表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GENE SERIES 03 魔法少女たちの輪舞曲  作者: クリスタルナオト
魔法少女大戦Ⅰ 黒の来訪者
30/48

白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART5 Lost friend

 それが事件と発覚したのは、火曜日の朝礼の時間に入室してきた先生――学生寮の寮監を務めるいくほうもんいん茉依まい先生(二十七歳、独身。ロシア系クォーター、金髪碧眼、後ろ髪を纏めたポニーテール。容姿端麗ではあるが堅物・生真面目・融通がきかない性格で同性の人気は低い)からの通告で改めて知った。

 細江中学校が誇る才媛インテリの中でも特に優秀な生徒であり、私が自慢する親友の神田悠華の失踪。

 彼女の失踪はクラスメイトを懐疑と恐怖の念でざわめかせ、そして瞬く間に他の教室の同級生へと伝わり、後輩へと先輩へと流れる水の如く広まっていった。


「ねぇねぇ知ってる? 神田さんが……!」


「え、嘘じゃないの!? 先輩が行方不明になるなんて有り得ないわ! きっと何かの間違いよ!」


「それが事実なのよ。一昨日は倉岡市で伊崎さんといらっしゃってたけど離れた直後に姿を消したそうよ」


「倉岡市って……最近、女学生が行方不明になってて物騒だったね。もしかしたら悠華さんも!」


「ああ、私の麗しきお姉様が……」


「ちょ、大丈夫!? 針谷さんが失神で倒れたわ、誰か保健室まで運ぶの手伝って!」


 一時間目の授業が終われば校舎内は彼女の失踪の噂と真相で持ちきりになっていた。

 普段から彼女を慕う生徒の中に親身に行方を案じ、失踪の原因を憶測で辿ったり、或いは彼女を誘拐犯の犯行だと思い込んで不安と恐怖に陥る者を見かけた。


「噂広まるの早いな……」


 と、誰に聞かすわけでもなく私は騒然としている廊下を過ぎる。


 ――彼女を失う事に心を痛める者たちの声を聞く為に。


 クラスメイトで学生寮の隣部屋に住む者という事で、懇意にしてもらっている白上しらかみ相葉あいばさんと藤宮ふじみやアグリアさんの二人には、まるで家族みたいに深刻に「大丈夫?」とか「きっと戻ってくるよ、だからそんなに落ち込まないで」など心配して宥めさせてもらった。

 

 ――昨日、倉岡市でずっと傍にいながら悠華と離れた私を。


 何故、稚拙な理由で悠華と喧嘩してしまったのだろう。

 テレジアちゃんと仲良くなりたい、遊びたい、コミュニティを深めたい。その一心が何処かで遠因してしまったのか私は「お姉ちゃん」であろうとして、勝手に姉の気分に浸ってしまった。

 手を繋いで「お姉ちゃん」と呼ばれる自分に心酔して、姉のつもりで大人のつもりでいた。

 だからこそ悠華の幼子のような駄々を叱って、それでも諦めない態度に理性の糸を切って仕舞いには喧嘩まで至ってしまった。

 遂に別行動までとってしまい、私は悠華の気持ちも汲まずに嬉々としてテレジアちゃんと楽しい一日を過ごしていた。

 偽りだと、誤解だと、間違いだと裁定ジャッジするのに幾許いくばくの時間を消費してしまったのだろう。私は手を繋ぐか弱き児女の曇った瞳を察知する事すらなく、只管ひたすらに自分に耽溺していた。

 

 ――結果、悠華を失ってしまった。

 楽しくなるはずの一日は脆くも砂場の城のように脆く崩れ去った。


 その事に気付いたのはフィーちゃんが彼女の失踪を詳細に告げたからだ。


 ――黒の魔法少女と呼ばれる存在に襲撃され、太刀打ちできずに倒れたと。

 魔法少女を援護する妖精のフィーが何故に彼女の傍にいなかったのかと責めたくなる衝動が溢れてきたけど、悠華が私とテレジアちゃんを巻き込ませたくなかったという仔細を聞けば冷静にならざるを得なかった。

