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強さのかたち

「……何をしている、沖津」

 大湊がのそりと現れた。

「ちょっとした遊びさ。お前もやるか?」

「……お、れはいい」

 大湊は強羅の方を向いた。表情は出さない。だが、これが大湊なりの気遣いだと沖津は思った。

「……行く、んだ……な」

「はい」

「……短い、間……世話に、なった」

「こちらこそ、お世話になりやした。……出来れば少尉殿の戦いぶりを拝見したかったのですが」

「……謙遜、するな。……お前は……大した、男……だ」

 海軍に異動してきてから、大湊は積極的に会話するようになった。他人と喋ることを拒絶していた彼が変わったのは強羅や浅葱のためだろう。

「歴戦の猛者にそんなこと言われるとは。光栄ですぜ」

「……そんな、大した……ものでは、ないさ。俺は……臆病者、だ」

「すみませんが、しばらく一人にしてくだせえ。今日が最後の夜ですから、ちょっとのんびりしたいんで」

 強羅の言葉の意味を理解し、三人は兵舎へと戻っていった。

 


 夜が明けた。

 太陽の目覚めとともに、澄みきった青空が広がっていく。

 強羅はそんな空を見上げていた。既に戦闘服を身に着けている。愛用しているタバコを懐から出して、口にくわえて火をつけた。今日はやけに頭がすっきりしている。

 格納庫まで歩く。

 今日、十時に出撃する。ここにはもう帰ってこない。

「軍曹、おはようございます」

「おう、浅葱」

 格納庫には浅葱がいた。少したくましくなったように強羅の目には映った。

「わざわざ呼び出して、すまなかったな」

「いいえ。ところで僕に伝えたいことって何ですか?」

「これをやる」

 一枚の写真を出した。そこには、沖津と強羅、浅葱が写っている。初めて、沖津の隊に異動になった時に撮ったものだ。

「……ありがとうございます。でも、いいんですか? 僕なんかに託しても」

「いいんだよ。それから『鬼桜』も頼む。こいつは死なせるには惜しい。お前が使ってやってくれ」

「む、無理ですよ」

「無理なら、こんなこと頼まねえさ」

 そう言って笑顔を作る。どんな顔をしたらいいのか分からなかった。

「俺はな、飛行機を作る仕事したかったんだ。ガキの頃からの夢で、ずっとずっと追い続けてた。けど、親が軍人だったからよ、俺も軍に入った。入らざるを得なかった事情もあってな」

 美味そうに煙を吐く。一呼吸置いた。

「結局、夢は叶わなかった。頭悪かったからよ。無理だって思って、結局やめちまったんだ。まあ、今になって後悔してるんだけどな」

 一瞬だけ、哀しげな表情が浮かんだ。しかし、それはすぐに消える。

「だから、頼む」

 何を頼むのか、浅葱には分かった。

 強羅は背を向ける。常に纏っていた筋肉の鎧が衰えているように見えた。

「強羅軍曹」

 浅葱はその背中に声をかける。

「何だ?」

「僕は、あなたのような強い人じゃありません。僕があなたの立場になったら、きっと泣き出して、逃げ出してしまうと思います」

「……んなことねえさ。俺だって、お前と同じ。この数日寝付けてねえ」

 強羅の声は震えていた。

「それでも。あなたはこの数日間、気丈に振舞っていたではないですか。その苦しみを、恐怖を押さえ込むことがどれほど大変か、僕には想像もつきません。でも、これだけは言わせてください。軍曹殿は間違いなく、わが国が誇る勇者です。そして、僕が知る最高の戦闘機乗りの一人です」

 俯く。

 声の代わりに涙が出た。

 いくつもの感情が入り混じって、頭がごちゃごちゃになっている。

「……ありがとよ」

 数秒の沈黙。

「お前は俺よりも強くなれ。俺を超えろ。それが、俺の願いだ」

「無理ですよ」

「強さの形はひとつじゃねえ。お前はお前だけが持っている強さがある。だからきっと、いつかお前は俺を超える。超えられるんだ」

 それが強羅と浅葱の最後の会話だった。

こんばんは、パソコンが恋人になりつつあるJokerです。

いや、一応弁明しておくとチャンスはあるんですが……以下略。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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