なにもかも
マテウス准将の要望に応えてサラとフィーネさんを呼びに行くことになった、のだが、
「……話は済んだのですか?」
「話を済ませるためにフィーネさんが必要と言いますか……」
彼の本性を知るフィーネさんは准将との会見を渋った。ある意味当然である。
一方サラは、
「またああいうことがあったら一発で手を止められる自信がないわ」
殺害予告をした。
当然そんなことされたら軍法会議ものだしその暴力の連鎖を止める側の気持ちになってほしい。絶対サラを止めて俺が巻き添え食らって最終的に俺が死ぬ未来しか見えない。なので自重することを約束させた。
あとは俺の決断だけだ。大丈夫大丈夫。俺の気持ちは変わらないし今後の作戦のためにも必要な事なんだ。むしろあの准将に「俺はもう2人相手がいるんでヒャッハー」と自慢するいい機会じゃないかイケるイケる。
……。
「ユゼフ? 開けなくていいの?」
「い、いや、開ける。大丈夫サラは俺が護るから」
「その台詞はここで聞きたくなかったわね……」
大丈夫、大丈夫。口にするだけじゃないか。それが准将閣下の目の前と言う戦略的条件が付随するだけだ何も問題ないむしろ気持ちいいくらいだ。ひっ、ひっ、ふぅ。
「ゆ、ユゼフ・ワレサ少佐、入ります!」
「出て行け」
「女性2人がいますが!」
「早く入れ何をもたもたしている!」
この一連の流れだけで不安になる。
とりあえず天幕に入って准将に再び挨――
「おお、女神殿再びようこそ! 旅行の件はそこの小間使いに聞いてるかな? と、おやおやそこに居るのは士官学校の姫君ではないか!」
「「…………」」
案の定2人は固まった。そして俺に鋭い目を向けてくる。特にフィーネさん。
「……ふぃ、フィーネさんは士官学校の姫君だったんですね」
「…………そう呼ばれていた時期もあると言う話だけです。あの少佐、なんで私たちを呼んだんですか。まさか私たちを犠牲の祭壇に……」
「あ、いえ、そういうわけではないんです。これは作戦で……」
「人柱ですか? それとも生贄ですか?」
「違います違います」
フィーネさんが猛り狂って俺を目だけで殺す前に、そしてサラがキレてマテウス准将に殴りかかる前にさっさと言わなければ。
「じ、准将閣下。実はお耳に入れたいことが」
「私は君の意見を聞くために愛する両親から健常な耳を貰ったのではない」
耳が健常でも准将閣下の頭はそうでもないのでは、とは当然言えない。
「いえ、聞いておいた方が身のためでございます」
「なんだね?」
「……そ、それはですね」
頑張れ俺、負けるな俺、めげるな俺。恥も外聞もなく言えばきっとなんとかなる!
が、喉まで出ているのだが言えない。いややっぱ無理だって! 直接本人に言うのも結構恥ずかしいのにましてや他人の目の前でって無理無理!
「何をしている? 私はそんなに暇じゃないのだからさっさと……」
「いえ、言います! ちょっと待ってください頭の中で整理しているので!」
准将はイライラを隠せず、サラとフィーネさんは「なにこれ」「さぁ……」という会話を繰り返している。早く言わないと准将の堪忍袋の緒が切れて2人からは蔑まれ俺は哀れ1人身になる。
……よし。意を決しよう。
「実は――」
「マテウス閣下! 御歓談中失礼します!」
…………。
「あぁ、ワレサ少佐殿らもここに居りましたか。調度良いです」
「よくないです」
「は?」
俺の決断はゼーマンさんに邪魔された。いやまだだ。ゼーマンさんの用事が済んだら改めて准将閣下に事の次第を話せばいい。
「ごめんなさいなんでもないです。それでゼーマンさん、どうしました?」
「そうでした。准将閣下にご報告です」
そう言って、ゼーマンさんはマテウス准将に報告する。准将の方も職責と言うものを意識しているのか、はたまた女性の前で格好つけたいのか先ほどまでの軽薄さとは違う武家の名門貴族らしい威厳を放ちながらこちらにチラチラアピールしている。
「なんだ?」
「ハッ。第72警戒部隊より報告。『我、キリス中央軍と思われる騎兵隊と接敵。数は遺憾ながら不明』とのことです!」
「……ほう」
ゼーマンさんは緊迫した声で、マテウス准将はニヤニヤしながらそう返事する。
対する俺と言えば。
「…………俺の決意を邪魔された」
「どうしたのユゼフ?」
「ナンデモナイデス」
どうしてこう何もかも上手く行かないのだろうか。




