非情なる戦闘狂の傭兵 PART3
実銃については聞きかじり程度なのでご了承を。
「Fire(撃て)!」
リーガル・モントルー社のベテラン傭兵であるアーヴェインが発射の合図を、スカーフを被った部下たちに送ると一斉に黒々とした鈍い輝きを煌めかせるM4カービンを構える。
隙を与えることすら許さずに掃射された。
ババババババババ! と、乱射する音が辺り一層に轟いてグラウンドの木々と、赤煉瓦で積みあがった壁を容赦なく穿つ。
四方八方から目掛けて襲いかかってくる銃弾を、無意識の発動魔法である「絶避の眼」で軌道を読んで、強化されている華奢な身体でバク転をして発射地点から最も遠い位置に立つ。
「っ……射線からできるだけ離れたというのに、これだけの傷を受けるだなんて!」
「ヘヘヘ、俺の優秀な部下の蜂の巣射撃を難なく逃げ切るとはな。それも魔女とやらのキチガイ女から与えられた『魔法』ってやつの力か」
実際、悠華の華奢な体躯の皮膚には5.56×45ミリのNATO弾が擦れた時に生じた火傷と擦傷が深く刻まれていた。一種の魔眼で弾の軌道を読んでも全てを捌ききれるとは限らない。
すぐに表面の傷が再生治癒によって跡形もなく修復されたが、ダメージと精神的疲労は完全に回復されるわけでもない。
(せめて……私に遠距離からの魔法があれば一掃することもできるはずだけど、それだと奏美も巻きこまれてしまうかもしれない)
「もっとあのクソガキに俺たちのを浴びせやがれ! Fire(もう一度撃て)!」
「「「Yes sir!」」」
もう一度発射されるM4カービンの射撃。今度は四方八方ではなく彼女の前面から引っ切り無しにNATO弾が群れを成してやってきた。
「いぁ!?」
今度は上手く捌ききれずに銃弾の弾頭を何発か右腕に受けて、か細くて折れそうな腕から鮮血が漏れ出でて、藍色に彩られている地面の土を赤々と濡らした。
続け様に撃たれる銃弾は、終息の片鱗すら見せずに直進して遥か彼方の石階段にいる永善にも直撃しそうになり、無差別にグラウンド上の物が轟音と共に飛散する。
「うぅ……はぁっ……はぁっ……これくらいの痛みで!」
銃弾の洗礼から逃れて木々に隠れた彼女は、激しい動きをしたわけでも大量の魔法と魔力をしたわけでもないのに、彼女の呼吸は何時の間にか乱れていた。それも当然であって彼女の右腕に食い込んだ弾を取り出し、鮮血が迸る右腕を回復させるのに精一杯だったからだ。悠華は苦悶に顔を歪ませながら、一向に止まない銃弾の轟音に耳を塞ぎ、わずかに木々の間からチラリと顔を覗かせた。
五人の部下と共に固まっているアーヴェインの左腕には、喉元に向けられたコンバットナイフと魔法少女たちを廃人に追いやった注射針に脅えながらも、此方の身を案じている奏美が抱えられている。
(絶対に助けてみせるから、無事に助けてみせるから……その後で知らないことを全て話して、もう一度やり直そう)
傷付き、蔑まれ、信頼を失っても尚思いは揺らぐことなどなく、寧ろ以前よりも強くなっている。
――放課後、女子サッカー部のメンバーとの試合中に、スライディングキックで膝を擦り剥いて大怪我をしてしまった悠華を介護してくれたのは奏美だった。
片足でしか歩けない状態の親友を、肩を担いで保健室まで連れて治療までしてくれたのだ。
『イタ、イタタタタタ! 染みる染みる染みるって! もっと優しくしてよ!』