 寧ろひどく驚愕していたかもしれない。

 

 ――悠華は窮地に立たされてなお、私たちを守ろうとしたのだ。

 そのおかげで無力な私とテレジアちゃんが無事に関門市に帰れたのは、曲げようのない事実である。


 あまりにも私が惨めで哀れで愚かしくて、フィーちゃんを責める資格がない。落ち込んでた私を白上さんと藤宮さんに慰められる資格すらもない。

 でも二人の好意と顧慮をぶっきら棒に否定するわけにはいかずに甘んじて受け入れた。

 

 だというのに。

 私の耳に入るのは決して善意から抽出される憶測と推察だけではない。

 悠華の名声と有名性を苦々しく感じている生徒からは、悪意から生じる途方もない誤解と齟齬が蔓延していた。

 

 ――蒸発。狂奔。怪死。

 どれにしても、最悪な気分を更に増すのは変わりない。

 

「あの人が失踪するとは良い気味だわ。あの『私は優秀ですぅ~』のオーラがキモくて前々から嫌悪してたのよ」


「私も! 神田さんのステータスの高さに呆れて、消えてくれないかな~って思ってたんだよね~! ホントに消えて清々しい気分よ!」


「そういえば倉岡じゃ問題児が事件起こしてるみたいじゃない。アレに巻き込まれたんなら、もうダメになってんじゃね?」


「アハハハハハハハ! 有り得る~! チョー愉快な話なんですけど!」


 廊下を過ぎる過程で人目を憚らない罵詈雑言が、悠華の失踪で騒然となる廊下の中で微かに飛び交う。しかし私以外の何者にも耳にする生徒はいない。悪意で屯う連中に他の生徒が近付こうとする者がいないからだ。

 

 ――悠華の事を何も知らないで。


 彼女が受けてきた記憶と傷と思い出を何も知らないから、平気で心にもない事が言えるのだ。窓側の隅で悪態を吐く同級生や先輩・後輩に見えてはいないが私には聞こえてる。

 だけど皮肉にも私が彼女たちを非難する資格は当然無い。


 さて、私こと伊崎奏美は目的地もなく校舎内の彼方此方を巡っているわけではありません。東側校舎の一階にある職員室の隣に位置する来客用の面談室へと向かっているのです。

 其処は細江中学を運営する理事長室の隣に位置していて、当然ながら職員や理事長が外部者との対談をする場である。

 そもそも悠華の失踪が事件として公になったのは、一昨日、私達と同様に倉岡市にいた美堂先輩が警察に連絡した事からである。相手は信用していなかったが、どうにか捜査に取り次ぐ事に成功したのだ。

 堅物だけども頼りになる先輩だ。

 授業の後、郁芳門院先生に行くようにと催促されたので向かっているのです。

 其処で失踪事件を担当する警察の関係者が待っているとの事。傍にいた私から事件当日の彼女についての行動を聴取して事件の構造を作り出そうとしているのです。

 

 ――失踪してしまった悠華の行方を私は知る必要がある。


 話によると理事長は秘書に任せて警察の関係者と既に話を済ませて後は私が来るのみだとか。

 理事長は生徒の前にはあまり姿を現さない。入学式や卒業式にも姿を晒さずに秘書を代理人として任せ、自分は祝辞を送るだけという事態はごく当たり前の出来事である。

 何でも細江中学や橙ノ木高校だけでなく、複数の学校の理事を兼任している為かデスクワークに忙殺されているのだとか。

 多くの生徒が理事長の姿を見ないがそれでも園芸部の担任なので、一年間に一回か二回でも会えればこの上ない幸運で、本人に出会う為に入部する者も少なくはない。

 何でも理事長は理知聡明で屈託のない二枚目で、紅茶とお菓子と花をこよなく愛する一風変わった人柄と聞く。

 温厚な性格で誰に対しても分け隔てる事なく平等に接し、人望も厚いので悠華同様に絵に描いたような人だ。

 私も出来れば――。

 

