千世の苛立ち
今回は会話が中心の回です
萌黄の校章――細江中学の三年生を証明する校章――を左胸の部分に縫合された制服、黒髪セミロング、カーマインのアンダーリム、口元の黒子。それらの特徴を併せ持った美堂千世は少々眉間に皺を寄せて、二年生が屯する廊下を急ぎ足で通過していた。
「ああ、もう何で私がっ!」
要するに其処は浅葱の校章を制服に縫合した、二年生の教室が並ぶ廊下なのだ。当然の如く二年生は沢山存在しても可笑しくはない。この時間帯は四時限目と五時限目の中間、つまり俗に言う昼休みの時間帯だ。
勉学に励む生徒を考慮して設けられたゆとりの休憩時間は、身も蓋もない噂話や昨日見たテレビ番組の話や部活での出来事などをペラペラと話す女子生徒で賑わっていた。休憩時間なのだから先輩を尊敬して止まない後輩や、逆に後輩を可愛がる先輩を目撃したところで普通の光景である。
――女子校だけにあまり宜しくない光景も偶には出くわすので、そんな時は風紀委員として警察の如く目を光らせているが。
風紀委員の仕事は昼休みにはあまり介入しないので、普段ならば彼女は受験を早春に控える生徒として高校受験の勉強に勤しんでいるところだ。尤も多くの生徒は橙ノ木中学校に進学するのが通例となっているが、それでも異なる高校に進学する女子生徒は百人以上は存在する。美堂もその中の一人という事だ。
レンズの先に読書に夢中の生徒や少し早い受験勉強に集中する生徒の姿に、千世は厳しい目つきで感心していた。
だがこの時ばかりは風紀委員というよりはとある者の友人として、とある場所へと向かっていた。
細江中学の校舎は中央庭園を挟んで長方形の建造物が二つ並んでいる形となっている。勿論、渡り廊下が校舎と校舎との間を繋げている。
現在、全体で約五百人に相当する生徒を校舎に収めるにはいささか教室の数や校舎が不足している為、学校法人や理事長の見当で校舎を新たに増設する検討が定まっているが、企画段階なのでそれが完成する頃合いには三年生はおろか一年生が既に卒業した後の話だ。
校舎が建設された数十年前は教育権が適用されても、まだ男尊女卑の概念が多く取り払われていなかったので、女性の教養と能力の向上を目的とした当校の当初の生徒数は実に五十人程度だと語られている。
今となっては女性の権利が向上し、そういう点で高い学費を払ってまで私立学校の細江中学校に進学させる親御が増加している傾向にあるので、結果として多くの生徒数を抱える有名私立学校として全国に名を馳せている。
結局として何が言いたいのかと言えば――。
結果が生み出してしまった生徒数の増加に、千世はかつてない程に苛々としていたのだ。羞恥プレイとも言うべき一種の処刑に彼女は晒されていたのだ。
「フフフフフフフ……あの人が先程の放送で呼び出された三年生の美堂千世先輩ね。生徒会長と仲が良いそうで」
「仲の良さは三年生じゃ当然らしいよ。美堂先輩って結構融通がききにくい性格だけど、生徒会長には心開いてるみたいね。頼みがあれば何でも聞く人柄になるって!」
「生徒会長がどんな裏ワザを使ったのか聞きたいね!」
とある事情により彼女は生徒会長と呼ばれる女子生徒に放送で呼び出されていたのだが、その生徒会長が美堂千世を呼び出す放送に問題があって、今まさに羞恥の中で廊下を足早に通過していたのだ。
可能であればこの場を逃走したいが、風紀委員という立場もあり廊下を走るわけにはいかない。
――だが生徒会長に呼び出された場所は生徒会室だ。
前述の通り校舎は中央庭園を挟んで二つ並んでいる。そのうち東側に配置されている校舎に二年・三年の教室が設けられており、他に職員室などの教務員が携わる教室も設置されている。西側の校舎は一年生の教室と文科系の部室、または教科の専門教室などが設置されているのだ。
――しかし。
どういう訳か西側の校舎に配置するべき生徒会室が、何故か二年生の教室が配置されている東側の校舎の二階の奥に配置されているのだ。
