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GENE SERIES 03 魔法少女たちの輪舞曲  作者: クリスタルナオト
魔法少女大戦Ⅰ 黒の来訪者
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白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART12 Three raid attack

 静寂の月夜に響いた銃声の後、一筋の流体となった弾丸がシュヴァルツェア・レオパルドの額を貫こうとした。それは正しく突然起きた事態で、黒の魔法少女と手を取り合おうとしていた悠華には予想できる筈などなかった。勿論、黒の眷属とて同じ事である。

 だが一人だけ予想外の事態を俊敏で対応できた者がいた。弾丸が黒豹の娘の頭を貫通する直前、彼女の背後で待機していたポイズン・スワンプが躍り出たのだ。

 そして詠唱魔法を唱えた。


『我の幼手に誕生するは害毒の溶液! ハンドフル・ハー!』


 幼子の細い手中で発動した黒の魔法陣から這いずり出た、毒々しい液体が鉄の塊の玉を呑みこみ、腹の中で跡形もなく溶かし分解した。

 その魔法の効果に悠華と奏美は慄いたが、彼女らの戦慄をより増大させたのはポイズン・スワンプの激烈な怒気だった。

 今まさに手を取り合って協力関係を結ぼうとしたのに裏切られた憤怒と、レオパルドのレイヴンに対する慈悲を踏みにじられた悲哀がポイズン・スワンプの面に浮き出ていた。

 ギリギリと歯を軋ませ、人を殺せそうな鋭い眼差しを陰から光らせた。


『よくも! よくもよくもよくも! レオを暗殺しようとしてくれたポイ! 大方、ポイたちの油断を誘って二人纏めて殺す算段だったつもりポイね!? 許さないポイ、レオを傷つけようとしたお前らなんか絶対に許さないポイ!』


 突然の事態――細江学校の校舎の方角から、自分たちが知らない何者かがレオパルドを射殺しよう狙撃した――に対応できなかった悠華はポイズンの誤解を訴えた。

 このままでは誤解で〈ブラック眷属サヴィター〉の協力要請が破談になり、また血みどろの衝突が起きてしまう。そうなれば今度こそ窮地に立たされ、最悪の場合は悠華どころか奏美の命の保証もない。

 魔力を使い果たしたばかりの〈スノー妖精ピクシー〉フィーも危険に晒される―!

 相手が魔法を以て実力行使した場合に備え、変身アイテムのヴィアージリングを隠し持っているものの、怒りで興奮している状態では取り出せない。それこそ相手を更に興奮させてしまう。


『違う、私たちは別に何も手を下していないわ! レオパルドを害為そうだなんて微塵にも考えてなんかない! これは偶然よ! 私たち以外の何者かが――』

『黙れクソ虫ども! よくもよくもレオの気持ちを踏みにじってくれたポイ! 〈ホワイト眷属サヴィター〉なんかクソ喰らえだポイ! 私の毒で絶対に溶かしてや――』

『ポイズン、止めて』


 再び詠唱魔法を唱えようとしたポイズンの暴走をレオパルドが肩を掴む事で止めた。

 ポイズンの口から幾度か小さな呻き声が漏れたところで、悠華はレオパルドが彼女の肩を僅かな悲鳴を上げる程に強く掴んでる事を察した。毒使い少女の瞼にはジワリと涙が溜まっていた。

 だがそれ以上に無表情を装う黒豹の娘から放出される憤怒が周囲の者に恐れを齎していた。

 瞳の奥から輝く金色の双眸はまるで草食動物を喰らおうと狙う肉食動物――そう、彼女の名前そのものを意味する黒豹だ。


「もういい……止めにしよう。協力関係を持ち込もうしたのが間違いだった。白の魔法少女リリウム・セラフィー、貴女なら私の思いが通じてくれると信じていたのに……残念」

「待って、私の話を聞いて! さっきの射撃は私たちが指示してやったわけじゃないわ! 私たちとは何の無関係の者が貴女を射殺しようとしたの! 絶対に私たちじゃない! だから誤解しないで――」

「誤解? 先程からこの場に紛れ込んでる僅かな魔力の匂いが勘違いだとでも? 貴女には言ってなかったけど、私はもう何者かが紛れ込んでいる事は既知の領域。〈魔術師ウィザード〉が私たちを狙撃しようと予想していたのだけど違った……ソイツは明らかに殺意を纏って私を射殺しようとした。しかもポイズンも殺す気なのに貴女たちだけには殺意がなかった……どう考えても貴女たちが怪しいとしか思えない。交渉は決裂ね」

