白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART11 篠塚美羽の過去
シュバルツェア・レオパルドから語られた事実はあまりにも衝撃的なものだった。
〈黒の眷属〉レイヴン・シェイド――篠塚美羽が日本人であり、風俗嬢の篠塚美愛の娘として誕生し、シングルマザーの家庭で育ってきた事。
名を知らぬ派遣社員の父の仕事でアフリカの地に赴き、そこで武装集団の襲撃に遭った事。
弾丸が飛び交う戦場で両親を射殺されて、冷たく転がる遺体に縋り付いて大粒を涙を泣いていた事。
そこで戦争幇助の民間軍事会社リーガル・モントルー社のベテラン傭兵、ギルバル・イブン・アーヴェインと邂逅した事。
後に彼に誘拐されて少年兵としての育成プログラムで調教され、中東やアフリカなどの戦場でライフルを抱えて駆け巡っていた事。
黒豹の娘が語ったレイヴンの惨たらしい過去に悠華と奏美は口元を抑えない筈がなかった。
「嘘、そんな酷い体験を受けていたなんて……!」
「彼女の傷は貴女たちには到底わからない……いや同じ傷を背負う者同士リリウム・セラフィーにはわかるはず」
「え、あ、ええ、そうね」
「悠華?」
奏美には彼女が何故レオパルドの問いかけを肯定したのか理解の範疇に及ばなかった。
それも当然であり、悠華が敗北して捕らわれていた時に〈眷属〉が必然的に傷を背負っている事を聞かされたのだ。
レオパルドは動物愛護家の両親を密猟者に殺され、ポイズンは両親から毒を飲まされて捨てられ、レイヴンもまた家族を失った。
しかしレイヴンの身に宿る漆黒の闇はまだそれで終わりではなかった。
「だけどアーヴェインが憎む理由が説明されてないわ。レイヴンの過去はまだ終わりではないんでしょ?」
「確かにまだ終わってない。彼女がギルバル・イブン・アーヴェインを憎む切っ掛けとなったのはその後だった……両親を失ったレイヴンは彼に住処と食事を与えられ、代償として銃を持って戦う事を強要された。彼女にとって戦場は悦楽の場だった……敵を射殺しなければアーヴェインからの仕打ちに耐え切れなかった……」
事ある度に彼女はアーヴェインから酷い拷問を受けていた。
ナイフで心臓や手足を切り刻まれ、灼熱の棒を頬に押し当てられ、顔が潰れて歯が欠ける程の暴力を受け、無数の針で貫通され、耳や鼻を削がれ、目を抉られ、舌を切り取られ、表皮や皮膚を剥がされ、骨を折られ、四肢を分断され、火に炙られ、水中に沈められ、強姦を受け、地面に叩きつけられて足蹴にされ――。
数えきれない程の傷を彼女は肉体的にも精神的にも負う羽目になった。
それだけではない。レイヴンはアーヴェインが開発する新型の麻薬の実験材料とされ、常人であれば完全に廃人となって死亡するであろう量の注射を受けていたのだ。
アーヴェインの手で虐殺された〈白の眷属〉を廃人に追いやった麻薬もレイヴンへの実験から開発されたのだろう。
「一日の糧である食事にさえガンパウダーが混ぜ込まれているのに、数々の注射を受けるのはまさに地獄でしかなかった」
ガンパウダーには麻薬成分のトルエンが存在し、少年兵はこれを混入した食事を与えられている。火薬を口にする事で殺人への恐怖や脱走を防止させ、依存症を引き起こして戦わせるという手法である。
恐ろしい事にこの手法は少年兵を扱う組織なら当然の如く行われているのだ。
「酷過ぎる……」
「彼女の崩壊は遠くはなかった。麻薬の連続注射でボロボロになった身体は戦場では役に立たない、実験材料の価値もないと見做されたレイヴンは戦場で捨てられた……今にも命が絶え絶えになった時、我らの契約主が彼女を救った……そして私とポイズンと出会った」
黒の魔女エレクトラを介して邂逅した黒の魔法少女。三人とも『両親』を失った哀れな少女だ。
