白の魔法少女VS黒の魔法少女 PART2 誤審
時間がかかりましたが久しぶりの投稿となります。
倉岡市の街を探索してはメインストリートを通り抜け、アーケード街を過ぎ、その度に店に立ち寄っては買い物を続ける奏美とテレジア。
そんな彼女たちの手には社名とロゴの描かれた荷物が提げられ、束と化して幾重にも重なっていた。
積み重なる袋を両手一杯に提げながらも彼女たちは苦痛も感じさせぬ笑顔を繕い、ショッピングを満喫していた。
「はぁーーーーーー! 買った買った! 何とかお目当ての服やアクセサリーを買い揃えることができたわ! 」
「かいもの……たのしいな……テレジアのふく……かってもらって……ありがとう……かなみ」
「別にいいわよ、テレジアちゃん! 私たちはテレジアちゃんともっと仲良くなりたいし遊びたいからね! お願いくらい何でも聞いてあげるわ!」
「でも……いけない」
円らな瞼を下げて眉毛を八の字に曲げて不安といった様子を視線で伝える童女。
何がいけないのか、と首を傾げた奏美は、ボソボソと呟いて聞き取りにくい彼女
「……神父様のミサの説教では……人は欲望を振りまいてはならない……必要以上に欲しがってはならない、他人の物を手に入れようとはしてはならないって言ってた……テレジア、こんな事してて大丈夫かな……怒られないかな」
「心配する事はないわ、だってテレジアちゃんは良い子なんだもの。貴方のように純粋な子が欲しがったって罰は当たらないわよ。それに普段からコルベ神父の手伝いをやっているじゃない。お勉強も頑張っているみたいだし、ご褒美よご褒美。それにさっきも言ってたけど今日は思いっきり遊んでいいんだよ」
ポンッ、とシスター特有のベールが被られた頭に手を置いて乱雑に撫でる奏美。
永善に拾われて名前と服を与えられ、暖かい場所に住んで同年の友と遊び、多くの信者に可愛がられてお菓子を貰っては不自由のない生活を送っている彼女。
その為だろうか聖書で語られる戒律に触れているのではないかと脅えていたようだ。
別に悪事を働いているわけでもないのに、一々規制を恐れているのでは肩身が狭くなってしまう。
戒律で緊張を奏美は解したのだ。
「……かなみ、ありがとう……」
「だからお礼を言われる程じゃないって! 私と悠華はテレジアちゃんと遊んで仲良くなりたいんだからね! 今日は楽しくねっ!」
ガサガサと、より強く撫でられる童女であったが、満更でもなかったようで大人しく受け入れて為すがままに撫でられる。
――撫でられるのは大好き。
皺が多い信者の手と同じくらいに優しい感触をベールが被られた頭で感じていた。
すると、今度は奏美は曇った様子で倉岡市の風景を見渡していた。
「悠華ったら遅いなぁ……」
「はるか? はるかはどこにいるのかな? ほんとうにおそいね」
「ケータイとも繋がらないけど、そのうち来るわよ。まったく特撮好きもほどほどにしてほしいな」
奏美は本来であればテレジアと手を繋ぎ、賑やかな市街を共に歩いているであろう友人の名を無意識に吐露してしまった。
そう、そこには神田悠華の姿がどこにも見当たらなかったのだ。
一方で、彼女らと共にいたはずの本人は――。
「ぶーーーーーーーーーーーーーー。無理矢理、主張を押し通してまで手に入れようとしたのに数量限定で間に合わなくて買えなかったじゃない!」
――不機嫌で拗ねた調子で腕を組みながら、アーケードで人混みをかき分けるように目的もなくただ通り抜けていた。肩と肩がぶつかって「ああ、何だお前? 肩が汚れたじゃねーかよ! 弁償しろよっ! 弁償!」と文句を言って脅迫してきた、柄の悪い男に対しても睨みで圧倒し、「お、覚えてろよ!」と間もないうちに畏縮させて退散させた。
現在、神田悠華は奏美&テレジアと行動を共にはしておらず、誰も連れ添っていない。
つまりは一人ということだ。
およそ二時間前に遡るが、本郷彰人と名乗る、ドラマに出ていそうな刑事から倉岡市で横行する事件について尋ねられた後に彼女らは映画館へと寄ることになった。
観賞した映画のタイトルは「碧海戦雄ザヴァーンⅨ 決戦! 宇宙海皇の侵略!」。近頃、悠華が見たいと何度も期待に胸を(本物は絶壁だが)を寄せて止まなかった特撮映画だ。
彼女の趣味を嫌というくらいに知る親友はいい加減うんざりと呆れていたが、幼いテレジアにとっては「面白そう!」と目が輝いていたのと、抱き込みに成功した悠華の強い押しで仕方なく折れた。
