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最終話

 ボスの黒ローブに包まれた体が光の粒となって砕け散り、俺の眼前には、いつもの『Congratulations!』の文字。


 そしてレベルアップ!

 よーし、これで大台に乗ったぞ。

 犠牲になった美鈴たちには悪いが、一時とはいえ俺に喧嘩を売った、その代償だとでも思ってもらおう……くっくっく、俺もなかなか悪よのぅ。


 そして、そのボスエリアの奥の壁に、1つの扉が出現する。

 第19階層への、階層階段へと続く扉だ。

 今、俺は美鈴たちとパーティ登録をしているから、俺が階層階段を下れば、美鈴たちの最深階層も更新されることになる。


 俺がその扉に向かおうとすると、背後から叫び声が飛んできた。


「ふざけんな、このチート野郎!」


 タクヤだ。

 端正な『整形済み』の顔が、醜く歪んでいる。


「だから、不正チートなんてしてないって」


「嘘つくんじゃねぇ! 《旋風脚》で雑魚を瞬殺? 8連《パワーチャージ》からの《ガトリングジャブ》でボスを瞬殺? ──ふざけんな! この階は、んなちょろいもんじゃねぇんだよ! 不正チートじゃねぇってんなら、どうやったか説明してもらおうじゃねぇか。種族特効をどう組み合わせたって、そんな火力を出せるわけがねぇ!」


 タクヤは激昂し、喚きたてる。

 いや、説明しろと言われても、わりと普通のことしかしてないんだが……


「種族特効は《トリプル》のアンデッド特効のまま。人間特効は持ってないよ。──んー、強いて言うなら、あんたよりもちょっと、レベルが高いってだけじゃないか?」


 俺がそう言うと、タクヤは鼻で笑う。


「はっ、レベルだと!? ちょっとやそっとレベルが高い程度で、そんな大差が付くかよ。レベルなら、俺だって288レベルある。てめぇが300レベル……いや、仮に350レベルあったって、そんなことができるわけがねぇ!」


 ……ん?


 288レベル?

 マジで?


「お前……288レベルって、それ……マジで言ってるのか?」


 いや、確かに美鈴たちのレベルも250とか260とかだったんで、こいつらよくこんなレベルで頑張ってるなぁと感心してたんだが……


「……あん? 何だよ、まさかレベルがどうとか難癖つけといて、テメェの方がレベル低かったとか言うんじゃねぇだろうな」


 タクヤが逆方向に勘違いする。

 いやいやいや、何を言っているか分からない。


「えっと、俺……600レベル」






「……は?」


 タクヤが、何言ってんだこいつという顔で俺のほうを見てくる。


「いや、だから……俺、今のボス戦で、599レベルから600レベルにアップしたとこ」


 俺があらためて事実を説明すると、タクヤが唖然とした顔で固まった。

 そして、


「──ふざっけんなぁぁぁあああああ!」


 タクヤの絶叫が、神殿内に響き渡った。




 事が終わり、俺を含めた美鈴隊とタクヤのパーティは、中央広場で落ち合った。

 ちなみに、タクヤたちはあの後ボスに挑んだが、敗北したらしい。


 タクヤは歯を食いしばり、拳を握りしめ、散々葛藤した後に──しかし約束を守り、美鈴に頭を下げた。


「……悪かった、ミスズ。もうお前には、メス犬だなんて言わねぇ」


 わざわざ『お前には』と言って、自分のスタンスそのものを変えるわけではないことを示すあたりタクヤらしいが、約束は守ったんだから、どうこう言う筋合いじゃないな。


「それからテメェもな、不死の龍(イモータルドラゴン)


 さらにタクヤは、俺に向かう。


「嘘は付いちゃいなかったし、レベルを加味した戦術は筋が通ってた。単なるレベル押しでもねぇ。──認めてやるよ、今のナンバーワンはテメェだ」


 タクヤはそう言って、さらに「ま、すぐに俺にぶち抜かれる運命だがな」と不敵な笑みを浮かべた。

 こいつ、こういう表情すると似合うよなぁ。


 そう言えば、タクヤといえば、ひとつ思い出したことがある。


「タクヤって名前、どこかで見たことあると思ってたんだけどさ……あれだろ、いつもエネミー情報サイトの情報掲示板に、最深階層のエネミー情報を投稿してくれてんの、お前だろ?」


