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戦況転移

「戦果報告は以上です」

 沖津が司令室で部隊の報告を終えた。

「よくやった。沖津少尉、隊の犠牲をゼロで任務達成するとは流石だ。ゆっくり休みたまえ」

 大分基地の司令、陣原じんのはる少将の労いの言葉を受け取った後、敬礼して退室し、兵舎へと歩を進める。報告の前に、副指令から今日付けで沖津たちは大分基地配属になるという通達を受け取った。テスト飛行を終えて、『桜花』と『鬼桜』の実戦投入のためだと松山基地からは伝えられた。

 司令室のある棟を出ると、朝日が昇るのが見える。

 また今日も一日が始まる。

 きっと昨日とは違う一日で、きっと誰かが死ぬだろう。

 先の海戦では沖津と同い年の荏原少尉ら七名が特攻隊として殉じた。戦況の悪化次第では、沖津たちも特攻隊に編入させられるかもしれない。

 結局、件の『グラトニーファング』はレイテ沖には現れなかった。先の海戦はどうでもいいということなのか。それとも、わざわざ出撃させるまでもないということか。

「何悩んでるんですか、少尉殿」

 シャツとズボン姿の強羅が声をかけた。『鬼桜』の整備中のようだ。この寒い中、こんな薄着でいられるのは強羅ぐらいだ。

「昨日はご苦労だった。休んでいていいんだぞ」

「そういうわけにも行きませんや。まずはこいつに褒美をやらないとね」

 一人前の戦闘機乗りは愛機を大切にする。何故なら、愛機は文字通り自らと命運を共にするものであるからだ。

「そうだったな。私も『桜花』に褒美を与えなくては」

「浅葱の小僧はどうしてるんで?」

「兵舎で寝ているよ。相当疲れたらしい」

「やれやれ、少尉殿は甘いですな。小僧も戦闘機乗りとして、軍人としての自覚が足りない」

 強羅の言い分はもっともだ。確かに沖津は浅葱には甘かった。

「強羅、私はね、彼に人殺しをさせたくないんだ」

 沖津は被っていた戦闘帽を脱いだ。冷たい風が沖津の柔らかな髪を揺らす。

「浅葱はもともと航空隊に志願して入ったわけじゃない。元々は工兵隊に入る予定だった。彼の父親は技術士だったからな。しかし、急遽こっちに配属されたクチなんだ」

「そんなの関係ねえ。たとえどうだろうが、軍に入ったからには軍人として敵兵を殺す。それが我々の仕事でしょうが」

 会話をしながらも強羅はてきぱきと整備を進めていく。慣れた手つきで機体を磨き、燃料を補充した。

「そうだがな。まあ、これは私の理想だよ」

 一仕事終えた強羅は愛機の翼の下に座り、タバコをくわえた。

「まあ理想を抱くのは勝手ですがね。そんな甘ちゃんだと、そのうち死にますぜ?」

 タバコに火をつける。吐いた息は白く濁って、風に吹かれていく。

「まあ、それが戦争ってヤツだ。善人も悪人も関係なく、実力と運のねえヤツから脱落していくんだ。浅葱がいいヤツってのは分かりますぜ。そりゃ、俺や少尉殿に比べたら、優しい男になりそうだ」

「おいおい、私の性格に問題があるというのか?」

 沖津は苦笑しながら、その場に座った。体に走る地面の冷たさのせいで少しだけ痛みを覚える。

 大きく息を吸い込んで、吐いた。

「そうですな。それに、あんたは……軍人に向かねえと思います。私情で動くなんざ、軍人失格だ」

「そうだな」

 もう一度大きく息を吸い込んで、吐いた。しんとした空気の中に吐息は吸い込まれていく。

 誰もいない滑走路は寂寥感に苛まれている子どものように、静かに涙をこらえているように見えた。

「でも、やっぱり生きていて欲しいんだ。いや、生き続けて欲しいんだ」

 鳥の声が響く。もう夜明けだ。

「浅葱は、いや彼らの世代はきっと戦争が終わった後、この国を背負って立つ。だから、こんなところで死んで欲しくない」

「誰だって死にたくありませんや。俺だってそうだ。だから戦うんですぜ。死にたくないから」

「そうだな。私もまだ死ぬわけには行かない。この戦いが終わったら帰る場所があるからね」

 兵舎からどやどやと航空兵たちが出てくる。

「ここにいたら邪魔になるな。我々は兵舎で休むとしよう」

 沖津は強羅と共に兵舎に引き上げた。これから彼らには荷解きという仕事がまだ残っている。松山基地から乱雑に送られてきた荷物を整理するだけでも骨が折れそうだと沖津は歩きながらぼんやりと考えていた。

こんばんは、Jokerです。

寒いですね。雪が降っているのが窓から見えました。


ところで最近地震フラグらしきものが立っているのですが、どうなるのか。一応、備えはしておきます。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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