三年生の教室が配置された三階から向かうには、北側と南側に設置されている階段を下りていくしかない。生徒会室は二階の最北端に設置され、北側の階段を利用することで最短ルートになるが、やはりそこでも二年生の教室が数多く並んでいる。当たり前の如く生徒数も半端ではない。
別段に理由があるわけでもないし、そこに配置されてることで不便を課せられてるという事もない。
だが美堂だけはその配置具合に疑問を投げかけている。苦痛さえも感じているようだ。
普段ならば――その長い廊下や昼休みに賑わう女子生徒に辱められることもない。
「あの放送のせいで私がどれだけ迷惑を被ってるのか、絶対に楽しんでるわね……アイツ」
美堂が「アイツ」と呼ぶのが珍しいくらいの親しい友人である生徒会長。その人物に向けられた怨念めいた邪悪な波動が噴出している。霊などの形而上的な存在を信じる者が出くわせば、おそらく悲鳴を上げて退散するだろう。
「殺ることは三つ。狙い撃つ、刺す、貫く!」
賑わう女子生徒の騒音にかき消されてしまったのか誰も耳に入ることはなかったが、もしいたとすれば震えあがっていたであろう台詞を美堂から吐かれる。
そのうちに羞恥から解放された千世が辿り着いた先にあったのは――目的地の生徒会室。この教室の前だけは不気味に静寂を保っている。
だが千世はそんな事など関係なく、ぶっきら棒に力強く開けた。
「ほら、出てらっしゃい……私はここにいるわよ」
「おやおや、騒々しくなったら思ったらちーたんじゃないの~? ここまでやって来てご苦労様~!」
生徒会室の奥に鎮座する一人の女子生徒。長身で黒髪セミロングヘアでツリ目の千世とは対照的に、やや短身で茶色――染めたのではなく遺伝的な事情で茶色となった髪――のシルキーウェーブと呼称されるヘアスタイルの長髪、おっとりとした瞳が特徴的。
――同じなのは制服の左胸に縫い合わされた萌黄くらいである。
怒髪衝天とした雰囲気を纏わせている千世とは違い、いかにも悠々閑閑とした状態で彼女に手を振っていた。
「常盤栞奈三年生兼生徒会長……!」
「あらら~? ちーたん、どうしたの? そんな緊張したカンジでフルネームでを呼ぶなんて。親友なんだから堅くならずにカンナたんて気軽に呼んでよね~!」
「お言葉ですが私は一度もカンナたんと呼んだことはないし、ちーたんと呼ばれる覚えはありませんから!」
すると栞奈と呼ばれた女子生徒の前から千世の姿が一瞬消えた。
「え、え! え!?」
「――動かないで頂戴」
再び千世の姿を視覚に捉える時には既に彼女の顔が眼前までに迫っていた。生徒会長と名乗る女子生徒には彼女が瞬間移動したかのように見えたのだ。
レンズ越しに映る瞳が殺意を宿しており、生徒会長の左目にシャーペンの芯が一ミリもないわずかな距離で向けられていた。少しでも頭を動かせば芯が角膜に刺さってしまうだろう。
「さて速やかに吐いてしまいなさい。さもなければ生徒会長でもタダで終わらせるわけにはいきませんよ。さぁ、聞いてもらましょうか! 何故あんな呼び出しを放送したのかを!!」
「止めて! 私に乱暴する気でしょ! エロ同人誌みたいに!」
「……刺すわよ?」
突如としてぶりっ子のように身を庇い始める生徒会長に対し、千世はシャーペンの芯を更に伸ばそうとすることで大人しくさせた。
「あ、ごめんごめん。私が悪かったから、刺さないで。私に抵抗する意思はありませんから」
「なら、いいのだけど。あの放送について聞かせてもらうわよ」
常盤栞奈。私立橙ノ木高校付属細江中学校の三年生であり、当校の生徒の中央権力組織とも言える生徒会の現生徒会長でもある。言わば校内でのトップに君臨する生徒なのだ。
性格としては八方美人で、誰に対しても屈託なく付き合える高いコミュニケーション能力を持った外交型の人間で人望の厚い――ただの女子生徒。
生徒会長である事を除けば、特別な能力など何も有していない凡才の生徒だ。
トップだからといって彼女が運動能力や勉学の成績に何かしら優秀なステータスを見せているわけではない。
