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期待と不安

日が落ちて、今日という一日が終わる。

 夜が捕虜たちに唯一許された、自由時間だ。

 ちょっと大きな地震でも来ようものなら、すぐに倒壊しそうなオンボロの宿舎だが、十名の日本兵たちは不満をもらさず、そこで暮らしていた。不満を言っても解決しないからだと諦観していたからだとも言える。

「あのハゲ、どうして騒いでたんだろうな?」

 ベッドに腰掛けた中年の兵士が唐突に口を開いた。あのハゲ、というのは鞭を必要以上に振り回して威嚇していた、あの男だというのは沖津にもすぐに分かった。

「さあ? 英語分かりませんから」

 坊主頭の青年がすぐに返事した。誰に対しても敬語を使っているところを見ると、一番階級が低いのだろう。

「おそらく、我々の解放をしなければならなくなったからだよ」

 まだ包帯のとれていない沖津はベッドに寝転びながら、天井に向けて言った。沖津が英語を使うことが出来るということをここにいる誰もが知らない。

「どうして、そう思ったんですか?」

「ポツダム宣言、という言葉が出てきたからさ。これで戦争は終わるよ。わが国の敗戦でね」

「そうですか」

「そう悲観しない方がいい。負けたら終わりじゃない。終わりにならないようにすればいいだけのことさ」

 戦後、厳しい道のりが待っているだろう。これまでよりも貧しくなって、これまでよりも辛い毎日が出迎えてくれるだろう。

 雨が大地を叩く音が聞こえてくる。

 台風が近づいているのだろうか。

「戦後、か」

 中年の兵士が呟く。

「想像できませんね」

「違いない」

 大きな不安が目の前に立ちふさがっている。それは明らかだ。

「考えたって仕方ない。なるようになるさ。いや、なるようにしかならないさ」

「しかし、最悪な結末が待っているかもしれませんよ。もしかしたら、植民地にされて、我々は奴隷になるとか。そういう想定はしておいた方が良いと思いますが?」

「そうしたら、その時はその時で考えるさ。なってもいないことを考えたって仕方ないよ。来月になれば分かるはずさ」

「随分楽観的ですね」

「そうかな。戦友たちの影響かもしれないな」

 沖津は周囲が寝息を立てていることを見ると

「そろそろ私たちも休むとしようか。明日はきっと忙しくなるだろうから」

 と話し相手たちに促した。

 彼らは頷いて、会話はそこで中断される。

 雨が地面を穿つ音だけが続いていた。

こんばんは、jokerです。

暑いですね。何で四月に真夏日があるんだよコンチクショウとか思ってる今日この頃です。寒いところの出身なので暑いのは苦手なんですよ。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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