『ちょっと、大人しくてしてよ! ちゃんと傷を消毒しないと化膿して体中に菌があっという間に広がるんだから治る傷も治らないわよ!』
『私はいつも運動してるし、毎日欠かさずに筋トレしてますから傷ができたくらいで大丈夫よ!』
『へぇ~怪我人のくせにそんなこと言うんだ。そんな悠華には……えい!』
『イダダダダダダダダ!? つぅ~、だから染みるって!』
『介護してくれる私に逆らった罰ですよーだ!』
今となっては懐かしい思い出であるが、彼女との仲の良さを確認できる記憶だ。
だからこそ、此処で屈するわけにもいかない。非情で残酷で卑劣な手段を講じてまで戦おうとする傭兵に、リーガル・モントルー社のアーヴェインに。
その時、石階段にいたはずの永善が木々に隠れていた悠華の前に出現した。
「神父さん! どうしてここに!?」
「今はそんなことはいい。魔法少女リリウム・セラフィーよ。いいか、君に言っておく。相手は傭兵だ。報酬を手に入れる為ならば人質も脅迫も厭わない相手だ。いかに身体が魔力で強化された君と言えども、死線を何度も潜り抜けた傭兵相手に魔法を使わずに倒すのには難しい。魔法を使うのだ」
「でも私には傭兵相手に通用する魔法なんてない! 『熾天使の翼』は使っても恰好のいい的になるだけだし、籠手技を使ってもアイツらを倒すには及ばないわ!」
「魔法だけでアーヴェインらを倒すのではない。魔法を駆使しながら圧倒するのだ。そうやってきた君にはできることだろう?」
「私に……?」
「戦士アテナ、バチカンの騎士団の師団長アンジェリークと手練れの相手との戦闘を振り返れ。君が具現する魔法はあらゆる物を構築し、無限に生み出す。今の君ならばできるはずだ」
「私の魔法が……不可能を可能にするとでも?」
「そうだ。白の魔女セレネが君に託したのはあながち間違いでもないのかもしれん。できればルール違反をしたアーヴェインにお灸を据えてやりたいところだが、彼は私の実力を知っている上に人質をとっている。私が出れば暴徒共が狂暴化して君の親友に手を出すかもしれん。そうなってはお終いだ」
「……元はと言えば神父さんのミスなんだけど」
「では、後は任せたぞ!」
若干、悠華に全てを丸投げにしたような語調で永善は闇の中へと消えていった。中学生とはいえまだ小学校卒業からまだ一年と数か月しか経っていない子供に、それも女子に傭兵数人を相手に一人で戦えと言ってるようなものだ。侮蔑の視線が今はもういない永善に向けられた。
(神父さん、私に全てを託すとか言ってたけど……どう考えても責務放棄じゃない……!)
「オラァ! どうしやがったんだ!? さっさと出て来い、こっちが撃ってばかりじゃ何にもつまらねぇぞ! クソガキ、出てこいや!」
「きゃあっ!」
一向に出てこない様子の悠華に痺れを切らしたのか、奏美をゴミのように捨てたアーヴェインが背後に置いている特大サイズのケースを開けて、銃弾やら拳銃やらガンパウダーやらが入っている中から、航空機関砲や地上部隊の低高度防空用機関砲として使用されているM61バルカン砲を取り出して重みなど一切感じない素早い動作でそのトリガーを引いた。
すると、M4カービンの駆動音以上に騒がしい轟音が魔力結界内のグラウンドを巡り、悠華が隠れている銀杏の木に大量の穴を開ける。
(最早駄目ね。でもコソコソ隠れてるよりかは例え五体満足でなくても私が戦った方がいいに決まってるっ!)