――奏美はどうやら別の映画を望んでいたようだが。
観賞後、数年に一度の上々の出来だったストーリーと演出に悠華とこの上なく満足し、元々子供向けであった当作品を初めて見たテレジアは興奮したようだった。
しかし問題だったのはその後だ。
映画館の隣のホビーショップで発売されたザヴァーンⅨの劇場版フォームのフィギュア(数量限定、アクション重視で可動箇所200、原作により近い仕様でお値段5600円)を狙っていた悠華であったが、一刻もショッピングに急ごうとする奏美のおかげで一旦離れてしまい、どうしてもフィギュアを得ようとする態度が災いして口喧嘩になってしまったのだ。
両者を和解へ持ち込んだテレジアの功績もあって直後に諍いの火は消沈したが、気分を濁してしまった奏美は暫く黙り、まだ大人になれない子供の悠華はホビーショップへ向かうと言い残して彼女らと離れたのだ。
来た道を辿って店に赴いたものの、最新の劇場版の限定フォームという宣伝で爆発的に売れ、彼女が到着した頃には既に売り切れとなっていた。
実に後味が悪くて何も得ることのない結果。
因果応報だが彼女は途轍もない後悔に見舞われた。
今でもそれを思い出すだけで舌に苦々しい味が広がる。
「……謝らないと。でもさっき起こしたばかりだから聞いてくれないだろうなぁ。ロイヤルハニークィーンでも奢る勢いで詫びないといけないわね……」
物で釣るのは如何せん気が進まないが、それ以外の手段では効果が薄いことを悠華は熟知している。
精神的にも道理的にも奏美を納得できる詫び方はサプライズの他に何もない。
――アーヴェインとの戦闘で仲直りしたというのに。
アンジェリーク戦の頃ではないがこれでは逆戻りだ。
「戻ろうにも場所聞いてないし、ケータイで居場所気候にも部屋に置いたまま出かけちゃって……あーもう、ケータイを携帯しないって笑い話にもならないわー。これからどうすればいいかな」
「こういう時は間者を用意して仲介すればいいなのです!」
「わわっ!? だ、誰よ!」
突然どこからともなく聞こえた声に悠華は少々の驚動を周囲に察知された。彼女とは無関係の通行人は彼女を訝しむように注視するが、何もなかったかのように視線をずらしてさっさと倉岡駅方面へと向かった。
未知との遭遇に慌てるが、その正体はすぐに彼女が提げていたカバンから現れた。
銀髪で童顔で幼児よりもかなり小柄な少女が、動力となる装置もなくフワリと空中に浮かんでいた。
なぜか膨れっ面であったが。
「むぅ、誰ではないなのです。白の魔女セレネの使い、白の妖精ニードリヒト・フィーなのです」
「あぁ……何だフィーなのね。安心したわ…………………………………………………………ってぇ! ちっとも安心できないわよ!」
「はぷぅ!?」
再び慌てふためいてフィーを掴む悠華。
小さな肢体に強烈な握力が込められ、彼女の手から抜けようと必死に抵抗する。
「待ってくださいなのです! フィーは人造人間なのです! 体の構造が人間と同一なのですから優しく掴まないと内臓と骨が潰れるなのです……きゅうぅ」
すると、小柄な体を圧迫されて気絶しそうなフィーを、悠華はすぐさま胸のポケットへと入れた。
今にも意識が途絶えていた状態の妖精はその中でジタバタと暴れ、我を取り戻した後にポケットからひょっこりと覗いた。
視界に広がるのはホビーショップではなく、人気のない道路だった。
車がやっと一台入れる横幅の道で悠華が電柱の前で止まった際に、ポケット内の妖精は憤慨した。
「もう! もう! もう! もう! もうカンカンに怒ったなのですーーーーーーーーー! フィーを握り潰してしまうところだったなのですよ! プンプンッ! 言い訳はしないなのですかっ! さぁ、お前が食べたパンの枚数を数えろ、なのですっ!」
「ごめんねフィーちゃん、でも貴女も反省する面はあるわよ。こんな人の多い場所で出てきたら好奇の目で見られるに決まっているじゃない。今度こそカゴの鳥よ?」
「……あ、あわわわわわ! 愛用玩具として扱われるのは嫌なので、大人しくするなのです………………でも、こんなに人が多い場所を見たのは初めてなのです。外に出たくてウズウズしていたなのです。マスターと共に各地を放浪していた時は、日の当たる場所や街は回避して逃亡していたなのです……」
辛辣とした様子を悠華は全てを捉えることも慰めることもできなかった。
フィーが過去に嫌というほどに受けた凄惨な悲劇と受けた傷を癒すことなど到底無理なのだから。
