表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
322/496

プロブディフ退却戦

『コニアテス軽騎兵大隊壊滅す』


 騎兵隊仮拠点からなんとか逃げ延びることに成功した兵からこの報せを受けた時、プロブディフ包囲中のキリス第二帝国中央軍(タグマ)ティベリウス少将とテルメ中将の衝撃は小さくなかった。


「殿……いえ、ティベリウス少将。如何なさいますか?」


 テルメの言葉は主語と目的語の抜けた質問であったが、ティベリウスは理解している。

 カロヤノに逃げ込んだオストマルク敗残兵部隊、そして現在包囲下にあるオストマルク軍の処置。それをどうするのか。


「カロヤノに逃げ込んだオストマルク軍の戦力・実力を過小評価していたのかもしれん」

「と、申しますと?」

「確かに戦力差はあったが、徹底したゲリラ戦を展開するコニアテスが僅か数日で敗れ、拠点諸共部隊を粉砕されるというのは尋常ではない」


 コニアテスは数の利が自分にないことを当然知っていた。指示を出したティベリウスも同様である。

 故に部隊の正面衝突を避け、通商破壊によって敵の攻勢意欲を削いでそののちにプロブディフを攻略するのが彼の作戦であった。


 しかしその作戦は既に崩壊した。後顧の憂いを断ち切ったカロヤノのオストマルク軍がいつ攻勢に出るかわからない状況に、彼らは追い詰められたのである。


「……情報参謀はいるか!」

「ハッ、御前に」

「カロヤノに逃げ込んだ敵軍と、プロブディフに立て籠もる敵軍、それぞれの戦力はどれほどかわかるか?」


 ティベリウスの質問に対して、情報参謀は「情報が古い可能性がある」ことを前置きした上でそれに答えた。


「まずプロブディフに立て籠もる敵軍の総数は、概算で1万5000。しかしテルメ中将閣下の御活躍により都市機能が失われているため、物資は困窮し、士気は衰えているものと思われます。またアセノフグラート、並びにプロブディフにおいて将官級の戦死体が複数確認されています」

「つまり、彼らは烏合の衆である可能性が高いと」

「左様です」


 そして情報参謀は考察を続けるティベリウスに対し、もう1つの質問に対する答えを出す。


「これも情報が劣化している可能性がありますが……、カロヤノに逃げ込んだ敵軍は概算5000から1万。増援や補給を受けたこと、コニアテス軽騎兵大隊が短期間で壊滅したことを考慮すると、こちらはある程度充足されている師団と見るべきでしょう」

「なるほどな……。ありがとう、下がっていい」


 情報参謀がこの時報告した内容は、ほぼ現実と同じ内容であった。


 プロブディフに立て籠もるオストマルク帝国軍クライン軍団は、クライン大将は無事なものの、副司令官を始めとして多くの高級士官の戦死者を出しており、また満足いく補給を受けていないことから壊滅的な被害を受けている。


 一方で、カロヤノにいる帝国軍は補給と命令系統の再編を終え、シレジアからの軍事顧問を迎え入れたマテウス准将の指揮下で反撃の機会を窺っている。


 現実に即した内容、情報参謀としては100点の回答。故に、ティベリウスは悩まざるを得なかった。


「カロヤノと、プロブディフ合わせて敵軍は2万5000。そしてその数字は時間を掛ける程大きくなる。そして我々は敵地にいる関係上補給の不利がある……か。となると……」


 あらゆる状況を分析し、ティベリウスは決断した。だが階級の関係で、指揮を執るのは別の人物であるが。


「テルメ中将閣下」

「なんでしょうか、少将」

「部隊を撤収させた方がいいと、私は考えます」

「承知しました。すぐに準備に取り掛かります」


 皇族であるティベリウス・アナトリコン少将は、年上で中将のエル・テルメ伯爵に上申。8月23日早朝にテルメ伯爵の指揮の下後退を開始し、ここにプロブディフは短い籠城戦の後に解放される。

 その日の午後には、クライン大将はマテウス准将との再会を果たした。


 そして後退して戦線を再構築する中央軍タグマ1万4000を指揮するのはティベリウス少将とテルメ中将の2人。

 この中央軍の奇妙な指揮系統は、暫く続くことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