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非情なる戦闘狂の傭兵 PART2 

結構長い回になります。

 アーヴェイン。

 本名はギルバル・イブン・アーヴェインでイギリス人とイラク人の血が流れているハーフの混血である。

 白の魔女によれば、この男はヨーロッパ・中東・アフリカ各地で傭兵活動を生業とする民間軍事会社「リーガル・モントルー社」の傭兵だという。

 民間軍事会社とは直接の戦闘の参加、要人や施設の保護、軍事教育、兵站などの軍事的サービスを行う企業であり、戦争や紛争での国連軍といった正規軍の後方支援や民間委託の警備活動を主な目的としてその存在を知らしめている。

 存在そのものは八十年代後半で、南アフリカのデクラークとマンデラ両政権下で行われていたアパルトヘイト政策の廃止や軍縮によって職を失った兵士たちを雇用したエグゼクティブ・アウトカムズ社(略称EO)が最初のPMCとされている。

 1991年のソ連崩壊に伴う、冷戦の終結と東西の対立が終了を告げたことで、アメリカ合衆国などの各国が肥大化した軍事費と兵士の削減を命じたことで多くの退役軍人を生み出した。これで超大国同士の睨み合いと戦争開始の危険性が去ったと思われたが、冷戦の過程で起きた民族紛争や内戦やテロ行為の頻発化によってPMCが登場することとなり、軍隊のコストの面での効率化を求めて一挙に需要が跳ね上がった。しかしPMCの登場は新たな戦争を引き起こす土壌となり、戦争のアウトソーシングとサイクルを築き上げてしまうこととなった。

 世界は戦争を放棄するどころか、その種を育て上げる苗床と水を与えてしまったのだ。

 アーヴェインが所属している「リーガル・モントルー社」も世界各地での内戦やテロの活発化と軍需産業の発展によって創立された民間軍事会社であり、戦争をビジネスと考える非情な会社でもあった。

 業務内容は全く常軌を逸していて、紛争と内戦への幇助、各界の要人やVIPの暗殺、テロ活動の支援、資金獲得の為の軍需品の商業的流通といった、まさに戦争を基盤とするPMCなのである。

 しかもコスト削減と大量の利益を求めるために、世界各国で幼い少年少女を攫ってはチャイルドソルジャーへの育成を施すなども行っているらしく、誘拐事件が後を絶えない。

 2001年に起きたアメリカ同時多発テロの犯人であるアルカイダを支援したのと、人道から外れた行為に国連やユニセフは会社そのものと社員や傭兵を国際指名手配とした。だが一時期は鳴りを潜めていたリーガル・モントルー社は地下組織として今でも活動しているらしく、逮捕までに至ってない。

 アーヴェインはリーガル・モントルー社の創立時からの傭兵で、会社の中でも五千ドル(大体は千ドル)と破格の報酬を得ている凄腕の傭兵である。主に中東とアフリカで活躍していて、アフガニスタンではグリーンベレーの兵士二十人を相手に一人で討ち取ったという記録がある。しかしそれ以前に犯罪者としての所業は見過ごせないものが多く、紛争や内戦地域での虐殺・略奪・強姦を頻繁に繰り返している。麻薬の密売・密輸も裏ルートを通じて行っているようで、特級クラスの犯罪者として国際的に指名手配されているものの、地下活動をしているリーガル・モントルー社同様に影を潜めており、今も戦地や紛争地域で傭兵稼業をしているのだとか。

 残虐、卑劣、非情。それらを併せ持った男がまさに三戦目にして最後の対戦相手として悠華の前に立ちはだかっているのだ。




 翌日、神父から三戦目の予定が今夜だと告げられた悠華は、またもや学生寮を抜け出してグラウンド前と到着し、逸早く待ち合わせをしていたセレネからアーヴェインの情報を聴取していた。


「……と、これが私の知っている限りの傭兵アーヴェインについての情報よ。彼との戦いは今までとは違って変則的なものになるでしょうね。ザルモアーズ家の騎士やバチカンの騎士団の魔女狩りみたいに魔法や魔力を駆使した相手を駆除することに慣れていないだろうし、魔女相手に戦うことも儘ならないと思ったわ」


