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大陸英雄戦記  作者: 悪一
第60代皇帝
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幕間狂言

 まさか本当に言ったその日に王都へ出発! ということはなかった。さすがになかった。

 マヤさんへの業務引き継ぎやら、ラデックとリゼルさんの予定調整なんかもある。が、これらは割とスムーズにいった。リゼルさんなんて


「ラデックさんの結婚話というのであれば他の仕事を放っても行きます!」


 とかなんとか。いやいや、あなたは結婚の話もそうだけど特権商人になることも含まれてるでしょうに。


 まぁそんなこんなで、翌3月17日にはクラクフを出立することになった。


 今回エミリア殿下に同道するのは俺、ラデック、リゼルさん、サラ率いる近衛師団第3騎兵連隊第34中隊。そして、サラの法律上の被保護者であるユリアだ。

 しばらく会ってなかったから、ユリアが凄い成長したように見える。内戦始まる前に会っているからほんの数ヶ月の話なのだが、貧民街暮らしの時に比べて食生活が改善したせいか体格もしっかりしてきた。ぽっちゃりではないところを見ると、サラが訓練だか運動だかに付き合ってあげてるんだろうな。


「じゃあマヤさん。後は頼みます」

「あぁ、任せておけ。君が参事官から更迭されるくらいには頑張るよ」

「その時は公爵領で雇ってくれるんでしょうね!?」

「保障はしかねる」


 不安だ。マヤさんもエミリア殿下やラデック程ではないが仕事出来る人だから、本当に参事官職を奪われかねない。


「良い報告を期待して待っているよ。あとイリア殿やヘンリク殿に宜しく言っておいてくれ」

「了解です」


 こうして俺らはクラクフを発った。

 道中は特に何もない。近衛騎兵1個中隊の護衛付きの集団を襲う奴なんて余程のアホか自殺志願者だけだ。むしろエミリア殿下が道中の宿場町を見学をなさるので、その辺の配慮が大変だった。


 まぁ、それ以外は特に何もない旅。

 あえて言うのであれば、ユリアに初めて会ったリゼルさんの反応が面白かったくらいである。


 それは3月17日19時のこと。最初の宿場町であるタシチュフで起きた話だ。


「……」

「……」


 なぜか見つめ合うリゼルさんとユリア。

 いや正確に言えばリゼルさんは目をキラキラさせながらユリアを観察し、ユリアはそんなリゼルさんを気味悪がって後ずさりしている。


 うん。どういう状況。


「ユゼフさん!」

「あ、はい。何でしょう」


 俺の存在に気付いてるくらいは意識があったらしい。ラデック相手にデレデレしてる時みたいに周りが見えない、っていうことはよくある。まるでアイドルにぞっこんするその辺の女子みたいに。


「この子、ください!」

「はい!?」

「ラデックさんと私の子供にします!」

「いやいやいや、あなた既に子供いるでしょう!?」


 ラデックとの愛の結晶があるのにユリアを欲しがる。これはまさか想像妊娠だとか結婚したいがための嘘なのでは……。そういえば昔テレビで「彼との子供が欲しかったけど産めなかったから他人の子供を盗む」っていう事件が紹介されてたな。

 いやまぁ、ラデックが言うには上半身脱がせてお腹が膨らんでいるのは確認したらしいから今回は違うみたいだが。問題はこんな美人を脱がせたことにある。もげろ。ナニとは言わないがもげろ。


「ユゼフさん」

「……なんでしょう」

「子供って、7歳くらいが一番可愛いと思うんです」

「……否定はしませんが」


 確かにまだ純粋な心を持ちつつこっちの話もそれなりに理解できる、小学校低学年くらいの子供というのは可愛いと思うよ。いや別に俺はペドの趣味はないが。


「ユリアちゃん、髪も綺麗ですよね」

「そうですね」


 そう言えばユリアは白髪、リゼルさんはプラチナブロンドの髪だから「姉妹です」と言われたら確かにそう見え……?


「遠く帝国を離れ幾数ヶ月、お兄様やお姉様とも会えず異国の地で1人奮闘する日々……そんな私から、ユリアちゃんを奪うのですか!?」

「奪うも何も、そもそもあなたの子供じゃないです」


 うん、あれだわ。リゼルさんたぶんロリコンだわ。ラデックと同じくらい子供が好きなんだわ。


「ユリアちゃん、私と一緒に帝国に行きませんか? お菓子食べ放題ですよ?」


 リゼルさんの口調が誘拐犯のそれである。警察署から事案発生のメールが来るくらいには怪しい。

 一方のユリアは、当然と言えば当然だがちょっと涙目になりながら首を横にふるふる振って俺の背中に隠れている。ふむ。ユリアは俺相手にこういう事をあまりしないけど、ここはやはり共通の敵がいるからこその行動というわけか。


「ユリアがダメって言ってるので諦めてください」

「いえ、まだユリアちゃんは何も……」

「や!」


 ユリア、渾身の拒絶。こうかはばつぐ……


「ふふふ、では今日は諦めます。でも、いつかきっと……」


 んでもなかった。いまいちだった。そうぶつぶつ言いながら立ち去る姿は、まるで不審者のよう。警備隊に連絡すべきか、ちょっと判断に迷う。


 後日、この一件をラデックに報告したところ、


「あぁ、リゼルは子供好きだからな。まぁ産んだら自分の子供にその愛情注ぐだろうから大丈夫だろう」

「はぁ……」

「どうした?」

「いや、あの異常な愛情を注がれた子供がどうなるか心配で……」

「……グリルパルツァー家には良い近侍もいるから大丈夫だ。そのはずだ」


 ラデックの幸せ家族計画は、どうやら前途多難なようである。




---




 そんなこんながありつつも、王都シロンスクに俺らが到着したのは3月20日11時のことである。

 そして王都に到着した俺らを待っていたのは、ちょっと意外な人間だった。いやもしかしたら心の奥底で予想はしていたかもしれないけど。


「お久しぶり……でもないですね、ユゼフ卿」

「だからそう呼ぶのはやめてくれませんかね、フィーネ少尉」


 どうも最近はフィーネさんが波乱を呼び込むことが多い。今回も荒れそうな気がするのだけど、その予想が外れることを切に願う。いやホントにマジで。

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