第二の誕生日(改)
話をしよう。
あれは今から……何年前だっけ? まぁいいや。
あの日は俺の10歳の誕生日だった。農家を営む俺の父はこう言った。
「息子よ。この世界で成り上がるには教養が必要だ。その手始めとして、お前にこれをやる」
父の農夫らしいごつい手から受け取ったのは地図だった。ごく普通の地図。
もっと具体的に言えば「自分の国と近隣諸国の位置関係や地形がわかる地図」だ。
誕生日プレゼントが勉強道具なんて、ハッキリ言って嬉しくもなんともない。父のセンスを疑う。
ちなみに母からは何ももらえなかった。チッ。まぁ仕方ないか。裕福な家ではないしな。
でも当時の俺はまだ純情で純粋な子供だった。だから「こんなの欲しかったんだー!」と心から喜んでいたのも確かだ。
その時だった。強烈な既視感に襲われたのは。
知ってる。俺はこの地図……いや違う、この世界を知っている。
途端、体に異常が起きた。
最初は単なる眩暈。次に嘔吐、悪寒、そして四肢の痙攣。
まるでインフルエンザの症状が一気に来たかのようだ。
……インフルエンザ? なんだそれ?
聞いたことない病気だ。この世界では。
気付けば俺はその場でぶっ倒れた。両親が慌てて俺に駆け寄り、そして抱きかかえてきた。
薄れゆく意識の中で、俺は思った。
よかった。生まれて初めて貰った誕生日プレゼントが、ゲロまみれになってなくって。
その後俺は三日三晩、生死の境を彷徨った。
その「地図」は前世世界で「ヨーロッパ」と呼ばれていた地域の地図だった。