さあさあご傾聴
この世の中にはいろいろな種族が居る。
人里から遠く離れた、道なき道を何ヶ月も歩いてやっと辿り着ける山々の、その険しい岩肌を息せき切って何日もかけて登ってやっと辿り着く頂に、全長五メートルを優に超える白く大きな虎が眠たげに暮らしている。
人が到底這い入る事の出来ない活火山の地下深く、摂氏千度を超えるマグマの中を、緑色の竜が悠々と泳ぎながら子育てをしている。
鋭い角を持った、人語を操る人面の羊が、為政者をそそのかし、虐殺を引き起こし楽しげに笑う。
牛ほどの大きさのハリネズミが、何千という群をなし、人を喰らい村々を滅ぼす。
酒を嗜むひとつ目の碧眼の鬼が、それを作った人間へのお礼にと田植えを手伝う。
老若男女に大人気の美しい女の人魚が、テレビの中で地方の特産品を美味しそうに頬張る。
そんな不思議な種族の中でも、一際目立つ不思議な種族、『ふれぽん』。
何が不思議か。この種族、異性に触れると、ぽん、と音を立てて消えてしまうのである。
故に、誰が考えたのか『ふれぽん』などと可愛く呼称されている。
『髪の毛が紫色である』、という事を除けば、人間と見分けがつかない。
容姿に、それ以外差異はない。
この異性というのもなかなか曖昧で、そうやって消えてしまうのは、人間か、それに準ずる容姿の種族に限られている。
そこが曖昧では何かと危険ではないか? と思う人もいるだろうが、『ふれぽん』は触れると危険な種族と、そうでない種族を〝におい〟で知ることが出来る。
本能が、〝こいつは危険だ〟と警告を発するのである。




