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大陸英雄戦記  作者: 悪一
第60代皇帝
270/496

改案

 東大陸帝国外交使節との折衝は平行線を辿っている。


 4月23日に開かれた「第三回本会議」では、オストマルクやシャウエンブルクの外交使節団の仲介、あるいは援助によって東大陸帝国政府に譲歩を求める発言をする。しかし帝国政府は頑としてこれを拒否。


 この直後、ちょっと面白いことが起きた。

 リヴォニア貴族連合外交使節団が「ヴァラヴィリエの領土割譲のみを論点に議論しないか」と提案したことである。要は妥協点を示したわけだが……、


「リヴォニア政府はやはり反シレジア同盟という枠組みを堅守したい、ということだろうか」


 エミリア殿下の護衛として会議に同席したマヤさんがそう推測した。

 リヴォニアのこの妥協案の提出は東大陸帝国政府に対する一種の媚びではないか、というのが彼女の推測だった。


「微妙なところですね。そもそもリヴォニアがどういう目で現在の大陸情勢を見ているのかが不明です。オストマルクのようにシレジア滅亡後の東大陸帝国の伸張を警戒しているのであれば、今回の行動はシレジア王国に対する援護射撃とも見れます。しかし反シレジア同盟を堅守したいと考えているのであれば、おそらくマヤさんの推測は当たっているでしょうね」

「両方、という可能性もあるな」

「えぇ。……その場合、中立という言葉であっているんでしょうか」

「いや、この場合は日和見主義と言った方が良いだろう」


 シレジアが滅んでも滅ばなくても、東大陸帝国がリヴォニアの敵となってもならなくても、どっちに転んでもいいような行動をする。シレジアの味方と思わせておいて東大陸帝国の……と思わせておいてやはりシレジアの……、ということだ。


 もっとも、東大陸帝国側の反応を見るにこれは失敗だったかもしれない。


「今までは東大陸帝国のことばかりを気にしていましたけど、もしかしたらリヴォニアも同様な警戒が必要であるということですか。ここらへんの情報をもっと集めなければなりません」 

「そうだな。と言っても、我が国の外務省にその気があるかどうか……」


 国際情勢を掴むために一番役に立たないといけない外務省が政敵というのは、なんとも辛い話だ。




---




 翌4月24日。


 オストマルク帝国外務大臣秘書官クラウディア・フォン・リンツと連絡将校であるフィーネさん、そして俺とエミリア殿下で非公式の会談。マヤさんとサラさんは扉の外で待機……と言いたいところだったが、サラさんは、


「別に、一緒にいたって役に立たないし……」


 と、ややしょぼくれながらどっか行ってしまった。別に役に立たないとは言ってないのだけど……。だけどクラウディアさんを待たせるわけにも行かず、また彼女が足早にどこかへと消えてしまったので、残念ながら後を追うことはできなかった。


 しかし、どうも今回の場合波乱を持ち込んでくるのはサラさんでもフィーネさんでもなくクラウディアさんのようである。理由? 聞かないでくれ。


「うーん、君はどう思う?」

「いや、あの、その前に離れてくれると嬉しいのですが……」

「えー……」


 いや本当に聞かないでほしい。何度も同じ説明をするのは骨が折れる。


 話の本題は、今後どうやって条約締結に持ち込むかの作戦会議、のはずである。

 クラウディアさんは渋々離れてくれたので、ようやく俺はそれについて考えられることができる……わけないわな。フィーネさんからの目が痛いし、ちょっと背中に感触がね?


