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大陸英雄戦記  作者: 悪一
クラクフ狂騒曲
301/496

ユゼフの初恋事情

 さすがに蒸留酒ウォッカ一気飲みはダメだった。胸が熱くなるわ何やらで考える暇も本音を言う暇もない。こんなものを毎度毎度グビグビ飲めるマヤさんはいったいどんな肝臓を持っているのだろうか。


 胸の熱が収まりかけた頃、蒸留酒のアルコールが全身を巡る感覚が自分でもわかった。たぶんこのままだと10分程で倒れるかもしれない。それはそれでありかも。


「さてユゼフくん。君がぶっ倒れる前に本音を聞こうか?」


 全然ありじゃなかった。


「…………じゃあ、まぁ、正直に言いますよ?」

「嘘は求めていない。さっさと言え」


 マヤさんはイライラを募らせているのか、そして興味があるのか前屈みになって聞いてきた。そんな姿勢を取られると少し話しにくい……。でもそこで本当に話さなかったら首を絞められかねない。


「コホン。えーっと……ですね、2人をどう思ってるかですよね?」

「そうだ」


 ……。

 いや意を決したんだ。言え、言うんだ! マヤさんは誰にも話さないって言ったじゃないか! よし、言うぞ!


「…………恋、ってなんです?」


 マヤさんがずっこけた。ギャグ漫画みたいに。


「全く、君って奴は……」


 目頭を押さえながらそう呟くマヤさん。


「ごめんなさい。でもこれが本音なんです。サラとフィーネさんのことは嫌いじゃないし、むしろ好感を持っていうのは事実なんです。でもこれが、サラとフィーネさんが自分に抱いている物と等価値であるかわからなくて……」

「……君は案外乙女だな」


 誰がオカマだ。


「って、なんで俺が乙女なんですか。俺ほど男気溢れた人はいないでしょう」

「寝言は墓の下で言え。……男の方が恋愛感情を悩まないと思っていたのだがなぁ」

「むしろマヤさんの方が男らし……あ、いえごめんなさいなんでもないです」


 そうか、俺は乙女だったのか。ユゼフちゃんって呼んでもいいのよ? うふ。

 ……おえっ。


「とまぁ、これが私の本音なんで帰っても」

「ダメだ」


 ですよね。


「君に質問がある。正直に答えたまえ」

「正直に答えなかったら?」

「葬式は盛大にやった方がいいかね?」

「正直に答えます!」


 マヤさんってばなんで俺に対してはこう圧力をかけてきているのだろうか。わからん。


「ラデック殿……あるいは私でもいい。それらに対して感じている気持ちと、サラ殿やフィーネ殿に感じている感情は同じか?」

「…………っと、それは」


 ……同じか、と言われてもなんというか、困る。

 同じではない。ラデックに対して思う感情とマヤさんに対して思う感情は同一のものか、と問われれば答えは「肯定タク」だけど。


「結論は出たな。つまりはそう言うことだ」

「え、いや、でも……違うってだけで別に……」

「その違う感情が、所謂恋愛感情なのだと思うよ。今はまだハッキリしていないだけで、意識し出すとそうではなくなる」


 経験上な、と彼女は続けた。マヤさんの経験がどんなんだったのか些か気になるところではある。

 いやでも俺がサラやフィーネさんに恋愛感情を持っているなんてどうにもしっくりこな……あ、でもなんか恥ずかしくなってきた。


「ユゼフくん、顔が赤いぞ」

「な、なんでもないです! ちょっと変な事考えてただけなんで!」


 落ち着け落ち着け、ここで赤くなったらマヤさんの思う壺。KOOLになれ俺。


「第一ですよ、仮に俺が2人の事を好きだったとしてもですよ」

「『仮に』と前置きして恋愛語る奴はだいたいもう恋に落ちていると思うぞ?」

「……そんなことより! 2人の事好きだとしてもマヤさん承知しないでしょう!?」

「まぁな」


 ほれみろ! マヤさんは両手に花は女の悪夢って言ってたし!

 2人の女性を同時に好きになるなんて不誠実極まる。うん。いや俺は別に好きじゃないけど。べ、べつに2人のことなんて全然全く本当に気にしてなんかないんだからね!


