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大陸英雄戦記  作者: 悪一
第60代皇帝
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ユゼフの相談

「とういうわけで、今度はユゼフ少佐の番です」

「いや私の番と言われましてもね……」


 さてどこから説明したものだろうか。個人的なことは避けたいけど、俺の抱えてる問題が個人的すぎて隠したら意味わからないし晒したらサラに迷惑だし、


「少佐、人に言わせといて自分はナシというのはやめてくださいね」


 けどフィーネさんはこう言ってるし。どうしよう。

 あ、でも彼女はサラ関連で俺が悩んでることはわかってるのか。あいつの様子がおかしいからって話振ってきたんだもんな。じゃあ大丈夫……なのか?


「何を悩んでいるのかは想像がつきますが、私は少佐の相談内容を他人に言いふらすような真似は致しません。たとえそれがお父様であろうと神であろうと」

「……神様にも言わないって神様に誓えます?」

「その帝国語は矛盾している気がしますが、誓えます」


 ……ま、話さなきゃ何も解決しないか。悩み解決の最も早い道は「とりあえず相談」と言う奴だし、個人的な相談もフィーネさんなら信用できる。適当なところを端折って、端的に言うか。


「えーっと、ですね。まぁフィーネさんもわかっていると思いますけど……サラさん関連の話でして」

「はい」


 こんな真面目な表情をして相談に乗る気満々どころかすっごい興味を持たれてる目をフィーネさんがしてるとどうも相談しにくいんだけど。内容が内容だけに口にし辛いというか……。


「でですね、その…………されまして」

「……すみません、よく聞こえなかったんですが」

「告白、されたんですよ」


 その瞬間、フィーネさんの動きが止まった。動いているのは彼女が持っている紅茶のカップから漂う湯気だけで、まばたき1つもない。ようやく口が動いたと思ったら、数秒半開きになった後に声が出てきた。


「…………ごめんなさいよく聞こえなかったのであと12回ほど言ってください」

「恥ずかしいのでこれっきりでお願いします」


 さすがにこれを12回も言うのは恥ずかしさを通り越して死にたくなる。

 フィーネさんは余程驚いているのか、カップをテーブルに置く動作が酷かった。なんかカチャカチャ言ってるし零しそうだったし。


「……少佐」

「は、はい」

「具体的に」


 怖い。何が怖いって、目が怖い。獲物を見つけた鷹か獅子かという感じで普段のフィーネさんから想像もつかない表情である。

 ていうか今日のフィーネさん感情豊かだよね! 驚いたり悩んだり怒ったり(?)笑ったりで。いつぞやの彼女とは別人のようだ。ただ、それほど表情に差異があるわけではなので慣れないと感情が読み取れない。


 まぁそれはさておき。

 具体的にと言われてもどう話せばいいか。あまり具体的に言うのも抵抗あるしな……。あらすじくらいでいいか。


「……えーっと、されたのはカールスバート内戦が終わってフィーネさんがオストマルクに行った後ですね」

「そんなに前ですか」

「え、えぇ」

「具体的には、その、どのような感じで?」

「なんでそれをフィーネさんに言わなくちゃいけないんですか!」

「……後学の為に」


 彼女は目を逸らしながらそんなことを言う。後学て、どっかの貴族の坊ちゃまに言うための準備なのだろうか。勉強熱心なのは良い事だけどさすがにこれは黙っておく。恥ずかしいから。いやだって「好きよ!」って真正面から堂々と言われ……、


「少佐、なにそんなに顔を赤くしてるんですか」

「……そんなに赤くなってます?」

「えぇ。林檎のように」


 やばい。穴があったら入りたい。なかったら掘りたい。そのまま俺を埋めて欲しい。

 それはともかく、その後の顛末も話す。「親友として」と言われたがそれが本当かわからないことも。


「で、どう思います? フィーネさん」

「……はぁ」


 フィーネさんが再び固まった。今度は先ほどより早く石化の呪いは溶けたようだが、一体彼女の中では何が起きているのかちょっと気になる。


「にしても、少し意外というかなんというか、ですね。また負けました」

「え、負け……はい? なにがです?」

「いえ、こちらの話ですのでお気になさらず」


 と、フィーネさんは紅茶を飲みながら誤魔化した。

 その前にフィーネさんさっきから紅茶飲みすぎじゃない? 数えてないけど大分飲んでる気がする。


「それで、少佐は返事をしたんですか?」

「いえ……まだ何も」

「してないんですか?」

「はい」


 俺がそう答えると、フィーネさんの顔は今度は凄く呆れたものとなった。「ありえない」と言いたげな眼である。


「少佐、やはりあなたは変人です」

「いやなんで急にそ」

「黙って聞いてください」

「はいすいません聞きます」


 フィーネさんがいつぞや以来のお説教モードに。クロスノのオストマルク帝国軍駐屯地で暴れ回った後の時と同じ状況だ。内容全然違うけど。


「少佐。私と結婚してください」

「何度も言いましたがそれは断ったはずです。あとなんですか急に」

「これです、やはり変じゃないですか少佐は」


 そう言う彼女は躊躇なく俺を罵った。いやいやいや、このタイミングでいきなりプロポーズされても意味わからないし断るの今回が初めてじゃないよね?