 おや、話が逸れちゃったけど、私はもう面談室の前に到着しているのです。冷たいドアの向こうに気配を感じる。


「…………ふぅ」


 事情聴取されるだけなのに心臓が跳ねているんだろう。物凄く胸がむず痒い。

 でも役目を果たさなければ駄目! 私に出来る何かをしないと。

 そしてノックを二回、それからドアノブに手をかけた


「約束の時間よりも一分遅いな。アレか、デートで男を待たせて後から来る女のタイプか。そういうのは初彼女持ちの男に好かれやすいって言うらしいな」


「貴方は……!」


 以前会った時と比べて目元に違和感が漂っていたが、私は彼に見覚えがあった。

 対談室のソファに居座っていたのは倉岡市警察署刑事課に所属する刑事、本郷ほんごう彰人あきと刑事さんだった。

 本郷刑事(以後その名で呼称)さんはポリスサングラスがなくても怜悧な視線をそのままに、ジロリと睨むかのように私を見据えた。


「久しぶりだな」


「あ、はい。お久しぶりです……」





 

「――結果から言えば確かに神田悠華氏の失踪は明らかに事件だ」


 ガラス製のテーブルに数多く並べられた資料ファイルを全て見通しながら、彰人はタバコでも咥えるかのような素振りを先程から続けていた。

 細江中学校は当然ながら学内全面禁煙。この忠告はあくまでも職員や成年の外部者に向けての注意だから誤解しないでほしい。

 ちなみに倉岡市警察署所属の刑事なのになぜ此処にいるのかは、重要な事件とあらばどの管轄でも無断で介入してくる性格だからという事らしい。他の警察署には迷惑な話だろうな。

 そういえば面談室にいたのは刑事さんだけで代理人の秘書がいなかったのが疑問だったけど、今は刑事さんの報告を聞く事に集中しなければならない。


「彼女が消えたのは午後四時二十分。この時を境に姿を消している……だがな、確かに事件と判断しても解決に至るまではかなり遠い道のりだ。もしかしたら数年経っても解決されないかもな」


「そんな……どういう事なんですか!?」


「一昨日の夜と昨日一日中の一斉捜査で得た情報を纏めた結果がソレだ。まだ新たな情報が入ってくる可能性があるかもしれん。しかし南メーンストリートの路地にいたのを最後に姿を消してしまった以降は何にも辿れない。警察犬で跡を辿ろうと試みたものの、まるで神隠しにあったかのように突如として消えている。これ以上の追跡は不可能だ」


「そうですか……犯人は特定できないんですか?」


「無理だ。メーンストリートは人が多すぎて皆目掴めない。監視カメラが数台設置してあるが犯人らしき人物が見当たらないし、まるで避けてるかのように映ってないんだ。まるで俺たちを笑っているかのようにな」


 一度は驚愕したものの不思議と態度が落ち着き、刑事の答えに納得してしまった。

 悠華を失踪させたのは一般的な犯罪人じゃない。魔女さんの命と言われるジュエルハートを狙い、その為に彼女を魔法などで排除しようとする非現実的な敵なのだから。

 刑事さんには悪いけど手に負えるような相手じゃないから事件は難航しても当然というべきか。

 でもこのままでは八方塞に陥ってしまう。


「だが我々警察が妥協を許すわけにはいかない。君の親友は全力を持って探す。それにこの事件は只ならぬ感じが漂っているからな」


「――只ならない感じって一体何ですか?」


 ――怖っ。

 元々鋭い視線だった瞳が更に鋭利に変化したのを見逃さず、振るえた私は思わず質問を問うた。

 すると刑事さんは手持ちのファイルから数人の男性の写真――以前に倉岡駅で見た、四人の問題児の写真――をテーブルに置いた。


「……昨日の捜査と共に彼らの行方が判明したんだ。言うなれば彼らを発見したんだが……全員、誰とも区別できないくらいに引き裂かれていた」


「!っ」


「遺体は街から離れた閑静な住宅街のゴミ箱に入っていて、近所の住人が発見した。バラバラに引き裂かれていたから解剖に時間を要したが間違いなく彼らだった。奴らは何者かに殺されたんだ……」


 憶測だけど、もしかしたら悠華を襲撃した魔法少女たちが――?

