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GENE SERIES 03 魔法少女たちの輪舞曲  作者: クリスタルナオト
魔法少女大戦Ⅰ 黒の来訪者
33/48

白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART8 Second black raid

『本郷刑事さん、いきなりですが昨日の夕方にこんな電話が私のケータイにかかってきて、しかも相手は悠華のケータイを――』


『――ふむ、明らかに第三者が話しているようだな。発信源は……おおよそ倉岡市の周辺に決まっているか。こちらの方で誘拐犯と彼女の行方を――』


『いえ、私も警察の捜査に介入させてください! いや絶対に介入します!』


『君は我々の庇護下で大人しくしているんだ。犯人は不良生徒四人を惨殺した猟奇犯と同一の可能性がある。万が一の事態が起こってしまったら警察でも手に負えないかもしれん、そうなれば君の身柄を安全に確保できない――』


『いえ、私がいないと事態は解決しません! お願いですっ、決して迷惑をかけませんから警察の捜査に同行させてください! 私が囮になって誘拐犯を――』


『本気か! 相手は一筋縄じゃいかないんだ。最悪の場合、此方こちらに負傷者が現れる恐れが………………それでもいいのか? 君が囮になると言うのだから何か秘策があると信じていいのか?』


『は、はい! 刑事さんにはまだ教えられないので信用しづらいかもしれませんけど、相手が普通の犯罪者ではない以上、犠牲者を出したくないんです! だから同行させてください、お願いします!』


『――わかった……対策があるのだろうが、正直俺は半信半疑だ。犯人が何者なのか特定できない状況で君を囮に捜査するのは気が済まん。だから危険な目に晒された場合は君の保護を優先する。いいな?』


『覚悟の上ですから承知しています――』


『では明日の昼間、そうだな……十二時に捜査を開始する。君は開始時刻の三十分前までに倉岡駅に来てくれ。俺が駅内の中央で待つ。捜査の詳細はその時に通告する――』


 二十代の男性の声が聞こえなくなった途端、耳に装着された無線のイヤホンマイクが急に外された。

 突然の事態に振り向くと同時にアンダーリムフレームの眼鏡が左横にやや揺れる。

 そこには制服の左胸に萌黄の校章を同じく縫い付けた生徒がマイクを取り上げてニコニコと笑顔を繕っていた。

 

 シルキーウェーブの茶髪、おっとりとした瞳、左腕の袖に装着した腕章。

 当然、少女はその人物に見覚えはあった。


栞奈かんな三年生……どうしてこの場所に?」


「疑問符を浮かべる事じゃないでしょ。ここは私たちが生徒会を行う教室、つまり生徒会室。生徒会長である私以外の生徒会員が真面目に働かないから普段は閑静な場所だけど私の持ち場よ。コソコソ隠れて何を傾聴してるのかは知らないけどバレないとでも? ざ~んねん、近日行われる男子校生徒との交流会のプレゼンを探しにやって来た私に見つかったのが運の尽きよ」


「くっ! 私とした事が迂闊だったわね、生徒会室が誰も目につかない場所だから丁度良かったのに。何たる失態」


「別に恥じる事じゃないと思うけど」


 過去に行われた生徒会執行のイベントや学校行事で配布された資料等で溢れかえる生徒会室。誰かが「ゴミ部屋じゃないか」と言えば認めざるを得ない程に不要物で散らかっている。

 掃除担当の手が入らなくなってから既に久しく、漁れば十数年前の配布資料が発見されるのは勿論、中には昭和時代の校内新聞や文芸誌が掘り出される事も少なくない。

 体育祭や文化祭で使用されたハリボテやガラクタは劣化して朽ち果てているものの、ゴミとして廃棄されることなく放置されたままである。

 ファイルに纏められ棚に納まった資料もほこりが覆い被さっていて、その多くが閲読不可能な状態に腐食してしまっている。

 