未だ続けられるM4とM61のコンビの連続射撃を、「絶避の眼」で避けながらも悠華は徐々に彼らとの距離を縮めていく。
その中で彼女は、十二人もいるアーヴェインの部下の隊列で一人だけ弾切れを起こしてカートリッジを交換している傭兵を発見した。
――そこで彼女は一つの勝機を見出す。
再生治癒によって回復した右手を手刀にして魔力を込めると、手刀状態の右手が白く灯り始め、それを振るった。
「リリウム・ハンドカッター!」
白光刃が真夜中の細江中学校のグラウンドを舞い、カートリッジを交換したばかりの傭兵のM4の銃身を真っ二つに裂いた。
「うぉ!? 光るカッターナイフがライフルを切ったぞ!?」
「まさか、そんなことはあるめぇ!」
「お、おいおいおいおいおいおい!! ラケルのライフルを切ったカッターナイフが空中を舞っているぞ! どんな仕組みだ、ありゃ!? 誘導機でもチューンされているのか!」
アーヴェインと違って魔法(とはいっても構築魔法だが)と魔法少女について何ら情報を得ていないのか、それとも情報を得ても想像力に乏しかったのか、悠華が繰り出した構築魔法(リリウム・アイスラッガーの流用で変わりはないが、ネーミングが問題だったので変更)に動揺していた。その間にも悠華の指示に従って白光刃が次々と傭兵たちのM4カービンを裁断し、ついにはアーヴェインが所持していたM61ガトリング砲の砲身も斜線状に切り裂いた。
「ここからが土壇場でのどんでん返しよ! 」
傭兵たちが一つの攻撃手段であり最大の攻撃手段でもあったライフルを切り裂かれて未だ動揺を隠せない間に、彼らの目前に立ち塞がり、そしてその華麗な長脚を躍らせて、コンバットナイフを構えていた手前の傭兵の頤へと必中させた。
「ぐぼぁ!!」
「ラケル!」
顎へと強烈な蹴りを喰らわせた後にアーヴェインが気絶してしまった傭兵たちの名を叫ぶ。
コンバットナイフを振るう傭兵たちを五人くらい屠ると、「アビメレク!」「ロト!」「ヘムダン!」「ジムラン!」「ミブサム!」と仲間が叫んだ。
悠華にとっては倒すべき敵の部下なのだが、こうして気絶した傭兵たちの名を叫ぶあたり、彼らの間に絆が存在していることが把握できた。
傭兵として雇用され、敵を射殺し、金品を略奪し、女を犯し、酒を飲み、肉を食らい、報酬を得るという残忍な行動をするリーガル・モントルー社の傭兵である彼らにも人間性があるというのか。
「畜生! ガキのくせに小賢しい真似をしやがって! これでも喰らえ!」
「落ち着け、エサウ!」
「個人だけで戦うんじゃねぇ! 隊が乱れるとフォーメーションが崩れる! さっさと持ち場に戻れ!」
「アーヴェイン隊長! 仲間が無残にもやられてみすみすと見逃せるかよ! 俺にクソガキをヤらせてください!」
「……男ってホント、ムサ苦しいわね」
「うるせぇ! オマエ一人ごときにこのリーガル・モントルー社のベテラン傭兵がやられてたまるかよ!」
エサウと呼ばれた傭兵が仲間の忠告やアーヴェインの指示も聞かずに、腰に装着していた手榴弾をピンを抜いてから悠華目掛けて投擲してきた。
勿論、それを悠華が見逃すはずもなく――
「そんな無粋な武器でやられる私じゃないわよ! てやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――投擲された手榴弾の位置と高さを目で測り、跳躍するや艶めかしい美脚を晒す。
スカートの中が見えるのではと思うくらいに上げてサッカーボールのように蹴った。
「へ? え、え、え?」
「エサウ! 逃げろ、逃げるんだ! 爆発するぞ!」
一体何が起きたのかとわからないままに首を傾げるエサウ。
投擲された手榴弾が蹴り返されて、足元に転がっている手榴弾を現実の物とは思ってないのか、依然とそこに立ち尽くしている。
その間にもアーヴェインの部下たちが彼を助けようとするが、手榴弾が光を発し始め――
――そして光と共にエサウを包んで爆発した。
「わあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
今回でアーヴェイン編を終わらせようとしていましたが、思ったよりも長くなってしまったため、前編後編と分けることにしました。
アーヴェインの魅力を引き出すためにサディズムな戦闘を展開しようとしてましたが、後編になるようです。
陳腐な文章になってしまってすいません…orz




