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大陸英雄戦記  作者: 悪一
共和国炎上
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来客者の名は

 10月26日。


 カールスバートの情報を集めつつ執務に専念していた時、エミリア殿下が「そう言えば」と何かを思い出したようだ。


「昨日、オストマルク領事館に新しい館員が着任したようです。その挨拶に、と今日ここに来ると連絡がありました」


 領事館には現在、二等書記官としてジン・ベルクソンがいる。でも元々貧民街出身の平民だということから慣れない事の連続で大変らしい。それを補佐する人の追加派遣ということだろうか。今の現状を考えると情報の専門家あたりの増援が来てくれると嬉しいなって。


「どのような方が来たんです?」

「えー、と。少し待ってください。確か資料が……」


 エミリア殿下は執務机の引き出しをあちこち探している。もしかしてなくしたのか? とも思ったが違った。どうやらマヤさんが持ってたようで、スッと脇から資料を出した。


「ありがとう、マヤ。……っと、オストマルクの士官学校を卒業したばかりの方のようですね。年齢はまだ15です」

「ほう、若いですね」

「えぇ。と言っても私達も似たような年齢ですが」


 ま、確かに。

 いくら15で大人扱いされるこの国でも、まだまだガキんちょであることには違いない。しかも佐官だし。

 だがエミリア殿下はそんなことも気にせず、資料に書いてある情報を読み上げる。ただ読み忘れてるのか、資料に書いてないのかは知らないが名前を言ってくれない。もしかしたら知り合いかもしれないのに、ちょっと気になる。


「オストマルク第一士官学校情報科を首席卒業。その後少尉に任官し、軍の情報部門に入っているそうです」

「15歳で情報科首席ですか。かなりの秀才なんでしょうね」

「そうですね。ついでに美人だそうです」


 いや、なんでそんな主観的な容姿が資料に書いてあるんですかね。おかしくない?


「父親は伯爵で高級官僚、祖父は侯爵で大臣。血筋良し、容姿良し、能力良しの超人ですね」


 …………ん?


「いや、それはエミリア殿下も同じだと思いますよ」


 マヤさんが意固地になって反論した。エミリア殿下もそれに対して、


「あら、マヤもそれは同じだと私は思いますけどね?」


 と反論した。

 確かに王族で16歳大佐の美少女と、公爵令嬢で剣兵科首席卒業の美女って考えてみれば凄い組み合わせた。その点俺は対して美男子でもない農民の子で席次も下から数えた方が早くて……悲しいなぁ。いや、俺はあの両親の子供でよかったとは思ってるから別にいいけど。


 て、今はその話は重要じゃない。

 伯爵の娘で情報科首席卒業の才媛だって? なんだろう、なんかそいつのこと知ってる様な……。

 いや、待て。もしかしたらこれは気のせいだとか気の迷いだとか悪い夢かもしれない。オストマルクには士官学校がいくつかあるだろうから、もしかしたらそっちかもしれないし。

 だからエミリア殿下に名前を教えてもらって、確認をしよう。ちょっと怖いけど。


 俺は意を決してエミリア殿下に尋ね……ることができなかった。

 このタイミングでノックがあったからだ。


「どなたですか?」

「私よ!」


 ……さらに状況を混乱させるような感じの人が来たんですがそれは。

 エミリア殿下の許可を得て入ってきたのは、やっぱりというかサラだった。


「サラさん、お仕事の方は良いのですか?」

「大丈夫よ。今日は休暇だから」

「なるほど。でも休暇と言うのならユリアちゃんに構ってあげた方が良いのでは?」

「いや、今はユリア初級学校に行ってるのよ」

「あ、そうなのですか」


 ユリアは今月から初級学校に通っている。でも入学が1ヶ月遅くなってしまったし、ユリア自体は年齢不詳、しかもコミュニケーション能力不足っぽいところもあるから少し心配だ。いじめられてないかな。もしいじめられてたら教育予算減らして校長らに圧力をかけてやろうか。いや、そんなことしないし権限もないけどさ。


「それで暇だからエミリアたちに会おうかと思って」

「……いや、俺らは暇じゃないんだけど」

「なによ。私に会うのが嫌なの?」


 来客がある、ということがなければ嫌じゃなかったけどね。

 あ、そうだ。せっかく近衛騎兵連隊の幹部であるサラが来たんだから手伝ってもらおう。確かクラクフ駐屯地に一時的に駐留する近衛騎兵に関する案件がいくつかあった。まだ余裕はあるけど、それを手伝ってもらおうかな。


「サラ、今暇?」

「さっきも言ったけど暇よ。何?」

「ちょっとこれなんだけどね……」


 そう言って彼女に仕事を手伝ってもらった。休暇中なのに仕事をするなんて、と怒られるかと思ったがそんなことはなく、むしろ喜々として協力しているようだ。サラさんってば意外とワーカーホリックなんやな。あとちょっと離れてくれますかね、仕事しにくいです。


「あ、そうだサラ。連隊の連中に『いつでも出撃ができるように準備しておいて』と言ってくれないかな?」

「それは、『出撃待機命令』ってこと?」

「いや、そこまで大袈裟な事じゃないよ。敢えて言うなら『出撃待機命令待機』ってところかな」


 カールスバートの内戦がどう転ぶかわからない以上、一応動かせそうな部隊をすぐに動けるようにしておかないとな。もしかしたら内戦の危機を避けたい国粋派が2回目のシレジア侵攻を企図する可能性だったあるんだ。


「わかったわ。注意喚起くらいにしておけばいいかしら」

「ありがとう」


 そして俺とサラさんがそんな会話をしていたのをエミリア殿下は聞いていたようで、


「ならば公爵軍にも注意喚起した方が良いかもしれませんね。もしかすれば難民がどっと流入してくる可能性もありますから」


 との発言があった。軍事査閲官として、公爵領を守るために公爵軍を動かすと言うのであればだれも文句言わないだろう。


「そうですね。それが良いと思います。明日にでも公爵軍の部隊長に伝えておきましょう」



 こうして、何事もなく事務をこなしていった。そして14時30分に従卒のサヴィツキくんが来るまで、例の「来客者」のことを忘れてしまっていた。

次回予告(CV.銀河○丈)


食う者と食われる者

そのお零れを狙う国

剣を持たぬ者は生きてゆかれぬ暴力の大陸

あらゆる情報が交錯する街

そこは統一戦争が産み落とした、ソコロフの市

ユゼフの躰に染みついた奇特な臭いに惹かれて

危険な彼女らが集まってくる。


次回「出会い」


ユゼフが飲むクラクフのコーヒーは、苦い。



※番組は予告なく変更する可能性があります

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