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大陸英雄戦記  作者: 悪一
クラクフ
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家族もどき

 8月10日。


「……えーっと、貰ってもいいんですかね」

「貰ってください。でないと困ります」


 エミリア殿下からコーヒーカップを下賜された。オストマルクでの功績、ということらしいが、なぜか殿下とマヤさんとお揃いのコーヒーカップである。

 どういうことや、なにがあったんや。


「その点に関しては余り深く追及しないでくれると嬉しいです……」


 殿下の台詞は先細りになっていた。

 うん。殿下の面子のために聞かないでおこう。なんか怖いし。


「と、とりあえずサヴィツキ上等兵にコーヒーを入れさせましょうか」

「そうですね」


 というわけでしばしコーヒーブレイク。ここ最近俺にしては頑張って仕事してるし、それに殿下がくれたカップを使ってると考えるといつも以上に美味しく感じる。サヴィツキくんの入れ方が上手っていうのもあるけどね。


 ちなみに俺はコーヒーには砂糖を入れずにミルクだけ入れる派。エミリア殿下は逆で、ミルクを入れずに砂糖だけ入れる派。そしてマヤさんはブラック派だった。マヤさんってば漢だね!

 でもこの2人はどちらかと言うと紅茶派で、いつも小休憩するときは紅茶を飲んでいる。


「ところでユゼフさん」

「はい? なんでしょうか」

「ユリアちゃんはどうしてますか?」

「いえ、どうもしてませんよ。法律上の保護者はサラですから、私がどうこうするのも変ではないですかね」

「でも最近、サラさんは忙しいみたいですし、誰かが構ってあげねばならないでしょう」


 むー。確かにな。拾ったのに捨て置いてる状態がここ数日続いている。サラは昇進が異常に早かった弊害か、休日返上の日々らしいし。


「それに、どうもユリアちゃんは官舎に引き篭りがちみたいですし、少しは外に出させてあげるべきでしょう」

「そうなんですか……」


 それはまずいな。引き籠りニートネットゲーマーユリアになられても困る。そしてFXだの株取引だのでガッツリ稼いで家の中だけで生活が完結したと思ったら全身熊装備でゲーム世界に飛ばされてしまうかもしれない!

 よし、仕方ない。名付け親の責任ってことで俺が構ってやろう。


 と言うわけで俺はちゃっちゃか仕事を終わらせる。次席補佐官時代の反省で仕事を終わらせてからプライベートの事をしないと昇進に響くってわかったからね。



 翌8月11日。


 エミリア殿下から下賜された休日を利用して、ユリアの下に向かう。マヤさん曰く、今はサラと一緒に官舎に住んでおり、サラが忙しい日はマヤさんの実家、つまりあの馬鹿でかいクラクフスキ公爵邸に預けてるのだそうだ。

 というわけで俺はサラとユリアの愛の巣に向かって歩く。地図を読むのは苦手だが、比較的区画整理がなされているため10分迷っただけで目的の場所に到達した。

 ……ここか。随分立派な建物に見える。佐官級になるとこれが普通なのか、それとも近衛師団の幹部ともなるとこうなるのかはわからん。とにかく2人暮らしには困らないだろうな。


 とりあえず呼び鈴を鳴らす。


 あれ? そう言えばサラって忙しいんだっけ? だったら官舎じゃなくて公爵邸に行けば会えるじゃん。まさか6歳の子供を官舎に置いてけぼりってのはまずいだろうし。

 と、その時に扉が開いた。出てきたのは、当たり前と言えば当たり前だがサラだ。サラが官舎にいるなら俺がここに来た意味ないような気がするんだけど。

 いや待てでもその前に言いたいことがある。


「……」

「…………」


 問題は、なぜかサラさんが家に居る時の葛城ミ○トさんの格好よりはちょっとマシ、って感じの格好をしていたってことだ。

 いや、あの、その格好で家をうろつくならまだしも、ドアを開けるのはやめた方が良いと思うよ。うん、刺激が強すぎるから。


「……っ!」


 ようやく自分の状況を理解できたらしいサラの顔が見る見るうちに赤く染めあがり、そして躊躇なく俺の鳩尾に一発拳を入れた。胃が飛び出してきそうな猛烈な痛みが俺を襲う。俺が朝は食べない派で良かった……。

 俺は慌てて閉まる扉を横目に、しばらく官舎の前で二度寝することにした。ぐふっ。





 それからどれ程の時間が経ったか知らないが、気付けば俺は知らない天井を眺めていた。

 周囲の情景と二度寝前の状況から察するに、ここは官舎の中だろう。流石のサラも俺をあの場に放置することはまずいと思ったのだろうか。


「あ、起きた?」


 と天井をボーっと眺めていたところでサラが視界に割り込んできた。表情を察するに、心配も反省もしてないようだ。少しはして欲しいもんだが。


「気分はどう?」

「悪くはない。枕が少し固い以外はね」


 なんだかこの枕はゴツゴツしてるし少し背が高いし形が変だし。もうちょっといい枕を買った方が良いんじゃないかな。

 が、それを聞いたサラは拳を俺の眉間に割と強い力でゴリゴリとやった。やめて地味に痛いんだけど。


「悪かったわね、筋骨隆々の足で」

「……えっ?」


 むくり。

 振り返って、今まで使っていた枕を確認。


 ……まぁ、うん、予想してたけど。

 膝枕ですね。


 …………。


「よし、二度寝しよう」

「ダメに決まってるでしょ!」


 あぁ、2度目の人生にして初めての女の子の膝枕が拳に変わってしまった……。もうちょっと楽しめばよかった。

 よく観察するとサラの服装が変わっていた。気絶する前は結構露出が多かったけど、今は落ち着いた格好だ。ちょっと彼女の雰囲気に合ってない感じだけど、まぁさっきのよりは良い。


「って、なんで膝枕したの」

「つい」


 つい、って犯罪者みたいな言い方するな。


「ユゼフだって前やってたじゃない」

「やってたっけ……?」

「私は記憶ないんだけど……ほら、マヤの家で飲んでた時に」

「あー……サラが泣き喚いて泣き寝入りした時ね」

「ちょっと待ってなにそれ」


 ふむ。本当に記憶がないらしい。

 教えてやってもいいけど、そうすると面白いものが見れないような気がするので適当に誤魔化して黙っておこう。そして今度サラの家来るときは酒でも持って来るかな。


 って、俺何しに官舎に来たんだっけ。

 えーっと、確かエミリア殿下が……っと、そうだった。ユリアだ。


「あれ? ユリアは?」

「……あ、そう言えばいないわね。いつもは私の近くに居るんだけど。ちょっと探してくるわ」


 ……うん、もしかして俺ユリアに嫌われてるのかな。名付け親なのに。でも名付けした時はちょっと目が輝いてたのに。「名前は気に入ったけどお前のことは気に入らねェ!」ってことだろうか。悲しい。

 にしてもいつも一緒なのか。本当に親子みたいに……いやこれ言うとまたサラに殴られるから、歳の離れた姉妹くらいにしておくか。でも方や赤髪の暴力女子、方や白髪の無言ロリ。うん。全然似てないな。


 そして数分後、サラはユリアと仲睦まじく手を繋いで部屋にやってきた。

 で、ユリアは俺の存在を確認した途端サラの後ろに隠れてしまった。そろそろ泣いていいかしら。


「ねぇ、やっぱりあんた私の知らないところでユリアに変な事したでしょ?」

「……してない、はず」


 ちょっと自信がなくなってきた。

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