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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
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国境を越えて

「ね、ねぇユゼフ」

「なんだいサラ」

「あのさ、やっぱりユリア連れてっちゃダメ?」

「ダメ」


 8月12日。

 諸々の準備を終え、さてオストマルクへ行こうかという日にサラは唐突にそう言ったのである。観戦と観光を履き違えてるんじゃないかと思うぐらいの頓珍漢な言葉である。

 いや観戦という言葉も平和ボケした現代日本人なら「えっ? 東京ドーム? それとも国立?」とか言い出しそうだが、残念ながら今回の場合は「戦」争を「観」るのである。


「万が一ユリアに何かあったら困るから」

「むー……」


 口を尖らせながらユリアに抱き着いて離さないサラ。いや、そんなに可愛らしく拗ねられてもダメなもんはダメである。カールスバート内戦の時にもカステレットの時にも置いていったのだから、今回も大人しくそうしておきなさい。

 クラクフにはマヤさん一家もいるし食べ物は美味しいしメイドさんは美人だし色々安心である。


 今回、俺に同行するのはサラとフィーネさん。ラデックにも一応声を掛けようとしたのだが、彼は彼で忙しいのでやめておいた。


 いや、生後1ヶ月の双子の子供を前にしてキャラが崩壊してるパパラデックにどう声を掛けろと言うのだ。リゼルさんは双子の出産という偉業を成し遂げた後なのでだいぶ大人しくなったそうだが。

 ちなみに子供はどちらとも身体になんら障害のない元気な女の子だそうで。今は良いだろうが子供が成長すると女ばかりになってパパラデックの居場所が狭くなるだろうな。


 とまぁそんなわけなので今回は彼は同行しない。観戦武官に補給担当の人間なんてたぶんいらないだろうから、それでいいと思います。


「やぁ、出発かい?」


 ユリアとの長い長い別れの挨拶をしているサラの背後からマヤさんが登場。今回はクラクフに残って情報を纏める係である。


「えぇ。ご覧の有様なので遅刻しそうなんですけどね」

「仕方ないだろう。我が子との別れは長くなるものだよ」


 いやサラの場合はもうちょっと子離れした方がいいと思う。


「君の方は、誰かに挨拶しなくていいのかい?」

「お生憎、知人縁者が少ないもので」


 両親には挨拶に行ってない。そもそもクラクフにいないから挨拶しようがない。生きていることは確認しているし何回か手紙のやり取りはしているのだが、ラスキノ戦争後のあの日以降会っていないのだ。


 よし、この戦争が終わったら両親に会ってみよう。なに、クリスマスまでには会えるさ。そうそう、俺もサラの料理訓練に付き合ったせいかパインサラダくらいならたぶん自作できるようになったよ。今度振る舞ってあげよう。でも隣国の戦争が心配だな。ちょっと国境の様子見てくる。大丈夫大丈夫、俺は戦術に詳しいんだ。私に良い考えがある。トラストミー!


 ……あ、やばい。自分で言っといてなんだけど色々不安になってきた。


「マヤさん、後は頼みますね。本当に頼みますね!」

「……いや頼まれるまでもないが、なぜそんなに必死なんだ。少し目が怖いぞ」


 そんなにやばい顔してるのか俺。


「大丈夫だ。それに何かあっても君が色々考えてくれたおかげで、こちらも余裕はある。エミリア殿下もユリア殿のことも心配しなくていいさ」

「だと良いんですけどね……」


 いや、心配しても始まらないか。さっさと行かないと日が暮れちまう。


「じゃあ、マヤさん。後は任せます。サラも行くよ。あまりフィーネさんに待たせるのも悪いし」

「うー……わかった。じゃあユリア、またね」


 若干涙を浮かべているサラの別れの挨拶に対して、ユリアの反応と言えば、


「…………ん」


 と、1回首を縦に動かしただけである。すごい淡白な対応である。でもサラを神聖視することが減るのは良い傾向……なのかもしれない。




---




 総督府から出ると、そこにはオストマルク帝国の公用馬車と護衛、そして若干不貞腐れたような顔をしているフィーネさんがいた。


「27分遅刻ですよ、少佐」

「やけに細かいですね」

「少佐がくれた懐中時計は正確ですからね」

「……もうちょっと安い時計にすべきでしたかね」


 だがその贈り物の選定はリゼルさんがしたものだし、彼女も代金を支払っていると思うのでそれは7割方リゼルさんからの贈り物と言った方が良いかもしれない。


「それはそうと、さっさと前線に行ってキリスをぶっ飛ばしましょうかね」

「いえ、その前にエスターブルクへ寄りますよ」

「えっ?」

「『えっ?』じゃありません。ユゼフ少佐をお父様やヴェルスバッハ氏に会わせないといけませんから」

「……」


 帰りたい。まだ出発してもいないけど帰りたい。


「ちょっとユゼフ、さっさと乗ってよ。後ろがつっかえてるわよ」

「あ、ごめんなさい今乗ります」


 って、サラはエスターブルクで何させればいいんだろ。でもここは男としては格好良くサラのエスターブルク観光に付き合ってあげるべきかしら。


 そう思いつつ、俺とサラとフィーネさんは公用馬車に乗る。

 あまり広くない空間に3人がいるのでなんというか息苦しいというか、いやそれよりも前に美少女2人と狭い空間一緒というのは男の夢でもありさっさと解放されたいという悪夢でもある気がする。


「…………」

「…………」


 サラとフィーネさんが黙ってるので余計に空気が悪い。

 どうしよう、これ。

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