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大陸英雄戦記  作者: 悪一
春の目覚め
130/496

帝国内務省高等警察局

 4月20日。


 クロスノ総督に挨拶した後、今回の調査隊の人にも挨拶。

 調査隊長のエドムント・フォン・ジェンドリン男爵なんて名前聞いたことなかったけど、見覚えはあった。フィーネさんの護衛対象だ。今まで忘れてたけどフィーネさん14歳で士官候補生で正式な身分は男爵の護衛官でしたね。普通にエージェントかと思ってたわ。


「調査は主に我々がやることになるが、軍事的な見解やシレジアの事を知りたい時は君のことを呼ぶことになるからよろしく頼むよ。クロスノの案内はリンツ士官候補生に頼ると良い」


 との男爵からのお言葉。意訳すると「今の所お前の席ねーから!」だろうか。

 まぁいいや。とりあえず総督府襲って逮捕された男に面会したい……と言うことを男爵に伝えると、彼は副官に持たせていたらしい文書を1枚俺にくれた。


「それは外務大臣政務官リンツ伯爵が一筆書いたものだ。存分に使ってほしい」

「……ありがとうございます」


 ……あの、これ、本当に貰っていいんですかね。「調査許可令状」って書いてあるんだけど。あとリンツ伯爵だけじゃなくて外務大臣と司法大臣の連名なんだけどなにこれ怖い。


 男爵の説明によれば、この令状があれば一定期間、一定の地域で外国人である俺にも捜査権を行使できるそうで、治安当局との協力を促すことができるらしい。ただしこの令状を行使する際はオストマルク帝国の臣民にして一定以上の階級にある武官もしくは文官の同伴が必要、とのことで。


 助けてー、フィネえもーん。


「問題起こさないでくださいね、大尉」

「わかってますよ」


 ともあれ、これで少しは楽に調査ができる。HAHAHAHA、楽勝だぜ。





 そう思ってた時期が私にもありました。若さ故の過ちと言う奴である。


 内務省高等警察局クロスノ支部は、クロスノ警備隊駐屯地の一画にある。駐屯地は軍の所轄なのに、高等警察局の一画だけ異様な雰囲気を醸し出している。警備隊員曰く、治外法権のようなものがあるらしい。


 その高等警察局の入り口で立っている厳つい顔の鬼いさんに、例の令状を見せてジン・ベルクソンなる後先考えない民族主義者、もとい犯罪者との面会を求めたのだが、


「ダメだ」

「いえ、ここに令状が……」

「それは外務省が発行したものだろう。我々は内務省の命によって動いている。だから会わせるわけにはいかない」


 どうやらどこの世界でも役所という組織は縦割りと縄張り意識の塊で構成されているらしい。


「しかし司法大臣の許可はあります。帝国訴訟法第26条によれば司法大臣の許可があれば拘留されている者がどんな人物であっても面会が許されるはずです」

「その法律は知っている。だが事、国事犯である場合には内務省の調査が優先される。これは帝国刑事法第11条第2項に規定されている」


 先ほどからフィーネさんと内務省高等警察局員と思われる男の問答が続いている。帝国法だの裁判所だの大臣がどうの権限がどうの言っているが、ぶっちゃけ何言ってるんだコイツ程度にしか思えない。

 でも俺が口出ししたらたぶんもっと大変なことになる。俺はベルクソンと同じシレジア人。しかも内務省が便乗参戦論者を煽ってシレジア参戦を狙っているのだから尚更だ。


「フィーネさん。これ以上押し問答しても時間の無駄でしょう。一度ここは退きましょう」


 名将は引き際を心得る。至言だと思うわ。


「……わかりました。今は(・・)潔く転進するとしましょう」


 いや、そんな「今は」の部分強調しなくてもわかってますって。別にフィーネさんが負けたわけでもないし、縦割り意識高い官僚の言動にイラッと来てることはもう十分に分かってますから。


 そんなこんなで駐屯地からの一時撤退を完了したが……果てさて、どうすべきかな。残念ながら帝国内務省に知り合いはいないし、今からコネを作る時間的余裕もない。


「大尉、どうしますか?」

「んー、ベルクソン氏のことは一度諦めて、別の視点から調査することにしましょう」

「はぁ……。しかし具体的にどうやって?」

「捜査の基本は足って言いますでしょ? ベルクソン以外のシレジア人が、今回の戦争どう思ってるか聞いて回りましょう」


 と言う訳で、一行――と言っても2人しかいないけど――はクロスノの中心市街地に行くことにした。




---




「誰か来たのか?」


 高等警察局の入り口で若い男女が一通りの押し問答をした後、1人の男が奥から現れた。表情は趣味の悪い画家が描いたような無表情な顔をしており、且つその顔の筋肉はピクリとも動かない。まさに鉄仮面と形容すべく男だった。

 鉄仮面の男は、入り口の男に対して、唇だけ動かして事情を聴いた。


「はい。外務省の調査隊の隊員と思われる男女が、『ベルクソンに会わせろ』と言ってまいりました」

「ほう。それでどうしたのだ?」

「外務大臣と司法大臣の判が押された令状をちらつかせていましたが、帝国警察法第11条2項のことを伝えると大人しく引き下がりました」

「上出来だ。引き続き頼むよ」


 口調は満足気だったが、表情は変わらない。瞬きひとつせず、男はそのまま奥へ引き下がった。

 

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