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GENE SERIES 03 魔法少女たちの輪舞曲  作者: クリスタルナオト
魔法少女大戦Ⅰ 黒の来訪者
38/48

白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART13  闇との接戦

 前回から一か月の期間をかけて投稿する事になってしまいました。ただでさえ遅い投稿ペースを更に遅らせてしまい、誠に申し訳ございません。

 今回のお話は時間を要して書いたため乱文になってる可能性がありますので、後で直します。

「澄み渡る碧海から海と人々の平和を守る為にやって来た守護者九代目――その名はザヴァーンⅨ! 大人気特撮番組『碧海戦雄ザヴァーンⅨ』が関門市に帰ってきた~! 本日、関門みなと市民会館にてヒーローショーを午後一時から開催、海峡を根城に世界征服を企むネオオクトパース将軍との戦いを見逃すな!」


 県境を隔てる海峡を臨む関門市街の臨海区の市街を、スピーカーが備え付けられたワゴン車が巡回していた。スピーカーには先程からそのようなセリフが何度も流されており、車体の側面には案内ポスターが張り付けられていた。

 関門市の設立六十周年記念の記念祭が各所で行われ、市街の雰囲気は非常に活き活きと賑わっている。特に臨海区は活力を得て盛り上がった様子が見受けられ、記念祭で賑わう状況を狙った商店街は大いに他方からの観光客の到来で繁盛していた。

 臨海区にある『関門みなと市民会館』では集中的に幼児を連れた家族が入場し、和気藹々と賑わった雰囲気を醸していた。市民会館の施設の目前にはステージやライトが敷設されており、子供たちの期待の眼差しの対象となっていた。

 そう、市民会館では午後一時から関門市発祥の人気特撮番組『碧海戦雄ザヴァーンⅨ』のオリジナルヒーローショーが開催される。記念祭の一番の集客プログラムがソレである。

 現在子供たちから絶賛を受け世間から注目されている事もあるが、普通のヒーローショーなら一日に二回か三回公演されるところが一回限りの公演という事で、会場は更に人の塊で溢れていた。

 本番に向けて裏方ではスタッフが大慌てで進行と企画を念入りに打ち合わせている様子が窺える。ヒーローショーを成功する為にそれぞれの持ち場で汗水流して役目を果たしているようだ。

 市民会館のとある一室では舞台に登場するスタッフのメイクルーム兼休憩室として借り受けられており、そこではスタッフたちが本番に備えて着ぐるみに着替えていた。その中で細江中学の制服を着た少女は鏡に映る己の容姿を見て溜息を吐き、傍では同じく細江中学の制服の女子生徒がクスクスと笑っていた。


「はぁ、嫌よ嫌と拒否しつつも結局ここまで来てしまったわね。栞奈の要求に従ってゲスト出演者に選ばれ、番組スタッフから台本を渡され、リハーサルに至るまで演技を指導され、ついに本番の日がやって来てしまったわ……ああもう今日は何て最悪な日なのかしら。生意気なクソガキの前で恥ずかしい演技見せられるなんて一生の不覚だわ、自害する方がまだマシよ。全く今日という日は少ない人生の中で最も消したい汚点を残される日になりそうだわ」

「フフフフ、ブツブツ文句言ったって仕方ないじゃなーい? 何だかんだでちーたん、自分からOKしたんだから嫌でも働かせてもらうわよ。それに監督さんが貴女を見て大いに喜んでいたから失望させないように頑張ってよね~!」

「栞奈、私が貴女に沢山の借りがあるからって何でも要求に従ってくれるわけじゃないのよ。私にだって個人的な事情があるんだから、個人の範囲に侵入する場合は絶対に拒否するわ。今回だって衣装の問題をクリアしなければ途中で降りていたわよ。大体わかっていたけど、あのボンテージ衣装は何なのよ、殆ど肌が露出していて裸同然じゃないの!」

「えー、だって監督の強い希望だし。脚本じゃちーたんが演じる女子生徒が悪の大将軍ネオオクトパースに捕縛されて洗脳で悪堕ちして幹部に入るシーンが含まれているから当然よ。折角スタッフがコスプレ衣装店からわざわざ取り寄せてきたのにちーたんったら強く拒否するんだもの。監督もスタッフも泣く泣く要望を聞いて露出が無いものに取り換えたんだよ。勿体無いわぁ~」


