7レイダロンネッテ
「さて、それじゃあ準備しなきゃね。魔女探しの冒険よ。思い立ったが吉日って言うわよね、ふふ」
メアリアンは立ち上がり、おっとりとした調子で指示を出しつつも廃墟の中をせわしなく動いていた。イディスも頼まれた朝ごはんの準備こなすべく、メアリアンに物の場所やら使うべきものを聞いていた。
イディスが朝食の準備をしている間に、メアリアンは食料の調達をしようと、家の裏にある倉庫へ足を運んだ。倉庫は、家と違い、多少ツタが絡み年季を感じさせたが、どこも崩れていなかった。倉庫へ続く小道を青いラインの入ったトカゲが横切り、端には朝日を受けた花が咲いていた。ここだけはそのままの状態なのね、と少し感傷に浸った後、倉庫の古びたドアをあけると、中には大量の麻袋や缶詰があった。
メアリアンがワゴンに保存がききそうな物を詰めていると、何か焦げ臭いようなにおいが漂ってきた。驚き家を振り返ると、壊れたまどからもくもくと煙が上がっていた。
「イディス!」
ワゴンを放り出し家に戻ると、そこには火がくすぶる半壊した暖炉の前に立って咳き込むイディスがいた。
「何してるの」
「あら、メアリアン……とりあえず朝食を作る準備でもしようと思って火を」
「なんで暖炉に火をつけるのよ、煙突がふさがってるから煙が充満してるじゃない」
「ごめんなさい……そこまで考えが及ばなかったわ」
しょんぼりとうなだれるイディスを前に、メアリアンはそれ以上注意する気がそがれ、ため息をつくと、じゃあ一緒に準備をしましょうとイディスの頭を撫でた。
「とりあえずあなたが無事でよかったわ。家事になる前に消火しちゃいましょう」
その後もいろいろあり、二人が出発するのはお昼過ぎになってしまった。若干乱れた髪と埃にまみれた服を払うと、少女達は地図を片手に廃墟を後にした。
「これからどこに行くの?」
がこがことワゴンを押しながらイディスが尋ねると、隣でメアリアンが地図を広げ、ここよ、と指差した。
「ここから一番近い街よ。レイダロンネッテって言って、人形作りが盛んなの」
「まぁ、人形!素敵な街なんでしょうね」
「ええ。とても綺麗なところよ。パゴダからビスクドールまでなんでも揃ってるわ」
「楽しみだわ、ここからどれくらい?」
「夕方までには着くはずよ。着いたらまずいろいろ準備しなきゃね……家から持ってきたお金もあることだし、馬か何かがいればいいんだけれど」
「馬を買うの、ますます楽しみになってきたわ!」
「ずっと徒歩は大変だからね。どんな子がいいかしらね」
「えっとね、私はね……」
そうして休憩を取りつつ話しながら歩いていると、数時間後には町についていた。イディスは街の入り口をくぐると感嘆の声をあげた。
「わぁ、すごい綺麗だわ」
建物は白と黒で統一されており、人々もモノクロやグレースケールの服を着ていた。家のバルコニーからはすずらんや白いフロックスの花がこぼれるようにあふれ、大通りの周りには白いバラや同じく白いユリが植えられた花壇が置かれていた。まるで色彩を失ったかのような街だったが、所せましと並ぶさまざまな人形の店のショーケースには色とりどりに着飾った人形が飾られており、まるで人形をひきたてるために作られた町のように見えた。
「綺麗でしょう。大好きなのよ、この街」
「ええ、そうね、私もあなたも派手な色の服じゃなくてよかったわね」
メアリアンはシンプルな白いワンピースを、イディスは紫の装飾がアクセントとなっている白いブラウスと黒いスカートを着ていた。
「確かにそうね。ああ、そうだ、そろそろ宿に行かなくてはね」
「お泊り会ね」
「ええ、そんなところね」
少女たちは顔を見合わせて笑うと、その日の宿となる場所へと歩き始めた。
ありがとうございました。