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GENE SERIES 03 魔法少女たちの輪舞曲  作者: クリスタルナオト
魔法少女大戦Ⅰ 黒の来訪者
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白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART10 密会―Secret meeting-

 結果として伊崎奏美と〈スノー妖精ピクシー〉ニードリヒト・フィーは、セレネ〈魔女ジュエルハー)を狙う黒の魔法少女の手から悠華=リリウム・セラフィーを救出する事に成功した。

 手負いで魔力回路が空だった彼女をフィーが放った魔法で回復させ、〈ブラック眷属サヴィター〉レイヴン・シェイド、シュヴァルツェア・レオパルド、ポイズン・スワンプの襲撃も然る事ながら弱点の光で照射して苦悶している内に退散した。勿論、取引――元より交渉など無いに等しかったが――には応じなかった。

 だが、一方で彼女達は代償としては多すぎる犠牲を払う事になってしまった。

倉岡市警察署に所属する本郷刑事が奏美に提案した協力捜査で、実に数人もの警察署員がレイヴン一人に刺殺された。喉元の動脈を正確に削がれ、大量の鮮血を噴出してもがき苦しんだ挙句死んだのだ。

 〈虚空メタフィールド〉から脱出した後、彼女らは倉岡市のメーンストリート街に戻ったが、悠華を無事に救出できたからといって迂闊に事態を喜んでいられなかった。

 数メートル先で腹から血を流して倒れている本郷刑事となつを発見したのだ。

 

 ――そして二人以外の負傷者は誰一人として戻らなかった。

 

 現場を目撃した通行人が応じ二人を病院に搬送したので命を取り留める事に繋がったが、無関係の人間を巻き込んでしまった事に後悔の念を感ぜざるを得なかった。

 しかし問題は一連の事件が全て抹消された事である。

 目撃者から事情を聞いた警察が悠華と奏美を保護した後に事件の顛末を聴取したのだが、予想通りに彼女らを奇怪な輩を見る目で睨んできたのだ。当然と言えば当然なのだが嘘ではない。

 だが彼は事件を調査した同僚から話を聞いた途端に眉を曇らせた。沈痛と驚愕を含んだ面で沈黙した後に二人に言い寄った。


『本郷刑事が担当した当件は我々が解決する、もうこれ以上は関与するな。君達を巻き込みたくはないのが我々の願いなのだ……事情聴取は終わりだ、帰りなさい』


 ――と。

 警察の物言いに二人は納得できる道理など持ち得なかった。

 黒の魔法少女の襲撃、悠華の捕縛、本郷刑事や水夏の負傷――ましてや奏美が目の当たりにした、警察署員の死を払拭できないからだ。いや記憶から切り捨てるなど容易ではない。

 奏美は激昂して皮肉を吐いたものの、悠華が厳かな面で彼女を宥めた。

 無理もない。相手が通常とかけ離れた非現実に位置する人間ならば、一般人は恐怖に駆られて恐れ慄く。

 況してや『奇妙(魔)な術(法)』を使う『奇妙レイヴン少女・シェイド』が警察署員を殺害したという『奇妙な事実』を誰が受け入れようか。

 要するに倉岡市警察は事件を有耶無耶にして抹消を図っているのだ。事件と署員の遺体が証明できない事を理由に、適当にあしらって揉み消す算段である。そして全ての責任を本郷刑事に擦り付けるつもりだ。

 彼の意志と署員たちの死は無残にも踏み躙られたのだ。

 奏美は当然、悠華はクールながらも憤怒ラースを纏っていた。彼女は署員を冷えた視線で一目やって倉岡市警察署を去った。




 多忙で不在中の理事長の代理人の秘書に話を付けた後、学生寮に戻ると寮生から手厚いもてなしが待っていた。

 二人が帰った途端に黄色い声が寮内に響き渡ったのだ。


『お姉様! お帰りなさいませ! 私たち神田先輩のこと心配していたんですよ!? もしも危険な目に遭っていたらとそれはもう不安で不安で!」

『ちょっと里子ズルいわよ! 一人だけ抜け駆けするようなマネしないでよ! 私だって神田先輩の事毎日毎日ずっと心配していたんだから! ああもう、無事に戻ってきて良かった……!』

『神田先輩、これから先輩の無事を祝って……!』


 だが悠華は後輩の好意を受け取らずに部屋へと戻った。寮内の食堂カフェテリアに取り残された後輩たちは彼女の意思を汲み取ったのか、沈黙せざるを得なかった。

 

「ごめん。私、夜の空気を吸ってくるわ。白上さん、藤宮さん、私の為にパーティ開いてくれたのはありがたいけどこれでお開きにして」

 