非凡の人間が生徒会長に相応しいのなら――細江中学には多くの天才がいる。生徒会長になる器は校内に集まっている。
つまりは――有名私立中学校と雖も所詮、生徒会は政治の内閣をモチーフにしたお遊びに過ぎないものであって、生徒会長の座に着いたところで権力が振るわれるわけではないのだ。
要するに生徒会の人間はちょっとした暇人の集まりなのである。
――とある事情で美堂千世と出会い、親友となった栞奈も暇人といえば暇人だ。
ちなみに今日は生徒会の役員はいない。
「最近のちーたんったら受験勉強とか言って私の話に応じてくれないんだもの~! だから放送で呼び出し喰らえば聞いてくれるんじゃないかって! 『私との蜜月を全校生徒にバラされたくなければ生徒会室までに来なさい!』って言ったのも、緊急事態だと言うことを伝えればすぐに対応してくれるんかないかって!」
――放送内容を緻密に語らないでほしい。
それを威圧で伝え、シャーペンを制服の内ポケットの中に入れ、代わりにデコピンを喰らわせた。
「ふにゃっ!」と可愛らしい声が栞奈の喉から迸った。
「……の頼み……ないはずはない」
「え?」
「何でもない。それで? 生徒会選挙時にはやる気満々だったけど、職員からの指示に従うだけで自主性のない生徒会にやる気無くした、暇な生徒会長はどんな緊急事態を私に押し付けてきたの?」
「嫌ねぇ、私は寧ろちーたんにしか出来ないから頼んだだけよ。ま、この理事長から渡された資料をしっかり通して頂戴」
生徒会選挙や文化祭などの過去の行事で使用されたガラクタやハリボテなどが無造作に散らかされ、倉庫としか例えようのない教室。役員が居座るであろうテーブルや椅子も雑然としている。
その中に置かれているには似合わない、生徒会長専用のシステムデスクの引き出しから一枚のA4紙を抜き取り、千世に渡した。
「なになに……理事長からの? 理事長が何で生徒会に………………………………っ!?」
「はいはい、これで緊急事態だというのわかってくれた~?」
「な……にぃ!?」
窓から差し込む日光が丁度よく千世の眼鏡を直射し、驚愕したばかりに開いた瞳が見えなくなってしまったが、少しだけ開いた口元で栞奈は彼女の状態を知った。
A4紙にプリントアウトされた内容を端から端から目を通す度に彼女の手が震え、遂には力んで紙をクシャクシャに折り曲げてしまった。
ただでさえ先程の栞奈の放送で辱められているのに、更に筋を立てそうになる。再びシャーペンを持ち寄ろうとしたが、脳内で素数を数え始めた。
「これは一体何の冗談よ? ヒーローショーって、しかもこれは何? ザヴァーン……」
「碧海戦雄ザヴァーンを知らないの~? プークックックック! 知識豊富なちーたんでも知らない事あるのね~」
「いえ、知ってるけど」
機械的な応答に、さも詰まらなそうに頬を膨らませる。
『海からやって来た青い戦士、その名は碧海戦雄ザヴァーン!』
碧海戦雄ザヴァーンとは関門市の地方放送局が贈る、勧善懲悪のご当地ヒーロー番組である。
何でも十年前くらいに東京の放送局から地方に島流しにされたプロデューサーが、出世のチャンスを取り戻す目的で急遽制作された番組らしい。
強引な手段と采配で制作されたという話は有名。関門市の市民ならよく知る話だ。
関門市が海峡に臨む土地という事と、海水浴や水産業などで栄える市だという事を踏まえ、海をテーマにしている。
設定としては、夏季に海水浴場でライフセーバーとして働いている冴えない大学生が、海の守護神から力を与えられて守護戦士ザヴァーンに変身し、海を汚染して人類を全滅させようとする悪の組織と戦うというもの。
はっきり言えば仕様もないのだが、出世欲に燃えるプロデューサーの懸命な制作過程でCGや着ぐるみが多く投入され、全国放送のヒーロー番組にも劣らない出来を見せている。
プロデューサーを知る人物や視聴者は「無駄に金をかけた無駄な番組」と批判される事も多々あるが、戦闘フォームへの着装による変身、CGと実写を精巧に織り合わせた特撮技術、悪の組織の一員であるヒロインとの恋模様、大人にも見てもらえるように設定されたハードボイルドなシナリオなどが関門市の親子たちに好評され、平均視聴率が11%と地方放送局のご当地ヒーロー番組にしては異例の高視聴率を叩き込んでいる。