「でもそれは油断だった、完全に傭兵アーヴェインの能力を見縊っていた。彼は私や私の眷属であった魔法少女たちを戦士アテナやザルモアーズ家の騎士に任せて卑劣な手段を講じていたの。一瞬の隙を窺って魔法少女を捕縛するや人質にして脅迫し、更に五人の眷属に麻薬を注入して廃人にした後、彼女らの手足を切断し、捥ぎ取り、解体しては笑っていた。その惨状は見るに耐えなく、彼の仲間であったアテナも姫騎士も侮蔑の死線を送る程だったわ」


「彼女らの無残な死を見取る間もなく私は本調子でない状態で三人の襲撃者と消耗戦を始めて、関門市へと訪れたわけよ。もっとも今はその二人もいなくなって、残るはアーヴェインとなったけれど、だからこそあの男には用心した方がいいわ……って、どうしたの、悠華?」


 セレネが朗々と語っている間、悠華はいつにもない沈んだ様子で顔を垂れており、どんよりとしたオーラを溢れ出していた。泉の如く澄んでいた瞳も今は汚濁している。


「もしかしてまだ昨日の事を引きずってるの?」

「…………」

 

セレネの問いに言葉では答えず、代わりに頭を下げることで肯定の意を伝える悠華。腕も人形の腕みたいに垂れていると、最早戦闘の意思どころか人間としての尊厳すらも消え失せているようにしか見えない。


「奏美に嫌われた……私のことが信じれないとか言ってた、化け物だとも言ってた。これじゃ完全に嫌われた……」

「気にするほどでもないわ。そこまで彼女が悠華を罵るのならば放っておきなさい。それで問題解決にはなるわ」

「放っておけないよ! 奏美ったら昨日から私と別々の行動取るようになって、弁解しようとしても離れていくし! 話しかけようにも無視するし! 部屋に戻っても全くの無反応! とてもじゃないけど居心地が悪くて耐えられないわよ!」

「だから放っておきなさいと言っているでしょう? 貴女の親友がどうこう諭してきたところで関係ないのだから、威圧されたからといって落ち込んでいる暇はないわ」

「関係もあるし落ち込むよ! 気まずい空気を何とかしようとして特撮映画見ようにも『悠華がこんなものばっかり見てるからおかしくなっちゃうのよ』とか言って、ブルーレイディスクの中身全部消去しちゃったのよ? 落ち込むのよ当然よっ!」

 

 ――ああ、そっちの方か。

 と、セレネは喉の奥まで出そうになった気の抜けた言葉を飲み込み、レース調の扇を優雅に煽ぎながら、かけるべき答えを詮索する。

 その間、かかること三秒。

 操り手のいない操り人形のように虚ろな状態の悠華を、その豊満な双丘の間に埋める。

 慰撫の言葉かと思いきや、実際は異なっていた。


「貴女の親友、伊崎奏美が貴女を拒絶するのは……彼女が知らない範疇で貴女が変化しているのが嫌だったからよ。私が関門市に来て貴女を巻き込んだのが一番の原因であるならば、私は彼女に対して謝罪しなければならないかもしれないわね。でも彼女は知らない貴女の一面を受け入れようとしなかった、拒絶をした、受け入れようとすらもしなかった」

「それは私が魔法少女だから、セレネの眷属だから、理性を押さえられなかった化け物だから……!」


 ――悠華の方が怖かったよ。猛獣みたいに暴れてた悠華が、今の私には信じきれないよ。

 暴走していた悠華を見て脅えていた奏美が放った拒絶の言葉が脳裏に蘇る。

 大の親友であり、心から信頼できる隣人が離れていくのは途轍もなく引き裂かれるような思いでたまらない。

 しかし、セレネはそれを打ち払った。


「彼女が貴女を受け入れようとしないのならば、無理矢理にでも記憶に植え付けようとするくらいに強烈に、貴女の姿を見せつけなさい」

「私の姿を……?」

「トラウマでも何でもいいわ、一生記憶に残るくらいの勢いでやりなさい」

 

