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大陸英雄戦記  作者: 悪一
序章
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やりたいこと、成すべきこと(改)


「ヨーロッパ」


 それは、前世世界でのユーラシア大陸西端地域の名称。

 それは、前世世界での歴史の中心地となった地域。


 様々な国が生まれ、栄えて、滅び、また新たな国が生まれた地域。


 父から渡された「地図」はまさに、そのヨーロッパの地図だった。


 俺の記憶――と言っても最低でも10年以上見てないから結構細部があやふやだ――と比べてみても、それは間違いなくヨーロッパだった。


 偶然の一致、とは考えにくい。


 ここはヨーロッパなのか? 俺は生まれ変わってヨーロッパ人になったのか?

 でも、俺はその考えを否定する。


 まずこの世界は現代ではない。電気・ガス・水道と言った類のインフラはないし、衣服や住居と言ったものから察するに中近世、と言ったところだろうか。


 そしてこの世界には、前世世界にはなかったある要素がある。


「ユゼフ! ちょっと手伝ってくれる!?」

「あ、はーい」


 母に呼ばれた。どうせいつもの洗濯の手伝いだろうな。

 あ、そう言えば自己紹介がまだだったな。


 俺の名前はユゼフ。ユゼフ・ワレサ。


 見ての通り、男だ。自分で言うのもなんだけど、まだ十歳だから顔つきは可愛い。

 でもあと数年もするとどうなるか……いや、この話はやめよう。なんか悲しくなってきた。


 家族は両親のみ。農家なのに核家族だ。


「ちょっと待ってね。水出すから」


 そう言いつつ母は、何もない空中から「水を出した」。比喩でもなんでもなく、本当に水を出現させたのである。


 うん、いつ見てもサッパリ原理がわからない。

 まぁ「この世界では前世世界の常識に囚われてはいけないのですね!」ってことだ。


 つまるところ、こいつは魔術とか魔法とか呼ばれるものだ。


 そしてここは創作物お馴染みの中世ヨーロッパ風ファンタジー世界と言うことになる。いやまんまヨーロッパなんだけどね?


 母は魔術の中でも最も簡単な部類である初級魔術を使って洗濯用の水を出した。初級魔術はこの世界の住民であれば誰でも無詠唱でできる。


 俺にだってできたんだ。たぶんお前らもきっとできると思う。

 聞くところによると治癒魔術もあるようだ。どの程度までの怪我や病気を治癒できるかわからないが、もしかすると前世における中世ヨーロッパ以上の人口はあるかもしれない。


「じゃ、ごしごし洗ってね。私は絞って干すから」


 でもいくら魔法が使えると言っても洗濯は昔ながらの石鹸と洗濯板。こ、腰が痛い。乾燥機付き全自動洗濯機の発明はまだか!