 監督――島流しのプロデューサーが演出の際に着せようとしたボンテージ衣装は、胸と股間を覆っただけの水着よりも露出の多い衣装で女性ならばスタッフでも着たくもない位に恥ずかしい代物であった。栞奈かんなに依頼を受けたとはいえ当然の如く千世は拒否し、衣装スタッフは露出の少ない鎧衣装を用意する事で出演の許可を取ったのだ。

 千世はその様な出来事があったのを脳裏で蘇らせつつ、目を細めながら鏡に映る己を凝視した。その顔つきは日常と変わらぬ賢さを備えているが、何処か沈痛な感情を含んでいた。


「……私が極端に肌が露出されるのを嫌うってのは栞奈も知ってるでしょ? この体に隠された秘密を他の奴らに見せるわけにはいかないのよ」

「それはご存知よ。貴女の秘密を知るのは私と理事長と秘書だけ、あのニコニコ笑顔の穏健理事長もインテリ系のグラマラス秘書も寛容だから心配ないわ。私も絶対に口外しないわよ」

「「でも『私の頼みごとを必ず聞いてもらう』の条件付きでしょ?」

「あったりまえじゃな~い☆ ちーたんって真面目で堅物でクールで大人びた印象だから絡みづらいイメージが強いけど、弄ったら面白い反応見せるのよね~! もう可愛くて可愛くて仕方ないわぁ!」


 グッと千世が栞奈の胸倉を掴み、真顔で彼女の目前に迫った。


「程度があるから気をつけてね? 仏の顔も三度までとは言うけど二度も許さないタチだからそこのところボケた脳味噌で理解しなさい。じゃないと貴女の眉間を狙い撃つから」

「ア、アハハハ……わかったわよ、だからコロサナイデネー」


 投げ捨てるように栞奈を振り解くと、千世は再び溜息を吐いた。

 これからやりたくもないヒーローショーの演出を嫌いな子供たちの前で見せる事に緊張しているのだろうが、それは彼女の真意とは違っていた。


「彼女は――神田悠華二年生は来場するの?」

「うーん、そうねぇ……確か後輩の話では外出してるから絶対に来る筈だわ。それに彼女、特撮好きらしいから来ない道理はないんじゃないの?」

「……嫌だなぁ、はぁ」


 出演者の休憩室で本日三度目の溜息が吐かれた。それを三度も聞くのはスタッフではなく栞奈だけであった。

 海峡から吹き寄せる潮風は臨海区の市街を駆け抜け、市民会館前に来場した観客に触れた。



「リリウム・セラフィー!」

 暗黒の靄が教会の聖堂を全て覆う直前、悠華は唱えながら左手の薬指に嵌めたヴィアージリングをステンドグラスで色鮮やかに輝く陽光へと翳した。

 瞬間、悠華は自信を包む白光に身を委ねた。身に纏う衣服が消滅し、誰も目視できない光の中で彼女の裸体が晒される。

 そして眩い白光が消えた後、彼女は白を基調とした戦闘スタイル――魔法少女リリウム・セラフィーへと姿を変えていた。奏美に抱き寄せられていたテレジアは悠華の見慣れぬ姿に懐疑の眼差しを向けるが、次第に星の如く瞳を煌めかせた。


「ハルカが……ハルカが変身した……カナミお姉ちゃん……ハルカお姉ちゃんがマホーツカーイに変身したよ! ハルカお姉ちゃん、すごい!」

「そうだよ、悠華お姉ちゃんは魔法少女で正義の味方なんだよ。すぐに悠華お姉ちゃんが悪い奴らを退治してくれるから心配しないでね」

「カハッ! 伊崎ソーミ、都合の良い事を青尻のクソガキに吹き込んでんじゃねぇぞ! アタシら魔女の眷属サヴィターの戦いに善悪の概念なんて無いに等しい! 血みどろの争いでどちらかが倒れるまで殺し合うんだよ! カハハハハハハッ、なら〈魔女ジュエルハー〉を主に献上する前にてめぇらを嬲り殺しにしてやるよ! カハッ!」