「っ……!?」

「そんな、そんな事ってあるの!? 私たちは何もやっていないのに! たった一発の銃撃だけで破談するなんて!」

「バーカ! 仕掛けてきたのはそっちからのクセに何を言っているんだポイ! レオを殺すつもりだったポイけどそんな事はポイが許さないポイ! ミソ女なんかポイの毒で溶かしてやるポイっ!」

「だからミソじゃなくて伊崎奏美って言ってるでしょ! ちゃんと覚えてよ!」


 だが悠華と奏美が驚愕に見舞われたのは言うまでもない。彼女らの言い分によると魔術師ウィザードか或いは高い魔力を有する何者かが〈ブラック眷属サヴィター〉の二人――シュバルツェア・レオパルドとポイズン・スワンプを射殺しようとしたのだ。

 〈魔術師ウィザード〉と魔法少女は異なる価値観と対立から何度も争った過去がある。中には中立的な〈魔術師ウィザード〉も存在するが殆どは敵対している。しかし原則としては折り合いが悪い。

 先程の射撃では明確に黒の魔法少女に対して殺意はあったが、白の魔法少女に対しては殺意がなかったとレオパルドは語っている。

 つまり黒の魔法少女にしてみれば、白の魔法少女が害為そうとしたようにしか見えない。

 勿論悠華は正体不明の暗殺者とは無関係だから無実であるが、レオパルドは疑心暗鬼にならざるを得ないだろう。

 〈ホワイト眷属サヴィター〉にすれば黒の魔法少女の罠か、或いは不和を起こそうとする第三者の仕業だと予想したものの、相手が誤解しては予想も何もない。

 夜空に浸透する黒髪を靡かせて悠華を一瞥した後、レオパルドは未だに詠唱を魔法を唱えようと構えるポイズンを摘まんで背中に乗せた。


「野生の意思、〈大地トランス・ブック王者パン化身サー〉」


 四足動物の如く四つん這いの体勢を構えると、一瞬で二メートルを超える巨体の黒豹へと変身した。危害を加えるのではと想定してヴィアージリングを取り出すものの、黒豹は警戒して吠えるだけで手出しはしなかった。

 特に一番先に興状態だった筈のポイズンも落ち着いた様子で毛むくじゃらの表皮を撫で、敵意を向けるどころか見向きもしていない。

 すると黒毛に覆われた豹の喉の奥から少女の声が漏れた。


「結局、魔法少女は互いに相容れない者同士。私の願いが受け取って貰えないのなら後は殺し合うだけしかない。白の魔法少女リリウム・セラフィー、次はこの街で相見える事になるけど今度は拷問させる暇すら与えずに貴女をこの豹の牙で喰らい尽くす」