 隣部屋の白上相葉と藤宮アグリア両名と無事を祝った催しが行われたが、悠華は悦楽に浸れる気分ではなく、若干賑わった空気を濁して静寂が漂う夜の運動場へと出た。

 時は既に十時。寮監の郁芳門院茉依先生が玄関で監視しているはずだが、今日に限っては職務で不在である。

 これから夏が到来するのに悠華は妙に身体を震わせていた。

 するとパーティで白上たちと談笑していた奏美が悠華の隣に並ぶ。


「夜の空気を吸うとか言って、こんな場所にいたら寮監……茉依先生に見つかるかもしれないよ? それにレイヴン・シェイドとかいう黒の魔法少女が襲ってくるかもしれないし」

「流石にここまではやって来ないわ。それに関門市と倉岡市は海を隔てて離れているからシュヴァルツェア・レオパルドの鼻で探知されない筈よ」

「しゅ、しゅばる……てあ、れおぱ? ごめん、横文字はちょっと苦手かな」

「シュバルツェア・レオパルド。ドイツ語と英語の単語を合わせた名前で確か『黒豹』、彼女は魔法で黒豹に変身する能力を持っているわ」

「あ、あの人がシュヴァルツェア・レオパルド……そ、そんな相手と戦ってよく無事でいられたわね」

「魔法が使えるとはいえ肉食動物と素手で戦うなんて初めてだったわよ。けど私がレイヴンたちに苦戦してたせいで奏美を……無関係の水夏や本郷刑事を巻き込んでしまった。それに捜査に参加してた署員が犠牲に……」


 小刻みに震える悠華の肩にそっと触れる奏美。彼女を一瞬だけ見遣ると双眸が潤いで満ちていた。


「悠華の責任じゃないよ。本郷刑事さんが行った捜査なんだから重荷を負う必要はないわ。それに刑事さんが一番悩んでいるはずだから。今もずっと苦悩してる……絶対に」


 捜査の前日、本郷刑事との対談で刑事職に対する意志を垣間見ている。彼は例え些末な事件でも決して職務を怠ることなく情熱を注いでるのだ。

 それ故に署員の死が彼の中でひどく渦巻いているのだろう。その痛ましい惨劇を目撃した奏美には治療中の彼の心境が見えるような気がした。

 悠華が苦しむのは人違いである。


「そうね……でもこれ以上は黒の魔法少女の好きにさせるワケにはいかない。何としてでもセレネの〈魔女ジュエルハー〉を守らなくちゃいけないけど、これでは消耗戦で埒が開かないわ……」

「フィーちゃんは〈魔女ジュエルハーから魔力を引き出すのに魔力回路が空になって休んでるわ。大役を買ってご苦労だったけど暫くは動けないわ」

「わかってる。けど私一人でレイヴンたち三人を相手に回すのは無理だわ。もう一度捕縛されて拷問されるのは懲り懲り……でもこのままでは何れ同じ事の繰り返しに陥っちゃうわ」


 闇に携わる故に光が弱点というのは収穫ではあるが、二度通用するかどうかは否である。戦闘不能に追い込む程の強力な魔法に対策が講じられない道理はない。相手はこちらよりもの経験キャリアは上なのだ。

 悠華が顎を手に当てて脳裏を巡らしている時、奏美は一縷の望みを打ち出した。


「――だったら! 私が魔法少女に――」


 その時。


「――やっと見つけた。どうやらここにいたようね」


 奏美の溌剌とした解答が投げかけられるよりも僅差で第三者の女性が悠華の耳に届いた。

 運動場の中央に視線を向けると、そこには意外な人物――いや遭遇してはならない人物が立ちはだかっていた。

 一人はアニマル風のコスプレ、もう一人は魔女風コスプレ――どちらとも二人には見覚えがあった。

 悠華の瞼がカッと最大限に見開かれるのも無理はなかった。

 ――そこにいたのは〈ブラック眷属サヴィター〉だったのだから。


「黒の魔法少女――シュヴァルツェア・レオパルド!! それにポイズン・スワンプまで――!!」

「イヒヒヒヒヒ♪ 久しぶりだポイ! 数時間前はよくも酷い目に遭わせたポイね! この恨みは何十倍にして返してやるポイ!」

「その言葉は寧ろ私が言いたいのだけど……」

「――と言いたいところだけどレオから手出し無用のオーダーが入ってるから特別に許してやるポイ!」


 えへん! と悠華よりも貧相な胸を張るポイズン・スワンプ。敵だというのに何だか緊張が解れてしまう。

 だが悠華は油断を見せる事なくポケットからヴィアージリングを取り出しながら身構えた。


「私たちの居場所をどうやって特定したの? 関門市と倉岡市は海を隔てているわ、ここまで来れる筈は……」

「伊崎ソーミ、私の鼻を舐めないで。どんなに離れた距離と雖も、リリウム・セラフィーとソーミに纏わりついた血の臭いを辿れば造作もない。時間を要したけどこの場所まで来るのは容易い」

