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大陸英雄戦記  作者: 悪一
第60代皇帝
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2話同日更新


1/2

「何を話していらしたんですか?」


 暫くした後、エミリア殿下とサラとマヤさんがやってきた。一応公共の場だから深々とお辞儀しておいて、と。


「いえね。ちょっとした噂話を」

「噂話ですか。あなたのことですから、さぞ珍妙な噂なのでしょうね」


 遠回しに俺が珍妙だと言われた気がする。そんなことないよね? とりあえず格好は珍妙ではない。王国軍の軍服だし、これが珍妙だと言うのならシレジア王国軍は全員珍妙になる。


 サラとマヤさんの格好は近衛兵の正装で、今俺が着ている服よりも勲章やら装飾やらが目立つ。彼女たちが持っている護衛のみに持ち込みが許された剣も装飾や紋様が豊富。明らかに実戦用じゃなかった。


 そんでもって当の主君たるエミリア殿下は貴族用ドレス姿。いつぞや王都で見たものより華やかさが増している印象。服には詳しくないからこういうのをなんて言うのか知らないけど、ベルなんとかのばらに出てくるドレスっぽく見える。


「ふふ、なんですかユゼフさん。見惚れたんですか?」


 あまりジロジロ見過ぎたせいか、エミリア殿下にからかわれてしまった。


「えぇ。あまりにもお綺麗だったもので」

「それは嬉しいですね。でも、もっと具体的に言って貰わないと」


 殿下はちょっと悪い笑顔でそう言ってきた。

 えーっと、待ってね。具体的に……具体的に……。うん。無理。私には無理です。


「ダメですよ。そういうのはスッと出さないとモテません。今この会場に居る男性方は皆そういう能力を持っています」

「そうなんですか……」

「えぇ。女性を褒めるのも貴族の仕事。特に懇意にしている貴族の妻子を、ね」


 そういうものか。

 確かに自分の娘や奥さんが「お綺麗ですね」と言われたら当主も悪い気はしないだろう。そのままいい気になって、褒めた側の言うことを聞いてしまうかもしれない。貴族社会特有の必須スキルと言うことか。


 ……めんどくせぇ。やっぱ貴族になりたくないね。もう片足突っ込んで……いやでも、まだギリギリ大丈夫だ。「卿」に実質的な意味はないってカレル陛下も言ってたし。


「勉強になります」

「ふふ。ユゼフさんにも知らないことがあるんですね」

「知らないことだらけですよ」


 俺は神じゃない。何でもは知らないし、知ってるはずのことを忘れることもある。


「ところで殿下。諸国の外交官らとのご対談は済んだのですか?」

「済んだ……と言いたいところですが、何せ数が数です。全ては無理ですね。とりあえず各国の代表と会っただけです。それに……」


 殿下はそう言って言葉を詰まらせ、ただ肩を軽く竦めた。マヤさんの方はちょっと怒りつつも苦笑い、サラはツンとして……るのはいつものことか。また何かハラスメント的なことを言われたんだろうか。

 エミリア殿下に言うハラスメントと言えば……やっぱりあれかな、身長の事かな。


 いやね、こう言っちゃ不敬極まりないけど、エミリア殿下って身体的な成長が遅いのよね。6年前と変わらず金髪美少女ロリ。たぶん年齢的にも身体的な成長は望み薄……。士官学校という超体育会系学校にいても身長伸びないなんて、運動すれば背が伸びるという説はなんだったんだろう。


 だけどそんな殿下は、武勲の巨大さはシレジア王国で右に出る者は居ない。武勲と身長のギャップは激しい。もしその身長のことを事前に知らなかった人間が、武勲の大きさのみでエミリア殿下を想像し、そして実際に会ったらどうなるのか。