「っ……それでも私はレオパルドを裏切ってなんかいない……貴女の命を仕留めようなんかしていない!」

「言い訳は地獄に落ちてから何度も言いやがれポイ! レオ、平気で裏切れるような奴らの顔なんか見たくないからさっさと帰るポイ!」

「わかった。ポイ、今すぐに帰りましょ」

「あとミソ女もリリウム・セラフィーの序でにポイの腐毒で溶かしてやるポイ! 白骨と化すまでドロドロに溶かしてやるポイね!」

「だ・か・ら! 私は伊崎奏美だってば! ちょっとはその少ない脳味噌で覚えてよね!」

「最低裏切りミソ女の名前なんてミソで良いのだ! さぁ、レオ、こんな奴らに構ってないでさっさと帰るポイ!」


 ポイズンに急かされたレオパルドは僅かに唸り声を上げると、驚異的な跳躍力で校舎とは正反対の街の方向へと飛び去った。瞬時に街の中に消えた。

 細江中学のグラウンド――ここで何度も命を賭した戦闘が行われた――に残った二人は複雑な感情を交えて、黒の魔法少女が消えた方角をジッと見つめていた。


「悠華、何でこんな事になっちゃったんだろう……誰が、誰が、レオパルドさんを狙って不和を起こしたの? しかも明らかに殺意を持っていたなんて……」

「私にはわからない。けど、これで判明したのは……〈ブラック眷属サヴィター〉との衝突が回避不可って事ね……」

「もう戦うしか道がないなんて他に手段はないのかしら……」


 同時に項垂れる二人。すると悠華が即座に校舎の方へと振り返った。

 その先――暗闇に包まれた校舎の屋上で、何者かが校舎の中に消えたのを彼女は見逃さなかった。

 闇夜に紛れていて容姿までは確認できなかったが、悠華はソレが黒の魔法少女との不和を狙った人物ではないかと懐疑の念を隠せなかった。




 翌日。重苦しい顔つきで朝を迎える事となった二人は〈魔女ジュエルハー〉で充分に魔力を回復したフィーに昨夜の出来事を打ち明けた。〈スノー妖精ピクシー〉は青ざめた様子で戸惑っていたが、反省を促した程度で特に咎める事はしなかった。命があるだけ奇跡という了解で納得したらしい。

 とはいえ事態が少しも良好となったわけではない、寧ろ悪化している。倉岡市にて潜入していた黒の魔法少女たちは完全に此方の居場所を察知しており、いつ襲撃の可能性もおかしくない状況で全く皆目掴めない。

 現在のところは一定距離内に強い魔力反応が伝わらないとフィーが言ったので安心できたが、それがまた疑問を呼び寄せてしまった。

 昨夜に陰から〈ブラック眷属サヴィター〉を射殺せんと狙撃した謎の人間。レオパルドはその者を〈魔術師ウィザード〉だと断定したようだが、もし該当するなら距離内に魔力反応が見られる筈である。

 一定距離とは言っても半径五十メートル内なので限られているが、魔法少女と同様に高い魔力を有する〈魔術師ウィザード〉の魔力の反応を感じない筈がない。悠華が校舎の屋上で見かけた人物なら尚更である。

 あくまでも悠華の想定ではあるが、〈魔術師ウィザード〉なる人物が既に細江中学に侵入している可能性が無きしにも非ずという事が有り得るからだ。


「(まさか、細江中学に〈魔術師ウィザードが潜入してるわけが……いやレオパルドは『魔力の匂い』とかで感じ取っていた。けど、いくら何でも人間の鼻で匂いが嗅げるなんて話はないわよ……でもあんなに殺伐した目で睨まれるんだからやはり――)」


 パジャマを着たままベッドの上で顎に手を当てて思考を巡らしていると、着替えの途中の奏美が訝しんだ。


「どうしたの悠華、物思いに耽ちゃってさ?」

「え? いや、別に何でもないわ!」

「昨夜の出来事があったから何でもあるに決まってるでしょ。あんな事があれば誰だって落ち込むわよ。だけど昨日は昨日、今日は今日、明日は明日、いつまでもクヨクヨしてられないんだから」

「奏美……そうね、落ち込んではいられないわね」


 相手は黒の魔法少女。偶然に似た必然の非現実に巻き込まれた悠華とは相対しなければならない敵だ。しかも話に依れば黒の魔女エレクトラは白の魔女セレネを確実に排除しようと日頃から画策していたという。

 〈魔女ジュエルハーを奪取する為に、今度は三人同時に襲撃してくるだろう。絶対に彼女らとの衝突は免れない。

 しかし相手はは悠華と同様に背負いきれない過去を共通して抱え持つ少女たちだ。敵であれどもいつかは分かり合えるかもしれない。理想論ではあるが。

 ――レオパルドの胸に秘めた希望のように。

 落ち込んでいる時ではない。絶望しか覗けないから希望が望めないわけではない。そう思うと肩の荷が下りた。

 今は気分転換が必要だ。悠華は臍が見えるまで体を伸ばした。

 すると部屋の外からノック音が鳴り、聞き覚えのある声が耳に入った。


「神田さーん、伊崎さーん。今日は関門市の臨海区で記念祭が開催されるみたいだよ。行ってみない?」

「ソーソー、しかも悠華さんにとっては結構ナお楽しみになるみたいだヨ。行こうヨ行こうヨ!」


 隣部屋に暮らす白上相葉と藤宮アグリアの両名だ。二人ともやけに楽しげな口調で外出を誘っている。何故か私服姿に着替えた奏美には一応理解出来ているようだが、未だパジャマの姿の悠華は首を傾けていた。


