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大陸英雄戦記  作者: 悪一
第60代皇帝
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開催

 公都エーレスンドは、要塞である。

 高い城壁に囲まれたこの要塞都市は公国の保有する強力な海軍と組み合わさって、まさに無敵の要塞となる。


 しかし、無敵の要塞という存在には往々にして弱点と言うものを持っている。エーレスンドもその例外とはなり得ない。


 その弱点とは、このエーレスンドが海上物流の拠点であるということに関連がある。

 即ち、エーレスンドの弱点とは港である。


 当たり前だが、海の上に城壁や堀などというものは作れない。縦しんば作れたとしても、それは船の移動を妨げるだけとなり、物流拠点として繁栄しているエーレスンドにとって文字通り致命的な障害となる。


 そこに、敵が大挙してやってきたら?

 敵がそんなことをする前に海軍が蹴散らしてくれる、と安易に考える者はこの公国にはいなかった。海軍だけで敵をすべて粉砕できるはずもないと知っていたからである。


 この国の基本戦略ドクトリンは、第一に海軍によって敵勢力を「威嚇」「弱体化」させ、その弱体化した侵略軍を、城壁や堀によって地の利を得た陸軍が殲滅するのである。


 とすると問題になるのが、城壁が物理的に立てられない港湾地区である。

 侵略軍相手に、公国陸軍は地の利を得られない。そして仮想敵国たる東大陸帝国やリヴォニアと比べれば国力の劣る公国は、当然陸軍戦力でも劣る。つまり、数の利は侵略軍にある。


 これでは、エーレスンドは守れない。


 そう結論付けた数代前のこの国の政府は、港湾地区防衛用の要塞を建設することを決定した。


 建設承認された要塞は、すぐさま公国屈指の設計士たちによって設計された。この要塞の特徴は、城壁が全くないことにある。先に述べたように物流拠点に城壁があると邪魔でしかないためだ。


 だが堀はある。そしてその堀こそ、当時最先端の設計であった。

 友軍の上級魔術の弾道、及び侵略軍の侵攻ルートや敵の視界や魔術の火線、ありとあらゆる要素を緻密に計算し、そして完成させた。


 それが、大陸暦638年4月20日始まったシレジア王国と東大陸帝国の講和会議の舞台、上空から見れば星のように見える堀を備えた要塞、カステレット砦である。




---




 高い城壁を持つ要塞都市、130門級一等戦列艦に代表される強力な海軍、そしてトドメに星型要塞。

 ……めっちゃ心躍る。


 わかるか諸君、私のこの気持ちが!

 カッコイイ+カッコイイ+カッコイイ=すごいカッコイイ! だぞ!


 この国に産まれたかった……! と、思いたくなるくらいにはカッコイイ都市、エーレスンド。でもきっとそういうのって大抵「住めば地獄」なんだろうな。地元の人にとっては悩みは色々あるだろう。観光だけでいい。


 まぁ、今の俺には観光を楽しむ余裕も転居をする予定もない。

 カステレット砦には、今回は戦いに行くのだ。剣を交えず、血を流さない戦場、外交である。


 この会議におけるシレジア王国の目的は、当然講和条約の締結にある。けど、恐らく条約締結は約束されているだろう。シレジアにしても帝国にしても、今の所再戦するつもりはないのだから。


 だから今回の最大の目的は、エミリア王女派にとって有利な条約とすることにある。

 具体的には、工作員・諜報員に仕立て上げた捕虜たちを帝国に合法的に送還すること、それを敵に悟られないようにすることだ。


 そしてもう1つ、忘れてはいけない目的がある。

 それはエミリア殿下の手伝い。オストマルク帝国に居るという、エミリア殿下懐疑派を納得させるために、俺やマヤさんらが陰で支える。殿下が有能で、オストマルクにとって有用な人物であると印象付けるための場なのだ。


 その目的を知っているのは、俺とマヤさんとフィーネさん。エミリア殿下に言える話ではないし、サラさんには言おうかなと迷ったがうっかり殿下に喋ってもらっては困るので「近衛兵らしくしてね」とだけ言っておいた。

 ……まぁ、彼女には「言われなくてもわかってる」とデコピンされながら言われてしまったのだが。確かに今更だね。



 会議が開催されるのは、4月20日の15時丁度。

 だがその会議の前に、各国外交使節団を招いた祝宴会が開かれたのである。ここで、各国の外交官はアレがどのこ誰だということを覚えたり、話しかけたり、前準備としてちょっとした交渉を始める。

 祝宴会と謳っているが、もう既に交渉は始まっているということ。


 フランツ陛下とエミリア殿下、そして外務尚書などは会場内を忙しく動き回って各国の要人と対談している。

 エミリア殿下に付き添うのは、サラさんとマヤさん。彼女たちはエミリア殿下の後ろに立って、殿下のフォローをする。


 そして俺とフィーネさんの仕事は……、


「あそこに居る、大仰な軍服を着ている中老の男性。あれが帝国軍事大臣アレクセイ・レディゲル侯爵です。その彼と対談しているのは、在公国リヴォニア全権大使のアンゼルム・フォン・バウマン男爵ですね」

「……帝国の謀略家たるレディゲル侯爵が、祝宴会開催間もなく会った人物がリヴォニアの全権大使ですか。臭いますね」

「えぇ。しかしバウマン男爵の表情や仕草から察するに、会話の内容は恐らく雑談に類するものと思われます」

「まぁ、このような大勢の目がある場で重要な話はしないでしょう」


 情報収集だ。

 帝国の要人が、どこの誰と話しているか。そしてその会話の最中、当人たちはどんな表情をしているか、酒を飲んでいるか、どんなジェスチャーをしているのか、笑っているのか、真面目な顔をしているのか。それらを総合的に判断して、会話の内容を類推する。その作業をしているのだ。

 ……主に士官学校情報科首席のフィーネさんが。


 なんというか、やっぱりフィーネさんは頭良いと思うよ。今さらだけど、やっぱり情報面では頼りになる。情報の取捨選択だけでなく、最近は情報収集や分析力も高まっている様子だし。


「別に大したことはありません。少佐もすぐにできますよ」


 そろそろ、その自己評価の低さを治せばいいのに。簡単に言ってくれるが、彼女が今やっていることは全然簡単じゃないのだ。


「バウマン男爵というのは、どういう方なのです?」

「詳しくは覚えてませんが、確かリヴォニア元老院現議長であるザイフェルト公爵の息子……三男だったかと」


 ザイフェルト公爵。久しぶりに聞いた姓だ。そして、結構重要な人物であったことも記憶している。

 フィーネさん……いや、非実在彼女フィーナさんと情報交換していた時に出た名前だ。


「確か、セルゲイ・ロマノフはザイフェルト公爵の遠戚でしたね?」

「はい。セルゲイの母親、アニーケ・フォン・レーヴィはザイフェルト公爵の親戚です。つまり、あのバウマン男爵とセルゲイは遠い親戚と言うことになります」

「些か遠すぎる気もしますけどね……」


 人類みな親戚と言うが、貴族社会は本当に血縁関係がくんずほぐれつでややこしい。とりあえずセルゲイにはリヴォニアの血が流れている。そしてそんな血が流れているからこそ、現帝国皇帝イヴァンⅦ世は彼を排除しようとした、と。


 レディゲル侯爵とやらは、バウマン男爵にそんな経緯を話しているのだろうか。

ちなみに星型要塞「カステレット砦」は実在します

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