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三月の朝

 いつもと同じように朝六時に起きた沖津は与えられた兵舎で拳銃の整備をしていた。なにせ、最近は出撃命令がない。愛機のことは整備兵に任せっきりにしてある。

 不安な情報ばかりが基地内に飛び交っているが、それとは裏腹に、不気味なくらい大きな動きはない。

 一月二十日付けで新しく大湊が沖津のいる兵舎に移動してきた。最初は変な目で見るかと思っていたが、二人の部下とも仲良くやっている。

浅葱は沖津が二月頭に指示した柔道と空手の訓練を毎朝行っている。

 沖津ははたと手を止めた。

 強羅がいない。

 整備をやめて、外に出た。三月の朝焼けの下で『鬼桜』にペンキを塗っている姿が見える。

「おはよう、強羅。やけに早いじゃないか。いつもは寝坊が多いのに」

 つとめて笑顔で歩み寄る。少し暖かくなってきた風が気持ちいい。

「おはようございます。……まあちょっと事情がありましてね。早く起きちまったんですよ」

 心なしか声に張りがない。表情も曇っている。

「腹でも減ってるのか?」

「何でもありませんや。放っておいてください」

 何かがおかしいと沖津は思った。強羅は感情をあまり隠そうとしないからだ。

「どうして、ペンキ塗りなおしてるんだ?」

「もうこいつと飛ぶのは最後になるからですよ。最後に」

 どこかに異動を命じられたのだろうか。沖津の耳にはそれは入っていない。

「まあ、俺がいなくなっても少尉殿は大丈夫でしょう。浅葱の小僧も、最近は頑張ってるようじゃないですか」

 起きたばかりの太陽が強羅の横顔を照らした。角ばった顔は少し痩せていて、疲れているように見える。無精ひげが伸びていた。

「いなくなるって、私はそんな話聞いてないぞ」

「明日から……異動するんですよ。宮津大尉の隊に配属されます。第二部隊らしいです」

「お前、自分から?」

 沖津は宮津大尉を知らないし、第二隊の役割も知らない。

「……いえ、異動命令がありました。数日前に」

「そうなのか」

「鵜殿中佐からです」

 鵜殿中佐が特攻隊への異動命令を伝える役目を負っているのは司令など上層部しか知らない。

 黒いペンキにまみれた手でズボンのポケットからタバコを取り出し、火をつけた。

 やつれた顔でそれを吸い込み、大きく息を吐く。

「本当に、今までお世話になりやした……」

 がっしりした肩は震えていた。

「何で、黙ってた?」

「……言いたくなかったんですよ。どうせ俺はもう終わりなんで」

 がつん、と鈍い音がした。

「この馬鹿者!」

 怒声が響く。

「生きることを諦めるな! 簡単に命を諦めるな!」

 口からわずかに出た血をぬぐって、強羅は立ち上がった。

「そんなんじゃねえ! あんたに俺の気持ちが分かるのか? 分からねえだろう! 命を諦めろって言われたんですぜ! 分かるわけがねえ!」

「……すまん」

 沖津は強羅が何を命じられたのか、はっきり分かった。

 会話はそれで止まってしまった。

こんばんは、Jokerです。


風邪がまだ治りません。仕事のストレスかもしれませんが。

文句言うのは簡単だけど実際に仕事こなすのは大変なんだよ。

いかん、読者様に愚痴るべきではないですね。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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