ポケットの中に埋もれた顔が見上げる頃には既に寂寥は消えていた。
「そ、それよりも話を戻すなのです! ニードリヒト・フィー、貴方の為にカバンの中から馳せ参じたなのです」
「そういえば……どうしてカバンの中にいたの? 私、全然知らなかったんだけど」
「エヘン、なのです。それはですねぇ……何やら悠華さんと奏美さんが楽しみにしていたので、フィーもついていく所存でカバンの中に潜んで待機していたのです。そしたら夢心地になって今まで寝ていたなのです」
ここ数日を通して判明したが悠華たちが登校している間は昼寝をしている。暇だというのは当然だが行動が主人に似ている。
カバンの中を探ると確かにフィーくらいの小柄な体が横たわった空間が作られていた。多分ハンカチを枕にして寝ていた跡があるが、それよりも涎塗れになっていたのが衝撃的だった。
「……遊びたかったのなら私達に直接言えばいいのに、どうして遠回りにそんな事するのよ?」
「だって眠いなのです! 夜の時間は睡眠の時間なのです、ちゃんと寝ていないと調子が狂うなのです! フィーが悠華さんと一緒に行きたいと訴えても、もう時間帯は深夜だったなのですからどうしようもなかったなのですよ!」
「健全な小学生なの……貴女は?」
今時早寝する小学生も限られてはいるが。
「ともかく魔女の眷属の補佐として監視として護衛役として悠華さんの傍にいるのが私の役目なのです。他の魔法少女に狙われないように、なのです」
「この街に他の魔法少女が潜んでいる可能性が……あるとでも?」
「十分に有り得るなのです。そして――」
――倉岡市内にセレネのジュエルハートを狙う、他の魔女の眷属が潜在している事を。
悠華は堂々と無機質に語る妖精の言葉に動揺を隠せなかった。
「この街に敵が……!?」
「市内に魔力反応が所々で感じられるなのです。それも明らかにマスターとは異なる属性を持つ魔力が、なのです」
「でもそれだったら、居場所を探る事ぐらいはできるはずじゃないの? もしかしたら此方の居場所がバレて……!」
「それは無いなのです。各地に霧散する魔力が感じられても、居場所を特定する事は一部の魔法少女を除いて不可能なのです。例え一メートル内に相手がいたところで、変身しなければ誰なのか特定する事もできないなのです」
つまり鼻と鼻が触れる距離に位置しても、他の眷属を特定する事は無理という事か。
流石に鼻がぶつかるほどに近づいたりはしないだろうが。
「けれどヴィアージリングを嵌めれば――リングを嵌めた状態ならば、相手に触れるだけで眷属かどうか確認できるなのです」
「魔法少女の魔力を凝縮したヴィアージリングに宿った、異なる魔力が摩擦を生じて拒否反応を起こす……」
「よく覚えているなのですね」
「フィーがあれだけ忠告していればね。大丈夫よ、ヴィアージリングは肌身離さずに所有しているから、いつ敵が襲来しても大丈夫よ」
ゴソゴソとカバンの中から、乳白色の宝石を嵌めた指輪――白の魔女セレネの眷属を証するヴィアージリングを取り出す悠華。
これを左手薬指に嵌めて光に照らして唱えれば、宝石――ジュエルハートに凝縮された魔力が放出されて、白の魔法少女リリウム・セラフィーに変身する。
三人の襲撃者を圧倒した非現実の人外へと。
だが変身すれば暫くは人間ではなくなり、誰かを守る為に非人と化して誰かを傷つける。
――あの恐怖と殺意の衝動と狂気に再び浸かりたくない。
特にアンジェリークとの戦いで永善が引き留めていなければ、己の罪に一生苛まれていただろう。
しかし変身しなければ他者が無理矢理巻き込まれてしまい、最悪の場合死に至ること有り得る。
現に関門市内で数人が魔女討伐部隊の手によって死亡している。奏美もあと一歩判断を間違っていれば、五体どころか永遠に現世から退出していた。
女の子が憧れる存在であろうはずの魔法少女に変身する事が、命の駆け引きになる事だと予想できるだろうか。いや彼女ら以外に誰もできない。
だからこそ――。
「だけど今日はテレジアちゃんと遊ぶと決めた日だから絶対に戦わない。この街に潜んでる眷属と遭遇しないように避けるわ」
「…………別に死なないで済むならいいなのですねぇ。ただ……」
可憐な瞳から生気が消えて、まるで機械の音声の如く単調に呟く。
それ以降は徐々に小さくなって耳に入ることはなかった。
「フィー?」
