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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
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五択

 9月29日。中部戦域、サロニカ。


「斥候部隊より追加報告。『接近中の敵部隊は総数1万5000と推定。街道を南西に進み、ここサロニカに向かっている』とのことです」


 サロニカを包囲するオストマルク帝国軍に北東より敵増援部隊接近の報があったのは前日の9月28日のこと。サロニカ包囲軍の先任司令官たるライフアイゼン少将は情報収集に努め、そしてこの情報を先ほど受け取ったのである。


「……1万5000、間違いないか?」

「正確な数は多少前後するとは思いますが、概数では同じです」


 敵増援の総数1万5000という数字に、ライフアイゼン少将、そして同じく帝国軍少将たるマテウスが感じた不安と疑問は同じだった。


「東部戦域ハルマンリに籠城する中央軍の総数も確か1万5000だったな、マテウス」

「そうだな。しかし『偶然』と片付けることもできる」


 この時2人の少将が感じていた不安は、この増援部隊が何をしようとしているのかということである。

 いや、増援部隊の目的は明白だ。サロニカの防衛、あるいはサロニカ守備隊の救出。そのどちらかだ。


 しかし問題は増援部隊総数が「1万5000」ということ。


「ハルマンリ守備隊がハルマンリを放棄して、我が軍に挟撃されることを承知でサロニカに向かっているとライフアイゼン閣下が言うのであれば、私は笑えばいいのか?」

「ミクラガルドからの部隊というのも考えにくい。あそこは軍事・経済・交通の要衝。この我らが制海権を握っているこの情勢下でミクラガルド駐屯部隊を3個旅団も動かすことは考えにくい」


 この1万5000の部隊の出所がハルマンリなのかそうではないのか。それが問題だった。

 もしハルマンリ駐屯守備隊がほぼ全て出撃しサロニカに向かっているのだとしたら、それは戦略的に無意味だ。

 もし「サロニカを救って東部戦域を失陥しました」となれば、サロニカは補給線を失って飢え死にするということになりかねない。


 そんな状況を作り出すなど、まともな指揮官であれば考えないだろう。

 それはライフアイゼンもマテウスも承知していた。


 しかしライフアイゼンの言葉にもある通り、ミクラガルドから、あるいは本国からの増援というのは戦略的・時間的要件からは説明がしにくい。


 彼らは、何をどう考えても「意味不明」な世界に迷い込んでしまったと言える。


「だが敵の思考だの戦略的要件なんぞ、この際ではどうでもいい。問題は現実問題として1万5000の敵部隊を見つけたということだ。これの対処方法を考えなければならない。そうだろう、ライフアイゼン閣下」

「……もっともだな。それにハルマンリのことはクライン大将閣下に任せた方がいい。我々は与えられたクライン閣下より与えられた『サロニカ強襲』の命を全うするまでだ」


 サロニカを包囲する帝国軍は2個師団、総数2万。

 対するサロニカ守備隊は1万、増援部隊は1万5000。合して2万5000で帝国軍が不利である。


「我々にある選択肢は4つ。サロニカ包囲戦を続けて増援部隊に背を向けるか、増援部隊を相手取ってサロニカに背を向けるか。戦力を二分して二正面作戦に出るか、そして最後に勝ち目なしと判断して撤退するか。このどれかだ」


 ライフアイゼンは四択を出したが、彼の頭の中では既に答えは決まっていた。敵の思惑や、戦略的意味合いはどうあれ、彼らは戦術的には数的不利にある。

 その中で二正面作戦を取ることは壊滅的な損害を受けることに間違いはない。


 であれば、選択肢はひとつである。


 だが、マテウスはそれに同調はしなかった。


「5つ目の選択肢が、ないわけではないと思うがな」

「なに? どういうことだ?」

「……男に教えるのは癪だな」

「おい」

「冗談だ」


 笑うマテウスを見ながら、ライフアイゼンには冗談には聞こえなかったと溜め息を吐く。実際問題、この男ならやりかねない。

 しかし生死の境にいる場において本気でそう言えるほど彼はそこまで偏屈ではない、はずである。


「クレタにいるクソ生意気なガキから連絡があってな。どうせならこき使ってやろうかと思ったのさ」

「ガキ? 誰だ?」


 マテウスの言う「ガキ」という存在に彼は思い出せなかった。それもそのはずで、ライフアイゼンは「ガキ」が活躍していた頃、敵軍に包囲されており、そして解囲後は挨拶もそこそこにケルミラ軍港まで行ってしまったのだから。


「忘れたのか? シレジアからの軍事顧問だよ」

「……あぁ。あの青年か」

「アレが青年だったらこの世に少年はいない」

「…………何があったか知らんが、今は作戦の話だ。その軍事顧問とやらと何が関係あるのだ」


 ライフアイゼンはシレジア軍事顧問の青年の話、おそらく下の話であろう話題を流して作戦会議を続ける。マテウスの提案を暫し聞いた後、彼は好意的に呟いた。


「なるほど。確かに『利用』できそうだな。しかしそれは連絡と連携と、時間との戦いになるだろう。そのあたりからの調整が必要か。とりあえず、連絡船の手配から始めるとしようか」


 こうして、戦火は再び陸に舞い戻る。

『大陸英雄戦記3』が発売、コミカライズもアーススターコミックで無料公開されました。

またそれを記念して活動報告で、3巻登場キャラのラフ画も公開中です。


これからもよろしくお願いします

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