 そんな状況の生徒会室で美堂千世は一人を除いて誰も来ないだろうと予測して、廃棄物にいんぷくしながら秘密裏に「ある事」を行っていたのだ。

 

 しかし生徒会室にて用事その証拠品となり得る無線イヤホンマイクを栞奈に取り上げられて彼女は焦燥していた。


「ん~? 何かマイクから声が聞こえるわよ~? ちょっと聞いてみようかしら~?」


「ちょ、ちょっと! それは!」


 先程まで千世の耳に宛がわれたマイクが今度は生徒会長の耳に装着される。

 瞬間、笑顔を繕っていた柳眉が眉間に寄せられ、千世は無表情を装うものの漂ってくる怒気に若干戸惑いを隠せないでいた。


「えー、なになに……………………ちーたん、また盗聴してたのね。プライバシーの侵害で訴えられたらヤバいって忠告してたのに、しかも警察相手に盗聴してたら事情聴取で連行されてもおかしくないわよ。わかってるの? ちーたん、やりすぎよ」


「っ……私はただ、あの方から任された『任務』を続行しているだけよ。止めてと忠告されて任務を中止する程お人好しじゃないんだから、いくら栞奈でも絶対に聞かない」


 あの方――当人の実名を親友に伝えないあたり、極力内密にしたい意図が潜在している。

 美堂千世という個々の女子生徒は日常生活において、同級生・後輩に対して後尾に所属する学年を添えて呼称する。教職員に対しても「先生」とではなく「教諭」を加えて呼ぶ事が多い。外部者なら尚更呼称名に特徴が付く。まるで他人をナンバーで呼ぶかのように。

 彼女が細江中学の生徒の中で注目を浴びているのは、風紀に厳しく几帳面な性格柄だけではなく、そういった特異性が影響しているとでも差支えない。

 初対面の生徒が彼女に呼称されると躊躇を感じるのは当然、親近感どころか壁を感じるのが殆どである。中には嫌悪を持つ生徒も少数ながら存在している。

 

 だが彼女の言うところの「あの方」という人物には尊敬や憧憬の意を醸しているのが明らかに見受けられる。そして美堂千世はその人物から与えられた、誰にも打ち明けられない「任務」を現在も続けているのだ。

 彼女が敬愛して已まない「あの方」とは如何様な大器を抱えた人物なのかは、常盤栞奈の狭小な想像力には容易に浮かべる事はできなかった。

 

 ただ理解できる事は一つ、その「任務」の対象とされる人物だけ。

 栞奈は生徒会長専用のシステムデスクに背中を預け、その傍らでイヤホンマイクを取り返そうと画策している千世に視線を向けた。


「――神田さんの事が気になるんでしょ。細江中学の生徒ならご存知だけど彼女、行方不明なんだってね。しかも犯人は倉岡市で騒動を起こした不良生徒を殺害した猟奇犯かもしれないと……そりゃぁね、ちーたんにしたら大騒動なんだろうけど、いつものちーたんらしく冷静に物事を見据えて対処してた方がいいよ。焦ってるちーたんなんて違和感ありまくりだからね~」


「……焦ってる? 何を馬鹿な、私は――!」


 生徒会長の耳に宛がわれた無線イヤホンマイクを奪還しようと右手を伸ばした瞬間、忽然として左手が彼女に掴まれた。

 意図が読めずに抵抗しようとすると、栞奈は左耳に装着していたマイクを千世の左手に握らせた。


「――何を?」


「没収する必要がなくなったから返還しただけよ。盗聴はもう無駄よ、会合はもう終わってるし。大丈夫よ、神田さんを一生懸命に救助しようとする親友と刑事さんがいるんだもの、絶対に帰ってくるわよ。だからちーたんが『武装介入』する余地はないわ」


「常盤栞奈三年生兼生徒会長、いや栞奈………………では私はどうすればいいと? このまま大人しく首を長くして待ちなさいとでも? しかし警察が懸命に捜査しているからといって安心はできないわ、その点私なら――」


