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3イッツィビッツィ

イディスとメアリアンは暗闇の中を二人で歩いていた。


「ねぇ、メアリアン、これからどこへ行くの?」


「そうね、まずは家に帰ろうと思うわ。ここから近いの。その後で……」


「その後で?」


「ちょっと用事があるの。イディス、あなたはどうするの?」


「私……私、どうやって帰ればいいのかわからないの」


イディスは正直に告げた。夢の世界に自分の帰る場所はあるのかないのかわからなかった。


「あら、そうなの」


メアリアンはしばらく思案した後で口を開いた。


「なら、今日はうちに泊まる?もう暗いし遅いし」


「いいの?」


「もちろんよ。一人だけで暗い中帰らせるわけにも行かないわ。このあたり、意外と危ないのよ」


「じゃあ、お言葉に甘えるわ!よろしくね、メアリアン」


「こちらこそ。もうすぐで家につくわ」


メアリアンは数百メートル先の小高い丘を指した。星明りに照らされた家のような四角い建築物が見える。親と一緒に暮らしていて、これから妹が生まれるの、とメアリアンは嬉しそうだった。


イディスとメアリアンはすっかり仲良くなり、おしゃべりしながら歩いていった。時折がさごそと何かが暗闇で動くような音が聞こえたが、イディスは風の音だと聞き流していた。


「そういえばさっきのランタン、魔法みたいに綺麗だったわ」


イディスがうっとりとして言うと、メアリアンから予想外の言葉が返ってきた。


「魔法みたい、じゃなくて魔法なのよ。知らなかった?」


「え、魔法?」


この世界には魔法もあるのね、なんて素敵なんだろう。イディスがきらきらした目でメアリアンを見上げた。


「そうよ、魔法。遊園地の創設者の人の魔法って聞いたわ。どんな人なのかしらね、魔法であんなに素敵なものを作り出せるなんて…。きっと、特別な方だったのね」


「メアリアンには作れないの?」


「ええ。だって使える魔法はみんな違うじゃない」


あたりまえでしょう、とメアリアンが答えた。ふと、何かが視界に入り、メアリアンはイディスから視線をはずし、あたりを見渡した。がさごそと聞こえた異音に耳を傾けた。風かしら……あら?


「ふぅん。じゃあ、メアリアンはどんな魔法を」


「危ない!」


メアリアンが血相を変えてイディスを引き寄せた。直後、イディスがいた空間をなにか黒い鋭いものが通過した。そのまま、その物体は二人の少女の前にぼとりと着地した。状況をつかめないまま固まってるイディスをよそに、メアリアンは襲来者とイディスの間に入る。


「何、あれ…」


イディスは、自分をかばうように前に立つメアリアンの横から顔を出した。月形のランタンしか光源がなく、細かいディテールは把握できなかったが、目の前にいたのは八本の細長い足に支えられた人の頭ほどある黒い球体だった。よく見ると、球体の中心には全身に細かい毛が生えた人間の胎児のようなモノがいた。


「イッツィビッツィ…」


メアリアンが息をのんだ。


「イッツィビッツィ?」


「蜘蛛のお化けよ。なんでここに……とりあえず、逃げるわよ!」


そういうと、メアリアンはイディスの手を掴み、先ほどまで歩いていた道を外れ、一直線に丘を家のほうへ走り始めた。イディスも転びそうになりながら必死についていった。


直後、化け物が赤ん坊の泣き声のような金切り声をあげ、追ってきた。夜の静寂に似つかわしくない雄叫びを響かせながら、獲物を逃すまいと走ってくる。速度は早くはないが、視界が悪くよろけながら逃げる少女二人に追いつくのは時間の問題だった。


「早く!走って!」


メアリアンが必死に叫ぶ。イディスの手首を掴む手は、汗ばんでいた。


「待って、あっ」


イディスが転がっていた石につまづきよろけた。反射的に目をつぶって顔を腕で守る。蜘蛛のばけものは歓喜の叫び声をあげ、イディスに向かって飛びつき、広げた足で少女を突き刺そうとし----------



----------断末魔をあげながら、イディスの足元に転がった。


「……え?」


死を覚悟したイディスは、目の前に転がる動かない化け物にあっけにとられていた。


「な、なにが起こったの?」


立ち上がる気力もないままメアリアンを見上げると、彼女は肩で息をしつつ、イディスに駆け寄った。


「イディス、大丈夫!?」


「え…?ええ。大丈夫よ。何が、どうしてこんな…」


「……」


沈黙するメアリアンにイディスが見上げると、彼女は何か後ろめたいことでもあるように、唇を噛んで視線をそらした。


「……メアリアン?」


メアリアンがやったの、とイディスが尋ねると、メアリアンはうつむいて黙り込んでしまった。

ようやく魔法が出ました。

イッツィビッツィはitsy bitsy spiderっていう歌?からとりました。昔好きだったんですよね~

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