「……変身したのは兎も角、この状況を切り抜けなければ二人が殺されちゃう……やるしかない……」


 悠華の変身を戦意と見做した黒の魔法少女レイヴン・シェイドは、嘲笑の面を浮かべながら殺意を堂々と吐き出すと、懐から紋様が刻まれた短剣〈魔縛剣クストゥド〉を取り出した。獲物を狙う肉食動物の如く鋭い視線で奏美とテレジアを竦ませると、お気に入りの一つである短剣の刃を舐めながら〈ホワイト眷属サヴィター〉を睨んだ。

 戦闘の合図を告げようと刃を向けた途端、テレジアと年齢の変わらない〈ブラック眷属サヴィター〉ポイズン・スワンプが不敵の面でレイヴンの目前に立った。


「レイ、レオ。ここはポイに任せるんだポイ! 相手がたった一人程度ならポイだけでもラクショーだポイ! 余裕でメッタメタに打ちのめしてやるポイ!」

「カハハハハハ、本来ならアタシ一人でリリウム・セラフィーを駆逐してやりたいところなんだがなぁ……しかし相手が一人ならポイだけでも十分、恐れるに足らずだな。レオも異存はねぇよな?」

「――異存なし、これは私の中に眠る野生の意思。リリウム・セラフィーは相当の実力を持つ魔女討伐部隊を蹴散らした。それは注目するべき事態、だけどたかが一人。私たちが怯むことなどない」


 三人の中では非力と推測されるポイズン・スワンプが二人から許可を受諾すると、喜色の面を繕ってリリウム・セラフィーに振り返った。

 戦意を漲らせた毒魔法使いの童女は悠華を睨むなり、両手を交差して紫紺の魔法陣を具現させた。

 光が届くことのない暗黒に包まれた〈虚空メタフィールドダーク〉でその魔法陣の輝きはいびつであった。


「最弱の〈ホワイト眷属サヴィター〉リリウム・セラフィー、お前は〈ブラック眷属サヴィター〉ポイズン・スワンプが始末してやるポイ!」

「むざむざ貴女たちにやられてセレネの命を渡すわけにはいかない……ポイズン・スワンプ、悪いけど貴女みたいな魔法少女が相手なら此方の敗北の確率は低いわ。魔女討伐部隊なんて貴女と比べたら天と地の差がある程度に強かったわよ!」

「な!? なにを~! あんな奴らと……リリウム・セラフィーはポイを教会の犬共より弱いとでも言うのかポイ! 許せないポイ……最弱の魔法少女のくせに生意気だポイ! 教会の犬共よりもポイが絶対に強い事を証明してやるポイ! 喰らえ、〈溶解ソリューションせし・ハー〉!」


 相手が一人とはいえ苦境に変わりない状況での苦し紛れから来る悠華の挑発に反応したポイズン・スワンプは具現していた紫紺の魔法陣を射出した。魔法陣は白の魔法少女との距離を縮めると中央から半固体――所謂いわゆるゲル状の液体が湧出して多方面に爆ぜた。

 拡散したゲル状の液体は広範囲に、しかも範囲内の隅々までに飛び散った為に回避する事はほぼ不可能に近かった。拡散したと同時に発動したリリウム・セラフィーの〈アヴォイド・スロー〉を以てしても躱すことは不可能で、白の魔法少女と二人に液体が振り撒かれた。


「わわっ! 何これ~! ベトベトして気持ち悪~い! この液体は一体…何なの~!?」

「カナミお姉ちゃん、このベトベトするのスライムみたい……だけど冷たくて感触が固くて気持ち悪いよ……!」

「ニヒヒヒヒヒヒ♪ 〈溶解ソリューションせし・ハー〉は対象となる物体や生物をドロドロに溶かす魔法だポイ! 分量・質量・酸度の具合はポイの思いのまま、強酸の毒がお前たちをジワリジワリと骨まで残さずに溶かしつくすポイ!」

「な、何それ! そのどこかの映画に出てくる宇宙生物の体液みたいじゃない! じゃあ早く、この気色悪い液体を取り払わないと!」

「もう遅いポイ! 触れた途端、すぐにお前たちの白い肌を焼き尽くす……ポイ? アレ、アレアレ?」


 詠唱魔法を発動した本人であるポイズン・スワンプが何故か我が目を疑って焦燥していた。それに察した悠華は彼女の視線が此方を凝視し続けている事に気づき、ゲル状の液体が張り付いている身体を隈なく確認した。