 瀕死のセレネを助けようとして契約した時、悠華の決意は親友の言葉ぐらいで揺れるような脆いものだったろうか。いや決して脆くはないはずだ。弱くはないから、いくらでも強固にすることができるはずだ。

 悠華の魔法少女としての姿を、白の魔女の眷属のリリウム・セラフィーとしての姿を奏美に見せて無理矢理にでも受け入れさせる。

 そうすることで奏美との絆を再び紡ぐ。

 壊れた縁を取り戻す。

 そう願った時、悠華の空虚な瞳に澄んだ色が彩られた。


「わかった。私、奏美と対等に話して今の私を理解させてみる。無理やりでも何でもいいから、魔法少女となった私を受け入れさせてみるよ。それくらいできなくて才媛の名が泣くわ」

「……フフッ、そうねぇ。やっぱりティーンエイジャーの少女は青春に生きていて可愛げがあるわね。このままずっと抱きしめたいくらいだわ」

「ちょ、ちょっと強く抱きしめないでよ! ただでさえ大きいモノが私の顔面を覆ってて苦しいんだから!」

「あら、それって何かしら?」

「そりゃ……大きな胸?」

「仕方ないわ。私だって好きでここまで大きくなったわけじゃないんだから。悠華だっていつかはこれぐらいのサイズになれるわよ。今はサービスだからじっくり堪能しなさい」

「くっ! 別に大きくなりたいだなんて微塵も思ってないし! 私に当てつけたってそんな無駄な脂肪垂れ下げてたって効かないわ!」

「幼くて可愛いわぁ。このままずっと抱きしめていたいわね」

「ちょ、ちょ、ちょ!」


 更にセレネの華奢な腕に力が入り、魔力で強化されている悠華の腕力でも抵抗できないほどに身体をしめつけられた。悠華の顔面にセレネの左胸が直撃し、枕に顔を押し付けられているようで呼吸ができない。

 最後の抵抗の手段としてセレネの右胸を掴むものの、「ひゃん」と男性を一瞬で魅了してしまいそうな艶めかしい声を上げて、更に拘束する力を強める。

 

「このままじゃ……死ぬっ! 同性のたわわに実った果実に圧迫死されちゃう……! 非常に不名誉な死に方で死にたくないっ!」

「何をやっているんだ」


 第三者の声に導かれてセレネの拘束する力が弱められ、腕の下から悠華がずるずると重力に従ってしな垂れていく。

 そこにいたのは変わらぬ無表情を繕っている永善だった。

 その姿を見て、彼女は右手をグーの形で変えて親指を立てる。


「神父さん……グッドタイミング!」

「? 何を言っているのかはわからんが今日は三戦目だ。勝てば襲ってくる敵は当分現れないだろう。悠華くんもよく戦ってきたものだ。アーヴェインについては一通りセレネから聞いただろう。ただ、戦う前に言っておきたい情報がある」


 すると無表情で変形することのなかった顔つきが沈痛なものへと変わっていった。


「とんだミスを犯した。アーヴェインが君の親友の伊崎奏美を人質にとってしまった」





 ギルバル・イブン・アーヴェイン。

 今は地下活動をしているPMC「リーガル・モントルー社」の下で働くベテラン傭兵であり国際指名手配犯でもある。

 茶色に染められたボサボサのクセ毛とだらしなく伸びた無精髭のせいで無頼漢にしか見えないが、整えればハリウッドあたりの俳優だと勘違いされてもおかしくはないだろう。

 青い目と黒く焼けた肌を確認する限りではやはりハーフなのだという事を思わせる。

 二メートルは超えていそうな筋骨隆々の身体を持ち、ボディビルダーになっていてもおかしくない。

 裸の上半身の上から黒の防弾チョッキを装着し、剥き出しになっている肩や腕の関節にはプロテクター、両手には指貫のグローブが装備されている。下半身の装備も念入りで迷彩柄のパンツの上に膝用のプロテクターが装着されていた。