「いえ何でもありません、なのです。それよりも悠華さんが奏美さんと逸れているので出来ればフィーが道案内したいなのですけど、危険に遭わせたくない気持ちを汲み取れば役立たずになってしまうなのです……久しぶりに役に立てるのに……」
魔女の魔力から生み出される人造の生命体である妖精の役目は眷属の全面的なサポートだ。
成り立ての彼女らに魔女からの知識を授け、魔法の編成から護衛まであらゆる範囲で支援するのが役割なのだ。
仕事が無いと困るわけで。
役に立つ事ができないばかりに落ち込んでいるフィーに対して、申し訳なく思った悠華は一つの提案を持ちかけた。
「フィーは奏美とテレジアちゃんの元へ行ってくれるかしら? もしもの事があったら二人を守ってほしいから」
「それでは納得しないなのです。フィーは悠華さんのお役に立ちたいなのですよ? 万が一、何かあれば――」
言葉が遮られてしまい、それ以上続くことはなかった。
優しく、柔らかく、それでも鋭い視線が妖精を沈黙させたからだ。
相手が街に潜んでいる以上、悠華が危険と隣り合わせである事は変わることのない事実だ。もし彼女らと遭遇すれば戦闘は免れない。
セレネを追っていた三人の襲撃者と同様に、倉岡市内で死人が出るかもしれない。
そうなれば倉岡市内の市民はおろか観光客も対象となる可能性がある。悠華と別行動を取っている奏美やテレジアも例外ではない。相手がどのような手段を講じるか判断できない以上、常に油断してはならない。
フィーを奏美たちの護衛役として回せば、彼女らに及ぶ危険は少なくとも低くなる。その分、悠華に及ぶ危険は高くなる。
しかし此方には魔法少女へと変身できるヴィアージリングがある。相手が襲撃するつもりなら返り討ちにすればいい。
「私は後を追って合流するから、それまでは貴女に奏美とテレジアちゃんを任せたいの。お願いできるかな?」
二人が――奏美とテレジアが寄る可能性がある場所や店は大方予想できている。
太陽は西へと傾いている。
この頃合いになると、アーケード街で行列が並ぶパン屋か喫茶店に寄っているに違いない。
「なのですけど…………………………………わかりました、マスターが居られない今は悠華に従います。なのですが条件を一つ飲んでくださいなのです」
生半可な心構えを決して構築せずに妖精は何時になく眉間に谷を構成した。
「悠華さんが危険に晒されるのであればフィーは誠に勝手ながらサポートするなのです。貴女を死なせるわけにはいかないなのです。どうですか? この条件は飲めますか?」
言葉を紡ぐ代わりに了承の意として頷く。
彼女とて眷属を支援したい思いは大いに有している。それを汲み取っての反応だ。
すると妖精は一瞬として微笑みを浮かべた。
「了解しましたなのです。では二人の居場所を突き止めて護衛役をお勤めするなのです! 悠華さん、くれぐれもマスターのジュエルハートを狙う不肖の輩には用心してくださいなのです。では、〈光量子化〉!」
ポケットの中でごく小さな魔法陣が展開され、フィーの全身が淡い白光の粒へと変化し、やがて零れ落ちる砂の如く消滅した。
「…………任せたわよ」
――思えば。
白の妖精ニードリヒト・フィーを行かせるべきではなかったのだ。
この時の悠華の判断が誤っていたなど誰が予想できたであろうか。
必然であるべき衝突を免れる事を前知できても、それから起こる内容を問題集の暗記のようにできる筈がないというのに。
――実に誤ってしまったのだ。
十一月での投稿となります。暫く時間が空いてしまって本当にすみません。
十月から十一月に向けて予定が埋まってしまって、時間がなかったんですねぇ。
それに一か月に一回の「なりそこないのセツナ」の投稿に時間を要した事もあり、この作品の投稿が非常に遅延してしまいました。
そんな事情があったわけなんですが、黒の魔法少女と銘打ってる二十七話でも未だ戦闘の展開はありません。次回に引き伸ばしていただく所存なので、できれば了承してくれると有り難いですー。
こんなんじゃ、終わりは何時になるのやら……
さて、この作品を今呼んでいる読者様にお伝えしますが、近いうちに作品の登場人物のステータスを活動報告で記入していこうかなと思いまする。
物語だけだと個人の強さの基準がわかりづらいので、数値化されたステータスを見れば若干わかりやすくなるかと。
読者のみなさんに楽しく読んでいただくため、これからどんどん追加していきたいです。
ではまた会いましょう。




