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第3話

 これは、後日に美鈴から見せてもらった、美鈴たちのパーティによる第18階層攻略のプレイ内容だ。

 美鈴は、攻略の糸口になるかもしれないと、プレイ内容はいつも録画しているんだそうだ。


 美鈴たちのパーティは4人。

 構成員は美鈴と、美鈴を慕う3人の親衛隊員ファンクラブメンバーだ。

 ちなみに元々はもう1人いたのだが、第14階層の攻略の段階で心が折れて離脱したらしい。


 1人目。

 美鈴。パラディン、263レベル。

 パラディンは防御力に優れた重装甲タイプのクラスで、攻撃力はあまり高い方ではなく敏捷性も低いが、アンデッドに特効効果のある剣スキルを持ち、多少の回復魔法も使える多芸型のクラスだ。


 2人目。

 美鈴ファンクラブ隊員1号。ソーサラー、252レベル。

 ソーサラーは後衛魔法火力クラスの1つで、敵にバッドステータスを付与するスキルもそこそこ得意とする。


 3人目。

 美鈴ファンクラブ隊員2号。レンジャー、253レベル。

 レンジャーは弓使いとしては攻撃力が低めだが、敏捷性が高めな上、多少の回復魔法やバッドステータス付与の魔法が使えるクラスである。


 4人目。

 美鈴ファンクラブ隊員3号。ウォーリア、249レベル。

 ウォーリアは攻撃力特化の斧使いクラスで、スキルも手数より、1撃の威力を重視したものが多い。


 美鈴たちが第18階層の探索を初めて、最初に出会ったエネミーは、武装した骸骨スケルトンの群れだった。


 4本の腕を持ち、うち1つの腕に盾を、残りの3つの腕にそれぞれ剣、斧、槍を持った『アシュラスケルトン』が4体。

 同じく4本の腕を持ち、その4本の腕すべてを使って大型の剛弓を扱う『スケルトン・グレートアーチャー』が2体。

 その合計6体が、美鈴たちのパーティに向かって襲い掛かってきたのだ。


 ちなみにフィールドの背景は墓地で、茶色い土の地面に、ところどころニョキニョキと墓石が生えていたり、枯れた木が生えていたりする感じだ。


「いつも通りの戦法! 初見だからって、簡単に死んだらリアルで蹴るわよ!」


 美鈴の号令で、パーティは各々に動き始める。

 そして美鈴自身は、重甲冑をカチャカチャと鳴らしながら、スケルトンの群れに突進してゆく。

 敵側からは、3体のアシュラスケルトンが美鈴の方に向かってくる。


 と、その美鈴に向かって、正面から1本の矢が、浅い放物線を描いて高速で飛来した。

 美鈴の、パラディンの敏捷性で避けられる速度ではない。


「くっ……!」


 美鈴は大盾を前にかざして、その矢をブロックする。

 物理攻撃は、盾でのブロックに成功すれば、盾の防御力分だけダメージを軽減できる。

 パラディンの防御力なら、射撃程度の威力の攻撃は、盾でブロックできれば弾ける──というのが普通の話だ。


「あぐっ……!」


 しかし、その矢は美鈴がかざした大盾をぶち抜き、さらに甲冑をも貫いて、美鈴の腹部に突き刺さった。

 美鈴のHPゲージが2割ほどもぎ取られ、美鈴の腹部に突き刺さった矢のグラフィックが砕け散って、貫かれた盾と甲冑のグラフィックが復元される。


「ふざけっ……何よこれ! こんなの射撃攻撃の威力じゃ──」


 そう言っているうちに、もう1体のスケルトン・グレートアーチャーが放った矢が美鈴の顔の横を通過し、背後から悲鳴が上がった。

 パーティメンバーの状態を示すアイコンを見ると、ソーサラーのHPの7割が、たったの1発で失われていた。


「ありえない……! ──《ヒール》っ、任せる!」


「美鈴さんは!」


 パーティメンバーの誰かが叫んでくる。


「私はパラディン──壁役でしょうが!」


 美鈴はもう眼前まで迫ったアシュラスケルトンの群れに、左手の大盾をかざして突進してゆく。

 一方の右手の剣には、スキルエフェクトの光が宿る。


「受けなさい──《ホーリースラッシュ》!」


 美鈴は接敵と同時に、右手の剣を振り上げ、袈裟掛けにした。

 その攻撃は、白い三日月状の残光とともに、1体のアシュラスケルトンを捉える。

 アシュラスケルトンの盾によるブロックは間に合わない。クリーンヒットだ。


 だが──


「な、何で……確かに、入ったのに……」


 美鈴の驚愕の声。


 弱点であるはずの神聖属性の攻撃がクリーンヒットしたアシュラスケルトンは、しかし、そのHPゲージをほんのわずかしか減らされていなかった。

 比率にして、5%ほどか。


 そして、その攻撃のモーションで体勢が崩れた美鈴に、3体のアシュラスケルトンが一斉に襲い掛かった。


「くぅっ……!」