 両腕に刻まれている様々な切傷の痕や銃創が語る戦争の凄惨さ。いくつもの軍人を屠り、または屠られそうになり死線を掻い潜ってきたことが見てとれる。

 だが彼は同時に残忍な性格である。

 何者かの指示で多額の報酬と共に請け負った魔女討伐の任務。その為に紛争地域から離れ、戦争とは程遠い平和な日本へ来日し、そこで同じ目的で来訪したアテナとアンジェと出会って一時的に手を組んだ。

 そして白の魔女セレネと戦い、屠るために彼女の眷属であった五人の魔法少女を片っ端から捕えては麻薬を注入し、廃人にしてから嬲り殺した。

 任務達成の為ならば手段を厭わない残酷な傭兵、それがアーヴェインなのだ。


「おうおう、やっと来たってところか。わざわざ急いできてありがとうよ。しかし約束の時間までまだ相当あるんだ。もうちょっと一服させてくんねぇか? 俺は戦闘前にタバコ吸わないとムシャクシャするんでな。少し待ってくれよ」

「っ……!」

 

 アーヴェインはそう言った。初めて会った時とは違って冷静な口調で悠華に言った。

 だが逆に悠華はひどく激昂しており、既に魔法少女リリウム・セラフィーの姿と化していた。

 私立橙ノ木高校付属細江中学校のグラウンドで――様々な運動部との掛け持ちで慣れ親しんだグラウンドで――数日前にアテナやアンジェと激戦を繰り広げたグラウンドで――アーヴェインは悠華を待ち構えていた。

 アテナの鉞に負けない程の凶悪なバスタードソードを地面に突き刺し、右手に日本製のタバコを持って煙を吹かしながら。

 がっちりと左腕で奏美の体を拘束していた。


「奏美!」

「悠華! 私、悠華の姿が見当たらないと思って学生寮を抜け出したら、このオジサンに……!」

「馬鹿、何でこんなところにいるのよ! 昨日と今日であんな事を言って、あれだけ目を逸らしたり無口だったり無視してたりして、今度はあっさりと人質になって足手まといになってどれだけ私に迷惑かけるつもりなのよ!」

「足手まとい!? ふふん、好きで人質になったわけじゃないもん! 悠華が心配だったからわざわざ学生寮を抜け出してまで探し回っていたのに! 何よ、そんな恥ずかしいコスプレをしてノコノコと現れて!ふざけてるの!? 恥ずかしくないの!? 才媛としてのモラルとプライドはどこに金繰り捨てちゃったのよ!」

「こ、これはコスプレなんかじゃない! これは魔法少女としての正装だからコスプレじゃないわ! 大体、私はモラルもプライドは捨ててない!」

「はぁーん? どうかもね、悠華ったら特撮映画と一緒にウルトラマンを、しかも昭和シリーズを見てるし、最近に至っては魔法少女モノ見るようになったから影響されちゃったんじゃないの?」

「そんなんじゃ……!」

「俺を差し置いて勝手にペラペラと喋るんじゃねぇよ」


 アーヴェインが左腕で拘束していた奏美の細い首を右手で掴んで(既にタバコは吸い尽くしていて手元にはない)締めつけることで彼女を無理矢理黙らせた。

 ギギギ、と、くぐもり声が喉の奥から漏れた。


「ま、待って! 奏美を殺さないで!」

「別に殺しやしねぇ、大切な人質なんだからよ。このまま頸骨折ってしまえばそれはそれで終わりだけどな! グハハハハハ!」

「奏美に酷いことをしたら……許さない!」

「酷いこと? そりゃぁ何だ、食えるもんか? それとも……こういう事か?」


 稚拙しか言えなかった悠華を哄笑した後、左腕の拘束を解いて右手は首根っこを掴んだままアーヴェインは奏美の体を持ち上げてみせた。二メートル超の身長を有している彼に持ち上げられているので、地上から彼女の足まで三十センチ以上も離れている。ロープで首吊りをしている状態と何ら変わりがなかった。