 ポイズン・スワンプが先程語った現象――つまりゲル状の液体がいつまでも生身の肌を溶解する事は起こらず、身の危険を最大限に感じ取ったリリウム・セラフィーも童女と同様に首を傾げた。

 白の魔法少女も黒の魔法少女も詠唱魔法の発動が失敗したではないかと推察していると、何かが焼け焦げる音が辺りに響いた。〈虚空メタフィールドダーク〉の効果で暗くなった異空間で悠華たちはその原因を見出すのに時間を要したが、原因を発見した瞬間に驚愕の表情を隠せずにいられなかった。


「ふ、服が溶けてる!? 悠華、私たちの服が溶けてるよ!」

「ええ!?」


 真っ先に異常に気付いた奏美が叫んだ通り、ゲル状の液体は生身の肌を溶かす事なく何故か身に纏う衣服だけを溶かしていた。まるで虫が葉を食べる様子を速めたかのように彼女の衣服が溶かされ、果実へと熟成する前の乙女の可憐な裸体が次第に晒されていく。

 羞恥から悲鳴が響くのは当然であった。


「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!! このスライムみたいなの私達の服を溶かしちゃってる! いやあああああああああああああ! 既に上着が全部溶けてなくなってるし! わああああああああああああ! 下着まで溶けかかってるし! 悠華、何とかしてー!」

「そ、そんな事言ったってこっちも大変なのよ! 私の……戦闘服? も段々溶けて消失してるし、元々生地が薄くて肌が露出してるからこのままだと奏美やテレジアちゃんよりも早く裸になっちゃうわよ! ポイズン・スワンプ、私達を全裸にして一体どういうつもりよ!?」

「いやぁ……どうも詠唱魔法の調整具合に失敗しちゃって服を溶かす程度にしか効果がなくなったポイ……許してくれポイ」


 殺し合う敵なのに舌を間の抜けた謝罪を吐く、毒魔法使いの童女。そんな彼女のふざけた態度に身内のレイヴンとレオパルドは表情を曇らせて頭を抱えていた。口には出さなかったようだが、二人の様子から察してどうやらポイズン・スワンプは挑発されると頭に血が上ってしまい、魔法の発動に不具合を起こしてしまう欠点があるらしい。子供ゆえに反応しやすいのだろうが魔女の眷属サヴィターにとっては致命的な欠点だ。

 だが状況は視覚的に芳しくなかった。ゲル状の液体――スライムとでも例えられる液体はまるで意思を持つかの如く服を溶かし、悠華、奏美、テレジア三名の肢体を余すことなく〈ブラック眷属サヴィター〉に晒される。刻々と経つにつれ下着も全て溶かされてしまい、全裸と等しい位に晒された奏美はこれ以上にない程に羞恥を感じ、テレジアを強く抱き締める事で裸体を隠した。

しかし悠華だけは裸体を隠す事ができず立ち往生していた。このままでは戦闘中にレイヴン達から変態だと罵倒されてしまう。それだけは防止しなければならない。

だが毒々しい紫紺の液体は〈ホワイト眷属サヴィター〉側に被害を与えるだけではなかった。


 ――べちょ、べちょべちょ! べちょべちょ!


「あれ!? 何で何で! 〈溶解ソリューションせし・ハー〉がポイたちに降りかかってるぽい!?」

「……ポイがリリウム・セラフィーの挑発に乗って、調整失敗の詠唱魔法を発動するから此方こちらにも被害が出てる」


 そう。ポイズン・スワンプが悠華の挑発に反応し、発動した際に拡散した強酸の液体は上空に飛び散り、そして落下して丁度ポイズン・スワンプとシュヴァルツェア・レオパルドへと降りかかったのだ。勿論彼女らとて例外ではなく、悠華達同様に服が溶けていった。

 ポイズン・スワンプは西洋の魔女テイストのコスチュームという事もあり全裸の肢体が晒されるにはやや時間を要したが、シュヴァルツェア・レオパルドは普段から軽装なので熟成した裸体があっという間に晒された。レイヴン・シェイドはレオの陰に隠れて襲撃を防いだ為、被害はなかった。


「ひゃああああああああああああああああああああああああ!? 服が、服が、服がぁぁぁぁぁぁぁぁ! どんどん溶けてなくなっちゃうポイイイイイィィィィィ!! こんなんじゃ寒くて恥ずかしくて戦えないポイイイイイィィィィィィ!!」


 恥ずかしさのあまりに彼女は暗黒の中に消えた。


「あ……ど、どうやらポイズン・スワンプは羞恥で戦えなくなったみたいね……てか! 