 俺は、村の初級学校に通いつつ、我が家の農作業を手伝いつつ、母の家事炊事を手伝っているごく普通の子供だ。

 前世の記憶があることを除いたらね。


「ユゼフ、学校はどう?」

「ふつー」


 特に何もない。この世界「でも」俺は友達がいない。故に話すこともない。

 前世なら架空の友達をでっち上げただろうけど、この小さな農村じゃそれも出来ない。

 あ、石鹸が目に入って涙が……。


「ふーん?」

「な、なにさ……」

「もしかして、好きな子でもできた?」


 どうしてそうなるんですかね。


「ざんねんながらすきなこはおりませぬ」


 その前に友達ください。この際男でも年上でもいい。一方母は、俺のその悲しい状況を知ってか知らずか、そのまま話題を続けた。


「勿体ないわねー。せっかくお父さんからいい顔貰ったんだから、有効に使わなきゃダメよ?」


 そう言う母の顔はなんか活き活きしている。何歳になっても恋バナというのは女性を喜ばせるものらしい。と言っても母はまだ28歳だけど。ちなみに父は35だ。


「まだそういうのはいいかも。面倒そうだから」

「……ねぇ、ユゼフ。あなた誕生日の前と後で人格が変わってるわよ?」

「そんなことないです」


 なんでばれた。しかも「性格」じゃなくて「人格」って言ってるところが怖い。


「昔はもっと活発な子だったのに……お父さんが変な贈り物したせいね」


 母の言うことは半分合ってる。あれがなければたぶん前世のこと思い出さなかった。たぶん。


「ユゼフは、これからどうするつもりなの?」

「どう……とは?」

「今年で初級学校は卒業でしょ? そのあとどうする気なの?」


 初級学校、というのはこの国の子供が最初に通う学校だ。

 通わなくてもいいが、授業料は基本無料なので余程の事情がない限り初級学校には通う。


 習うのは国語・算数・理科・社会・初級魔術その他生活に必要なもの。

 入学は5歳、卒業は10歳だ。幼稚園や保育園なんてシステムはないから前世より入学が早い。


 そして俺は、先月10歳になった。そして初級学校ももうすぐ卒業だ。

 前世の記憶を取り戻す前なら、そのまま家の手伝いを続けて父の跡を継いだのだろうが……。


「うーん、ちょっと悩んでるの」

「あら、そうなの?」

「うん」


 これで前世の俺が農家だったら「前世の農業知識でウハウハ牧場物語」とかいうネット小説みたいなことも出来たんだろうけど、残念ながら前世の俺はただの学生だった。


 だから父には悪いが家は継がない。前世の記憶があるのに田舎で農作業×五〇年とか前世の記憶の無駄遣いだ。


「家を継がなきゃいけない、ってことはないわ。あなたのやりたいことをしなさい、ユゼフ。どんな結論を出そうと、私はあなたを応援するつもり。勿論、悪いことはダメだけど」


 ……やりたいことか。まぁ、あるにはある。

 父からもらった地図と、初級学校で習ったこの国の歴史、そして前世の俺の記憶。


 この3つを持ってる俺しか成せないことをしたい。



 俺が今住んでいるこの国の名前は「シレジア王国」。


 地図で言うとちょうど真ん中、前世で「中欧」と呼ばれた地域。

 具体的に言えば、ポーランドという国があった場所に、俺の第2の故郷がある。



 シレジア王国は、滅亡の危機にある。




      ◇          ◇




「シレジア王国」


 大陸暦452年、世界最大の国家である「東大陸帝国」から独立。

 以後、周辺国との紛争を繰り返しつつ領土を拡大。

 最盛期には東大陸帝国に次ぐ覇権国家となっていた。


 でもその栄光の時代は短かった。


 シレジア王国に危機感を覚えた周辺列強が反シレジア同盟を結び、宣戦布告。

 王国は奮闘するも、衆寡敵せず敗戦。領土の3分の2を失う大敗北。


 それを機に徐々に衰退。


 失った領土と、シレジア人の自由を求めて復讐戦争に挑むものの、やはり叩き潰される。

 さらに領土の半分を喪失。


 衰退に歯止めがかからないシレジア王国は、その後近隣諸国からの度重なる軍事恫喝と侵攻を受けて、領土と経済力をガリガリと削られていった。

 今やシレジア王国は全盛期の7分の1の領土しかなく、独立時と比べても3分の2しかなかった。


 これが、シレジア王国の大雑把な歴史だ。

 大陸全体の歴史は、後の機会に譲ろう。


 前述のとおり、このシレジア王国は前世でポーランドと言う国があったところに位置している。

 そしてそのポーランドと、シレジア王国の境遇が似ているのだ。


 と言っても俺は歴史マニアじゃない。

 たまたま歴史シミュレーションゲームをちょっとプレイしたから知っていただけだ。


 その中じゃ俺、結構この国サックリ滅亡させてたな。餌としか見てなかったし。


 ……前世ポーランドも、かつては巨大な国家だった。

 そしてロシア・プロイセン・オーストリアという中世最強国家たちに囲まれたポーランドは三回の分割の末、地図から消滅した。


 滅亡後、ポーランド人は何度も自由と独立を求めて立ち上がり、そして何度も失敗した。


 その度に激しい弾圧を受けた。


 もしもこのシレジア王国が前世ポーランドと同じだったら、シレジアも滅亡するのではないか。

 いや、既に滅亡しかけている。初級学校でも習うことだ。


 ふむ。


 滅亡するとわかっているのに、ただ指をくわえて見てるのは癪だな。

 それに俺は前世のゲームとマンガその他諸々の知識を持っている。それを使えばなんとかなるんじゃないかな!


「母さん、父さん」

「どうしたのユゼフ?」

「また、具合でも悪いのか?」


 目指せ! 前世の記憶でチート英雄!


「俺、将軍になりたいんだ」


 時に、大陸暦631年9月1日。

 俺は、シレジア王国唯一の「王立士官学校」へ入学した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >電気・ガス・水道と言った類のインフラはない グレタが実現した地球に優しい世界だよ
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