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来る者と去る者

 大晦日の夜は静かに過ぎていった。

 除夜の鐘が重苦しい音を立てて鳴っている。欠けた月だけが空で笑っていた。

 大分基地では正月であることも気にかけず、必死に反攻作戦を考えていたのである。というのは、ついに戦火が本土にも及ぶようになったからだ。

 本土を襲う意味は武器製造拠点を潰すことにあった。兵器がなくなれば、負けは見えているからだ。時間の問題である。

 物資的に困窮した現状を立て直す妙策は見つからなかった。

 そんな時に大分基地司令部に陸軍の高官から連絡が入る。

 陸軍航空隊のパイロットを大分に派遣するというのである。だが、司令部は二つ返事を出さなかった。というのも、陸海軍の関係が悪く、対立していたからである。

 二ヶ月に及ぶ協議の結果、大分基地で、そのパイロットを引き受けることとなった。



 昭和二十年三月中ごろ。

 冷たい空気が張り詰めた朝、大分基地の滑走路にぼろぼろの紫電が舞い降りた。装甲は銃弾の傷跡だらけである。

 紫電の搭乗員である青年は整備兵に道を尋ね、司令室へと歩みを進めた。青年は愛機と同じくらいくたびれた戦闘服を纏っている。ひょろっとして日本人離れした長身とフケの入り混じったぼさぼさの髪は航空兵たちの目を引いた。前髪は長く、左目を覆い隠している。

 青年は司令室に着くと、あごに生えた無精ひげをさすりながらノックした。

「ああ、入りたまえ」

「……失礼します」

 滑舌がよくないせいか、ひどく陰気に見える喋り方だ。

「よく来てくれた」

 司令官は一応形式上、歓迎の意を表する。目の前にいる、部下になる男は緊張しているせいか、視線を合わせない。彼は大湊玲おおみなとあきら。陸軍航空隊の切り札と呼ばれる戦闘機乗りである。大人しそうな外見とは異なり、あだ名は『復讐鬼』と呼ばれていた。そんな風に名付けられたのも、『グラトニーファング』を引きずり出すため、敵戦闘機を見つけ次第徹底的に殲滅しようとする、すさまじい戦いぶりからである。

「……お、大湊……少尉であります。……よろしく……お願いします」

 司令官は書類をぱらぱらとめくりながら

「では、そうだな。君は沖津恭二少尉を知っているね。彼の部隊に配属する」

 と告げた。

「……分かりました」

 敬礼し、退室した。それを見送った司令官はぼそりとつぶやく。

「なにせ、欠員が出ることになったものでな」



「やあ、大湊じゃないか」

 司令室から兵舎へ向かう途中にある滑走路で沖津は嬉しそうに声を上げた。愛機の翼の下に座って読んでいた本を地面に置いて。

「陸軍だったはずなのに、いつこっちに来たんだ?」

 本を置いて、軽い足取りで大湊に駆け寄った。

「……い、ましがた……だ」

「お前が来てくれるとは助かる。千人力だよ。それで? どの隊に入るんだ?」

「……お前の、隊だ」

 沖津は訝った。欠員がいないのに隊員が補充されることはまずない。戦力的に余裕があるわけではないからだ。

「とにかく、よろしく頼む。とりあえず、明日にでも紹介するよ。といっても、直属の部下は二人しかいないんだけどね」

「……ああ」

「折角だ。ちょっと話さないか。色々積もる話もあるだろ」

「……ああ」

 表情を変えずに頷くのも変わってないな、と沖津は思った。

こんばんは、Jokerです。


新キャラ登場です。といっても、可愛い女の子はいません。野郎です。とほほ。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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