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GENE SERIES 03 魔法少女たちの輪舞曲  作者: クリスタルナオト
魔法少女大戦Ⅰ 黒の来訪者
32/48

白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART7 Qualification

 長く悲鳴が響き渡った地下をいつの間にか静寂が浸透していた。

 惨憺たる拷問が執り行われていた部屋では、〈デス・スワンプ・ハー〉を無理矢理溜飲させられ毒沼の壺に浸された悠華が未だ吊るされていた。

 既に毒沼地獄から解放され、無数の創傷や突き傷も自然治癒で全て塞がっている。

 だが苦痛に次ぐ激痛で精神と矜持を崩壊された彼女は、ゴミ捨て場に廃棄される人形の如く虚ろな瞳で鎖に身を預けていた。


「……ぁ」


 耳を劈く程に溢れ出た悲鳴の影響で喉の奥から漏れるのは、潤いをなくしたしわがれ声。

 ソレを聞く者――彼女に拷問を見舞った黒の魔法少女たちは、隣の部屋で紙切れの様な布団にくるみながらスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 ――残虐を帯びた魔法使いではなくタダの少女と何ら変わりなく。

 

 罅割れたコンクリートから橙の光が所々に地下を照らして朝を告げるが、そのような事実など彼女には取り込む余地もない。

 口角から引っ切り無しに涎を零しながら、再び到来するであろう耐え難い拷問にビクビクと身を震わせていた。


「――何とも痛ましい姿で可哀想に」


「ぁぁ?」


 聞き覚えのある声――黒の魔性少女が一人。

 アイマスクで目元を隠されてはいるが何者なのかは、声質と肌で感じられる魔力の量からにして

 冷えた空気が充満する部屋に入ってきたのはシュヴァルツェア・レオパルドだ。

 何を思ったのか、やや寝ぼけ眼の彼女は入ってくるなり担いできた布団を敷き、直後にクレーンのスイッチを押して悠華を下した。

 そして拘束の身から解き、彼女を抱えて布団の中へと潜り込んだ。


「ぁなた、ぃったぃなにを……こんな事をして私をどうする魂胆なの?」


「レオと呼んでいい。白と黒の魔法少女は互いに相容れない属性で敵同士、だけど今の私は貴女に危害を加えるつもりはない。寧ろ貴方の傷を少しでも癒す為に勝手にやってるだけ」


「わ、私の傷を? 確かにレイヴンとスワンプの二人に毒沼地獄で酷く拷問を受けたけど、ぃまはもう自然治癒で回復して傷なんて少しも見当たらなぃわ?」


「違う、私が癒したいのは貴女が過去に受けた不滅の傷。眷属サヴィターが抱え持つ不治の傷を癒したいと言ってるの」


「魔法少女にしかない傷……」


 拷問と長時間に及ぶ捕縛の状態で吊り上げられた影響のせいか身体に力が入らない悠華は、レオパルドの意の儘にされて彼女の艶めかしい身体の上に乗せられた体勢で抱き締められていた。

 女性だから軽いとはいえ、一人分の体重が仰向けの身体に乗せられた状態でも、レオパルドは何ら苦痛を感じない様子で微笑んでいた。

 

 ――柔らかな髪と頬を撫でる様は慈母の如く。

 

 とてもではないが獲物を追い詰めて捕食する黒豹に変身するとは思えない。いや動物界の頂点に並ぶ肉食動物だからこそ時には仁慈を向けるのだろう。

 しかし悠華は抵抗なしに強く抱き締められ、更にレオパルドのステータスである豊満に胸に顔を埋められて呼吸ができず苦しんでいた。

 善意ではあるのだろうが憎悪が湧いてくるのは何故だろう。

 するとレオパルドの瞳が一瞬黄金色に光ったような気がした。


「どう、暖かくて気持ちいい? どこか寒いとか痛いとか感じない?」



 藍髪を撫でられ肢体が絡められているうちに不思議と敵対心や敵意が消滅していく。

 黒の魔法少女に首筋や頬などに付着していた血の跡や血塊を舐められ、悠華は何とも言えない感覚に身を捩らせた。


「だから既に回復してるから問題なぃって、くすぐったいわよ……それよりも魔女の眷属サヴィターしかない傷って何? それは互いに争い合う魔法少女同士に共通するものなの?」


