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九月一日

 九月一日、午前六時。

 沖津たち捕虜には明日で解放されるという旨がジェームズ=オルブライトから伝えられた。

 あと一日耐えれば自由の身になれる。

 それは沖津がこの半月――他の者はそれ以上――の間ずっと渇望していたものだ。

 捕虜たちは鎖に繋がれる最後の一日を働いた。

 そして、その一日が終わろうとしていた。

 日が落ちて、周囲に夕闇が立ち込めた頃、スコット中尉と数名の兵士が沖津を宿舎の外に呼び出した。

 一体何故だろうと思案したが、その理由が思いつかない。

 彼らを殴り飛ばしたわけではないし、怒りに任せて罵倒したわけでもない。

 こっちに来いというジェスチャーにしたがって、沖津は米兵たちの後を付いていく。

 今夜は鮮血を浴びたような紅く濁った月が頭を起こしている。星々はそれに慄くように、弱々しい輝きを放っている。

 これが満月ならさぞ神秘的な夜になっただろうに、と沖津は場違いなことを考えた。

「ここでいいだろう」

 スコット中尉は海辺で立ち止まる。そこは沖津たちが土嚢を積み上げるという作業をしていた場所だ。

「そろそろ聞かせてもらえないか? 私をここに連れてきたわけを」

 その返事は言葉ではなかった。

 全員が銃口を沖津に向けている。

「お前は危険だ。あの『グラトニーファング』を倒し、再起不能にまで追いやった。ここで確実に消えてもらわなければならない」

 禿頭の男のこの台詞が全てを表していた。今後、脅威となりうる可能性のある沖津をここで始末したいというわけだ。

 死にたくない。

 直感的に沖津は思った。

 ここまで生きてきた。

 それは運命といってもいい、偶然の積み重ねと自身の努力によるものだ。それをこんなところでみすみす犠牲にしたくない。

 しかし、今は丸腰だ。

 この状況を逆転させる要素はゼロに近い。

 どうする?

 沖津は即座に答えを出す。

「ちょっと待て。再起不能とはどういうことだ?」

「しらばっくれるのか?」

 スコットの周りにいた兵たちがまくしたてる。どうやら、彼らは総じて短気かつ短慮らしい。

「私も必死だったんだ。『グラトニーファング』のその後のことなんか分かりはしない」

「嘘をつけ! 貴様は俺たちの、友軍のエースを潰した!」

「オルブライト少佐という損失は貴様一人をなぶり殺しにしたところで晴らされるもんじゃない!」

 沖津に向けて放射される怒りを聞いて、不自然と思われないくらいゆっくりと沖津は喋る。フルスロットル並に脈動する鼓動を悟られないように。

「これは戦争なんだ。君たちは機関銃を向けられてなお、無抵抗のまま死ねばよかったと私に言うのか?」

 この台詞を選んだ直後に彼は後悔した。

「そうだ、死ね」

「死んで詫びろ!」

 予想できる解答が目の前に展開される。

「もう時間稼ぎはいいだろう。お前はここで死ね」

 禿頭の男の言葉が合図となる

 それは言葉だけではなく、引き金を指をかけるという行動を伴っていた。

 耳をつんざく音が夜の海岸に響く。

 あれ? 生きている。

 目の前の兵士たちが発砲したわけではないことに気付いた。

 小波の音が静かに横たわる中で、ジェームズ=オルブライトの持つ拳銃の銃口は発砲の残滓を残していた。

こんばんは、jokerです。

だらだらと引き延ばしています。いや、引き伸ばすつもりはないんですが。あれ、矛盾してますね。


本当にそろそろ終わりです。終わります。終わらせます。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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