パイロット版の放送開始からおよそ九年くらいが経つが、現在ではシリーズものとして展開され、一年ごとに行われる主人公とヒロインの交代、設定を一新されつつも変わらない世界観、前作との登場人物との関わりなどの要素を取り込んで全国ネットで放送される人気番組となっているのだ。
その人気ぶりに主人公・ヒロインの役を演じた男優・女優は今後五年くらいは引っ張りだこにされる事を約束されるほどである。
営業面でも成功し、結果として関門市の観光事業に大きく貢献して財源を潤し、それだけに止まらずにヒーローショーや玩具の販売、更には映画も放映されて業界に「売れるコンテンツ」として進出している。
――だから千世が知らないはずは全くないのである。
「人気番組の大手プロデューサーさんから依頼があってね、関門市の市民会館で行われるヒーローショーで現主人公の八神宗次君に助けられる女子生徒の役を、細江中学に通う生徒の中から選んでほしいっていうのよ。ちーたんに渡した書類はその確認書よ」
目を通す限りでは、ザヴァーンのヒーローショーでの依頼の事情を綿密に記した上で、下記に撮影許可のサイン欄と氏名欄が表記されている。右記には理事長と秘書が確認して許可を取ったことの捺印が押されていた。
「いやぁ~理事長もよく認可したものね。理性的だけど太っ腹な面もあったのね」
「栞奈……いや生徒会長、何で細江中学の生徒が選ばれることになったの? 橙ノ木高校の生徒でもいいじゃない」
「それがねぇ、なんでもプロデューサーがザヴァーンのプロット制作に悩んでいた時に、関門海峡の砂浜で休憩していたら海を観察する女の子と出会って、その子からアドバイスを受けてザヴァーンの制作に踏み切ることができたんですって」
「つまり、現在の成功に至るきっかけを作った女の子が細江中学に通う生徒だったので、恩返しとして出演の依頼を願った次第ということね」
「ロマンチックでいいと思わない~?」
「……下らない」
「そんなこと言わないでよ~! ちーたんにいくらロマンが似合わないからって貶してたら、興味のある男性に逃げられるわよ?」
「……もう一度刺すけど?」
「冗談冗談って! そんなに怒っちゃダメだぞ☆ プンプン☆」
小さい子供を宥める保育士のつもりでふざけた態度を取る生徒会長。
――ものすごく刺したい、殴りたい、貫きたい。
だがここは理性で抑えつける千世だった。
「それでね、理事長からの伝令に依るとなるべく親しいクラスメイトに依頼してほしいとの事よ。それと隠密にね」
「……何で『願わくばスタイル抜群の子を所望』という言葉が小さい文字で、しかも端に書かれてるのよ?」
「それはねーネタバレと言っちゃネタバレなんだけど、ヒーローショーでそのキャラが悪者に捕まって洗脳で悪の幹部にされちゃう設定なのよ。しかもボンテージ姿で宗次くんと観客に晒されちゃうのよ! ウェヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! ハァハァハァハァ、ちーたんのボンテージ姿を想像するだけで私倒れちゃいそう!」
「…………帰る」
妄想に耽って鼻血を流す変態思考の生徒会長にエリート風紀委員はいい加減に呆れて、物置小屋と言ってもおかしくない生徒会室から素早く退出しようとする。
だがそれは、スザアアアアアアアァァァァ! とサッカー部の如くスライディングをする生徒会長によって阻まれた。教室から出ようとする千世の足にしがみついたのだ。
その手を振り解こうとして足蹴にするも、生徒会長は潤んだ目で
「嫌だい嫌だい嫌だい! ちーたんから了解を得るまでは諦めないもん! 何度振り放そうとしたって抵抗するもん!」
「あーもう! しつこいわね! 栞奈がいくら頼んだって聞かないわよ!」
「ウヘヘヘヘヘヘ、今日のちーたんのパンツの色は水色! しかもランジェリー……派手ね」