「だーかーら、待機しなさいと生徒会長の権限で命令してるんだから大人しくしなさい。滅多に生徒会長の権限なんか振り撒けないから忍従してよね~」


「しかし!」


「大丈夫だって言ったでしょ? 彼女なら無事に戻ってくるわよ、絶対にね――――それはそれとして『碧海戦雄ザヴァーンⅨ』のリハーサルがあるから覚悟しなさいよ~? 演技は上々らしいからボンテージ姿も期待してるわよ!」


「な、ななななななななななな! こ、ここでその話を持ち出すのは卑怯っ! 恥ずかしいから誰にも言わないでよ、常盤栞奈三年せ……いや栞奈!」


「ウフフフフフフフ、誰にもバラさないわよ……貴女が大人しくしてればね♪」


 焦燥を浮き彫りにして眼鏡を光らせる同級生の慌てた姿に、細江中学の現生徒会長は誰もが癒されるであろう笑顔――しかし千世にとっては悪魔同然の笑顔――を緩めずに繕った。

 多数のゴミや不要物で散らかった生徒会室の外では快晴の青空が水平線の如く果てしなく広がっていた。





『カハハハ、もしもーしぃ! 聞こえますかぁぁぁ? お、聞こえてるじゃん! 進化した文明の機器であるケータイを使うのは初めてだからなぁ! 糸電話みてーに線繋がってねーのに電話できるなんてどんな仕組み使ってんのか、すげーよな! こうやって通話してるだけでワクワクしてくるぜ! おっと申し遅れたな、アタシの名前は篠塚美羽、またの名はレイヴン・シェイド! 白の魔法少女と相対する宿敵、黒の魔性少女のエース! 大将クラスと言っても相違ないぜ! ところで伊崎ソーミだったかな……親友のケータイから電話が掛かってきたという事はその脳味噌で理解できてるよな? そうだ、白の眷属サヴィターリリウム・セラフィーだ! アイツの身柄はこっちが拘束している! この世から消すのも目的なんだけどよぉ、一番優先すべきは白の魔女セレネのジュエルハートだ!! ソレが喉から手が出る程に欲しいんだなぁ! 既に何回かキツイ拷問を施してたが強情な性格で居場所を全然吐かねぇ、そこでだ、オマエさんならジュエルハートの傍にいる筈だと予想してリリウム・セラフィーのケータイから態々(わざわざ)電話してやったというわけさ。取引だ、数日以内にジュエルハートを持って倉岡市に来い、これでもアタシらは寛大な性格だから期限日まで首を長くして待ってるぜ。だが期限内にジュエルハートを持って来なければリリウム・セラフィーはアタシらの手で確実に息の根を止める! カハハハ! もっとも取引に成功しても後日ブッ殺すけどなぁ! カーハカハカハカハ! では伊崎ソーミ、倉岡市で待ってるからな。懸命な判断を期待しとくぜ! カハ!」


 黒の魔法少女レイヴン・シェイドと名乗った相手は悠華のケータイを利用し、相手に物言わせぬ口調で事を伝えて即座に通話を切った。

 間違いない、悠華は捕縛されてはいるが確かに生存している――!

 平気で拷問を行ったと告げたあたりでは相当残酷な仕打ちを受けたのだと把握できるが、彼女は屈服する事なく生き長らえているのだ。

 敵はセレネさんのジュエルハートを渡せと忠告していた。そうすれば交渉に応じてくれるらしい。


 ――しかし黒の魔法少女と接触し取引したとして、悠華を『無事に返す』だろうか?