「……まぁな」


「あれほんと助かるわ。感謝してる。あの情報がなかったら、初見でボスには勝てなかったしな」


 俺がそう言うと、タクヤは照れくさいのか、そっぽを向いて、


「はっ。誰も追いついて来れねぇと、張り合いがねぇからな。雑魚どもには塩送ってやらねぇと」


 などと言い捨てたのだった。




 タクヤたちが時間切れでログアウトして行った後。

 美鈴は、親衛隊員ファンクラブメンバーに少しだけ別行動をすると伝え、俺の手を引っ張って露店通りの方へと向かって行った。

 どこへ行くのかと聞いても、「いいからついてきて」の一点張り。


 レベル上げは1日にして成らずなのだから、勝負も終わった以上、あまり無駄な時間は使いたくないんだが……。


 美鈴は俺の手を引っ張って、今度は路地裏へと入り込んだ。

 そして完全に人気のないあたりまで来たと思うと、俺の手を放し、1人、深呼吸。


 そうしてから、美鈴はカチャカチャとパラディンの鎧を脱ぎ始めた。


「え……あの、美鈴さん……?」


「アバターので勘弁して頂戴。スキャンしたまんまだから、基本的には、本物と変わらないはずよ」


 美鈴は顔を真っ赤にして、俺と目を合わせないようにしながら鎧を脱ぎ去り、ついにはその下の衣服までをも脱ぎ始める。


 えっ……?

 それは、今ここで、あの勝負の報酬を支払ってくれるっていうことなの……?


 いやでも、こんなことでゲーム内時間を潰していたら、レベル上げが……。

 でもでも、レベル上げなんかより今は美鈴さんのお体の方が大事……いやでもレベル上げも……お体……レベル上げ……お体……。


 そうしている間にも、美鈴の脱衣は進んでゆく。

 バンザイしてシャツを脱ぎ、恥じらいながらスカートのホックに手をかけ……


「──ふおおおおおおおっ!」


 そこが俺の限界だった。

 思考がオーバーヒートし、興奮で頭が爆発したようになった俺は、そのままフラフラと倒れそうになる。


「えっ……ちょっと、龍一?」


 下着姿になった美鈴が、慌てて俺に駆け寄ってくる。

 下着の色は……黒……勝負下着……。


「ちょっと、大丈夫、龍い──きゃあっ!?」


 フラフラとした俺は、駆け寄ってきた美鈴を巻き込んで倒れてしまう。

 仰向けに倒れた美鈴の上に、のしかかるようになってしまう俺。


「りゅ、龍一……何やってるの、どいて……」


 俺の下で身をよじる美鈴──。




 と、そのとき、1人の女性が、その場を通りかかった。


「あ~、あかんよ~、そういうんは。18禁のゲームとちゃうよ~」


 たまたま通りかかったユズ姉だった。

 唖然とする美鈴、その上でピヨピヨ状態の俺。


「い、いや……違うんです、これは……」


 言い訳しようとする美鈴だが、何も言葉は出てこない。


 俺と美鈴はその後、ネットゲームをする際のマナーについて、ユズ姉からやんわりとこっぴどくお叱りを受けたのだった。




 翌朝の登校路。

 いつも通りに奏多が、「リューく~ん」と言って後ろから追いかけてくる。


「おはよ、リューくん。昨日どうだった?」


 奏多が聞いてくる。

 「どうだった?」とは、もちろん『FLO』のことだろう。

 俺は昨日の段階で、その日のログインでボスに挑む予定であることを、何となく奏多に話していたのだ。


「まあ、色々あったけどな。とりあえず俺たちがストリップショーをする必要はなくなった」


「ホント? じゃあ、勝ったの?」


「ボスには勝った。美鈴たちと一緒に戦って、だけどな」


「……あれ? 美鈴ちゃんたちと一緒にって、おかしくない?」


「……色々あったんだよ」


「ぷー。何それ、秘密みたいにして~!」


「だって説明するのめんどくさいんだよ……」


 そんな風にして奏多と歩いていると、行く手の道路の横合いから、美鈴が歩み出てきた。

 美鈴はこちらを見つけると、ボンッと顔を赤くする。


「よ、よう、美鈴」


 俺が軽く挨拶すると、美鈴は猛然と接近してきて俺の手を取り、奏多から離れるように一緒に道の脇に逃げる。

 そして、真っ赤な顔のまま、こそこそと俺に耳打ちしてくる。


(昨日のことは……その、内緒よ。誰にも喋っちゃダメよ)


(あ、ああ。でも、どうするんだ? お前、奏多の前でも脱ぐって言っちまってるだろ)


(そこは……あなたが何とかしなさいよ!)


(うぇぇええええっ! 俺かよ! そもそもお前が悪いんだろ!)


 そんな内緒話をする俺たちに対して、奏多は不満そうに言う。


「ぷー! 何の話してるのー!」


「あ、いや、なんだ……こっちの話。ああ、そう、『FLO』の話だ」


「え、ええ、そうね。『FLO』の話ね。奏多さんには関係ないことよ」


 俺と美鈴がそう口裏を合わせるが、どうやら逆効果のようで。


「むーっ、ずーるーいーっ! この間から美鈴ちゃん、リューくんとどんどん仲良くなっていくし──あーもう、私も『FLO』やる~!」


 そうしてご近所迷惑に響く、奏多の声。


 ──どうやら今日も俺たちは、平和な学校生活を送れそうだった。


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