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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
337/496

第七次戦争転換期

 9月28日。


 海上での数的有利と地の利を得たオストマルク・ティレニア連合海軍は、エーゲ海に多く浮かぶ有人島を次々に占拠し続けている。と言ってもそれらの有人島は碌な戦力は持っていないのだが。


「クレタ陥落以降、キリスの商船が各有人島に近づけませんでしたからね。島民を保護するという意味で行います」

「それで島民の好感情を得て占領政策を上手く進める、ということでよろしいですか? ユゼフ少佐」


 フィーネさんは言いにくいことをズバズバと聞きますね? 実際その通りなのだけど。

 現地政府の不満を占領軍の好感度に変換するのはよくやることだ。食糧やら奢侈品をばら撒けばなんとかなる。ギブミーチョコレート、アイドントハブチョコレート。


 まぁこれには民族問題が特になければ、という前提がつくがそこはオストマルク帝国得意の民族宥和政策で何とかしてください。

 

「それで少佐、今後の予定は?」

「そうですねぇ……。我々はアクロポリスは占領し、サロニカは陥落寸前。軍事的勝利はかなりあげていますが……」


 問題はキリス本国の動向か。軍事的に負けたからさっさと降伏条約を結ぼう、などと考える国は少ない。意地とか矜持とか立場というものがある。

 下手すると「国土がすべて焦土と化しても徹底抗戦」するなどと言い出すのだ。その場合は国民の反政府感情を煽らせて政府転覆というのが視野に入る。


 そうしなくても、キリス第二帝国の一部領域、例えば今陥落しかかっているグライコス地方全域をその反キリス的な思想を持っている人間に統治させるとか。そしてそのグライコスを傀儡国家&緩衝国家にして永久内戦状態にする。


 要約すると「キリス分割統治はオストマルク帝国を百年間安泰にさせるだろう!」である。

 うん、これはどう考えても後世血みどろの面倒臭い戦争起きる予感しかしないな。やめておこう。


 となると現政権の転覆の方がまだリスクが少ないだろう。


「フィーネさん、質問ですが」

「なんです?」

「キリス第二帝国において現政権に反発している人間っています?」

「山のようにいますが」


 山のようにいるらしい。世襲君主制国家はみんなこうなのか。シレジアもエミリア王女殿下とカロル大公殿下が対立しているし、オストマルク帝国も水面下でややこしい問題起きてるし、東大陸帝国に至ってはその火の粉がシレジアに降ってきたし。


「そのような者たちをどうするのです? 反政権感情を煽って内戦状態にしますか?」

「……フィーネさん、誰かに毒されてません? フィーネさんの親戚縁者その他諸々にはロクな人間がいないですし。リンツ伯を筆頭に、クラウディアさんに、ヴェルスバッハ氏、クーデンホーフ候に、マテウス少将。あとはリゼルさんもなかなか……」


 うん。これだけ変な人間が周囲にいるフィーネさんは大変だな。そら性格も悪くなるよ。


「…………」

「あの、なんでそんな目で見るんです?」

「人間というのは、どうして一番重要な事が見えないのだろうと考えていたのです」

「『燈台とうだい下暗し』と言いますからね」

「えぇ、まったくです」


 彼女は納得してくれたのに、なぜか数分間穴が開くほど見つめられ続けた。どうしてだろうね?




---




 なんやかんやありつつも、フィーネさんに「キリス第二帝国現政権に反発していて政治的に利用しやすい人間」という都合の良い人間を見繕ってほしいと言ったところ、ある人物が候補に挙がった。


「ティベリウス・アナトリコン。キリス第二帝国現皇帝バシレイオス・アナトリコンⅣ世の甥です」

「……甥ってことはもしかして」

「帝位継承争いに敗れた人間、ということです」


 なるほど。なんとも都合のいいことで。


「して、その次代の皇帝殿は今どこに?」

「……調査中ですが、もしかしたら最前線にいるかもしれません。彼は中央軍(タグマ)少将です」


 え、でもいくら少将と言っても皇族が最前線にいるの? おかし……くもないか。王族なのに最前線で馬に乗って敵陣に突撃した某お姫様を知っている。それに比べれば、男であるティベリウスが前線に居ても何も可笑しくはない。

 ……たぶん。


「そして継承争いに負けて最前線に飛ばされて『名誉の戦死』を求められている?」

「可能性はあります。そして幸いなことに、キリス帝国政府から『ティベリウス戦死』の報は出ていませんね」

「なら、期待できますね」


 もしティベリウスが戦死したらどうするか。政敵とはいえ皇族の死は絶大な宣伝力を持っている。いや逆だな。政敵だからこそ惜しみなく宣伝に使える。


「我が甥を殺した不埒な侵略者共に、正義の鉄槌を!」


 と心でもないことを言って全軍の士気を挙げる。あり得る話だ。死地に追いやったのはどこの誰だというツッコミが各所から出てさらに不満は高まりそうだが、戦時体制がそれをそうさせない。


 戦時体制故に押さえつけられている不平分子を、ティベリウスに糾合させる、と。

 

「やってみる価値はありますね」

「同感です。でも、そのティベリウスを見つけるのが先ですよ、少佐」

「わかってます。今後の方針を固めるためにも、そしてティベリウスを見つけるためにも、クライン大将の下に戻りましょう」


 それにクレタという離島はどうも情報が断片的にしかやってこない。シレジアは勿論、西部・中部戦域の情報も正確性に欠ける。やはり陸続きであることにはそれなりのメリットがある。

 ……マテウス少将とも顔を合わせるというデメリットもあるけど。

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