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彼らの終戦の日

 沖津にとっての終戦の日は訪れた。それは九月二日のことである。

 これで日本本土へ帰れる。

 だがしかし、終戦といってもこれからの前途は多難であることに違いはない。

 太陽が頭上に昇った頃、泥で汚れたシャツを着た沖津たちは港に用意された船に乗り込もうとしていた。

「オキツ」

「何か?」

 真新しい軍服姿のジェームズ=オルブライトは右手を差し出した。沖津はその手をがっしりと掴む。

「今回俺はお前に負けた」

「偶然でしかないよ」

「偶然でも負けは負けだ。アメリカは日本に勝ったが、俺はお前に負けた。だが、このまま引き下がるのも何だか悔しい」

「もうおそらく私は戦争は出来まい。そして、君も出来ないだろう」

「そうだ。だから、今度は戦争じゃない。別の意味で勝負だ」

 その意味を理解しかねたが、沖津は微笑んで頷いてみせた。

「乗り越えてみせろよ」

「どういう意味だ?」

「お前の方が分かっているだろうが、これから日本はアメリカによって占領されることになる。日本が再び立ち上がるのにどれだけの時間と労力を要するか、俺には分からん。だが、お前は立ち上がってこい。この歴史的な苦難を乗り越えてみろ」

「言われるまでもない。そうしなければ、私たちが戦った意味がなくなる。私は、いや私たちは未来を切り開くために戦ったのだから」

「それでこそ、だ」

「君はこれからどうするんだ?」

「お前に言われるとは思っても見なかったが……」

 ジェームズ=オルブライトは苦笑する。

「俺はこれからビジネスを始めるつもりだ。もうこの身体は軍人としては使えないけれど、頭はまだ使えるからな」

「それが君の夢か?」

「いいや、夢というものがあるなら、それは家族全員で笑って暮らせるようになることさ。俺が軍に入ったのもその手段だからに過ぎない。お前に夢はないのか?」

「漠然としたものなんだが……荒廃した今の日本を立て直すこと、かな。もう一度、立ち上がって、私や私の同僚、部下たちが守りたいと願ったものを守ること。それがこれからの私の夢になる」

「そうか」

 沖津以外の捕虜たちが全員船に乗り込む。係りの兵士が沖津にもすぐに船に乗るようにと促した。

「そろそろお別れのようだ」

「そうだな」

 ジェームズ=オルブライトは首にかけていたペンダントを沖津に差し出した。沖津はその意味が分からないという表情でそれを受け取る。

「どうしたんだ?」

「俺はいずれ日本に行くつもりだ。その時お前を訪ねる。それまでお前が持っておけ」

「まあいいけど」

「多分、随分先になるはずだ」

「そうか。じゃあ、これを持っておいてくれ」

 沖津は懐から家族全員で撮った写真を取り出して、柔らかな笑顔と共にジェームズ=オルブライトに手渡す。

「いいのか?」

「いいんだ。私の分は既に持っている。それを頼りに私を探すといい。最も、私も色々な意味で変わっているかもしれないが」

「俺もお前も、次に会う時には変わっているだろうな」

「そうさ。春の次に夏が来て、秋を越えて冬になるように私たちは常に変わっていくだろう」

「お前とは戦場の空以外でも出会いたかった」

「それは光栄だ」

 沖津は敬礼した。ジェームズ=オルブライトも敬礼を返す。

「では、また」

「ああ、じゃあな」

 沖津たちを乗せた船はゆっくりと日本本土へ向けて出港した。海の上を渡り、次第に遠ざかっていく船を見ながら、ジェームズ=オルブライトは静かに佇んでいる。

 もう戦争は終わったのだということを実感しながら。

 次なる時代はどんな時代になるのかを考えながら。

「さて、俺も帰ろう。帰りを待ってる奴らがいるからな」

 空を見上げれば、そこには快晴の空がある。

 もう自分はあの場所を自在に駆けることは出来ないけれど。

 それでも、帰る場所と守る者があるから、それで構わない。

「じゃあな、オキツ」

 もう見えない船に向かって、彼は呟いた。

こんばんは、jokerです。


ありえないミスを仕事でしてしまい、へこんでいます。

ああ、もう何年働いてるんだよ俺……


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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