「勿論。貴女、私も、レイやポイ、魔法少女の全員も受けてる。みんな思い出したくもない記憶を抱えて生きてる。忘れられる筈のない過去を理由にして戦ってる。みんな同じ」


「魔法少女全員が嫌な記憶を所有してると……?」


「そう。魔法少女だけじゃない、魔法や魔力という不可思議な力を掴む資格を所有する人間はソレを掴むに相応しい悲劇的な過去を身を以て体験してる。物語の主人公のように」


「悲劇的な過去を……」


「誰もが共有する事を拒否する記憶を眷属サヴィターは持っている。二人には秘密にしてと厳しく忠告されてるけど特別に教えてあげる」


 シュヴァルツェア・レオパルドから齎された言葉は俯かせるには十分だった。

 レイヴン・シェイドはアフリカ大陸で両親を紛争で失い、戦争孤児として民間(P)軍事(M)会社(C)に拾われた後に少年チャイルド兵士ソルジャーとしての洗脳教育を無理矢理施された。

 重たくて冷たい機関銃を持たされ、殺気を常に纏いながら敵兵士を殺戮して一日を過ごす生活を繰り返していた。

 ノルマ以上の人数を殺害しなければ飢餓と拷問が常に待ち構え、場合によっては射撃練習の動く的として用意させられる出来事も度々起こり、死と隣り合わせの状況に脅えていたという。

 しかも女子という事もあり兵士たちから性欲の捌け口として乱暴された体験も受けている。

 ポイズン・スワンプは仲の良くない両親から疎まれて毒物を飲まされて衰弱させられ、挙句の果てに湖沼地帯で捨てられた経験を味わっている。その時に沼に嵌って危うく死にかけたらしい。


「レイヴンもスワンプも耐え難い傷を負っているのね……そして貴女も」


「私は自然界の動物を保護する研究者兼獣医の娘だった。本当なのかどうかは覚えてないけど私の中にある野生の意思がそう答えてる」


 ふと彼女の表情が曇ったような気がした。

 それに重なるタイミングで悠華を抱きしめる腕の力が強まった。


「親は二人とも有名な動物愛護家で、特に親と逸れた動物の仔の介護を手厚くしていたと聞く。草食動物でも肉食動物でも分け隔てなく愛した人間の娘である私は、常に彼らに見守られながら健やかに幸せに暮らしていた……けど」


 安穏とした生活を打ち壊したのは一発の銃声。

 絶滅危惧種の乱獲による金儲けを目的とした密猟者の連中が、肉食動物の怪我の手当の最中の両親を容赦なく撃ち殺したのだ。

 そして保護施設の動物を捕まえて運び、その後に施設を焼き払ったというのだ。

 両親を目の前で射殺されたレオは屍となった両親を見てショックを受けて、失語症に陥り人としての感情も失った。

 密猟者に射殺される直前で彼女を助けたのは、両親の手当を受けていた一匹のメスの黒豹だった。

 黒豹が彼女を連れて自然界へ『帰って』いったのだ。

 その後は『母』の手によって肉食動物として育てられ、草食動物の肉を餌として食い、時には密猟者を襲い、厳しい自然界の中で逞しく生き抜いていたという。


「――やがて母が寿命を迎えて土に還った後は一人で生きてた。そんな中であの方が現れた……」


「黒の魔女……!」


「そう、我らの契約主である黒の魔女エレクトラ・ヘクセ・リュドベック様は私を見つけ、長年失っていた言葉と知能と魔力を与えてくれた。そしてレイやポイと巡り会えた。二人とも表向きの性格は歪んでしまってるけれど誰にも傷つけられたくないピュアな心を持ってる」


「――私には人間を最大限に嬲り殺して傷付けるのを楽しんでいる残虐な鬼畜にしか見えないけど」


「それは誤解。野生の意思が二人に潜在する温かみを感じ取ってる。二人とも家族を失ってるから寂しいだけ……だから家族になるべき」


 その言葉を聞いた途端、悠華の心臓が跳ねた。


「か、家族ぅ? 飯事みたいなヤツじゃなくて?」


「そう、家族。本物の家族とは違うけど誰しも心を寄り添えば家族になれる、家族になれる資格がある。それが魔法少女に許された行為ならば私はレイやポイと家族になりたい。そして貴女も――リリウム・セラフィーも同じ事」


