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じょしこうせいのせいたい

 真琴は美人じゃないけど可愛い子犬。

 楓は実は美少女なのに中身がおじさん。

 岬は気が強い高嶺の花。


 違うクラスでそれぞれがクラスのアイドル。

 類は友を呼ぶのか、タイプは全く違うけれど、三人は仲良しだ。




「なんで一緒に寝坊しちゃうの? ねえ、ママってばぁ!」


 真琴は大きな瞳を涙でいっぱいにしながら、洗面所から母親に叫んでいた。

 父親似の真琴の癖毛は、起きたら水を付けてドライヤーを当てないと鳥の巣状態なのだ。鳥の巣からふわふわの巻き毛に脱却するためには最低でも20分は掛かるのに、朝が弱い母親は今日も真琴と一緒に寝坊していたらしい。


「ごめんね、マコちゃん! だって二度寝って気持ちいいんだもん、じゃあね! お勉強頑張ってね!」


 自分はさらさらのボブスタイルだから、手早く化粧をするだけですぐに出勤出来る真琴の母親は、パート先に向かって家を出て行った。

 真琴は半泣きで鼻を啜りながらドライヤーを髪に当てる。あと半分、セットし終えれば待ち合わせ先の駅前のハンバーガーショップに向かえる。

 真琴のお気に入りのピンクのラメの携帯が鳴っている。相手は朝、目が覚めて一番に電話して連絡が付かなかった相手だ。肩と頬に携帯を挟んで電話に出た真琴は、泣きながら彼女に謝った。


「みーちゃん朝からごめんねっ。今日も待ち合わせ少し遅れてもいーい? あのねえ、寝坊したの! 寝坊! 寝坊だよお! 頭がね、いままだ鳥の巣なの!」

「頭が鳥の巣? それって何? ……とりあえず大丈夫。楓もまだだから」


 電話の相手である岬の高くて耳当たりの良い声が優しくそう言った。


「よかった、ありがとね。ううん、癒されるなァ、みーちゃんの声って可愛いよねぇ。朝から爽やかな気持ちになるよ。オレンジジュースみたい、えへへ」

「オレンジジュース? は? 真琴、寝ぼけてるの? ねえ、早く来て」

「あれ? みーちゃん? みーちゃ……あっ切られたぁ」


 呆れ声で一方的に電話が切られたことに、真琴はちょっとだけ寂しい気持ちになる。たぶんちゃんと待っていてくれるのだろうが、岬はいつもこうだ。きっと彼女と付き合うことになる男子は、彼女のこういう唐突に突き放すような態度にやきもきすることになるのだろう。

