真夜中の襲撃
沖津は拳銃を突きつけたまま、無言でいる。
「沖津少尉、これを下ろしてくれよ」
震えた声が沖津の前に転がった。酔いはすっかり醒めて、ガタガタと震えている。
「沖津少尉! 止めろ! それ以上するなら憲兵に引き渡して……」
「好きにすればいい。さっきの言葉を撤回しない限り、私はお前のような人でなしを許そうとは思わない」
「わ、悪かったよ。さっきのは失言だった」
沖津は銃を相手の額から外した。
ため息をついて、沖津はゆっくりと食堂から出て行った。血が上った頭を冷やしたかった。
夕暮れの空は寂寥感であふれているように見える。星が少しずつ光り始めている。兵舎の屋根から見上げた空は今日もいつもと変わらない空だった。星は夜空が寂しくて流した涙なのかもしれない、とふと思う。
次々と人は戦死し、月日は流れていくのに、空だけはいつも一緒。多分、百万年前も、一万年前も今日と同じ空だったのだろう。数え切れないほどの人々を見て、数え切れないほどの時代を見守ってきたのだろう。
そんなことを考えても意味はないと思いつつも、沖津は空を見て考えていた。これから十年、二十年先自分は何をしているだろうか。次に頭に浮かんできたのはこのことだ。この戦争で何もかもなくしてしまった。愛する家族や共に戦ってきた友はもうこの世にいない。
戦争が終われば、何をしようか?
この問いが浮かんできたが、模範解答は思いつかなかった。そもそも、戦争が終わるまで、自分が生きている保証はない。いつ、どこで爆弾の雨が降り注ぐか分からないし、いつ愛機が空で寿命をまっとうするか分からない。短いようで長い軍隊生活の中で、沖津は戦争とはそういうものだと理解していた。
この生活を辞めたいということは確かだ。早く、平穏な暮らしに戻りたい。死の恐怖が隣人という、この状況から抜け出したかった。
「沖津恭二少尉。降りて来い」
屋根の下から聞こえた声は沖津が最も苦手とする類のものだった。
「やれやれ、憲兵のお出ましか」
無視を決め込むわけにもいかない。沖津はため息をついて、兵舎の屋根から飛び降りた。地面と両足がぶつかった衝撃だけがやけに鈍く身体にとどまった。
憲兵による尋問の末に沖津は憲兵詰め所にある牢に入れられることとなった。
夜になっても蒸し暑い。
湿気にわらわらと取り囲まれて、しがみつかれているようだ。
皮膚からにじみ出る液体がそれを如実に表現している。
眠気が沖津を襲おうとしたその時だった。
爆音が上空から聞こえてきたのは。
こんばんは、jokerです。
もう春ですね。あまり春という感じがしませんが。
学生時代は春休みだ~とはしゃいでいたのですが、社会人になってからはそういうわけにはいきません。
春の代名詞、春雷を聞いたくらいでしょうか。春を感じることが出来たのは。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……