 レイヴン・シェイドからの電話では捕縛された悠華を返すとは微塵も言ってない。その逆、彼女の殺害は明確に告げている。

 ともすればジュエルハートを強奪して私諸共息の根を止める可能性があるかもしれない。

 本郷刑事さんにはジュエルハートの存在を明かしてないが猟奇犯と交渉すると告げると、万が一の非常事態を見越して警戒するように呼びかけていた。


 現在、私は倉岡駅の南口からメーンストリートへ向かう途中。勿論、黒の眷属サヴィターなる人物と出会って交渉に応じる為だ。


『今回の作戦に参加した署員は合わせて十人、そのうち俺を除いた九人の署員が半径十メートルの範囲内で君を至る場所から監視する。私は自動車で背後から追跡するからくれぐれも相手に警察の存在を悟られないように振る舞えよ』


 ――作戦決行の日、倉岡駅に到着した私は合流するなり本郷刑事からそう告げられ、間もなく囮役として捜査に協力することになった。

 あくまでも表向きは囮役として買って出ているが猟奇犯の逮捕の為に志願したわけではない。優先事項は悠華の救出なのだ。

 それに本郷刑事には悪いけど黒の魔法少女相手に警察が敵う道理は無いに等しい。

 

 だからこそ私が動かなければ――!

 ――なのに。


「いやー、こうして伊崎奏美くんと都会の街中を歩くのは初めてだなー。できればスクールの学生同士の馴染みで神田悠華くんも共にいればこれ以上ない幸せなんだがなー」


「はぁ、そうですか……」


 私の傍に厄介者――同級生であり競泳で悠華のライバルを名乗る(悪意はない)海原うなばらなつさんが纏わりついていた。

 駅の南口に出るなり倉岡市に来る事を予測していたかのように突如として現れ、級友の縁故という理由で勝手に行動を共にしているのだ。

 各所で私を監視している署員たちや、自動車で尾行中の本郷刑事さんが猟奇犯かと誤解していたが、すぐに誤解は晴れた。


「あの水夏さんは何で倉岡市に?」


「固くならないで砕けた略称で呼ぶと良い。例えば水と夏の字がつけられているだけにスイカとか! おお、スイカは響きがいいな! 奏美くん、これからはスイカちゃんというアダ名で――」


「そうじゃなくて!」


「うむ? 問題はアダ名じゃなくてボクが倉岡市にいるかだと? 愚問だな、水着を買いに来たに決まっているじゃないか! スイマーなら競泳用、海水浴用、試着用、保存用の四つを買い揃えるのは当然だっ!」


「いやスイマーでもそこまで買わないわよ、しかも保存用とか必要ないでしょ!」


「何を言う! スイマーにとって競泳は大事だが水着も重要なのだぞ! 騎士や武士が戦に出るのに鎧が不可欠な防具であるように、水着はスイマーにとって必要不可欠なアイテムなのだよ! 水着はユニフォーム! ま、ボクは全裸でも構わんがね。水着もそうだが裸というのは身も心も開放的になるからな!」


「途中から話が逸れてる。しかもサラッと大胆に変態発言してるよ、スイカちゃん!!」


 堂々と放たれたカミングアウトに近辺の通行人が振り向き、羞恥心に耐え切れなくなった私は無関係のフリをして彼女から二歩離れた。 

 だというのに変態発言の当人は呆然としていた。


「ん、そうだったか? ボクは一向に構わないぞ。兎も角、結論として保存用は必要と解釈しても差支えない。だから奏美くんも水着を買おうではないか!」


「お断りします。今日は買い物で来たわけじゃないので」


「ほほう、水着を買いたいけれど予算が足りないとでも言うか。ならばボクが使用している水着を借りると良い、ストックは十分に備えているからな」


「ああもう……話をまともに取り合ってくれない」


 彼女は小学生の時は六年生まで悠華のクラスメイトだったと聞く。

 仲良く関係を築き始めたのは悠華がスイミングスクールに通ってからだが、水夏さんの性格に難儀したに違いない。つい想像してしまう。

 しかし今は警察の捜査協力して囮役として黒の眷属サヴィターとの接触を図っている最中だ。なつさんには悪いけど構うわけにはいかない。

 