「奏美、今日は何か催し物でも行われるの?」

「あのねぇ……今日は関門市の設立六十周年の記念祭が行われるに決まってるじゃない。しかも悠華の大好きな特撮ドラマの『碧海戦雄ザヴァーンⅨ』のヒーローショーが市民会館で行われるんだよ? 知らなかったの?」

「え?…………えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

「ちょ、ちょっといきなり大声上げないでよ! 寮生たちに迷惑だから静かにしてよねっ!」

「本当に!? あの人気特撮ドラマのザヴァーンがここでヒーローショーやってくれるの!? 私、ずっと楽しみにしてたのよ! えー、本当に行われるんだー! 行く行く、私行くわっ! 今すぐ行こっ!」

「ちょ、ちょっと! 落ち着きなさいって。悠華、顔が近い」


 先程までの憂鬱な面とは打って変わって、純粋で悪意を持たない赤子の如く目を輝かせる悠華。期待と興奮のあまりに互いの鼻が触れ合うくらいに接近し、彼女の端麗な顔立ちが奏美には恐怖に思えた。

 奏美の脳裏によぎったのは、彼女が他の特撮番組に負けないくらいに「碧海戦雄ザヴァーン」を視聴していた場面だった。

 元々、地方で制作された当地の特撮番組という事とハードボイルドなシナリオが女性には受け辛いので、特撮好きの悠華も流石さすがに視聴しないかと思いきや見事に嵌りこんでいたのである。地方の放送チャンネルで彼女がどっぷりと応援して視聴してた場面を奏美はベッドから何度か目撃している。


「急がなくてもいいよ。神田さんの大好きな『ザヴァーンⅨ』のヒーローショーは午後から開始するからゆっくりしてても大丈夫だよ。会場の市民会館は無料で開いてるから気軽に入場できるよ」

「えー本当に!? てか何で私が『ザヴァーン』が好きだって事知ってるの? 奏美しか知らない筈だけど……」

「そりゃ当然だヨ! 隣部屋から壁の向こうから熱く特撮を語ってる神田さんの声が聞こえるし、特撮ドラマのBGMとか漏れてるから知ってるのは当たり前なんだヨ!」

「うわあああああああああああああああん!! 私の趣味があっさりバレてたなんて―――! しかも丸聞こええぇぇぇぇぇ! いやあぁぁぁぁ!」


 まさか自分の歓声が隣の部屋の住人と漏れていたとは思わず、羞恥でガクガクと頭を震わせる悠華。普段から彼女の特撮好きに呆れていた奏美としては、狼狽える彼女の様子が面白可笑しく見えており、悪戯な笑みを隠せないないでいた。

 しかし、この後に奏美本人も白上相葉の口から、ジャニーズ好きである事、『ザヴァーンⅨ』の主人公である八神宗次役のイケメン俳優が好きである事、本人が来る事を知って実は悠華の意向に従ったフリを見せてヒーローショーを観賞しようした事を暴露されてしまうのであった。



 お互いに内密にしていた筈の秘密を暴露された後、悠華と奏美は白上相葉と藤宮アグリア両名とは後で合流する事を約束した。記念祭やヒーローショーを楽しむのはいいが、共に連れて行く人物が一人必要だったからだ。

 それは正しく靖國テレジアであり、幼い彼女と遊ぶのが習慣になりつつあったからである。以前に倉岡市へ外出した際は悠華が〈ブラック眷属サヴィター〉に捕らわれた事もあって、楽しむ道理はなかった。

 今回はその詫びを兼ねて記念祭のヒーロ-ショーに連れて行くつもりだ。

 幸い、市民会館への往路の途中に教会がある為時間は要さない。先週と変わらず温かく迎えようと向かう二人。

 但し先週と違うのは奏美がジュラミルンケースを提げている事だ。中には勿論〈魔女ジュエルハーが入っている。黒の魔法少女――シュヴァルツェア・レオパルド――に『魔力の匂い』とやらで居場所を特定された今、常に持ち歩いてなければ奪取される可能性が高い。だからといって襲撃される危険性が高くなるわけだが、どの道免れないのなら同じ事である。