「だが君の持っている感情と言うのは不誠実云々の理性を前にしても変わらないさ。感情を理性で無理矢理押さえつけのは相当難しい。ならいっそ理性を捨てて一度感情的になりたまえ。その方が鬱憤晴れて楽になる」

「……え、いやでも私は」

「頑固だな……」


 いやそうは言っても。


「いいか? 君がいつまでも結論を出さないと不幸になるのはあの2人だぞ?」

「……別に私を捨てて他の人と幸せになってくれればいいです」

「そうなると確実に君は2人と永遠に別れることになる。それは君は嫌だろう」

「……」

「だが君が、あの2人に『恋愛感情を全く抱いていない』と言うかどちらか、あるいは両方に『好きだ』と言えばいい。言っておくが、2人に対して結論を出さないのは、2人に対して『好きだ』と述べる以上の不誠実さだ。死んだ方が良い」


 ……そこまで言うか。

 あぁ、でもなんとなくわかってきたかもしれない。今更かもしれないが、ユゼフ・ワレサと言う人間を他人に置き換えたら殺意が湧いてきた。

 うん、確かにこんなキャラの主人公のラノベあったら全力で燃やしてるかも。


 じゃあ俺の結論はなんだろう。

 2人対して抱いている感情は確かに友情ではない。ラデックもマヤさんも大切な親友だと思う、エミリア殿下は理想の主君だと思う。

 そしてサラとフィーネさんに抱いているのはまた別個のものだ。それは、まぁ、そういうことなんだろうけど。


 でも、でもなぁ……。


「い、言えない……」

「なんだ? また顔が赤いぞ。そろそろ自覚はしたのかな? ずいぶん遅かったじゃないか」

「他人事みたいに言わないでくださいよ! 誰のせいですか!」

「1から100まで君のせいだ」


 マヤさんはもう呆れているというか飽きている感じの表情だ。もう早く結論出せと顔が言っている。


「君が結論を言わないとみんな帰れないだろ。何でもいいから結論を出したまえ。この応接室で人生を終えるのは私は嫌だ」

「……言わなきゃダメですか?」

「ダメだ」


 …………あぁ、もう、どうにでもなれ。なるようになれ。マヤさん外に出さないって言ったんだから問題ないよね!


「…………マヤさん」

「なんだ? 結論は出たか?」

「はい。えーっとですね。たぶん私は……」


 そこで一度言葉を止める。ちょっと緊張してきた。深呼吸、深呼吸……ひっ、ひっ、ふぅ。

 ……よし。


「たぶん、私は不誠実ながら2人のことを好きになってしまったようで……その」

「ふむ、そうか。……しかし私は記憶力が悪くてね。2人って誰の事だ?」


 マヤさんがニヤニヤしてた。この期に及んで人の気持ちを弄ぶとか悪魔か!


「その、……のことが好きなんです」

「あぁ? 声が小さいなぁ?」


 なにこの羞恥プレイ。もうだめ死にそう。でも言わないと帰れない。


「だから、私はサラとフィーネさんのことが好きなんです!!」


 恥ずかしさのあまり、クラクフ市街にも聞こえてしまうんじゃないかってくらいの大声でそう叫んでしまった。そのことが更に恥ずかしさを増長させるが、応接室はどこも遮音性が高いし部屋にはマヤさんしかいないし問題ない……。けど恥ずかしい!


「そうかそうか。……だ、そうだよ、お2人さん?」

「えっ?」


 お2人さん? ナニイッテルノ? ここには2人しかいな……。


 と思った瞬間、マヤさんの座っているソファの後ろから見覚えのある人間がひょっこり出てきた。ただし鼻から下はソファの陰に隠れたまま。


 1人は、燃えるような赤い髪を持っている人物。


「ゆ、ユゼフを落とすつもりが逆にこっちが落とされたみたいね……ちょっと悔しいわ」


 もう1人は、雪のような銀の髪を持っている人物。


「少佐はいつもいつも私の想像外のことを言うのですね。やられました」


 …………。


 うん。

 その、

 まぁ、

 なんだ。


「ま、マヤさん」

「なんだい?」

「…………嵌めやがったな!?」


 ソファの後ろに居たのは、間違いなくサラとフィーネさんだった。

Q.最近恋愛の話多すぎ

A.この章が終わったら暫く戦争メインの章がたぶん2~3章続きます。この章はその戦争を起こすための伏線を張る章なのでもうちょっとお待ちください。

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