 現在、私は倉岡駅南口のメーンストリートを南下中、やはり都会だけに人通りが堪えないが常に警戒しなくてはならない。

 監視員も厳しい視線で私とその周辺を至る所から確認しており、本郷刑事さんも例外ではない。


『むむぅ~ 悠華さんを救出したいのに無関係者がノコノコと接近してはいけないなのです~! こちとら命懸けの作戦に身を投じているなのにですよ~! おどれ、詠唱魔法で脅したろか~なのです!』


「フィーちゃん、落ち着いてね。別に彼女に悪意があるわけじゃないんだから」


「おや、ボクに何か噂でも?」


「いえ、ただの独り言です!」


 何処からともなく耳元に囁かれたフィーちゃんを宥めるのに、水夏さんから怪訝な視線が届く。もっともそれは一瞬であって、更にその視線は私が持っていたジュラルミンケースに向けられていた。

 ケースの中には陽光に当たれば眩くプリズム光を輝かせるジュエルハートが入っている。

 

 悠華を返す条件として取引で渡す必要のだが、「渡せ」と言われて簡単に譲るほど馬鹿ではない。あの綺麗な鉱石が如何に危険な代物か嫌でも理解できているからだ。

 

 ――人が核を所有して欲望を渦巻かせるように、魔女の心臓も欲望に駆らせる力なのだ。

 

『むむむむむむ~、充電充電なのです~!』 

 

 そして黒の魔法少女との対立を鑑みたフィーちゃんは、ケース内でジュエルハートに寄り添って魔力を溜めてる最中だ。

 ――充電といえば充電だけど。


「奏美君が持ってるには相応しくないね、何に使う物なんだい? 少なくとも買った水着を入れるケースではないようだが」


「これは――」


「それはアタシらが入手すべき代物だ。テメェみてーな部外者には関係ねーよ、カハッ!」


 第三者の突然の声、その声に私は聞き覚えがあった。

 メーンストリートの交差点の横断歩道――その先でゴスロリの少女が邪気と悪意を背後から放ちながら侮蔑を込めた視線で此方を睨むように見据えていた。

 

 間違いない、あの子が黒の魔法少女で悠華と相対する宿敵――! 

 

 特徴のある哄笑は一昨日の夕方に電話で聞いたものと同じだ。

 信号が青に変わった途端に少女は、幽霊の如く静かに揺らめくように近づく。


「カハハハハ! 感心だねぇ、アタシの言葉通りに従ってくれるとは有り難いこった。伊崎ソーミ、オマエさんは他者から好かれるタイプだろ? しかも大人しく素直に従って笑顔振り撒けば勝手にチヤホヤされるタイプだ、アタシは思わずゲロを胃から全部吐き出すくらいに大嫌いだけどなぁ! さぁ、ソレを渡せ、その後に人質を返してやる」


「――っ!」


 一歩、また一歩と近づく度に黒装束の少女から放たれる邪気に圧倒されて後退してしまう。

 そんな私とは違い、状況を呑み込めてない水夏さんは敢然として立ちはだかった。


「奏美くん。何なのだ、あの趣味の悪い服装の淑女は。君の知り合いみたいだがどんな関係なんだ? 人質という言葉が出るとは物騒だね。君は一体何者なのだ?」


「部外者は黙ってろ。アタシは伊崎ソーミに用があるんだ、テメェなんざ何処にでも消えちまいな!」


「何を言うか、ボクは奏美くんの関係者だ。言うなればクラスメイトで友人なのだよ! ちなみにボクは海原水夏、誕生日は七月二十一日、血液型はB型、好きなカラーは青、好物は海ブドウ、趣味は競泳と水着姿になることだっ!!」


「どうでもいいんだよ、そんな情報! 誰もリークしろとは言ってねぇだろ!」


「他にも全裸になるのが趣味だ! ああ、誰かに見られたくない……けどボクの成熟しきってない体を見てほしい……矛盾を帯びたエロチックで芸術的な嗜好を君もやってみないか? 気分が開放的になるぞ、ボクは全裸で海水浴を指折り数えて二十六回ほどプレイしてるがね」