 髪をセットし終えて、たっぷりとリップクリームを唇に塗った後、制服を着た真琴は姿見に後姿を映して、お辞儀をした。

 短めのスカートから下着は見えない。

 鏡に映っているのは、身長162cm、スリーサイズはややぽちゃ、容姿もまあ普通の子だ。

 でも真琴はちゃんと心得ている。

 鏡に映っている彼女は、上目遣いをしてにっこりと微笑んだ。途端にふわふわの巻き毛をした彼女は、柔らかい雰囲気で魅力的になる。


「よし、身だしなみばっちり。今日も可愛い、真琴は可愛いからねっ」


 拳を握り締めて自分に言い聞かせてから、真琴は鞄を掴んで玄関を出た。




 目覚ましが鳴っている。

 仕方なくそれを止めて楓は欠伸をした。布団の中でもぞもぞと背中を丸め、手足を伸ばしてから溜息を吐いて温もりから外に出る。

 携帯の着信に気付いて歯を磨きながら電話に出た。


「んん、岬か。どした?」

「おはよう。どした? じゃないでしょ。起きてる? 今日は二度寝しないでね」

「もう、うるせえなあ……」

「五月蝿くされたくないなら早く起きて。早く来ないとおいて行っちゃうんだから」

「はいはい、今起きますよ。用意しますって」


 電話の向こうで怒っている高くて可愛い声に癒されながら、楓は今日も寝ぼけているフリをする。

 朝は数少ない友人の彼女に起こされないと、楓はやる気が出ない。

 岬は可愛い声をしている。楓が飼いたくても飼えないでいる小鳥みたいなのだ。

 だからつい、困らせて怒った声を聞きたくなる。


「なあなあ、岬、あれやってよ。私、あれ聞いたら目え覚める」

「……イヤ」

「やってよ。やって、やって、やってぇ。あんあん悶え声」

「変なこと言ってないで、いいから早く来て!」


 ぶつっと音を立てて電話が一方的に切られて楓は舌打ちした。

 親の知り合いが大家のこのアパートは、どうしてペット不可なのだろう。楓は不満だった。

 ペット可だったら飼いたい小鳥も飼えるのに。

 とりあえず歯磨きを終えて、鏡の前に立つ。

 鏡には身長は152センチと低めで、可憐な美少女が下着姿で映っている。美少女は大きな瞳を物憂げに細めると、大きな溜め息を吐いた。

 美少女は徐に、綿がたっぷり詰められたコルセット状の物を下着の上に身につけた。

 その上からワンピースタイプの制服を着ると、彼女は寸胴体系に変わった。そしてショートヘアの髪に適当にブラシを当て、伸びた前髪で目元を完全に覆えば、もう美少女は鏡の何処にも居なかった。居るのはお化けみたいな髪型の、太めな女子高生だ。


「くそだりぃ、もっかい寝たい……」


 背中を丸めながら楓は玄関を出た。朝一番だと元気一杯の鼠みたいに可愛いもう一人の友人を見られるからだ。

 世の中、癒しがなければやる気が出ない。疲れ切った中年のサラリーマンのような台詞を吐き出しながら、楓は待ち合わせ場所に向かう。




 二人の親友と電話を終えた岬は、ファーストフード店の窓際の席で頬杖を付いて外を見ていた。


 駅前のロータリーは出勤前の人や同じ高校生が多い。


 ガラス窓に映っている自分の姿を見て、岬は大きなアーモンドアイを瞬いた。

 ちゃんとブラシを当てた筈なのに、セミロングの髪に寝癖が付いている。

 猫っ毛のせいか、すぐにぺしゃんこになる岬の髪は、寝癖も付きやすい。

 今さっきまで電話していた真琴のようなフワフワの巻き毛だったり、楓のような艶のある真っ直ぐな髪なら良かったのに。

 窓ガラスに映った168センチとやや長身の岬は、そう思って溜め息を吐いた。


 それにしても遅い。


 岬は同じ高校に通っている親友の二人と、毎朝このハンバーガーショップで待ち合わせている。

 そうやっていつも一緒に登校しているのだが、三人揃って朝に弱いのは同じでも、岬は早めにちゃんと起きて出て来るのに、真琴も楓もぎりぎりぴったりか、ちょっとだけ遅刻して来る。いつでもそれが岬には面白くない。自分だって朝食を食べる暇がなくて、このハンバーガーショップで済ませているのだけれど。

 携帯のデジタル時計を眺めながら、頬を膨らませて岬は二人を待つ。


 もうこれ以上待たせたら、本当に置いて行ってやるんだから。


 そう言いながらも岬は待つ。

 そして二人が現れたら、つい嬉しくなった岬は、滅多に笑わない事で有名な、ガラス細工みたいに繊細な顔を、笑顔でいっぱいにする。それを真琴も楓も分かっているから、いつでも遅れてくるのに、岬はそれを分かっていない。


「みーちゃん! みーちゃぁん、ごめんねえ、お待たせえ! えへへ!」


 息を切らせて走って来た真琴が、ガラスの向こうに岬を見つけて嬉しそうに飛び跳ねている。


「なにやってんだ? 真琴は。入ってくりゃいいじゃん、ばああか」

「あっ、ひどい! 楓、馬鹿って言ったでしょ! ひどいひどい! みーちゃん、楓がひどい! マコのこといじめる!」


 店の中に入って来た楓が、岬の隣に座ってガラス越しに真琴を揶揄っている。

 悔しそうな真琴は岬に何かを必死に訴えていた。


「もう。おはよう、二人とも。早く行こう」


 岬は笑いながらトレーを片付け外に出た。

 すかさず真琴が岬の腕に絡み付き、楓はその真琴のスカートを捲って怒らせる。




 三人は三人全員が朝に弱い。


 真琴はいつも人頼みで朝寝坊する。

 楓は小鳥の囀り無しでは二度寝する。

 岬はなんとか目覚めるけど、いつでも朝食を待ち合わせ場所で済ませている。


 三人は仲が良い。

 いつかは各々の人生を行くけれど、今はまだ朝だけは一緒に過ごす。

 全員が朝に弱くても、例え遅刻ぎりぎりになったとしても、一緒に登校するのは止めない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 岬ちゃんかわいいっ。 楓ちゃんと知り合いだったんですねっ。 ツンデレにゃんこは至上ですー!
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