レオパルドったら裸同然なのに何で堂々としていられるのよ!」

「私は大地を駆ける孤高の黒豹に育てられた娘、野生の生物は服を着なくても生きていける。それに私は主(エレクトラ様)に拾われる前は裸で毎日を暮していた、だから全裸だろうが気にしない。むしろ裸でいる方が清々しくて気持ち良い」

「いやそうかもしれないけど! 今の貴女、私達以外の人が見たら確実に痴女決定なんですけど! しかも事情を知らない人には変態宣言にしか聞こえないセリフがさらっと混じってたから言葉を選びなさいよ!」

「カハッ! 下らねェ茶番劇はそろそろ終わりだァ! その剥き出しの白い肌の皮を綺麗さっぱり切り取って内臓と肉をぶちまけてやるぜ! カハッ! てめぇらは年頃の女だ、このナイフで切り取ったら柔らかいだろうなぁ! 早速だが嬲り殺しに遭わせて三枚下ろしに捌くぜぇ! カハッ!」


 ポイズンの粋な手違い(?)で可憐な肢体を剥き出しにされて尚〈虚空メタフィールドダーク〉に晒され続ける悠華達を標的に、唯一スライムの被害を受けなかったレイヴン・シェイドは絶対に仕留めんと駆け出した。戦闘服が跡形もなく溶けてしまい、はしたない姿となった悠華に襲撃者の刃が目前に迫ろうとしていた。

 刹那、白の魔法少女の双眸に〈アヴォイドスロー〉が発動し、迫る刃の方向を見極めて顔を傾けた。

 彼女の左耳を掠めるも回避されたレイヴンはリリウム・セラフィーが繰り出したエルボーとヒールの打撃をバックステップで避けた。間合いを取られつつも悠華は羞恥だけを感じながら拳に魔力を集中させた。構築魔法を使用するつもりなのだ。


「リリウム・フォトンフィスト!」

「カハッ、そんな子供騙しの魔法でアタシを屠れるとでも思ったのかァ! カハッ! 〈ブラック眷属サヴィター〉を舐めるのもいい加減にしてくれよなぁ! アタシらの眷属は最強の戦闘力を持った集団、つまり個々の力だけで一騎当千の魔力を持つ者たちの集まりだって事だぁ!カハハハハハハ! 勢力を強めている〈ゴールド眷属サヴィター〉や〈レッド眷属サヴィター〉なぞ〈ブラック眷属サヴィター〉に勝てる道理なんかねぇ! カハハ! 故に最弱の眷属サヴィターが勝てる道理もねェって事だ! カハハハハ!」

 

  悠華の拳から放出された白色の魔力弾をレイヴンは〈座標コードニー位置ポジション〉を発動する事で、紫紺の魔法陣へと吸収して消滅させた。その後に悠華はすかさずに〈リリウム・ウォーム〉を繰り出すものの、またもや魔法陣へと消滅していった。

 レイヴン・シェイドの手の内の魔法を未だ把握していない悠華には、〈座標コードニー位置ポジション〉がどのような効果を齎す魔法か判別するには幾何か情報不足していた。自身が囚われていた際に本郷刑事が伴った警察官を瞬時に殺害した魔法だとは奏美から聞いたのだが、微量の情報源だけではレイヴンに対抗する策としては非常に乏しい。最弱の眷属サヴィターと罵倒し慢心しているのか、此方を甘く鑑みて動きが若干緩い。三人で襲撃しているのに連携しないのはその事の表れだ。全裸となって尚も敢然と待機するシュヴァルツェア・レオパルドはリリウム・セラフィーとレイヴン・シェイドの対決をどこか潤んだ瞳で見据えていた。

