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あいつを倒すために

 昼頃になると、曇ってきた。

 そしてほどなく季節外れの雪が降り始めた。

「懐かしいよな。お前の実家、青森だったっけ」

 空からの白い贈り物を見ながら、沖津は言った。

「……ああ」

 がらんとしている食堂で沖津と大湊は遅い昼食をとっている。白米と大根の煮物、豆腐の味噌汁という質素な献立だが、作り手がいいのか、兵士たちには概ね好評である。

「まだその喋り癖、治ってないんだな」

「……ああ。……なお、そうとは……思っている……んだが」

 一語、一語、苦しそうに発語する。まるで、言葉を喉の奥から搾り出すように。

 窓から見える景色の主役は、とうとうと降り続ける雪だった。

 今が戦争の重要局面であるとは思えない、静かな風景がそこにある。

「陸軍、居心地良かった?」

「……そんなわけ……ないだろう。軍隊、なんて……居心地……いいはずが、ない」

「でも、お前、陸軍航空隊の中では一番だったんだろ」

「……そうだ、な。……あいつ、を……倒すために……俺は……なった」

 その時、大湊の瞳に一瞬感情の爆炎が現れた。

「あいつ?」

「……『グラトニーファング』」

「そうなのか」

 あえて理由は聞かない。大湊はそういうことが嫌いだからだ。

「……俺は……あいつを……倒すため、だけに……ここに、いる。……お前、の……部隊が、一番……機会がありそうだ、から、志願した」

 『グラトニーファング』は大分基地、いや陸海軍航空隊全体から見ても、仇敵のような存在だ。今までに多くの友軍機を撃墜し、一機で戦局を逆転させるほどの強さを持っている。

 そのため与えられたあだ名は数知れず。

「お前さ、戦争が終わったら何がしたい?」

 沖津は問いかけてみた。暗い話ばかりは性に合わないし、出てくるのがため息だけではつまらない。

「……そんなこと、考えて……ない」

「相変わらず、無欲というか何というか」

「……お前、にはあるのか?」

「あるよ」

 色んな未来の青写真が一瞬で描かれる。何をしよう。何がしたい? 何をすべきだろうか。

 きっと全部正解で、何をしてもいい。否、正解も間違いもない。人生での選択なんてそんなものだと沖津は思っている。

「私は……次の世代に、争いのない時代を贈りたい。今、私たちが苦しもうとも、どれだけ罵られようとも、豊かで安心できる暮らしを贈りたい」

 はじめて大湊が笑った。

「……お前……は、相変わらず……理想が、たか、いな……」

「最初は分からなかったんだ。なぜ、戦うのか。でも、この間、子どもに会ってきた。そしたらさ、あの子、随分大きくなってたんだよ。体重も増えててな、元気な子に育ってくれている。それで、思ったんだ。私はこの子が戦争を知らずに大人になって、戦争を知らないまま生きて欲しいって」

 大湊は眩しさを覚えた。

 自分にはこの後したいことがない。

 『グラトニーファング』を倒すことが自分のすべてだとずっと胸の奥に復讐の炎を燃やしてきたのだから。

 それに他に何が出来るとも思っていない。

 元々不器用だし、この通り喋りにくい。

 そして何より、空が好きだ。

 戦場の空が大湊の住処だった。



 その頃、フィリピンではルソン島で日米の攻防が続いていた。結果、日本軍は敗北し、フィリピンを奪取されてしまう。

 フィリピンを奪われたということはマレーシアなど東南アジアからの物資が本国に輸送できなくなることを意味する。つまり、これまで以上に窮地に立たされることになったのである。

 そして、特攻隊はその重要性をますます高めていくことになった。

こんばんは、風邪引きのJokerです。

皆様、インフルエンザに負けておられませんか? 私は大敗しました。今から撃退すべく寝ます。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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