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検体D  作者: あれっくす
第一章
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狂人

すいません打ち切りにしました。

 やっと家に着いた頃にはもう日が沈みかけていた。

 車を家の前に停め自室に戻った。幸い母は帰ってきておらず、顔を会わせることはなかった。

 家に着いて始めに思ったことはサトルに謝ることだった。

 サトルは確かにミヒロのことが好きだった。あの時の俺はそれを知っていた。それを俺は殺してしまったのだ。

 居ても立ってもいられなくなって家を飛び出した。

 サトルの家は徒歩でも充分な距離にある。走ればすぐに着くだろう。

 家の前に立ちドアを叩く。返事はない。

 チャイムを鳴らす。返事はない。

 こんな時間に彼がどこか行くはずもないので家にいるはずだ。そうでなくてもおばさんか誰かが家にいるはず。

 居留守か。

 そう思うのが妥当だろう。今日は諦めて帰ろう。

 そう思って振り返ったとき、一瞬だが人が視界から消え去るのがわかった。

 誰かが見ていた? なんのために?

 俺は誰かがいたと思われる方向に走り出した。今日一日の疲れがまだ残っていたが正体を確かめるまで帰れない。

 曲がり角を一つ二つと越えていく内に本当にここで正しいのかわからなくなってきた。

「こんな所で何してるんだ?」

 後ろから声をかけられて振り向いてみるとサトルだった。

「なんだ、脅かすなよ。お前に謝ろうと思って来てみたんだが」

「そうか。残念だね、全く」

 サトルの手には拳銃が握られていた。さっき渡された物と比べると一回りほど小さいが、かといって銃であることには変わりない。

「僕はね、君に謝罪の意志があるかどうかなんてどうでも良いんだ。ただ君が死んでさえくれれば」

「ちょっと待てよ! まあ落ち着け」

 俺は腰の銃に手を当てた。

「弾がないんだろう? 知ってるよ。僕が指示したんだからね。正確にはそうするように仕向けただけだけど」

「言ってる意味がわからない」

 俺は今出せる精一杯の憎悪をむき出しにしてサトルを睨んだ。

「そうだね。君は自分の能力について何かわかっているかい?」

「やっぱり何かあるのか?」

「何も知らないんだね。じゃあ教えてあげよう。君に霊が見えるように、何かしら特異な能力を持った人間は存在する。かなり人数だ。一応確認された中では君を含めて世界で四人。日本のみに存在する」

 俺はわけがわからなくなって逃げ出したくなった。

「君は残りの三人にもう出会っているんだ。気付いていないかもしれないけど」

「だったらなんなんだ? だから俺を殺すのか? ミヒロと話せるのが俺だけだからか? 俺がミヒロを殺したからか?」

「全部、不正解だよ」

 しかしなぜ人が通らないんだ? ここは一般道なのに。

「お前、ホントにサトルか?」

「質問ばかりして、飽きない人だね。君を殺すのは将来危険だからさ。そして僕は今も昔もこれからもサトルさ。君は肉塊に変わるけどね」

 パン、という軽い音がしてサトルの銃から弾が出た。目で追うことは出来なかったが俺の手から血が出ているところから見て撃たれたと断定できる。

「スギヤマがね、未来が見えるんだけど、予言したんだよ。君が僕を殺すって。だから僕が殺してやろうと思ってわざわざこんな舞台まで用意したんだ。警察も通行人も来ない。君は弾切れの銃を持っていて、弾を使い果たしてしまった後悔をするんだ」

「じゃあ、あの検問はお前が」「そうだよ。銃を差し出すかと思ったけど、やっぱり全部使ったね」

 このままで本気で殺される。俺はそのまま逃げようとした。しかしすぐに片足を打ち抜かれて動けなくなりその場に倒れた。

「駄目だよ、退場しちゃ。君は死ぬまで、死んでからも舞台から降りられない運命なんだから」

 こっちに銃を向けるサトルの向こう側にミヒロの姿が見えた。こちらに向かってくる。

「死ぬ前に教えてあげよう。君が行った図書館の司書。アレも能力者だよ。やや弱めの能力だけど、おかげで良い夢見れたでしょ」

 ミヒロはサトルをすり抜けこちらに手を差し出してきた。

「無理だよ。つかめないよ」

「おや、三人目の役者の登場かな」

 ミヒロはさらに俺に近づき優しく側に寄り添った。

「いいこと教えてあげるよ。僕の能力だ。自分の体を消せる。ミヒロが来たからって今さら勇気を出して反撃しようとしても勝てっこないよ」

 そう言ってサトルは一瞬姿を消して見せた。

 ミヒロはゆっくりと俺に近づき銃に頭を付けた。

「まだ弾が入ってる」

 なんだって! そんな! おかしい。俺はすべて撃ちきったはずだ。数え間違えたのか?

 そもそもミヒロは真実を述べているのか。彼女は俺に死んで欲しいはずだ。俺が死ねば彼女は寂しくない。いや、俺は能力で彼女と会話出来るのだから関係ないのか。

「ミヒロはお前の後ろで笑ってるよ」

 サトルが後ろをサッと振り向く。

 俺は血が流れていない方の手で銃を抜き、サトルの頭めがけて引き金を引いた。

 死に際は静かな方が良いと思う。




 病室にある花は割と美しい。俺のベッドの側には花が二本ほど飾られていた。俺は今、穏やかな気分だ。もう何も気にしなくて良い。

 そう言えば退院してまたすぐに入院したことになるな。いっそここに住もうかな。

「見舞いだぞ」

 隣のベッドの無愛想な老人だ。ぼんやりしている俺を呼んだ。俺が病室の入り口を見るとスギヤマが立っていた。

「感謝しろよ」

 そう言いながら病室の花を一本取って早々に退散していった。

 もう僕にはミヒロは見えない。

ありがとうございました。

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