「どこ見てんのよ!」
栞奈に与えるダメージを考慮しての事もあって肩ばかりを集中して足蹴にしていたが、スカートの中を覗く彼女に千世は堪忍袋の緒を切らして、ついに頭を蹴って額を床に直撃させた。
相当な痛みが生じたはずだが、わずか三秒後に糠に釘と言わんばかりに栞奈は起き上がった。
しかし千世を見る眼差しは千世に纏わりつく変態ではなく、友を慕うものだった。
「……その様子だと、あの『傷痕』をまだ『私以外に』に見せてないようね」
遠い彼方に向けられた視線の先に映るのは何かを栞奈に判断することはできないが、千世がそのような行為をしているのかは理解していた。
――それは『二度と帰れない故郷』への哀愁。この世界の『何処にも』存在しない、有り得ない場所へ戻りたいという悲哀。
腕を抱えて震えながらも寂寥感に身を浸すまいと涙を堪えているのだ。微動だにしないのは零れ落ちそうな雫を垂らさないためだ。
「私にはそんな役は務まらない。まだ『傷痕』を見せたくないから、代役の人に頼んでくれる?」
「ふーむ、そうねぇ…………私にはちーたんが適役かと思ったんだけどね、推薦の人がいればその人に頼むけど?」
「細江中学校の生徒ならば体格とか関係なく誰でもいいんでしょう? なら相応しい人が一人いるわ」
「………………二年生の神田悠華ね?」
――お見通しだったか。
「ちーたんの事だからなんとな~~~~~く当てられちゃうのよね。おまけにちーたんの『保護観察対象』だからね。才媛の彼女なら頼みを受け入れてくれそうだし、この手のコンテンツなら猶更喜びそうね。ちーたんの記録に依ると彼女は特撮好きだって記されてあったし」
「!…………栞奈」
振り向いた時にはいつの間にか千世の足元からしがみついておらず、生徒会長専用のシステムデスクの席に深く座っていた。
先程までの変態思考な状態とは打って変わり、瞳は凛として、生徒の上に立って指導者として纏めていく者の風格を漂わせていた。
「理事長の秘書さんに頼んで、ちーたんの部屋の合鍵を貰って留守の間に侵入したのよ。そこで資料を確認してもらったわ」
「そんなまどろっこしい事をしなくても私に頼めば、資料くらい見せてもらえるのに」
「ごめんね。でもちーたんが嫌がるだろうと考えてね。大丈夫、資料以外の物は全然漁ってはいないわ」
「そう……ならいいのだけど」
若干焦りが表情に浮き出ていたが、生徒会長の答えを聞くなりほっと胸を撫で下ろした。
――知っていいのは理事長と秘書と生徒会長の栞奈だけだ。そう彼女ら以外の者には知ることもない。
碧海戦雄ザヴァーンのヒーローショーの女子生徒役に適役が決まったということで、二人は既に緊急事態なる話を終了させた。
別に風紀委員である千世が介入しなくても、生徒会の役員同士で話し合えば良かったようなものだが親友の頼みという事もあり聞かずにはいられない。どうでもいい話だったが、地域の活力アップの為のボランティアだと考えればいい。
神田悠華に押し付ける形になるものの、そこは生徒会長から事情を伝えた上で許可を得るということになった。
――彼女は慈善家ではないが一種の物好きなので引き受けてくれるだろう。
その可能性を大いに信じた千世は栞奈に全てを任せることで、ヒーローショーの話から引き下がり、後を託すことにした。
昼休みもぼちぼちと終了時間を迎えようとしている。この時間帯になれば次の授業の準備を始める者や、教室を移動する者で廊下が再び賑わう。
既に静寂が漂う生徒会室の中でただ一人、常盤栞奈はデスクトップPCから学生の名簿のデータを漁り、二年生の名簿欄から一人の女性の名簿を引き出す。
画面に映し出された写真。映るのは荒んだ眼差しをかつて生徒に向けていた神田悠華。その写真の瞳を栞奈はじっと見つめ続けた。
「本当、貴女は優秀なのね」
第二部ということで新章に突入することになりましたが、未だ大きな展開を見せられなくて本当にすみませんorz
次回こそ、次回こそ期待してもよろしいかと。