「そ、そんな事が可能だなんて……てか、私の名前は伊崎ソーミじゃなくて伊崎いざき奏美かなみ! ちゃんと覚えてよね!」

眷属サヴィターでもないオマエの名前なんか伊崎ソーミで結構だポイ! やーいやーい! 伊崎ソーミ~! ソーミ、ソーミ、ソーミ~! ミーソ! ミーソ! ミーソ! ミソ! 味噌汁! オマエの名前、味噌汁~!」


 やはり年齢相応に子供なのか、口の端を指で広げて舌を出しながら罵倒するポイズン。

 無視すればいいというのに青筋を立てた奏美は負けじと張り合う。


「何を~! どこも育ってない青臭い子供のくせに生意気よ! このツルペッタン! まな板! 絶壁!」

「ぐぬぬぬぬぬ! そんな事ないポイ! ポイみたいにチョーゼツ可愛い幼女は大人の色香漂う妖艶な美女に育つのが常識だポイ! 伊崎ソーミにはその無駄でだらしない脂肪が似合ってるポイね! バーカバーカ! 無駄脂肪! 太っちょ!」 

「な、何ですって!? 子供のくせに生意気な~! ツルペッタン、まな板、絶壁!」

「……ちょっとだけ奏美にイラっときたわね」

「そう? 私には彼女らが何を争っているのか見当がつかないけれど」

「……大器を抱えるアンタには無関係な話よ」


 どうやら悠華の真意が伝わらなかったらしく首を斜めに傾げるレオパルド。

 腑抜けた雰囲気で忘れていたが彼女らは仇敵である。

 もしかしたらレイヴン・シェイドもいるのではと見回したが、彼女は此処には存在しないようだ。

 するとレオパルドが無表情のまま数歩近付く。悠華と奏美は彼女が黒豹に変身して攻撃を加えるかもと危惧して退くものの、それが微塵も感じなかったので立ち止まった。

 金色の瞳が月夜の如く輝く。


「白の魔法少女リリウム・セラフィー、貴女に提案を持ちかける。我々、〈ブラック眷属サヴィター〉と協定を結んでほしい」


 その言葉は驚愕させるには十分だった。

 何せ、昼間に相対したばかりの黒の魔法少女から協力関係を結ぼうと提案してきたのだから。

 それにリーダー格であろうレイヴン・シェイドを差し置いて。


「な、なん……ですって? シュヴァルツェア・レオパルド、一体何を」

「〈ホワイト眷属サヴィター〉は一人だけ。契約主マスターセレネは〈魔女ジュエルハー〉の状態。芳しくない状況は火を見るよりも明らか。私たちにはおろか、他の眷属サヴィターや魔術師に狙われてもおかしくない。即座に抹消される」

「イヒヒヒヒ! だからそうなる前に手を組もうって事だポイ! そうすれば他の眷属サヴィターから私たちが守ってやるポイ! どう?」


 ――協定。

 圧倒的に劣勢の〈ホワイト眷属サヴィター〉には確かにチャンスかもしれないが――。

 思考を巡らした悠華は頷かなかった。


「その提案にはすぐには受け入れられない。罠の可能性が否定できないし、そんな下手な交渉に私が応じるとでも? 何の思惑を秘めてるか知らないけど、交渉には応じられないわ」


 悠華の凛とした応答に黒豹の娘は若干眉をひそめて僅かに俯いた。

 レオパルドと対照的にポイズンは敵意を剥き出しにして奏美を睨んでいたが。


「――そう。だけどどうしででも貴女に提案を受け入れて協定を結んでほしい。私はレイヴンやポイズンが傷付くのは見たくない。それが願いだから」

「えぇ?」

「貴女も既知の通り、魔法少女たちは〈魔女ジュエルハー〉を狙って互いに策を巡らしながら好機を見計らって争っている。でもそれは本来、眷属サヴィターが背負った使命タスクじゃない。異世界に屯う不浄の魔物共を現世から駆除するのが役目。だからこそ魔法少女同士は手は取り合うべき」

「……どれだけ都合の良い御託を並べても貴女の言葉は響かないわ。大体、貴女の心底に秘められてる思惑が――はぷぅ!」


 だが、それはレオパルドによって途中で遮られた。

 肉球の手が塞いだからであり、顔面に柔らかい感触が広がった。


「私の願いは一つ。レイヴンやポイズンと家族でいたい、家族として在り続けたい。だから私怨に駆られたレイヴンを止めたい」

「私怨……? レイヴン・シェイドが?」


 一間置いてから彼女は――。


「レイヴンは貴女が――リリウム・セラフィーが過去に打ち払った魔女討伐部隊のギルバル・イブン・アーヴェインを激しく憎悪してる。彼がレイヴンを歪めた諸悪の根源だから」


 黒の魔法少女レイヴン・シェイド――篠塚美羽の隠された事実を語り始めた。

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