 しかし事態はやはり最悪の状況に置かれている。〈スノー妖精ピクシー〉ニードリヒト・フィーが傍らに存在するとはいえ、彼女は〈魔女ジュエルハー〉の奪取防止の役目を負っている為、戦闘に参加する事はできない。それどころか〈妖精ピクシー〉は魔法少女の育成と補助・支援を主とした戦闘でしか戦えないし、魔女から魔力を常に供給しなければ活動時間を保てない。現在の彼女にはジュラルミンケース内の〈魔女ジュエルハー〉を守る役目しかない。

 先程からレイヴンは〈虚空メタフィールドダーク〉が織り成す漆黒の闇に姿を消しては幽霊の如く出現し、死角から命を仕留めんと狙ってきている。魔法を使った戦いというより白兵戦だ。


「(私は……この戦闘スタイルをどこかで見た事がある! これは……!)」

「カハッ、カハッ、カハッ! 後退してばっかりでつまらねぇな! ちっとはアタシに掠り攻撃程度の魔法でも繰り出してみろよなぁ! ま、それも仕方ないか! 前に言ったが、この異空間はアタシら〈ブラック眷属サヴィター〉に力を与え、仇敵の〈ホワイト眷属サヴィター〉の魔力を半減させる。リリウム・セラフィーがアタシらに敵う筈なんて無いに等しいんだよぉ! さっさと大人しくブッ殺されてハムになれ、変態痴女がぁ!」

「私だって好きでこんな姿になったわけじゃないわ! てか貴女の仲間の失態でこんな姿になったんじゃない! それを言うならレオパルドの方が真性の痴女よ! だって全然羞恥感じてないとか寧ろ気持ち良いとか告白してたし!」


 苦虫を潰したような表情で悠華は魔縛剣クストゥドを何度も振り回すレイヴンに対し、一瞬の隙を突いて剥き出しの膝で彼女の腹部を蹴った。粗雑な攻めで隙を突かれて腹部に強い蹴りを入れられた黒の魔法少女が暗黒へと消えた直後に、白の魔法少女は友人へと振り返った。奏美とテレジアは白い裸身で身を寄せて秘所を隠しながらも必死にジュラミルンケースを守っていた。非常に御苦労な事である。


「悠華~! 早く何とかして頂戴よ~! このままじゃ私も悠華もテレジアちゃんも体が冷えて風邪引いちゃう~! 魔法が使えるんだから戦闘用だけの魔法じゃなくて、こんな時に服とか用意できるような便利な魔法を使いなさいよ、魔法少女さん!」

「そんな細かすぎる魔法が使えるワケないでしょ! 大体、私も敵も相手を攻撃するとか変身するとか、その類の魔法しか使えないし! 便利な魔法が使えるのなら真っ先にソレを使えるように努力するわよ!」

「だったらさっさと努力してよ! 私は! ……悠華みたいに魔法が使えるわけでもないんだから……」

「?……兎に角、この姿の状態でいるとレイヴンの言う通り変態痴女にしか見えないわね。一刻も早く服を着ないと……でもこんな場所で服を調達するなんて出来る筈がないし、魔法で服を作るだなんて……いや、そういえば前に確か……」


 およそ二週間前の出来事だろうか。白の魔女セレネを圧倒した魔女討伐部隊との戦闘で彼女は憤怒に身を委ねて暴走してしまった事がある。それはバチカンの教皇直属の秘密騎士団の騎士であり、聖女の子孫とされるアンジェリークとの戦闘だ。この時、彼女は事故とはいえ偶然グラウンドに現れて巻き込まれた奏美の無残な姿を見て理性を失い、止め処なく滾る怒りに任せて妊婦のアンジェリークを殺害する寸前まで追い込んでいた。

 その時に彼女は何故か以前に対戦したアテナのまさかりを手元に具現し、アンジェリークを圧倒していたのだ。それに悠華は未だに魔女の使い魔である〈妖精ピクシー〉から魔法に関する知識を教授されていないというのに幾つかの魔法を独学で得ている。

 

 ――想像力だ。

 