「まだ小さいのに武勲を立てるなんてすごいね!」


 とか言うにちがいない。そのままズバリ言うわけないが、婉曲的に、比喩的に、最大限華を飾って言うだろう。


 本人はそれを気にしているのか、はたまた気にしてないけどさんざん言われて辟易してるのかは知らないが……いずれにせよこれだけは言える。


「私はそういうエミリア殿下が好きですがね」


 金髪美少女のお姫様。お人形さんみたいで可愛いと思います。

 一方、エミリア殿下は目をパチクリさせた以外は不動無口。驚いているようにも見えるが「お前は何を言っているんだ」という感じもする。


「あー……申し訳ありません、いきなり。やや不敬でした。謝罪いたします」


 ここで怒らせたらまずい、と思い頭を下げたものの……エミリア殿下からの反応は暫く帰ってこなかった。もしかして謝罪だけじゃ不満なのか、と思ったが、


「あ、その、だ、大丈夫です。ちょっとビックリしただけなので……」


 エミリア殿下は頬を赤く染めてそっぽを向いてしまった。どうやら単に驚いただけらしい。まぁあんな恥ずかしいことをよくもまぁ真顔で言えたもんだと。……あ、ダメだ。思い出すとこっちまで恥ずかしくなる。夜に布団の中でわーわー叫びたくなる!


「……すみません」


 とりあえず謝罪。殿下は「大丈夫ですから」と小さく慌てた声で言ってくるが、こっちは黒歴史がかかってるので。


「…………」

「…………」


 そんな慌てるエミリア殿下の脇で殺意の目を光らせている人物の視線が余所に向かうまで俺は頭を下げるのをやめない。君がッ、視線を逸らすまで、謝るのをやめない!!

 なにこの卑屈な主人公。絶対受けない。


 頭を下げ続けるのには限界がある。1分程度で俺は頭を元の位置に戻さざるをえなかったし、そして当然エミリア殿下の両脇にいる人間の視線が痛い。


「ユゼフ」

「……な、なんでしょうかサラさん」

「さん付け」

「ハイ」


 殴ることも蹴ることもデコピンもせず、わかりやすい単語を1つだけ放つサラがとてつもなく怖い。マヤさん以上の殺意……いや、ち、違う。こ、こいつ凄みで……!


「公衆の面前で王族を口説くなんて、エミリアに迷惑掛かるでしょ。たぶん誰にも聞かれてないだろうけど、次からは気を付けなさい」

「……あ、うん。ごめんなさい」


 あの、これ本当にサラ?

 向けてくる視線は過去何度か見た事のあるソレだったけど、今の凄い常識的な意見はどちらかと言うとマヤさんが放つものだ。でも今のはサラの声だった……。


 どういうことなの。なにがあったの。


「……まぁ、サラ殿の言う通りだ。自重したまえ、ユゼフくん」


 と、マヤさんからの忠告。

 うん。サラにマジレスさせてごめんなさい。


「コホン。まぁ、それはさておいて、殿下はあの宰相閣下とお話になられたんですか?」


 そう言って、俺はその人物を見やる。会場のほぼ中央、一際目立つ存在がそこにある。東大陸帝国宰相セルゲイ・ロマノフだ。

 彼は今、シャウエンブルク公国元首であるアルブレヒト・フォン・シャウエンブルク大公と御歓談中。両者笑顔を振りまいているし、衆目を浴びているということもあって、恐らくは雑談に興じているだけだとは思うが。


「話しましたよ。少しだけ、ですが」

「どのような内容で?」

「……特殊なことはしていません。所作やマナー、貴族的な言い回しなどは完璧に近く、流石は次期皇帝であると言えるでしょうね」


 そう言って殿下も若き帝国宰相へ目を向け「それに」と言って続けた。


「会った瞬間……いえ、正面から彼の目を見た瞬間、ただならぬ雰囲気を感じ取りました。この方はきっと、その目の内に遠大なる野望と、それを実行するだけの才幹と勇気があるのではないか。そう思わせるだけの力が、彼の目に宿っていたのです」


 セルゲイを見るエミリア殿下の目は、少し切なげなものだった。でもそれが何を意味するのかはわからない。そのまま口を結んでしまったエミリア殿下に代わり、マヤさんが発言を引き継ぐ。


「私も似たようなことを思ったよ。恐らく彼の目を見た凡庸な人間は、それだけで忠誠心を捧げてしまうだろうね。彼はそういう才能を持っているのだろう」

「……カリスマ性、という奴ですか」

「さぁな。いずれにしても、結論は出ている」


 マヤさんはそう言うと、殿下と同じように、いやこの会場にいたほとんどの人間と同じように、セルゲイ・ロマノフを見た。殿下と違って、マヤさんの目には闘志が宿っていたように見える。


「あれが、私たちの敵だ」

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