数日前にレオパルドが悠華の傷を舐めた時に彼女はレイヴンやポイズンの二人と家族になりたいと仕切りに願っていた。
他人から「家族のフリをしているだけだ」と批判されようが関係ない。彼女らと触れ合える時があればそれでいいと切望した。
だからこそレイヴンの暴走を防止しようと画策しているのだ。
何故なら――。
「私がアーヴェインを倒したから……この手で倒したから?」
「そう――リリウム・セラフィー、貴女がアーヴェインを倒したのがいけなかった。レイヴンは元々、魔女討伐部隊にアーヴェインがいるのを知って日本に向かおうとしていた。だけど契約主は犬猿の仲だったセレネを見殺しにしようとレイヴンを黙らせた。セレネが〈魔女の心核(ト〉の状態と化した時にはアーヴェインは既に姿を消していた……それもリリウム・セラフィーが倒したから。彼女がそれを知った時、自分が殺すべき敵を消されてしまったと大いに嘆いた」
奏美を人質に取るという卑劣な手段を用いてまで魔女の命を狙う傭兵を、悠華はか細い手で倒した。
ただ上空から関門海峡へ落としただけで彼の生死は確認していないし、行方も定かではない。もしかしたら関門市の何処かで復讐の時を待っているかもしれない。
「倉岡市まで到着した時、彼女はアーヴェインを必ず発見して虐殺すると誓った。貴女も例外ではない……だけどレイヴンが行動を起こす前に手を結んでほしい。白の眷属は貴女一人、是非手を組んでくれると嬉しい」
彼女は肉球の手袋を外し、友好の意として左手を悠華に差し出した。
「確かに〈白の眷属〉は窮地の状態だから組まざるを得ないけど……それでいいの? 黒の魔女は私たちを良く思ってないんでしょ? それにこんな密会で手を結んだ程度でレイヴンが了承するかしら?」
「わからない……了解する可能性は低い。けど信じて欲しい……貴女なら了承してくれると信じている。だから私の手を取ってほしい」
「弱小の〈白の眷属〉は大人しくレオの言う事を聞くポイ! いひひひひ♪」
「……癪に障るけど、まあいいわ。お互い仲良くするのが一番よね、今は貴女の言葉を信じるわ。だから手を組む。その代わりちゃんと約束してよね」
「悠華、この人たちを信用するの!? 忘れたの! この人達は悠華を平気で甚振るような連中だよ、信用していいの!? 寝首を掻かれるかもしれないよ!」
「大丈夫だよ、彼女の言う事は真実だわ。私の心がそう語っているわ。だから信用する、黒の魔法少女と手を組むわ。黒の魔女が了承しなければ戦うだけだから問題ないわ」
「悠華……」
奏美が不安と言わんばかりに眉を潜めるが、対照的に悠華は彼女に安定をもたらす為に笑顔を取り繕っていた。
悠華とてレオパルドを百パーセント信用しているわけではないし、相手も全てを信用しているわけではないだろう。お互いに敵の真意を探り合っているに違いないだろうが、優勢である筈の敵が手を取り合おうとしている以上は関係を結ぶのが得策だ。
それに黒豹の娘は純粋な願いで〈白の眷属〉と手を組もうとしている。これは間違えようのない真実だ。
そして自分の命を賭けた覚悟だ、信じない道理などない。
悠華がそっと差し出した瞬間、レオパルドは金色の瞳を光らせて笑みを浮かべた。
「……ありがとう。契約主が話を取り合うかはわからない。裏切る可能性が高いけれど、レイヴンを傷つけずに済むのならこれ以上喜ばしい事はない。これから三人でずっと家族でいられる……」
レオパルドの手が悠華の華奢な手に触れようとした瞬間――。
校舎の屋上から狙撃ライフルのスコープで覗く者が一人。
「対象二名、これを排除する。神田悠華を傷つけた者は……この手で始末する!」
一発の銃声が静寂を保つ夜の運動場に響いた。
新年が明けてから文章が汚くなってしまい本当にすみません。最近、時間がないので所々文章がおかしくなってしまってます。編集で訂正しますのでご了承ください。本当にすみませんでした。