 美鈴は、回避はもちろん、盾によるブロックもままならない。

 3本の剣と3本の斧と3本の槍が、雨のように美鈴の体を捉えてゆく。


 そして驚くべきことは、その1撃1撃が、パラディンの防御力をモノともせずに、深々と美鈴の体に突き刺さったことだ。


「そん、な……こんなの、ありえな……」


 全身を9本の武器に貫かれた美鈴のHPゲージは、あっという間に擦り切れ、画面は赤く濁ったのとほぼ同時に、ブラックアウト。

 『Now Loading』の文字が表示され、数秒の後、美鈴は始まりの街の中央広場に立っていた……。




 時間は戻って現在。

 場所は、始まりの街の中央広場。


「《トリプル》のアンデッド特効……? まさかぁ。それを作るのにいくらかかると……」


「私が嘘をついているっていうの?」


「いや、そういうわけじゃ……」


 自身のパーティメンバーと合流した美鈴は、仲間とそんなことを話していた。

 すると、メンバーの1人、インテリ風の眼鏡をかけたウォーリアが、会話に入り込む。


「ふっ……1人でクリアするなどと豪語するから、何か考えがあるのかと思えば──『トリプル(そんなもの)』が切り札ですか」


 筋肉ムキムキ、背丈も2m近い巨漢が、指先で眼鏡をくいと直しながら言う。


 ……あ、こいつ確か、リアルではめっちゃ痩せてて、背も低かったやつだ。

 確か、ちょうど半年前ぐらいに転校して来て、美鈴ファンクラブに入ったんだったか……。

 今ここにいるってことは、元々、前の学校でも『FLO』やってたんだろうな。


 にしても、アバターはそのムキムキの体格のままインテリ風の眼鏡だけがリアルそのまま残っているから、すげぇ違和感があるな。

 なぜ眼鏡を残した。


 その眼鏡ウォーリアは、眼鏡をいちいち直しながら、話を続ける。


「大方、複数アカウントで稼いでいるんでしょうが……そんなもの1つでクリアできるほど、第18階層は甘くはないのですよ。──ま、豪語されてしまった以上は、お手並みは拝見させていただきますがね……くくく」


 別に複数アカウントとか持ってないし、それは切り札っていうか要素の1つでしかないんだが……。

 言ってもめんどくさそうなので、とりあえず放置しよう。


 そして、俺を含めた総勢5人のプレイヤーは、転移ゲートを通って、第18階層へと向かう。




 第18階層。

 地平線まで延々と続くのではないかと思わせる広大な墓地が、峻険な岩山や密集した木々でところどころ行く手を阻まれることにより、やんわりと進行ルートを形成している。


 その茶灰色の大地を踏み歩いていると、美鈴が後ろから小走りで、カチャカチャと鎧を慣らしつつ近寄ってきた。


「あんまり近くにいると、美鈴までターゲットされるだろ」


「最初の遭遇ポイントまで、もう少しあるわ。……それより龍一、いったいどうするつもりなのかしら?」


「どうするって?」


「本当に1人でどうにかできるつもりなの? ……私も少し大人げなかったわ。今ならまだ、条件付きで許してあげても、いいかなって思えるわ」


 ……はぁ?

 今更なんだそりゃ。


「条件付き?」


「え、ええ。龍一が今後、うちのパーティに入って攻略に手を貸してくれるなら、今回のことはなかったことにしてあげてもいいわ」


 美鈴が、何やらそわそわしながら言ってくる。

 何その謎の条件……。


 だけど俺は、


「その条件は呑めないな」


 その美鈴の提案を断った。


 だって、それでまた攻略組に巻き込まれたら、この第18階層に篭ってのウハウハレベルアップ計画が、実行できなくなってしまう。

 いや、もしかすると今後また、攻略組に混ざった方が稼ぎの効率が良くなるのかもしれないが──少なくとも現段階で確約できる内容じゃない。


「どうしてよ……そんなに私と一緒に遊ぶのが嫌なの……?」


 美鈴が、奥歯をぎりと噛みしめる。

 な、何なんだ……美鈴さん、情緒不安定?


「──はんっ、いいわ。だったらもう容赦はしないから。奏多さんともども、脱いでもらうわよ」


 美鈴が、今度は校門前でしていたような獰猛な笑みを浮かべる。

 しかしパラディンの身なりでその顔すると、すげぇいいキャラに見えるわ。

 それに──


「そっちこそ、約束忘れんなよ」


 俺はそう返してやる。


 それにしても……ごくり。

 合法的にこのスーパー美少女・美鈴さんの裸体を拝めるとか、俺は実はとんでもない約束をしてしまったんじゃなかろうか……。


「何よ、勝算があるつもりなの? 確かに《トリプル》のアンデッド特効には驚いたけど、それだけでどうこうなるものじゃないわ。だいたい、この後に遭遇するエネミーの数は6体よ? 1人でどうするつもりなのかしら」