 黒の魔法少女がどんな手段で襲撃したのか知る術がないが、アンジェさんや傭兵さんの戦法を見る限りでは残虐な手法を取る事も有り得る。

 そうとなると益々、彼女の身が危うい。心中で二頭身の私が慌てふためいている。

 資料を全て漁った後に刑事さんは用はないとでも言うかのようにファイルを置いた。


「もしかしたらの話なんだが……俺としては彼らを襲った犯人と彼女を失踪させた犯人が同一なのでは予想している。君もそう思ってないか?」


「!……おっしゃる通りです、私も同一犯だと考えていました。こんな事を言うのも何ですが、警察では到底無理な相手じゃないかなと思うんです。だから――」


「――警察に犠牲者が出る前に手を引いた方がいいと?」


「そ、そんなんじゃないんです! 慎重に動き回った方が良いんじゃないかって……」


「ほう。まるで犯人か誰なのか知っている口調だな? 聴取して犯人像を浮かび上がらせるのに手伝ってもらいたいものだ」


 そこで噤んでしまった。

 刑事さんは正体不明の何者か――黒の魔法少女――を相手に捜査を執行するつもりなのだ。その為に私から情報を僅少でも取得しようとしている。

 

 ――私は齢二十八にして既に十三回も引き金を引いた男だからな。


 悪寒が走る。

 刑事さん、いや本郷彰人さんという刑事は敵ならばその引き金を引くつもりだ。


「私が知ってるなら……ここに私の姿はありません。それこそ私も悠華と同様に失踪してますから」


「……熱い友情なこった。俺も学生の頃にはそういう友がいたものだがな。しかし一昨日の事情聴取以外に有益な情報が入手できないとなると困ったものだ」


 本郷さんには悪いが悠華を取り巻く特殊で非現実的な事情を容易に悟らせるわけにはいかない。

 学生寮の自室にあるジュエルハートや、サポートできなくて落ち込んでいるフィーちゃんの存在も。

 

 ――戦わねば。捜査は本郷さんに任せよう。


 資料ファイルを適当に漁っていた刑事さんは何故か見遣ると、それを目前に置いた。

 その内容に女の子――それも悠華に似た容貌ではあるが、黒髪ストレートロングで大人しそうな雰囲気(いや天然かな?)を漂わせる女の子の写真が貼られていた。

 深窓の佳人とでも言う程に可愛い。


「これは……」


「おや、友人なのに知らないのか? この女子は神田かんだ恋華れんか、神田悠華の妹だ」


「この子が恋華ちゃん?」


 聞いた事はあるけど彼女を見た事は一度もない。

 二年前の家庭崩壊の直後、悠華の妹さんはヨーロッパへと住居を移され、わずかな使用人たちと共に当地で家族の温もりに触れぬままに暮らしていると聞いている。

 

 仲の良い姉妹を離れ離れにした悲惨な出来事。

 私には今年で小学五年生になる生意気な弟がいるけど、やはり家族が遠い場所に追いやられるのは嫌に決まっている。

 

 しかし刑事さんはなぜ恋華ちゃんを知っているのだろう。


「プライバシーの侵害かもしれないが勝手に調べさせてもらった。実はな……この子も現在、失踪してしまっているんだ」


「そんなっ! 恋華ちゃんが!?」


「情報ではイギリスの学校に通っていた彼女を何者かが攫ったという事なんだが、誘拐犯の姿も手掛かりになる跡も発見できず事件は迷走している。一応、親御さんに取り次いでみたが……姉の方は関与せずに妹の方を重点的に捜査させているらしいぞ」


「……酷い」


「何があったかまでは知らんが家族としては最低な親御さんだな。しかし…………この二つの事件の裏で得体の知れないものが蠢いているような気がするな」


 私にも知らない正体不明の何かが裏で這いずり回るように蠢いている。

 それは私に不安と願いを増幅させる結果となった。


 ――悠華は何処にいるんだろう、と。

 ――魔法少女になれないだろうか、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