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大陸英雄戦記  作者: 悪一
偶然の世紀
377/496

責務と忠誠と

 ――8月31日 クラクフスキ公爵領クラクフ総督府


「そうですか。第3騎兵連隊は権限剥奪ですか」

「一時的な措置らしいがな」


 例の事件。

 エミリア殿下護衛部隊たる第3騎兵連隊の不正事件は、同部隊隊員の拘束という結果になったらしい。ヘンリク殿やイリア殿から送られてきた文書には確かにそうあった。信頼できる情報源だ。

 ただの不正事件にしては過剰な措置だが、忠心高い部隊の造反に対する予防策としてはこれくらいがちょうどいいはず。

 でも……。


「護衛部隊の不足が心配ですね。暫くは王都から出ない方が……」

「エミリア殿下は婚約のための準備をするらしいから、数ヶ月は王都にいるだろう。その間に事件は収束していることを祈るよ」

「なら安心です」


 と、そうは言ったはいいものの、内心は不安だ。

 事が事だからそうなのだが、長い間エミリア殿下と離れること自体が初めて……いや、正確に言えば2度目だからである。


 1度目は、シレジア=カールスバート戦争の前。

 安全と思われていた旧カールスバート共和国へ行き、そして突然の政変によって追われる身となった。


 行きたくないと執拗に拒んでいたエミリア殿下が、当時「水面下での国王と大公の不仲」でしかなかったカロル大公殿下の説得によってカールスバートに行き、そして全てが動き出した。

 あの時、私がついていったら何か変わったのだろうか。

 ……いや、むしろあれでよかったのかもしれない。その時殿下は、ユゼフくんやサラ殿に出会って、変わられたのだ。私の期待していた方向ではないが、変わられた。


 だが、今回はそうではない。

 盟友は異国の地、私とラデックくんはクラクフに。殿下は王都に1人……。


「兄上。私を王都に行かせてください」

「……なんだと?」

「事件の調査と、王女殿下の護衛のために」


 本音で言えば、ただ心配だったのだ。そして会いたかったのだ。会って、殿下の無事を確かめたかったのだ。過保護すぎると言われるかもしれないが、それが私の本心だ。


「マヤ。お前には領地に残り、軍事査閲官と統計部特別参与の職務を代行する義務があるはずだ。それはどうするんだ? 特にお前と、あのワレサ少佐とやらが設立した統計部だ」

「……ラデックくん……失礼、駐屯地の補給参謀ラスドワフ・ノヴァク大尉に代行させては如何かと」


 軍政に関しては、兄上に任せてしまっても何も問題はない。エミリア殿下着任前は、兄上が遂行していた職務なのだから。情報に関しては確かに不安が残るが、情報を纏めるくらいならラデックくんにもできる。


 だが、兄上は頑なに拒否する。


「駐屯地の人間を任用できるわけなかろう。それはマヤがわかっているはずだ」

「ですが……」


 いや、わかっている。状況的に、私が王都へ赴く理由はないのだ。それよりもここに残っていた方がいいと。しかし私は、たとえそれがダメな行為であるとわかっていながらここに留まることはできない生き物なのかもしれない。

 統計部の仕事だと偽って、王都へ行くことにすればいい。内務省あたりとの情報交換を名目にして。


「マヤ」


 だが兄上にはわかっていたようだ。諭すような静かな声で、私を制止した。


「お前がエミリア王女殿下に忠誠を誓っているのは、私もよく知っている。ここで止めようとすれば、お前は適当な理由で王都に行くつもりだろう?」

「……」


 ここで「はい、そうです」と言えるはずはない。言ったところで大差ないだろうが。


「しかしマヤにはマヤの信念があるように。私は私の信念がある」


 生まれて初めて見た、兄の毅然とした顔。

 でもそしてそこから放たれる言葉は、私が初めて聞く言葉ではない。


「――マヤ。お前にとって、公爵家の責務とはなんだ?」

創作意欲低下中につき更新速度遅めになります_(:3」∠)_ ゆるして

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