 想像力で構築魔法を生み出したように、服を調達する魔法もまた想像力で生み出すのだ。


「(頭で想像するのよ……奏美とテレジアちゃんが着ていた服のイメージを具体的に想像して浮かび上がらせてから魔法を使うのよ。生地は何か、服のカラーは何か、柄は何か……段々イメージが湧いてきた。テレジアちゃんはいつも修道服を着ていたからイメージがすぐに湧くわ。でも奏美はどんな私服を着ていたかしら……最近オシャレに興味がなかったから彼女の私服なんて見てなかったわね。なかなかイメージが浮かばないというか、そもそも今日何を着ていたのか全然見当がつかないわね。暗記は得意なのに親友の私服が浮かばないなんてどうかしているけど……もう奏美は適当でいいや!)」


 脳裏で段々と編み出していく心象を元に、体内で血管の如く張り巡らされた魔力回路の流れを両手に集中させた悠華は、手中で煌めく白光を自身の裸体と奏美たちに放出した。


修復リペアシャイン!」


 独学の知識だけで得た魔法名を叫んだと同時に、悠華の晒された裸体にフリルで飾られた戦闘服が再び纏われた。色彩や生地まで再現した魔法はテレジアにも同様の効果を与え、童女に修道服を再び纏わせた。〈虚空メタフィールドダークの寒々しい空気で体を震わせていた彼女は元通りに服が纏われたのを見て動揺と歓喜の情を見せた。


「わぁ! カナミお姉ちゃん、テレジアの服が……元に戻ったよ! カナミのお姉ちゃんが言った通りハルカお姉ちゃんはマホーショージョなんだね! すごいすごい……!」

「ええ、確かにそうね……悠華お姉ちゃんは魔法少女ですごーい魔法を使ってくれたわ。だけど、だけどだけどだけどだけどねっ! 何で私だけは私服じゃなくて着ぐるみなのかな~? 言い訳を聞いてもらいたいんだけどな~♪ さぁ早く!」

「……ゴメン、奏美が普段どんな私服を着ているのか忘れちゃって適当にイメージして作成しちゃったわ。大丈夫、大好きなエレ○ングの着ぐるみだから人気者になれるわよ?」

「ふざけないでよぉ! 私が着た私服、二万円近くしたんだからぁ! ああもう女子力低い悠華にもっとオシャレの重要性を教えておくんだったぁ!」

「し、仕方ないでしょ! 裸じゃないだけマシじゃない! こっちは死にもの狂いで戦って――うわわわわ!?」

「悠華!?」


 二人に気を取られて警戒を緩めてしまったのか、横から突如現れる巨体黒い物体を悠華は回避できずに吹き飛ばされてしまった。それは一瞬で黒豹へと変身したシュヴァルツェア・レオパルドであり、暗黒に姿を晦ましたレイヴンの代わりに襲撃してきたのだ。黒豹は白の魔法少女を仰向けに押し倒し、喉元に噛み付いて引き裂こうと口を広げた。ガパリ、と開いた口からは唾液が迸り、羅列した牙が悠華の首元に触れようとしていた。


「リリウム・セラフィー、貴女は私の牙で絶対に仕留める……その柔らかそうな喉元を食い千切って確実に。これは野生の意思」

「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ! なんて力なの、まるでワニみたい……徐々に口が閉じていく! このままでは噛み付かれるっ!」

「抵抗しない方がいい。私に食われた者たちはそうやって抵抗して死んだ。大人しく私に食われる方が死への恐怖に脅える事もなく楽に逝ける。貴女が消えれば、関門市に……レイの古傷を疼かせる街に留まる必要もなくなる」

「レイヴンが関門市に留まる必要が……? それは一体――いや、今はこの逆境をどう乗り越えるかが先決ね! 〈リリウム・ウォーム〉!」

「ガ、ガガウッ!? 一度ならず二度も光で晦ますつもりか……だけど〈虚空メタフィールドダーク〉で強化された私達が二度も同じ策に嵌るなど――ガウッ!?」


 瞬時に手中で凝縮させた小粒程度のエネルギー弾を黒豹の口に押し込むと、悠華は質量を増大してレオパルドの口内で炸裂させた。相対する属性の光に視界を遮られた黒豹は、口内で拡大する焦熱と黒鉄くろがねの味を舌で感じながら鮮血の飛沫を吐いた。