「う、うう…………!」

「おっと、これ以上やったら流石に死んでしまうか。危ねぇ、危ねぇ」


 と、わざとめいた口調で腕を下ろして彼女の足を地上につけた。奏美は膝をついてぐったりとしていたが、その暇すらも与えず、アーヴェインは再び左腕で拘束する。

 そして左胸に装着されていたコンバットナイフを取り出し、同時に腰に装備されていた袋から一本の注射器も取り出して、それらを奏美に向ける。


「か、奏美になんてことを!」

「ヒャハハハ、コイツは俺の大切な大切な人質だ。もしてめぇが今少しでも動いたら、このナイフでこのクソガキの頸動脈を切るか、またはこの注射針を刺すぜ」

「……その注射針の中身は?」

「これは俺が調合して作った全く新しい品種の麻薬だ。シンナー、トルエン、ベンゾジアゼピン、アンフェタミン、ヘロイン、コカイン等々を混ぜ込んで造ったモノだが、詳しくは企業秘密ってやつだ。これを注入された奴はすぐに興奮状態になり快楽が全身を包んで廃人となる。だが後に激痛と寒気と蕁麻疹と猛烈な痒みに襲われ、体中の細胞が破壊されて溶解された後、脳も溶解されて死ぬ。普通はごく少量から始まるがこの注射針に入っている量ならすぐに溶解死するぜ」

「ひっ」


 奏美が悲惨な悲鳴を上げる。

 あの毒々しい色をした液体が入っている注射針が、悠華が契約する前のセレネの眷属であったという五人の魔法少女を廃人に貶めた凶器。アーヴェインが一瞬の隙のうちに注入し、彼女らを残酷に屠ったのだ。

 死に追いやられた魔法少女たちと悠華の直接の関係はないにせよ、アーヴェインは彼女らの仇だ。そして親友を人質にした敵だ。

 アテナやアンジェの時とは違い、アーヴェインは絶対に倒さなくてはならない悪の権化だ。

 悠華とアーヴェインが睨み合っている中、審判役の永善が石階段に現れた。


「完全に私の読み違いだった。まさか人質を盾にする戦法を取るとは思ってもいなかった。考えてみればアンジェリークとの戦いで君の親友は、決して入れないはずの結界に何故か入っていた。きっと私たちの後を追って結界に入ったんだ。結界は後を辿られると誰でも入れる。まさに魔力結界の弱点を突いたミスだ」

「だからなるべく一般人が関わらないようにしていたの?」

「ああ、相手がそもそも人並みではないからな。一般人に被害が回らないように魔力結界を張って誰にも見つからないようにしていたんだが……迂闊だった。対戦の取り決めは一対一と念入りに忠告してたんだが、まさか人質を取るとは致命的だ。完全に私のせいだ」

「ここで謝っても仕方ねぇよ。あの褐色女が敗れ、バチカンの騎士様も敗れた。そこのクソガキがどんな戦法で戦ったかは知らねぇが、銃器やナイフが通用しねぇ妖術の類を使用するヤツに勝つ方法を考えていたところ、このクソガキが無防備に歩き回っていてな。で、人質にしたってことさ。グハハハハ!」

「ひ、卑怯じゃない、そんなの!」

「卑怯? 俺が卑怯か? グハハハハハハハハハハハ! これは傑作だぜ! 俺らみたいな人間にしちゃぁ、てめぇらみてのは十分卑怯な連中だし、何よりも化け物じみてるじゃねぇかよ! いいか、これはハンデだ! 対等だ! 平等だ! 大体よぉ、俺が悪者みてぇな見方してるけどよ、あの女の配下を全滅に追い込むのに相当苦労したぜ? 何せ相手が俺にとっちゃぁイレギュラーなんだからよ。降参したフリを見せたら急に優しくなって油断し過ぎたのがチャンスだったぜ!」

 

 するとアーヴェインは腰から黒い塊、正確にはスプリングフィールドXDという名の拳銃を取り出し――

 ――そして発砲した。

 乾いた音が響き、銃弾が悠華の目の前に迫ってきた時、「アヴォイド・スロー」が発動し、間一髪で彼女はその銃弾を首を傾けることで回避した。


「やっぱりな。確実に頭部直撃を狙っていたんだがな。十メートル内の距離で発砲されてから銃弾を避けるなんざ、人のできることじゃねぇよ」

「悠華、本当にもう人じゃないんだ……」


 先程からトラウマになりかけないほどのショックと精神的な痛みを受け続けていたのか、奏美が汗に塗れたアーヴェインの左腕の中で何も見たくないと悟って目を閉じた。

 窒息しているわけでもないようだが、このまま奏美を拘束させるわけにはいかない。しかし彼女を人質に取られていては何もできない。


「大人しく負けを認めて魔女の命を差し出せば、このクソガキの命は保証してやるぜ。だがもしも俺に手を出そうとすればわかってるな? コイツの体に特製の麻薬を注入する! グハハハハハハ!」