「えー、あー、まぁ。戦争の結果は帝国の惜敗でしたから、領土割譲と賠償金支払、どちらかは帝国は譲歩すると思います。それを妨げているのは、恐らくは帝国内部の政争。即ち、皇帝派と皇太大甥派の争いでしょう」


 会議開催前の情報収集時、「王笏座シェプタ」でサラさんが国務省官僚から得た情報によれば、帝国宰相セルゲイは政敵である皇帝派貴族への警戒を緩めてはいない。恐らく、彼らに叛乱の名目を与えないよう神経を尖らせつつ、自らの勢力をじわじわと広げている最中なのだろう。


「つまり、我々が彼らに提案するべきことは屈辱的和平ではないということですか」

「そういうことです、殿下」

「となると……領土割譲は難しそうですね」


 ヴァラヴィリエやルドミナを治めている貴族がどちらの派閥かは知らないが、どっちにしろそれが叛乱の契機になる可能性がある。皇帝イヴァンⅦ世が生きている間に、皇帝派はセルゲイを帝位継承争いから追い落としたいのだ。


「ユゼフ少佐。それでは賠償金問題も彼らは渋るのでは? 捕虜解放に関する費用供出には同意しましたが、やはり賠償金を払うことは負けたことと同義と取られます」


 と、フィーネさん。


「いや、捕虜解放費用供出に彼らが賛同してくれたとあれば、やりようはあると思います」

「と言うと?」

「要は、賠償金を捕虜解放費用という名目で払わせるんですよ」


 賠償金を払う=負けた、と見られて皇帝派貴族が……というのはフィーネさんの言う通り。

 なら賠償金という名目ではなければ? 例えば帝国政府の命令に従い、そして命を賭して戦った兵士の帰還のための費用だとしたら。

 まさかその費用をケチることはできまいし、実際セルゲイもこの事項には賛同の意を示してくれた。なら、賠償金を捕虜解放費用に入れてしまえばいいのさ。


 表向きには捕虜解放費用、実質的には賠償金。

 この際賠償金は「お金」じゃなくてもいい。帝国から来る捕虜を運ぶための馬車に、賠償金代わりに相応の資源や物資を支払うでもいい。


「なるほど。それなら皇帝派は叛乱の名目が立たない。むしろ『賠償金が取られるかもしれない状況下で、よく賠償金項目を外した』と、逆にセルゲイの評価が上がるかもしれない。そういうわけだね? 君、結構すごいね」


 と、クラウディアさんが推測。いや後半の部分は全然考えてませんでした。そんな敵国の宰相を応援するつもりなんて毛頭なかったのに……。

 しかもフィーネさんがこれに追い打ちをかける。


「それにシレジア王国内の、国王派と大公派の対立も上手く避けられるでしょう。確かに『賠償金の支払い』という名目は立てられませんでしたが、実質的には妥結していますので国王派には『名を捨て実を得る』ということで納得するでしょう。大公派貴族もセルゲイに協力する立場にあるため、セルゲイが損をしないこの条文には反対しないはずです。名目的な問題で多少の攻撃はするかもしれませんが、実質的な賠償金はあるため口封じは容易ですね」


 「すごい!」という目を送ってくるフィーネさん。ごめんなさい、そこまで考えてませんでした。フィーネさん凄いね、そこまで考えられるなんて。


 エミリア殿下はクラウディアさんとフィーネさんの考えを聞いて、考え込んでいる様子。迷っているかというよりは、思考が次の段階に入っているという感じの表情だった。


「ではその件については私から陛下に上申し、外務尚書らと共に協議に入りたいと思います。残る領土割譲問題と併せて……と言いたいですが、やはりこちらは諦めるしかありませんか。国防上の問題がないわけではない……、というのは総合作戦本部次長閣下の言ですが」


 ここで殿下が言った「国防上の問題」というのは、恐らく「領土割譲すると国境線が前進し、その分だけ戦線が長くなって兵が分散される」ということだろう。それに伴って新しく軍事拠点を立てたり軍拡したり……というのは、今のシレジアの財政では無理がある。


 まぁ、それに関しても案がないわけではない。領土割譲について諦める、という意見には変わらないが、でも領土割譲以外に実のある内容だと思う。


 お互いにとってもね。

フィーネさんの髪色は何色だ投票。

結果は

銀髪(65%)、栗色(19%)、こげ茶色(6%)、紅茶色(10%)

総投票数124票です。


ご協力ありがとうございました。

なお、参考にする程度なのでこの結果が反映されるかどうかは私と編集さんの気分次第と言ったところです。


クラウディアさんもフィーネさんと同じ髪色って設定ですので。

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