ以上の理由が必要でしょうか?」

「……で、でも」


 でも、それでは最悪マヤの身に危険が及ぶ。私に構わないで、自分自身の為に生きて欲しいと、エミリアは願う。だがマヤは、主君がそう疑義を呈する前に先手を打った。


「私は、私自身の欲求の為に、エミリア殿下に仕えます。カロルなどという男に忠誠を誓う屈辱を受けるくらいなら、私は死を選びます」

「…………」


 エミリアは、黙りこむしかなかった。

『こんなみっともない自分に、どうして』と、悩むしかなかった。


 しかしマヤの答えはいつだって同じだった。


「殿下。殿下は、どうしたいですか?」

「私、ですか?」

「えぇ。殿下自身の感情は、どうなのですか?」


 理屈なんてどうでもいい。

 エミリア自身がどうしたいのかを、マヤは尋ねた。


 ヴァルターなる変態皇子と婚約し、鳥籠の中で屈辱の生活を送ることを望むか。

 それとも、それ以外の道か。


 エミリアの心は、ずっと国民の為にあった。国民の為になるのであれば、彼女は前者を選ぶ覚悟もあった。

 でも自分の感情に従うとなると、話は別で。


「……どうしたらいいか、わかりません」


 それが、エミリアの本音だった。

 涙ながらに、彼女は本当のことを言った。


「何をすればいいのか、私は何の為にいるのか――わからないのです!」


 燃え上がる王都を背に向けながら、エミリアは叫んだ。泣き叫んだ。未だ宰相府にいる中、エミリアは心の底から叫んだ。

 そしてマヤは、エミリアをそっと抱き寄せた。臣下が行うには不敬な行動であるが、咎める者はいるはずもなく。


「――では一緒に考えましょう、殿下」


 自分が何の為に生きているのかなど、答えが容易に見つかる話ではないのだから。

 泣きじゃくる子を抱き寄せる母親のように、マヤは語った。


「そのために、私たちがいるのです。烏滸がましいかもしれませんが、『友』がいるのです」


 臣下ではなく、友人がいる。

 苦楽を共にしてきた、戦友がいる。


「……マヤ」

「なんでしょうか、エミリア殿下」


 マヤの胸の中で、エミリアはポツリと答える。

 声は小さかったが、それが、エミリアが心の底から伝えたかった言葉。


「――――助けて」

御存知かと思いますがこの物語の主人公はマヤさんでヒロインはエミリア殿下です(よそ見)



(追記:よくある感想)

Q.書籍化で修正する前提で書かないでください!

A.(書籍化で修正する前程で書いて)ないです。

 (そもそも書籍化されるかがどうかわかん)ないです。


矛盾点あったら「○○の話 (サブタイ)が矛盾してるよ!」と教えてくれるとそれはとっても嬉しいなって


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