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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
334/496

ティレニア領クレタ

フィーネさんやリゼルさんらが初登場となる『大陸英雄戦記3』の書影がAmazonで公開されました。4月15日発売です!


詳しくはこちらの活動報告で!

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/531083/blogkey/1383736/

 9月8日のクレタ沖海戦にて、艦隊の半数を喪失したキリス第二帝国海軍南海方面艦隊はエーゲ海における海上劣勢を甘んじて受け入れるほかに選択肢がなかった。


 海戦後のティレニア海軍は30隻が健在。

 対するキリス海軍は20隻。しかし損傷や戦死傷者過大で戦闘に耐えうる者が殆どいない艦もあり、戦力としては15隻が良い所である。


 テオドラキス海軍大将は悩んだ。

 15隻で30隻の艦隊に挑むなど、正気の沙汰ではない。それに一度無様な敗戦を経験した兵の士気は底をついており、まともに戦える状態ではなかった。


 さらにその状況に追い打ちをかけるかの如く、9月11日にはオストマルク・ティレニア連合艦隊が艦隊の再編成を終了。損傷艦・戦傷者の後送と洋上補給、ケルキラ軍港からやってきた上陸作戦用の陸戦部隊を編入し、万全の態勢でエーゲ海に突入する。


 そんな連合艦隊相手に勝てる程、南海方面艦隊は精強でないことをテオドラキスは知っている。

 故に、彼は決断しなくてはならない。


「ここにいても意味がない。クレタ島を放棄、イズミルへ帰還する。……責任は私にある」


 9月11日14時50分。

 南海方面艦隊は積めるだけの物資と兵員を載せてクレタ島ハニア軍港を出港。無垢なるクレタ島民と脆弱な警備隊だけが島に残された。


 その数時間後、オストマルク・ティレニア連合艦隊が上陸作戦を開始。キリス軍が頑強な抵抗をすると踏んで、上陸前の魔術攻撃と用意周到な上陸戦を展開したが、それは殆ど無駄撃ちであった。


 こうしてクレタ島には、神聖ティレニア教皇国とオストマルク帝国の旗がはためくこととなった。




---




 俺は今猛烈に怒っている。


「……なんでキリスの抵抗がないんじゃゴルァアアアアアア!!」


 クソがッ! 船酔いと戦いながら上陸作戦の攻勢計画を立てて長引いた時用の兵站計画も立てて、必要ならば軍港の閉塞作戦やら上陸地点欺瞞の陽動作戦も立案したというのに……!


「なんで敵が居ないんだよ! 俺の努力を返せよおおおおおおお!!」


 ビックリだわ! 凄いビックリだわ!

 なにせ準備攻撃の時点で敵の抵抗が殆どなくて「もしかしたら水際撃滅戦じゃなくて、奥地に引き込んでからの迎撃戦に出るかもしれない」と思って用心して殴り込みかけたらハニア軍港が白旗上げてるんだもの! そりゃ驚くよ! 史上最大の上陸演習だよ!


 おかげでベルミリオ大将からは


『いやぁ、この上陸演習は大変為になったよワレサ少佐。これは戦史に残るな』


 って嫌味ったらしく言われちゃったじゃないか! 恥ずかしいよ、そんな戦史の残り方!

 などと恥ずかしさのあまり叫んでいたら、サラが近づいてきた。ていうかよく考えたら衆目浴びる中で絶叫する方が恥ずかしいな!


「いいじゃないの、おかげで味方の被害は少なかったんだから」

「いや確かにそうなんだけど、そうなんだけど……!」


 このモヤモヤ感を一体誰にぶつければいい。


「でもその『味方の被害僅少』っていうのがなぁ……」

「何よ。死人が出た方がよかったの?」

「そうじゃないよ。被害が少ないのは喜ばしい事。それは間違いない」


 死人が出ない戦争万歳だ。


「じゃあ何が嫌なのよ」


 と、サラは若干怒ってる風で言う。状況が理解できていないとか、そういうのだろう。


「『被害の詳細』というか『状況』が、ちょっとね」

「?」


 いやね。今回のクレタ上陸作戦、いや上陸演習の被害は重軽傷32で、戦傷者のほぼ全員は治癒魔術によって完治している。これだけ見ると素晴らしいのだが、翻って戦果は殆どないのだ。


 クレタ島ハニア軍港の守備隊は事前情報では1個師団だった。しかしキリス艦隊がその守備隊を収容してから離脱したため、俺らが来るころには1個連隊にまで減っていた。

 そして上陸前の魔術攻撃を行った時点で敵は戦意喪失。戦果僅少で勝ち確定となった。


 問題はその後で、敵の抵抗がないことを罠だと勘違いした俺がベルミリオ大将にそれを伝え、ベルミリオ大将が俺の疑問を「罠の可能性に留意せよ」と変換して実際に上陸部隊に伝えた。


 そしてどうなったのか。

 クレタに上陸しても上陸部隊は全く攻撃を受けない。それが敵の罠ではないのかと思った上陸部隊の緊張の度合いは言うに難くない。そしてどんどんクレタ内部に侵攻する。極度の緊張感の中、動く味方や動物を敵だと誤認する事例が多発、同士討ちが相次ぎ32名の戦傷者を出す。そして上陸部隊はついに敵司令部施設を視認し――


「はためく白旗も見た、ってこと?」

「御名答」

「……」


 サラからの視線が痛いです。

 いや友軍全員からの視線が痛いです。


 恥ずかしい。穴があったら入りたい。


「あー……落ち込まないで、ね? 仕方ないじゃない、まさか敵がユゼフ以上にヘタレだなんて私も思わなかったし。過ぎたことは忘れましょう?」

「……サラに慰められた?」

「なんでそこに驚くのよ!」


 いや、サラに慰められるのってもしかしたら初めてかもしれないと思ってさ。大抵は拳かデコピンか蹴りが来るのに。


「コホン。まぁサラの言う通り、過ぎたことは忘れてさっさとこれからの事を考えるか……」

「そうね、それがいいわ。で、どうするの?」

「一応、事前に策定した戦略に沿うことにするよ」


 エーゲ海の制海権を握って海上封鎖と通商破壊戦を実施。グライコス地方の補給線を脅かして前線の軍を弱体化させる。可能ならば後方上陸も視野に入れるが……。


「その前に伝書鳩だ。クライン大将の下にクレタ占領の報を入れなきゃね」


 クレタ占領は終わりではない。むしろこれから戦争が始まるのだ。

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