「……傭兵さんはそこまでして任務達成をして報酬を得たいの?」

「ん? そうだな、金は欲しいぜ。今でも金はたんまりと貰っているけどよ、もっと多くの金を手に入れたいという欲が俺の中にはある。そして同時に俺の闘争心が燃え上がっている。俺は湾岸戦争から傭兵を生業としてきたが、これほど気持ちのいいモノは他にはないぜ。己の欲望のままに戦い、敵を殺し、女を犯し、肉を食らい、酒を飲み、そして金を貰う…………最高じゃねぇか!!!」


 自分自身が吐いた言葉にアーヴェインは心酔しきった表情で空を見上げた。


「人間は欲望の為に動くようにできている。飽くなき欲望に駆られてな。人類が積み上げた歴史もこの命が生きているのも欲望から出た衝動が生み出した勝者の産物だ。寧ろ欲望の為に生きないのは弱者のやることだ。バチカンの騎士様みてーに律儀に生きるなんて考え方は可笑しくて笑える! 戦いと欲望こそが人の本質なんだよ!」


 そこで石階段にいた神父が眉を潜めるが、怒りを露わにしたのは悠華だった。悠華=リリウム・セラフィーが右手の拳と左足を前に出す。


「……傭兵さんがやりたいことは野生に従った、ただの本能だ。そんな相手にアンジェさんの使命と理念なんか理解できない!」


 アンジェ戦の時、悠華は彼女が背負っていた使命を下らないと否定していた。だが、その考えは戦いの前後で大きく変わっていた。

 先祖が辿った悲惨な運命。それでも再び得られた命を継承し続け、彼女もまた新たな命を育んでいた。敵同士であるが故に相容れることはできないが、彼女の一族の理念は貴いものだ。誰にも汚すことのできない純潔な使命だ。

 それをアーヴェインは汚した。親友である奏美を傷つけ、アンジェの理想を容赦なく汚した。

 人間の屑だ、とさえ思った。

 だからこそこの男を必ず倒すしかない。


「傭兵さんがどれだけ人質をとったところで私は屈しない! 絶対に傭兵さんを、いや貴方を私の魔法で降参させる!」

「……ほう、いい度胸じゃねぇか。てめぇの親友がどうなってもいいって事でいいんだな?」

「その前に救出してみせるわ!」

「グハハハハハハハハハハハ! いいねぇ、その燃え滾る炎のような瞳と意志! 己の中の闘争本能を蘇らせたか! ならばさっさとろうぜ! 野郎ども、come!」


 するとザザザと足並み揃った音を立てて、口元をスカーフで覆った男たちがアサルトライフルよりも小さいカービン銃の「M4A1」を携えて五人ほどアーヴェインの元にやってきた。一人だけやたら大きなケースを持っており、多分その中には銃器や火器が入っているのだろうが、かなり徹底されている。

 よく見ればグラウンドに生え出でている木々や運動部の用具庫などに七人、同じようにスカーフで口元覆って防弾チョッキを着ている連中が潜んでいた。

 アーヴェインを合わせて十三人。魔力結界に包まれたグラウンドの中にそれだけの人数が入っている。


「ソドム、ゲラル、ロト、アビメレク、ゴシェン、ヘムダン、ミブサム、ジムラン、エフェル、ラバン、エサウ、ラケル。全員、俺を尊敬し俺と共に戦う部下だ。本当はまだいるんだが紛争地域で任務に就いている。俺たちはリーガル・モントルー社の傭兵、そして国際指名手配犯だ。一人十万ドル、そして俺は五十万ドルの賞金がかかっているっ! さぁ、来いや!」

「言われてなくてもっ!」


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