「もしかしたらテレジアちゃんを巻き込んでしまうかもしれないけど……」

「大丈夫。私が二人を、〈魔女ジュエルハーも守って見せるわ。それに今度は一人じゃない、私を助けてくれた妖精ピクシーさんも傍にいるしね!」

「はいなのです! 絶対に悠華さんを守りますなのです!」


 ジュラルミンケースの内部から意気揚々とフィーの幼げな声が聞こえた。だが間も無くして彼女の方から唸り声が聞こえた。

 奏美が懐疑に感じて質問する。


「どうしたの? 唸っちゃってさ」

「う~ん、それがですねぇ気になる事を先程思い出しましてなのですね、悠華さんと奏美さんがこれから連れて行くテレジアさんが不思議なのですよ」

「テレジアちゃんが?」

「はいなのです。生命の形として構成を為す役目を果たす魔力回路は血管の如く複雑に張り巡らされているなのです。それがテレジアちゃんから感じられる魔力の波動ではまるで人工的に張り巡らされている気がするなのです。もっとも本人と接触しなければ確信は持てないのですが」

「人工的に……あの子が?」


 永善が拾ってきた子――靖國テレジアについては未だ多くの謎を包まれたままである。彼女と遊ぶようになってから心の距離だけは着実として近づきつつあるが、それでも彼女に関する情報を得る事はない。それどころか彼女は自分が何者なのか考えた事がなく、何一つとして得られないのである。

 関門せきと市を去った永善ならば知っている筈だが、生憎彼との通信手段がないの。どうしようもないのだ。

 それはそれとして深く考えても仕方ない。疑問が解決に結び付くのは程遠い。

 フィーの疑問に考察を巡っているうちに、二人は高台の上のカトリック教会へと到着した。

 定時に行われるミサも終了しており、コルベ神父は自治労働会館の自室で休憩を取っている事だろう。そう思った二人は当館へと尋ねた。

 玄関のチャイムを鳴らすと神父の代わりに家政婦――パートの前橋久子(34、独身)さん――が現れた。奏美から悠華が事件に巻き込まれた事を知っていた家政婦は彼女の安否を確認した後に答えた、


「テレジアちゃんと遊びに来たのなら教会の方で聖書を読んでいると思うわ。だけど少し遅いわねぇ、いつもならそろそろ帰ってくる頃合いなのに。ちょっと私が連れてきましょうかね?」

「いえ大丈夫です。私たちが教会に行ってみますのでご心配なく」

「そう? ならいいんだけど……じゃあ神田さん、伊崎さん、テレジアちゃんを頼みます」


 年若い家政婦にテレジアを頼まれた二人は自治労働会館の隣にある教会へ向かう事となった。

 教会の目前まで訪れた時、ジュラルミンケースに潜在していた〈スノー妖精ピクシー〉が異変を感じ取った。


「フィーちゃん、どうしたの?」

 

 僅かな反応を左手から感じた奏美がケース内の〈妖精ピクシー〉に呼びかけた。


「悠華さん、奏美さん! 何か今、教会の中に膨大な魔力を有する者が現れましたなのです! しかも三人! 魔力の波動からにして……黒の魔法少女たちなのです!」


 教会内に三人の魔法少女がいる――それを聞いた悠華は驚愕の面を隠せないでいた。黒の魔法少女、それも三人――間違いなくレイヴン・シェイドとシュヴァルツェア・レオパルドとポイズン・スワンプの三人だ。

 何故彼女がここに現れたのかという疑問が生じる前に、悠華は即座に教会の聖堂内へと駆け込んだ。

 奏美も続いて聖堂と駆けこむと親友と同様に驚愕に見舞われた。


「よう、久しぶりだなぁ……白の魔法少女リリウム・セラフィーさんよぉ。お前のツラ、もう一度見たかったぜぇぇぇぇ。カハッ、カハハハハハハハ!」

「レイヴン……シェイド! 貴女の方こそ!」


 聖堂内にいたのは〈スノー妖精ピクシー〉の言う通り、セレネの〈魔女ジュエルハー〉を我が物とせんと狙う黒の魔法少女だった。

 レイヴンは幾何学模様の刻まれたナイフをテレジアの喉元に据えて此方の様子をげいしていた。どうやらテレジアを人質にするつもりのようだが肝心の本人は事態を理解していないのか、首元に据えられたナイフを怖がりもせずに聖書を抱えて首を傾げていた。

 そしてレイヴンの背後の二人――シュヴァルツェア・レオパルドとポイズン・スワンプは相棒とは違ってどこか冷えた態度で構えていた。

 