「私が家族の一人に、とでも?」


「白と黒は互いに相容れない敵。けど魔法少女同士ならば誰にも負えない深い痛みを共有できる……共有し合う事で家族になれる、さぁ二人が起きないうちに貴女の『傷』を教えて」


 見据える金色の視線はまるで此方の心中を全て悟っているかの如く。

 悠華はシュヴァルツェア・レオパルドがセレネのジュエルハートを狙う敵である黒の魔法少女だという事を少しだけ忘れてしまった。

 それは二年前の事件と魔術師ウィザードクリストハルト・ローゼンクロイツの姿が彼女の脳裏で再現され始めたからである。

 その瞬間、彼女はレオパルドに縋り付いて手を強く握り、瞼の裏から溢れ出てきたモノを必死に見せまいと顔を埋めた。

 すると双丘の間で熱い何かが零れ落ちてきたのを黒の魔法少女は見逃さなかった。


「……泣いているの?」


「泣かなかったら――傷なんて傷として刻み込まれてなんかぃないわよっ! ……グスッ」


 そこで彼女は神田家と一部の者にしか告げていない、秘めたる過去を打ち明ける事にした。

 悠華出生に関わる陰惨で呪われた過去を授受したレオパルドは、無表情ながらも暫く驚愕していたが、その後に再び彼女の髪を撫でた。

 倉岡市の夜明けは既に過ぎていた。





 神田悠華の失踪から四日が過ぎていた。

 だというのに彼女に関する情報は得られず、それどころか捜査は今まで以上に難航して警察は皆目行方を特定できないでいた。

 その膠着状態は担当の本郷刑事に焦燥の情を浮かび上がらせ、奏美への定例報告でも若干の焦りを悟らせていた。

 それも当然で黒の魔法少女たちが一筋いかない敵で、警察の捜査では簡単にボロが出るような相手ではない。

 世間の常識では通用する道理が存在しない相手に警察が対処する事などできる筈もないのだ。

 とはいえ親友の行方が欠片も掴めぬ状況に奏美は不安に駆られてしまい、その影響か勉学にも吹奏楽部の活動にも力が入らないでいた。

 その様子を察知されたのか、同じ部活に所属する白上相葉に申し訳なく心配され、彼女らの好意に甘んじて学生寮に早退していた。

 そして部屋に戻るなりカバンをぶっきらぼうに捨て、制服のままでベッドに横たわった。


「市民館のコンサート本番まで二週間しかないのに白上さんたちには悪い事しちゃったかなー、リハーサルも間近だからパート合わせないといけない時期なのに。もっとも私が本調子じゃなくて合わせづらいからなんだろうけど……」


 事実、個別チームでのトランペット(担当は奏美)、ホルン(白上)、トロンボーン(他の生徒)による演奏はどうも噛み合っていなかった。

 原因は奏美が楽譜の読み違いでミスを犯し、その結果として聞くに堪えない雑な演奏と化してしまった事である。

 学生寮で隣同士という事もあって時には白上相葉と藤宮アグリア両名の部屋に入り浸って練習する程の仲だけに、演奏が粗雑になるのは異例の事態だ。

 吹奏楽部担任兼音楽教科担任兼指揮者の井出いで晋太郎しんたろう先生に滅多にない説教を受けたくらいなのだから嫌でも不調は理解できた。

 

「悠華……今頃どこにいるんだろ。もしかしたら……」


「いいえ、悠華さんはこの世からおさらばしていないなのです。もしその事態が起きた場合は契約主セレネのジュエルハートが点滅する反応があります。奏美さんが学校に登校中見張っていましたけど何の変化もなかったのです」


「フィーちゃん、何時の間に」


 視点を胸の方へと向けた先に妖精ニードリヒト・フィーが横たわりながら此方を凝視していた。

 きっと一日中身体を光量子化して姿を隠していたのだろう、いつ他の眷属サヴィターが襲撃してもおかしくないというのに一人で守っててお努めご苦労様である。


「相手が行動を見せないという事はきっと様子を窺っているなのです。悠華さんがジュエルハートの場所を吐かない以上は、黒の魔法少女はまだ倉岡市で待ち構えるしかない筈なのです。いくら何でも跡を辿るのは一苦労なのですから」