 美鈴がごく自然な疑問をぶつけてくる。


 そうなんだよなー。

 まあ、火力的にちょっと怪しい部分はあるんだが……


「とりあえずは、《旋風脚》を試すかな」


 俺はそう答える。

 すると、いつから話を聞いていたのか、後ろから筋肉眼鏡くんが話に割り込んできた。


「──はっ、《旋風脚》ですか。上層のぬるい環境しか知らないプレイヤーはこれだから」


 やれやれと肩を竦めながら、眼鏡くんは語り始める。


「《旋風脚》というスキルは、上層では確かに猛威を振るいました。自分の周囲を対象に、旋回しながら連続して蹴りつける。フルで命中すれば周囲の敵すべてに4回ずつのヒットですからね。確かに強かった──上層ではね」


 眼鏡くん、そこまで言って眼鏡をくいっと持ち上げる。

 何というか……仕草の1つ1つが、鬱陶しいな……。


「ですが《旋風脚》には、1ヒットあたりの攻撃力が低いという欠点があります。《旋風脚》の攻撃力係数を知っていますか? わずか『0.7』ですよ。上層ではそのことは大した問題ではありませんでしたが、防御力が高いエネミーがひしめく下層では──役に立ちませんよ、そんなスキル」


 俺はその眼鏡くんの言葉を聞いて、あっちゃーと思った。

 そっか……そう思ってるやつ、まだ多いんだなぁ。

 すまん、眼鏡くん。


「悪い。そのデータ、間違いなんだよ。ちょっと勘違いしててさ。先週、新しい検証データと一緒に修正上げといたから。正しくは、《旋風脚》の攻撃力係数は『0.8』だ」


 俺のその言葉に、眼鏡くんは「えっ?」という顔をする。


「……は? な、何を言って……」


「ああ、あなたは知らないんだっけ。龍一相手に、スキル効果に関する知識では張り合わない方がいいわよ」


 俺の横で、美鈴が後ろに視線を投げつつ言う。


「は……? い、いえ美鈴さま、私は最大手スキル効果検証サイト『ドラゴンクロー』のデータを、ほぼ暗記しております。上層のぬるま湯に浸かった雑魚などに、その知識量で負けるはずは……」


「だからぁ……」


 美鈴はため息をつき、


「龍一がその『ドラゴンクロー』っていうスキル効果検証サイトの、管理人なのよ」


 そう言った。

 うん、解説ありがとう。

 何となく、自分で言うのは恥ずかしかったんだ。


「……は? か、管理人……?」


 眼鏡くんの眼鏡が斜めにズレる。

 どうなってるんだあの眼鏡。興味深いぞ。


 だけど眼鏡くんはめげない。


「──い、いや、仮に攻撃力係数が『0.8』だったとしても、係数が低いことには変わりはありません。それを防御力が高い下層のエネミー相手に使うのは愚策! 防御力が高いエネミーを相手にする場合には、手数よりも攻撃力係数の高さを優先してスキルを選択するべきです。──はっ、管理人と言ったって、知識ばかりで実際にデータを使いこなせなければ意味がない!」


 そう言って眼鏡くんは、指先で眼鏡を正しい位置に直す。


 ……あー、うん。

 眼鏡くんの言っていることは、基本的には間違っていない。

 防御力の低い敵相手ではとにかく手数が重要だが、防御力が高い敵には手数が少なくても高威力のスキルを使ったほうがいい。


 ──ただこの眼鏡くん、根本的な部分で、1つ勘違いをしている。


「おっ、来たな」


 前方20mといった程度の距離に、人の背丈を包み込むほどの青い光の柱が6つ立ち上り、その中から6体のエネミーが出現する。

 アシュラスケルトン4体、スケルトン・グレートアーチャーが2体だ。


「弓の射程が届かない位置に下がってろよ!」


 俺は言って、スケルトンの群れに向かって駆けた。

 走り始めた俺の体は0.2秒でトップスピードに乗り、敵との距離がぐんぐん近付く。


 スケルトンたちは、陣形を取ろうと動き始めたところだ。

 アシュラスケルトンが前に出て、スケルトン・グレートアーチャーが後衛に下がろうとしている。


「──させるかよ!」


 俺はスケルトンたちの陣取りが完了する前に、そいつらのど真ん中に滑り込んだ。

 俺が走り始めてからここまで、およそ2秒。

 そして──


「──《旋風脚》!」


 間髪入れずに、スキルを発動。

 緑色のスキルエフェクトを帯びた荒れ狂う竜巻のような蹴りが、周囲のスケルトンたちすべてを巻き込んで、著しい回数の打撃を与えてゆく。

 そして──


「……そんな……バカな……」


 遠方の眼鏡くんの眼鏡が、斜め45度に傾いた。


「うそ……でしょ……?」


 美鈴やほかの2人のメンバーも、あんぐりと口を開けて俺のほうを呆然と見ている。


 その俺の周りはというと、すっきり綺麗に片付き、『Congratulations!』の表示が浮かんでいた。

 1アクションの《旋風脚》で、スケルトンたちは全滅したのである。


「いやー、《トリプル》のアンデッド特効があると、やっぱダメージの派手さが違うわ」


 俺は自分の予測していたダメージ計算結果がほぼ正しかったことを確認して、満悦していた。

 俺の()()()()だと、瞬殺するにはさすがに無理があったからなぁ。


 眼鏡くんの勘違い──

 それは、こいつら程度は、()()()()()()まったく、『防御力が高い敵』ではないということだった。


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