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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
353/496

ヘレス海峡海戦 ‐至近‐

「――攻撃開始!」


 オストマルクグライコス艦隊が砲門を開いたのは、16時30分。キリス黒海艦隊が距離1000を切ってからである。

 有効射程距離からの魔術砲戦開始は、クレタ沖の開戦と比べて大人しいもの。それは自艦隊の練度に自信を持たないグライコス艦隊だからこその行動でもある。


 しかしその一方、艦首を敵艦隊に向け、一心不乱に航行する黒海艦隊は何もできない。

 その先頭に立つのは、老朽艦にして被害担当艦の巡防艦「リムノス」である。


「クソッタレ! 何が『敵の練度が低いから危険は少ない』だ!」


 巡防艦「リムノス」艦長は、自らを先頭に立たせた司令官に対する恨みつらみを叫びながら必死に操艦していた。

 この「リムノス」には操艦に携わる人間しか乗艦しておらず、海戦の最初から沈むことを前提に先頭に立っているのである。


 自らが圧倒的不利な立場にあるために仕方がなくとった策とは言え、矢面に立たされる人間にとってみればたまったものではなかった。


「艦長! メインマストに被弾です!」

「暇な奴のケツを蹴ってすぐに対応させろ! 先頭艦がすぐ沈んだらいい笑いものだぞ!」


 それでも彼は、自らの職権が及ぶ最大限の事をやってみせた。

 この海戦において最も勇敢な士官の名をあげるとすれば、「リムノス」の艦長であることは間違いない。


 しかしリムノスの必死の制御にも関わらず、距離800の点に至った時に巡防艦「リムノス」は航行不能に陥り、戦列を離脱することになった。


 その様子は、すぐにグライコス艦隊司令官ライザー准将の知るところになる。


「敵巡防艦、戦列を離れる!」

「よし、その巡防艦は戦力外と見ていいだろう。目標を2番艦に切り替え!」

「了解。目標敵2番艦!」


 ライザー准将の号令に従い、グライコス艦隊各艦は目標を速やかに変更――とはならなかった。

 指揮艦たる「オルランⅣ世」からの目標変更の指示は確かに送っているのだが、やはり新兵ばかりの艦隊では無理があったのである。


「既に戦闘不能の艦に追い打ちをかけてもどうにもならんだろうに……。信号弾でも手旗信号でも信号旗でもなんでもいい。とにかく命令を全艦に伝えろ!」


 ライザーは舌打ちし、いら立ちを隠そうともしない。


 それもそのはず。

 彼は、敵味方の量・質の差が激しく自軍が著しく不利であることを知っている。


 そのため、敵がなんらかの策を打って出る前になんとしても「数的不利」くらいは覆さなければならない。それには、敵艦隊を3隻以上、欲を言えば5隻を戦闘不能にしたかったのである。


「いいか、使用魔術は『海神榴弾スヴァローグ』のみだ。敵艦の帆を集中的に狙って継戦能力を奪うんだ!」

「ハッ!」


 ライザーにとって救いだったのは、撃沈や撃破までを考慮する必要はないと言うことである。あくまで敵をアルマラ海から出させない、ただそれだけでいいのだと割り切っていた。


 しかし、それでも味方の動きには冷や冷やしていのだが。


「……ワレサ少佐」


 ライザーは、新兵ばかりの乗組員や着任したばかりの参謀を無視し、傍らに立つ外国人に声を掛けた。


「ハッ、なんでしょうか」

「敵は、どう打って出てくると思う? このまま中央突破を仕掛けてくるか?」

「その可能性は否定できませんが、もし私が敵なら、そうしてこないでしょう」

「理由は?」

「中央突破は確かに有効ですが、彼らは質的・数的有利にあります。通常の戦い方をすれば勝てるのに、丁字不利というリスクを背負って戦う意味はないでしょう」


 中央突破戦術は、陸においても海においても弱点は同じ。

 それは敵中央を突破しきる間に反撃され、包囲・挟撃されると言う危険である。


 通常の戦法、即ち単縦陣による同航戦が最善策となる。


 しかし今回の海戦の場合、グライコス艦隊は錨を下ろしている。さらに複雑な風と潮に翻弄され、身動きのとりにくい狭い海域においては、下手を打てば座礁の危険があるのもまた確かな話。


 中央突破、同航戦。どちらも危険となると……ユゼフが出した作戦は、その思考の終着点であった。


「となると、敵は我々と同じ戦法を使ってくる、と?」

「その可能性が高く、そしてその場合が最も我が艦隊の被害が増大すると考えます」

「では、尚更丁字有利中に敵艦隊の戦力を削らなければなるまいな」


 ライザーはそう考え、部下を奮起させキリス黒海艦隊に猛撃を加えさせた。


 しかしこの時、両艦隊の距離は700を切っていた。


「よし、今だ。作戦開始!」


 ユゼフの言う「グライコス艦隊の被害が増大する」戦法を、黒海艦隊司令官ラバーゼ中将が実行に移した瞬間である。


 ラバーゼは中央突破と見せかけ右4点一斉回頭を命令。

 海峡西側を座礁しない程度に航行し、グライコス艦隊に接近、距離400の地点で今度は左11点一斉回頭によってグライコス艦隊後方から同航戦を演じようとしたのである。


 右に左に、大胆に機動することによって、新兵同然のグライコス艦隊を翻弄して黒海艦隊の被害を最小限に抑えて、質的・数的有利を保持したまま超至近距離からの攻撃を仕掛けることを試みたのである。


 だが、その大胆な艦隊運動をするには、ヘレス海峡の風と潮は気紛れ過ぎた。


「縄をしっかり持て! 風を掴め! 船を動かせ!」

「艦列を乱せば、それだけ被害が増大する! なんとか耐えてみせろ!」


 各艦隊の艦長や航海長は必死に艦を操ろうとするが、刻一刻と変わる風向きは乗組員の努力を吹き飛ばす。順風と思いきや、その数秒後には逆風に変わると言う出来事が何度も何度も黒海艦隊を襲ったのである。


 そして操艦に苦労する黒海艦隊目がけ、グライコス艦隊は容赦なく攻撃する。


「撃て! 各自、撃って撃って撃ちまくれ!」


 統制射撃を諦めたライザー准将は「目の前の敵艦を好きなだけ撃て」という投げ遣りな命令を各艦に伝えた。複雑な命令を送ったところで相手は理解できないと悟ったとも言える。


 しかしそのおかげけかは定かではないが、黒海艦隊は回頭中に1隻の巡防艦が舵を損傷し座礁、1隻の戦列艦が損傷するなどの被害が出ていた。


 それでも秩序を以って艦列を整え、敵に肉薄することに成功したのはやはり練度の差であろう。


 空が赤くなりつつある17時10分。

 黒海艦隊は、ついにグライコス艦隊との距離300という超至近距離にて同行する形で布陣することに成功した。

 数隻が損傷している状態だが、彼我の練度の差を見れば十分勝てると、ラバーゼは確信した。


「全艦隊、右舷魔術砲戦開始。弾種『海神貫徹弾エギール』!」


(性懲りもなく)新作投下しました。

『ネカマしてたら女神様を騙してしまったのでそのまま異世界に飛ばされました。』

⇒ http://ncode.syosetu.com/n4415dh/


だいたいタイトルであらすじしてますが、異世界転移(転生?)ファンタジーです。よろしくお願いします。

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