 ベッドから起き上がった奏美は白の妖精を指で軽く跳ね除けた跡に、部屋の窓際に置かれていたジュラミンケース内の石塊にそっと触れた。

 魔女の心臓は早朝と同様に橙に照らされている。

 やがて彼女はそれを手に取った。


「でも何時までも相手は待ってくれない。ジュエルハートが入手できないなら悠華にもっと危害が与えられちゃうんじゃ……やっぱり彼女らに渡した方が――」


「――駄目なのです! 契約主マスターのジュエルハートは魔力の核でもあると同時に、自然の理の一つを司った核なのです! 人が原子の力を手にする様なものなのです! もし他の魔女が入手するような事態が起こったら、これまでに魔女たちが維持していた世界のことわりが崩壊してメチャクチャになってしまうなのです!」


 必死になって吐露する白の妖精の言い分が全く理解できないわけではない。

 魔女の心臓は自然の理の一部を司る魔力を凝縮した石だ。もし他の魔女に奪取された場合、それがどうなるのかは以前に語っている。

 世界規模の変化が現実に起こってしまう。例え人間でも異界の魔物でもソレを入手すれば同じ事だ。

 だが奏美は親友の身を案じて反目する。


「でも誰がセレネさんのジュエルハートを守るの? フィーちゃんだけじゃ戦力が心細いし、それに私は魔法少女じゃないから悠華みたいに魔法も使えなくて戦えないんだよ! それとも私が魔法少女になって戦うの!?」


「それは……出来ないなのです」


 先程の激情から転じて急に落ち込んで項垂れるフィー。


「――出来ることなら悠華を助けたい、大好きな親友を守りたいんだよ。生誕を恨んで、人生に葛藤して、誕生の意味を見出そうとして人一倍努力してる彼女を! あの日の夜だって悠華は守ろうとしてた……思わず目を逸らしたくなるくらいに怪我してるのに瀕死の重傷の私を一生懸命助けた。だから今度は私が守りたいのに、魔法少女になれないってどういう事なのよ!?」


 魔法少女になれる資格があるとするならば。

 神田悠華にはあって伊崎奏美という個人にはない資格が具体的に何なのか、常に彼女は疑問を抱き続けていた。

 少女ならば誰しも一度は抱くであろう、一つの願い。

 その資格が何故存在しないのか見出せない。それ故に苛立ちと焦燥が募るばかりであった。

 白の魔法少女を傍で見ながらもだ。


「……眷属サヴィターとして契約を結べる少女は魔女に選ばれた者に限定されるなのです。人のタガを外した存在ですから易々と対象を発見できるわけではないなのです」


「でも白の魔法少女は一人なんだよ、それでいいの……!?」


 些細な激情から吐き出される熱が徐々に冷え始め、奏美は熱が入ってしまった事に若干の恥を感じて落ち着きを取り戻す事に専念する。

 乳白色の石塊の上に鎮座する妖精が宥める。


「人数の問題ではないなのです。問題は如何にしてマスターのジュエルハートを守り抜くかなのです。一人で戦う事ほど慎重な事態はありませんなのですから」


 今は白の妖精と言い争っている場合ではない。

 黒の魔法少女たちに捕えらた悠華をどのように救助するべきか、その方を優先するべきなのだ。

 個人的で身勝手な感情を勝手に走らせて事態が解決するわけでもない。そのように考察すると不思議と冷静に身を窶せた。

 それでも魔法少女になりたい希望は消滅できないが。

 とりあえず奏美は手にしていた石塊をジュラルミンケースの中に置いて、クッションを抱えて椅子に力なく背を預けた。


「………………確かに慎重にならざるを得ない事態だけど、このままの状況に脅えるわけにはいかないわ。それに大人しく引き下がるわけにはいかないし」


「勿論なのです! このまま悠華さんを見殺しにはできないなのです、その為には対策を――」


 ――ピピッ! ピピッ!


 奏美のベッドの枕元に置かれていたケータイから着信が鳴り始めた。しかも――

 



 相手は出るはずのない神田悠華からだった。

時間がなかったので文章がおかしくなっているかもしれません。

誤字脱字などがあれば確認します。

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