「聞いちゃいねぇ! しかもドがつくほどの変態がここにいやがる!」


「変態でもスイカでも呼ぶが良い! だが敢えて言っておこう、人は誰にも言えない変態性を内蔵しているのだ! 恐れる必要はない!」


「おお、事態は悪い状況なのに水夏さんのテンションに黒の魔法少女が飲みこまれてる……あ、でも私の名前がソーミじゃなくて奏美かなみと訂正はしないのね……」

 

 すると。

 寸劇が行われている間に数人の署員が、黒の魔法少女レイヴン・シェイドを中心に円を描くように囲み始めた。

 警察が彼女を不良少年を惨殺した猟奇犯と見做して身柄の確保に移行したのだ。

 自動車で追跡していた本郷刑事さんも、気付けば路肩に駐車して彼女の前に姿を現していた。

 そして懐から警察手帳を取り出して確認させる。


「警察だ、我々は君を不良少年惨殺の犯人と見た。大人しく署まで来てもらおうか。白ならば土下座して釈放するが、黒ならば重い罰が下される。さぁ来るんだっ!」


 どの方向からも逃げ出さないようにと用心してジリジリと署員が彼女の周辺を狭める。もし彼女が抵抗すれば即座に掴まるだろう。

 だがゴスロリファッションに身を纏った眷属サヴィターは十人の警察に囲まれながらも、侮蔑の意を含んだ表情を緩めなかった。


「カハッ、あの時殺した屑野郎の死体を警察が嗅ぎつけてアタシを逮捕しに来た……伊崎ソーミが警察に誘拐事件と称して捜査に及ばせた可能性もゼロではない。なるほど、警察が来ない道理はない、か……カハハハハハハハハ、カハハハハ、カーーーーーーーーーハッハッハッハッハ!」


「何を笑っている、君は今しがた犯罪行為を認めたんだぞ。さっさとお縄に頂戴して――」


 本郷刑事の隣を固める署員の二人が彼女を拘束しようとして両腕を掴んだ途端、黒の魔法少女はカッと見開いて殺意を露わにした。

 私はその瞬間、「逃げて!」と叫ぼうとしたが恐れ戦いて何もできなかった。


「黒の眷属サヴィターを甘く舐めたが最期ぉ! テメェらに走馬灯すら見せずあの世に送ってやるよおおぉぉぉ!! 消え失せろ――〈バビロニア無尽・ストッ蔵庫ケージ〉!」


 交差点を中心に轟く怒号が何気なく通りかかる通行人を驚かせた。

 そして彼女は手元に何やら魔法陣らしき紋様を描き出して出現させ、その中を探って一振りのナイフを取り出し、一秒に満たない素早い動作でナイフを舞わせた。


「なっ……に!?」


 その直後、本郷刑事を除く九人の署員の喉の皮膚が切れ――噴水が道路の白線を赤く彩った。


「がはっ! ぐぐぐぐぐぐぐぐ! ぐえええ……ガボッ!」


 血がっ! 血がっ! 血がっ! 血が出ている! ああ、警察官の首元から溢れ出る血が止め処なく流れている! このままじゃ失血死で死んじゃう!

 いやもう既に致命傷で青褪めて倒れている人が三人も! しかも喘ぎ苦しんだ後に徐々に動かなくなる人もいる!

 ――人が死んでいるんだ!


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「人殺しだー!」


 交差点で飛び交う悲鳴と共に、横断歩道を通りかかった目撃者が次々と黒の魔法少女の付近から逃げ出した。私もこの場から逃げ出したいけど体が地面に縫われたかのように身動きができない。