「レイヴン、その子を――テレジアちゃんを今すぐに離しなさい! さもないと――」

「カハ、カハハ、カハハハ! さもないと許さないってかぁ? おいおい、正義の使者みたいな台詞を吐くんじゃねぇぞ! カハッ! アタシらは魔女から力を与えられた特別な人間だ、弱者が己を守る為に勝手に決めつけた法則に従う理由なんざ微塵もねぇ! そしてアタシたち〈眷属サヴィター〉は互いに殺し合う者同士だ、正義を決めるのは勝者だけだ! 正当性を主張する権利はねぇ!」

「それでも平気で悪を語るよりかはマシよ!」

「貴女にソレが言える権利があって?」

「オマエなんか消えちゃえポイ!」


 悠華への反論か、レイヴンの背後からレオパルドとポイズンが突き刺すように冷たい言葉を投げかけてきた。昨夜の出来事で、敵とはいえ信頼を失ってしまった悠華と奏美に反論の余地はなかった。

 出来事を知らないレイヴンはやや疑問符を浮かべながらも嘲笑を聖堂内に響かせた。


「カハハハハハハ! レオとポイの奴、やけにアイツらに対して憎悪を噴出してるみたいだがどうしたんだぁ?」

「――別に」

「何でもないポイ」

「んん? そうか、アタシの思い過ごしか。まぁいい。話を戻すがリリウム・セラフィー、テメェの要望通りに人質を返してやるよ。アタシは拷問が大好きだが対象以外のヤツらを嬲り殺しにする程鬼畜じゃねぇ。それにコイツから魔力の反応は不思議だ、テメェらを皆殺しにした上でゆっくりと解剖してやるよ」


 押し当てていたナイフを懐に納めると、黒の魔法少女は人質として預かったテレジアを悠華たちの方へと押し出した。押し飛ばされた衝動でぎこちなかったが、テレジアは二人の元へと駆け寄った。


「ハルカ、カナミ! 遊びに来てくれた……今日はどこに遊びに行くの……?」

「テレジアちゃん、今日は市民会館で『碧海戦雄ザヴァーンⅨ』のヒーローショーを見に行きましょ。でも、その前に悠華お姉ちゃんがあの黒いお姉ちゃんと話を済ませてくるから待っててね」

「うん……テレジアいい子になる為にちゃんと待つ……!」

「ほう、どうやらそのガキは事態を少しくらいは理解しているみたいだな。カハッ! じゃぁ三度目の死合といこうじゃねぇか。リリウム・セラフィー、さっさとヴィアージリングを嵌めな。カハハ!」

「言われなくても――!」


 予め用意していたヴィアージリングを取り出すと、悠華は乳白色の光輝をレイヴンたちに見せつけるように緩やかに嵌めた。

 二度ある事は三度ある。だが今度など存在し得ない。どちらかが倒れているからだ。

 初めての魔法少女との戦闘で悠華は殺し合う事を余儀なく強要された。魔法少女の戦いは理想とは違ってあまりにも残酷すぎる事を知った。

 ――まさに惨劇の繰り返しだ。

 しかし魔法少女たちは他人が引け目を感じる過去を背負って現在を生きている。悠華も、レイヴンも、レオパルドも、ポイズンも同じ枷を嵌めている。

 ――彼女らは互いに似ている。

 だからといって悠華は流されるままに惨殺されるわけにいかない事も知っていた。相手の〈ブラック眷属サヴィター〉とて既知だろう。

 いびつなまぐさい魔法少女同士の歪んだ戦いを白と黒の魔法少女は制するだけである。

 奪うか奪われるか。守れるか守れないか。勝つか負けるか。それだけの単純な戦いだ。

 悠華は胸に秘めた想いをヴィアージリングに託して叫んだ。


「白き天翼は熾天使の象徴! リリウム・セラフィー!!!」


 彼女のヴィアージリングが白の光輝を放った瞬間、レイヴンは不気味な笑みを浮かべた。


「カハッ! カハハハハハハハッ! それでいい、アタシを楽しませてくれよぉ! アタシも行くぜ! 闇よ、広がれ―――――――〈虚空メタフィールドダーク〉!!」


 太陽の光を受けて輝くステンドグラスの聖堂内に暗黒物質がレイヴンの周囲から湧出した。



 久方の投稿です。

 私用の方で色々と忙しかったので暫く投稿が億劫になってしまいました。すみませんでした。

 読者の為に努力してまいります。

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