 シュヴァルツェア・レオパルドは変身魔法とは異なる魔法を使用していない。あくまでも肉食動物の身体能力を生かした戦法を用いてリリウム・セラフィーと対抗している。それがブラフならば警戒する必要があるが、単に変身魔法以外の別類の魔法が使用できないのならば手段は幾らでも考えられる。

どれだけ知能が高かろうが動物は火を恐れる。高温度のエネルギー弾を口内で炸裂されて大打撃を受けた黒豹は自身の体色と同様の漆黒の空間に消えた。

 レイヴン・シェイド、シュヴァルツェア・レオパルド、ポイズン・スワンプの三名が姿を消した今、〈虚空メタフィールドダーク〉は陰鬱の静寂を体現する空間と化していた。その静けさが悠華たちに不気味な印象と演出を与えていた。


「……やけに静かだわ。私を拷問にかけた礼として一発お見舞いしたのはいいけど、レイヴンたちが姿を見せないのが気になるわね。どこから襲撃してくるか皆目見当が掴めないから油断ならないわね……」

(あの! 神田悠華さん!)

「うおっ! いきなり誰かが脳味噌に話し掛けていると思ったらフィーなのね。暫く音沙汰がなかったら寝ているもんだと思い込んでいたんだけど……それで何?」

(むむぅ、フィーを主人マスターと同じお寝坊さんと決めつけないでくれなのです。それよりも! 重要なのは! 油断を少し見せてはならないという事なのです! 〈ブラック眷属サヴィター〉は全員、他人の影に潜む能力を所持しているのです。この闇の空間であれば影への潜入は不可能ですが、何処から襲撃してくるか予想できないので警戒してくださいなのです)

「……まさか、そんな事を伝えに私に話し掛けてきたの? 黒の魔法少女が影に潜入する能力を所有しているのなら倉岡市の時に伝えなさいよ! こっちは命懸けで戦っているんだから!」

(……ごめんなさいなのです)

「過ぎた出来事は兎も角として、レイヴンたちが姿を見せないのは奇妙だわ。きっと姿を隠して様子を窺ってスキを狙って――がああああああああ!?」

「は、悠華!? 急に苦しみだしてどうしたの!」

「痛い! 痛い! 痛い! 痛いィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 傷が、傷が、折角忘れていた筈の傷が、思い出したくもない拷問の記憶がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 何で!? 何で!? 何で!? まさか――ぐわあああああああああああああああああああ!!! 嫌だ、嫌だ、嫌だ!! その記憶を呼び起こさないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 奏美が驚愕の視線を向けるのも仕方のない事だった。その先には釣り上げられた魚の如くのた打ち回り、湿地の地面を芋虫の様に這いずり回る悠華の無様な姿があったのだから。真珠の肌が土に塗れ、華奢な肢体が下品に曲がり、澄んだ瞳が苦痛の情に彩られ、そして何よりも彼女自慢の藍色の麗しい藍髪が酷く汚れている様からにして彼女は確実に異常だった。

 しかも親友の奏美を更に驚愕させたのは、もがき苦しむ悠華の体の彼方此方あちこちから刃で刻まれたかのような傷跡が浮かんで外出血を起こしている事であった。数秒も経たないうちに傷跡は数十か所も浮かび上がり、最早目を向けられなかった。〈ホワイト眷属サヴィター〉に所属する魔法少女には、致命傷を除く全ての傷を回復させる〈自然オート治癒ヒール〉の能力が宿っているが、その能力の効果よりも体内に刻まれる傷の方が早く進行していた。

 苦痛に歪む悠華を嘲笑する声が聞こえると、闇の奥から三人の黒の魔法少女が出現した。


「カハハハハハハハハハ! いいザマだな、リリウム・セラフィー! あの時に何故必要以上に拷問したか、今になってようやく理解したようだな。全てはこの時の為だったんだよ!」

「ニヒヒヒヒヒヒヒヒ! しかもポイが無理矢理飲み込ませた毒のおかげで感度は最高だポイ! どうでしゅか~、今の気分は~? やっぱり気持ちいいポイ~?」

「貴女たち! 悠華に何を仕掛けたの!? 正直に答えなさい!」

「カハッ! 一般人の伊崎ソーミにわざわざ語る理由なんざねぇが教えてやるか……アタシが仕掛けたのは――――〈忘却せし頃に来る魂の傷〉」


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