 ただ残るのは私と水夏さんと本郷刑事の三人だけだった。


「な、何たる光景……たった一人だというのに九人の大人を殺したなんて……残酷過ぎる!」


「貴様、よくも俺の仲間を……グッ!? グハアアアアアアアアアアアアアア!?」


 一瞬にして殺された署員を目の当たりにした本郷刑事が、せめて自分だけでもレイヴン・シェイドを捕まえようと掴みかかるがナイフで腹を抉るように刺された。

 シャツが鮮血に濡らされ、切っ先で内臓物を掻き混ぜられた後に彼は苦悶の表情で倒れた。


「グ、グハ……き、さ、ま……!」


「ただの人間ごときが魔法少女に楯突くんじゃねぇよ! カハッ! オラオラァ! 仲間のように無様にくたばりやがれ!」


「ガフッ!」


 負傷で喘ぎ苦しむ本郷刑事の頭を容赦なく蹴り、ナイフの刃に付着した鮮血を舐めとりながら私を再び見据えた。


「カハ、カハハ、カハハハハハハハ! さて伊崎ソーミ……そのケースをとっとアタシに渡せ、さっさと渡せ。早急に中身のジュエルハートを渡せぇ!」


 鮮血と唾液が混じったナイフの切っ先を此方に向けて脅迫する黒の眷属サヴィターに、水夏さんは少しも臆さずに私を庇っていた。


「奏美くん、この場所から一刻も早く離れるんだ。 彼女は尋常じゃない狂気を宿した人間だ、留まれば一瞬で殺されてしまう。ボクが残っている間にそのケースを持って逃走するんだ」


「で、でも! それじゃ水夏さんが犠牲になっちゃう! 貴女を置き去りにして逃げるなんて無理!」


『いえ、逃げるなのです! 立ち止まっても事態はますます悪化するばかりなのです、彼女の意思を組んで逃走するなのです!』


「カハ、さぁて取引をする為には邪魔なゴミ虫を排除しないとな――――固定しろ、〈座標コードニー位置ポジション〉」


 何を唱えたのかと警戒した瞬間――今度は黒の魔法少女と水夏さんの前に三十センチの魔法陣が出現し、直後にレイヴン・シェイドは暗黒の魔法陣の中にナイフを持った右手を突っ込んだ。

 

 すると水夏さんの直前に具現した魔法陣からナイフを持った右手が現れて刃が彼女の胸に刺さった。

 一瞬、何が起きたのか理解する事もままならずに、彼女は「グフッ!」とくぐもった唸り声を漏らして胸の傷を抑えながら倒れた。


 ――離れた位置の魔法陣から手が出た!?

 

 いや、それよりも水夏さんの容態を心配する方が先、黒の魔法少女が先程繰り出した魔法の解明など後回しだ。

 しかしレイヴン・シェイドはその時間さえも与えずに私の前に迫ってきた。


「カハッ、やっとこさ取引に漕ぎ着けたが気が変わった……オマエさんを嬲り殺して切り刻んだ後にセレネのジュエルハートを奪うとしよう、悲鳴を聞いて心が崩壊させてからリリウム・セラフィーを殺すとしよう、カハハ!! 闇よ、拡大せよ。〈メタ空間フィールドダーク〉」


 彼女の左手薬指に嵌められたオニキスの指輪が禍々しく輝いた途端、周囲から黒煙が湧出して私を全て覆うように飲み込んだ。

 それだけでなく水夏さんも本郷刑事さんも署員の亡骸も漆黒の闇へと飲みこまれていった。




えー長文になってしまいました……反省はしていません(反省しろ! 何でしょうかね~書けば書くほどノルマを達成しようとして長文になっちゃうんですよね~


分割して書けってよく言われるんですが、どうしても長文になってしまうのがオチですorz

肝心の魔法バトルの方は次回へと持ち越すことになりまして本当にすみません!


そういえばツイッターの方で呟いています。今まではツイッターであまり呟くことはなかったんですが、どうしてか呟くようになりました(プロフィールでURLを張りますのでしばらく待ってください)。ツイッターでフォローしてる方、本当にありがとうございます。

 みんなの小説、僕よりもはるかに面白いです! この作品読んでいただいた方にはお気に入りにいれてくださると嬉しいです。あと小説の評価・アドバイスも可能な範囲でお願いします!

 小説家になるって本当に難しいですけどお互いに頑張りましょう! では次回に!

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