「いいですか少佐、私が怒っているのは婚約を断られたからではありません。大部分は」

「は、はぁ」


 割と最後の部分が気になる。大部分じゃない部分は何で構成されてるのか気になる。


「少佐、先程の私の求婚はすぐに返事を出しましたね」

「出しましたけど……」

「ではなぜ、マリノフスカ少佐の告白に対してはすぐに返事を出さないのです?」

「それは……」


 それは……なんでだろう。タイミングを逃したから、というのが一番だけど……。


「私が思うに、マリノフスカ少佐はユゼフ少佐の答えを待っているんですよ」

「そうなんですか?」

「まぁ、私も経験が少ないので確かなことは言えませんが、『思い』を伝えることは大変なのです。そして『思い』を伝えることに成功したら、すぐに返事が欲しくなるものなのですよ」


 なるほど。確かに告白イベントなんてものは一世一代のものだろう。そしてすぐ結果を求めるのは自明の理か。にしても、フィーネさんってそういう方面にも詳しいんだな。さすが情報科首席と言ったところか……いやもしかして、


「それ、フィーネさんの経験談ですか?」

「…………」


 無言だった。黙認と言ってもいいかもしれない。

 まぁ彼女も士官学校時代はモテただろうしな、経験ないわけないか。軍隊なんて男社会に貴族の令嬢で優秀で美人な女の子が居たらそりゃ勇気出して告白したくもなる。

 そんなおモテになっただろうフィーネさんが再び喋り出したのはその数秒後。


「まぁ、私の話は良いんです。問題はマリノフスカ少佐とユゼフ少佐のこと。マリノフスカ少佐は勇気を出してユゼフ少佐に告白しました。ですがあなたはまだ何も伝えていないのは不公平と言うものです。だから……あとはわかりますね?」

「……わかります、けど」


 わかるけど、その先を進めと言われても立ちすくんでしまう。「(タク)」か「(ニエ)」の単純な問題でもない。前にラデック相手に言ったことだが、俺の、サラに抱いている気持ちが、彼女が持っているものと同価値であるのか判断できないから「(タク)」と言えない。だけど「(ニエ)」と言ったら今までの関係が壊れてしまいそうで……。


「少佐、悩んでいるところ悪いのですが、この問題は『(ヤー)』か『(ナイン)』の2択ではありませんよ」

「え、そうなんですか?」

「はい。少佐の考えることはわかります。『(ヤー)』でもないけど『(ナイン)』と言えば友人関係でさえも崩れるのではないか。そう思ってるのでしょう」

「……」

「図星ですね。だったら簡単です」

「……なんです?」

「『保留』、つまり『考えさせてください』と素直に言えばいいんですよ。そうすれば、たぶん彼女は納得するでしょうから。何度も言いますが、全く何も返事をしないのはダメです」

「……それで大丈夫ですかね?」

「さぁ? それはマリノフスカ少佐次第なのでなんとも。でも、もし私がマリノフスカ少佐だったらそれでひとまず納得しますよ。その後は2人の努力次第です」

「……なるほど、ね」


 ふむ。そう言われるとなんだか希望の光が見えてきた。タイミングを掴んで、言うだけ言ってみるかな。とりあえず今日にでも……と思って窓の外を見たらもう夕方だった。やばい。さすがに長話しすぎたか。


「フィーネさん、ありがとうございました」

「いえいえ。私も相談に乗ってもらいましたし、お互い様です」

「でも、助かったのは事実ですから。今度、王都の美味しい喫茶店を紹介しますので、奢りますよ」

「楽しみにしておきます、少佐」

 

 そう言って適当に挨拶を済ませて、大使館の応接室を出た。

 とりあえず明日、エミリア殿下とサラにそれぞれ言うことがある。公的な事、私的な事をね。




---




 ユゼフが応接室から出た後、部屋に1人残されたフィーネは空になった紅茶のカップの縁をなぞっていた。そしてその行為にも飽きたかのように、深い溜め息を吐く。


「……はぁ。私は、何をしているんですかね」


 彼女が言及しているのは、無論先ほどのユゼフの相談の事である。本来であれば敵であるはずのサラ・マリノフスカを利するような答えをしてしまったのは、彼女にとっては確かに失策だった。

 だがそれ以上に、彼女は自分の事を冷静に分析できていた。

 ユゼフの相談に対してやたら具体的な答えを出したフィーネだったが、この答えの源泉は紛れもなくフィーネがユゼフに抱く「思い」だったのだと、彼女は理解できていた。それだけに、彼女は再び大きく溜め息を吐く。


「……ユゼフ少佐のことを言える立場ではありませんね」


 その呟きは当然誰に聞こえることもなく、応接室の空気の中に紛れて消えた。


 彼女の「思い」がその対象に伝えられるのは、まだ先の事である。

【おまけ】

10/29-10/30に実施したツイッターヒロイン投票の結果


総投票数246票

サラさんの得票率21%、フィーネさんのそれは79%でした。


投票ありがとうございました。

なお何度も言いますが投票結果が今後の展開を変えることは一切ありません。

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[一言] フィーネさん可愛い
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