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大陸英雄戦記  作者: 悪一
偶然の世紀
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必然と偶然の狭間

 歴史は偶然の積み重ねである。


 そう、主張する者は多い。

 だが「歴史の全てが偶然である」と主張して片付けてしまうと、世の多くの学生が歴史を学ぶ意味はなくなるし、歴史学者も生きる価値はない。


 しかしだからと言って「歴史とは全て必然的事象であり、偶然に見えたものは全て誰かが陰謀を企てた結果である」という陰謀論を主張できないのも確かだ。


 必然的に起きた歴史的事象も多くあるし、偶然発生した歴史的事件もまた多く存在する。

 人の選択と、神の気紛れによって歴史は動き、人か神かの割合はその都度変化するもの。当然、誰かが策謀を巡らせた結果であることもある。



 では大陸暦638年に起きた、シレジア王国の叛乱事件ではどうだろうか。


 この時の事象は、切っ掛けで言えばそれは偶然の要素が強かった。

 しかし切っ掛け以前の王国の歴史や、切っ掛け以降の各人の行動を見ると、それは必然とも言える事件である。


 第一次・第二次シレジア分割戦争による国家の衰退。そして国王フランツ・シレジアと大公カロル・シレジアの対立は、シレジア王国にとって深刻な国内問題だった。


 特にカロルにとっては、内外の様子を見ながら国内問題を解決、つまり自分が王となる道を探らねばならなかったのである。


 しかしカロルを悩ます問題は、シレジアをここまで衰退させた原因でもある「シレジアの地政学的位置」に助けられた。


 西にはリヴォニア貴族連合。

 東には東大陸帝国。

 南にはオストマルク帝国とカールスバート王国。


 この4ヶ国は反シレジア同盟参加国であり、シレジアを仮想敵として手を組んでいた。

 それはシレジアが滅亡した場合、決して仲がいいとは言えない4ヶ国が利権と覇権を争言始める可能性があった。

 故にこの国はシレジアを緩衝国家として、再び大国に復活しないよう適度に圧力をかけて存続させる道を選んだのである。


 そのためカロル大公は、国外情勢が変わらないうちから国内問題を解決しようとしたのである。



 そんな必然的状況において、いくつかの偶然がある貴族の叛乱を引き起こし、それが拡大して同国最大の内戦へと発展した。


 1つ目の偶然が起きたのは、大陸暦632年に勃発したシレジア=カールスバート戦争時に発生した王女エミリア・シレジアの謀殺未遂事件である。


 国王フランツの唯一の娘エミリアを敵国カールスバート(を偽装した東大陸帝国)の手によって謀殺すれば、王位継承者はカロル1人になる。フランツが崩御すれば、ごくごく平和的にカロルが王位に就く。


 だがその目論見は、1人の少年の機転と活躍によって阻まれた。

 その少年が偶然にも士官学校に入り、偶然にも士官学校在学中のまま前線に引き抜かれ、偶然にも王女護衛の任務を拝命したことで、カロルの策謀は失敗した。



 2つ目の偶然は、大陸暦636年に勃発したラスキノ独立戦争である。


 この独立戦争中、エミリア王女の噂を聞きつけたオストマルク帝国貴族リンツ子爵(当時)が彼女に接触、非公式の会談を実施。

 その日を境に、エミリア王女派とオストマルク帝国が接近し、同盟に似た関係を持つようになった。


 東大陸帝国と縁を持ち、それによって自己の影響力を拡大していた大公カロルにとっては、オストマルクと縁を持つに至ったエミリアの存在は邪魔に見えたに違いない。


 エミリア王女一派は、オストマルク帝国の力を借りて各地でその影響力を広める。

 春戦争、ベルクソン事件、マリノフスカ事件、カールスバート内戦、そしてエーレスンド条約。2年間で驚くべき影響力を持つにいたった彼女は、国内はもとより国際政治の場において重要な存在になったことは間違いない。


 高まるエミリア王女の影響力と権威、そしてオストマルク帝国とカールスバート復古王国の力は凄まじく、それはカロルにとっては厄介という範疇を超えていた。


 つまり平和的に、無血で叛乱を成立させる術と時機を失ってしまったのである。

 政敵を追い落とす何かをすれば、確実に反感を持つ国が現れてしまう。


 エミリアの謀殺に成功していれば、他国に介入の口実を与えることなく静かに政変が成立しえたのに。



 必然的な状況と偶然的な事象が合わさり、シレジア国内事情は混沌カオスの坩堝となる。

 だがその状態になってもなお、見かけ上は平穏だった。




 そのような状況に変革をもたらせた「偶然」が、大陸暦638年7月末に起きた。




 東大陸帝国帝都ツァーリグラード郊外に立つ「春宮殿ヴェスナードヴァリエーツ」の一室、帝国宰相セルゲイ・ロマノフの下にその「偶然」が、親衛隊隊長ミハイル・クロイツァーによって伝えられた。


「……殿下、ご報告が」

「どうしたクロイツァー。いい報せか? それとも逆か?」

「解釈によっては、どちらとも取れます」


 笑顔とも真顔とも取れるクロイツァーの表情から語られた報告は、酷く単純で、そして歴史を大きく変えた出来事であった。


「皇帝イヴァンⅦ世陛下が、崩御あらせられました」




 大陸の歴史が、音を立てて動き始めた瞬間である。

というわけで新章「偶然の世紀」編の始まりです。起承転結で言えば「転」の始まりになります。


ユゼフ・サラ・フィーネ不在のシレジアで何があったのか……が主題なので全体的に固めな内容になる予定です。



それと「大陸英雄戦記」のジャンルを「文芸(ヒューマンドラマ)」に変更しました。

ファンタジー要素よりそちらに重きを置いているので。

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