片道だけの燃料
時間はゆっくりと過ぎていった。
冷たい空気は幾分か和らいでいる。
十時前になると、出撃予定の航空兵たちが滑走路に整列した。十一人いる。全員若い。強羅が目立って見える。
四十代くらいの小柄な指揮官がその前に現れた。兵たちは敬礼で指揮官を出迎える。そして、彼は出撃前の言葉を若い兵たちに投げかけた。
「貴様たちは、これから敵艦隊を倒しに行く。必ず、指示に従い、一機一艦撃沈を遂行せよ。そして貴様たちも散れ。死して国を護るのだ」
音のない時間がわずかに流れる。
「……ただ、俺は貴様たちだけに死ねとは言わぬ。……俺も貴様たちと共に行く」
沖津はその様子を指揮官の後ろから見ていた。
強羅は表情を変えていない。
沖津は瞳の奥から滲み出す感情を抑えた。
泣きたいのは自分だけではない、と。
「沖津少尉。何か部下に伝えることはあるか?」
小柄な指揮官が振り返って尋ねる。
「はい、あります。強羅、前へ」
沖津は一振りの刀を差し出した。
「約束のものだ。持って行け」
強羅はじっと刀を見つめ、ゆっくりとそれを受け取った。
「ありがとうございます、少尉殿」
「……それでいい。武運を」
強羅は刀を腰に差す。一瞬だけ寂しそうな目を沖津に向けた後、背を向けて歩き始めた。
「強羅、もうひとつ。私からの最後の命令だ」
振り返る。
「私の『桜花』に乗っていけ。ゼロ戦や紫電よりはお前にあっているはずだ」
「はい」
無表情に返事した。その後で少しだけ涙を浮かべて
「こいつと最期を迎えられるとは、光栄です」
とだけ言った。
「少尉、別れは済んだな」
「はい。お気遣いありがとうございます」
沖津は指揮官に頭を下げる。
指揮官は沖津の右肩をぽんと叩くと
「後を頼む」
と言い残して、片道だけの燃料を積んだ戦闘機に乗った。
爆音が響いた。戦闘機は冬の空に吸い込まれていくように上昇していく。
それを見た沖津は、小さい頃に両親がしてくれた、人は死ぬと天国へ行くという話を思い出していた。
こんばんは、Jokerです。
昼寝したくなる時期です。でも、職場でそれしたらクビです。
ああ、こんなことしか書けません(とほほ)
ネタとプロットはあるんですが、文章に書き起こしてないものがいくつか。来週越えたらひと段落するので、その時に書きたいですね。ラブコメに挑戦とか。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……